Moods / The Three Sounds(原盤:Blue Note 4044=LP)
 Gene Harris(p) Andrew Simpkins(b) Bill Dowdy(ds)
 1960年6月28日に録音

 モダン・ジャズの魅力のひとつはエキセントリックで屈折した快感に浸れるところですが、もちろん聴いて楽しくなる作品だって山のようにあります。特に1950年代以降は、緊張感が高くて大衆性の無いビバップへの反動で、明るい白人系のウエスト・コースト・ジャズ、そして、そのまた反動から黒人感覚を強く打ち出したハード・バップへとモダン・ジャズは進歩して、この時期にその手のジャンルが確立されました。

 それはまず、テーマ=曲が親しみやすく覚え易いこと、リズムが明快でダンスも可能なこと、そして聴き手が素直に愉快になったり、しんみりとしたり、ある種のムードに浸りきり易いことが、キモになっています。ですから当然、売上げも良く、そしてそれを狙ってまたまた同傾向の作品が作られて、モダン・ジャズ全体の底上げに繋がっていたのです。

 したがって業界各社はこの時期に、シリアスでハードな物と平行して、競うようにその手の売れセンを製作していたのです。そして有能なプロデューサーはその辺りの匙加減も絶妙でした。今回取上げたスリー・サウンズも、そのラインで発見・売出されたグループですが、最初に正式契約したのが名門ブルーノート・レコードだったので、折り目正しい作風が良い方向に作用した傑作を多数残すことが出来ました。

 彼等が新鮮だったのは、黒人のピアノ・トリオであるにも関わらず、例えばジーン・ハリス・トリオと称さなかったことで、これは一応ピアノが中心ではありますが、ベースもドラムスも三位一体になった演奏スタイルを良く表しているところです。ちなみに彼等は結成当初、ギターかサックスを入れてフォー・サウンズと名乗っていたとか、つまり最初からグループ志向だったわけです。

 で、結局3人で中西部を拠点に活動した後、1958年秋頃にニューヨークに進出、その音楽スタイルは、ジーン・ハリスの黒っぽいフィーリングが横溢したピアノを中心に、それを煽るベースとドラムスは、様々なビートを取り入れたリズミックなものでした。もちろんアレンジもツボを心得たもので、コンパクトに纏まっていながら、ジャズのもっとも美味しい部分を堪能させてくれるのです。もちろんすぐにレコーディング契約をすることになりましが、その時はブルーノートとリバーサイドというライバル会社の奪い合いになったほどですから、最初から完成度が高く、魅力的だったわけです。そして結局ブルーノート専属となった彼らは、すぐさま録音を開始し、アルバムと平行してシングル盤も発売する活躍をするのです。ちなみにこのシングル盤はジュークボックス用として作られていたもので、中身はアルバムからの転用でしたが、それだけで、このグループの音が如何に素直に楽しめるものだったか、お分かりいただけると思います。

 さて、このアルバムは彼等名義としては通算4枚目の作品で、その内容は――

A-1 Love For Sale(C.Porter)
 マイルス・デイビスをはじめ、多くの名演が残されているスタンダード曲ですが、ここでの彼等の演奏は、まずピアノとドラムスが打ち出すリズミックなリフをバックにしてベースがソロを取り、続いてそのリフはそのままにピアノがテーマを奏でるという、他のバンドとは一味違う凝ったアレンジになっています。そしてジーン・ハリスのピアノは少しずつファンキーな雰囲気を撒き散らして、クライマックスを作っていくのです。それがゴスペルやR&B、そしてラテンに繋がっているのは言わずもがなです。

A-2 Things Ain't What They Used To Be(M.Ellington)
 邦題を「昔は良かったね」としてお馴染みのデューク・エリントン楽団の当り曲を、ここでは冒頭からスローなブルース・フィーリング全開で聴かせてくれます。かなり粘っこい演奏ですが、ベースとドラムスが淡々と強いビートを刻んでいるので、自然とノセられてしまいます。

A-3 On Green Dolphin Street(N.Washington-B.Kaper)
 これも有名スタンダード曲ですが、マイルス・デイビスによる決定的な名演が残されているだけに、演奏者の技量やセンスが問われる難しいものを含んでいます。しかし、彼等はいつものペースを乱すことなく、冒頭からミディアム・テンポでファンキー節を織り込みながらジワジワと盛り上げていきます。しかも当時主流になりつつあったモード的解釈までも聴かせる演奏は、本当に見事です。

B-1 Loose Walk(S.Stitt)
 早いテンポで陽気に繰広げられるブルースです。ジーン・ハリスのピアノ・スタイルはオスカー・ピーターソンやレッド・ガーランド、ウイントン・ケリーあたりに通じる歯切れの良いシングル・トーンのアドリブとブロック・コードの積み重ねで作る山場のカッコ良さで、それが颯爽と展開されているのが、ここでの演奏です。ちなみにブロック・コードとは、鍵盤奏者が両手で4〜5音のコードを押え、それを連続させてメロディを作っていく奏法のことです。

B-2 Li'l Darlin'(N.Hefti)
 これはカウント・ベイシー楽団の十八番で、超スロー・テンポ&膨らみのあるオーケストラの響きがキモになっているので、なかなか手が出せない演目ですが、それをスリー・サウンズの面々はブルース味をたっぷり塗して再現しています。特にジーン・ハリスのタメのあるファンキーな雰囲気と一人オーケストラ的なピアノの響きは、とても魅力的です。

B-3 I'm Beginning To See The Light(D.Ellington-H.James-J.Hodges)
 これもデューク・エリントン楽団のヒット曲のひとつですが、ここでは冒頭から手拍子をバックにピアノがテーマ・メロディーをリードするという、ゴスペル感覚を前面に出したアレンジで楽しく演奏されます。

B-4 Tammy's Breeze(G.Harris)
 とても幻想的な曲&アレンジで、普遍的良さが感じられます。このテーマ・メロディの素晴らしさは微妙なエスニック風味がミソでしょうか、今日でも古びていません。アドリブ・メロディも即興とは思えないほど素敵なフレーズが溢れ出ていますし、トリオとしての一体感も最高です。個人的には聴いているうちに泣けてくる瞬間があります。

B-5 Sandu(C.Brown)
 ブルースを明るく陽気に演奏して、このアルバムの締めくくりとしていますが、こういう解釈は、スリー・サウンズならではのものだと思います。この軽さが本場ではヒットに結びつき、日本では蔑視されるのでした。

 というこのアルバムは美女のポートレートに「Moods」のタイトル、とてもモダン・ジャズのものとは思えません。中身の演奏もシリアスな部分がなく、気軽に楽しめるものですから、1970年代中頃までの日本のジャズ喫茶では、余程のことがなければリクエストされる事も無く、アルバム・タイトルどおり、店のマスターがその場の雰囲気作りに鳴らしていた程度です。「その場の雰囲気作り」とは、ジョン・コルトレーンやアルバート・アイラー等々、重たいものが続いて店内が煮詰まった状態を緩和するのが目的で、スリー・サウンズのほどよいブルース・フィーリングや寛いだスイング感は、如何にもジャズを聴いています、という状況の中での安堵感を与えてくれるのでした。

 それはこのアルバムに限ったことではありませんが、何故これかっ、と言えば、美女のジャケットが大きなポイントになっています。当時のジャズ喫茶では、これが鳴り出すとお客さんは思わず飾ってあるジャケットの方に顔を向け、傍に寄って手に取り、ジッと眺める者がいたのです。

 ちなみにこのジャケットの美女の名前はルース・メイソン、アルバム製作当時はDJとして活躍中でしたが、同時にブルーノート・レコードの手伝いもやっていたそうで、当然、自分の番組では同社の新譜を優先的に流していたそうです。そして後に社長兼プロデューサーのアルフレッド・ライオンと結婚しています。

 ということで、スリー・サウンズはアルフレッド・ライオンから特に寵愛を受け、同社から多くのアルバムを出していますが、そのジャケットのほとんどは彼等の無骨な容姿がデザインされているのに、この作品だけは自分の女を登場させていることから、それだけ製作に力が入った自信作だったと思います。

 我国での彼等の評価は、リアルタイムのマスコミでは軽視されがちでしたが、中級以上のリスナーには隠れファンが多く、ジャズ喫茶ではリクエストせず、密かに入手して自宅で愛聴するのが、当時の実状だったようです。そして時が流れ、1980年代に入ってジャズがフュージョンから原点回帰の4ビートに戻ってきた時、日本ではようやく彼等の残したアルバムが、今度はお洒落なものとして受け容れられました。そして、その中でもダントツの人気盤がこれというわけです。

【現行CD】
 かなり中身が充実している作品ですが、何故か日本盤しか出ていないようです。ジャケットが素敵なのでアナログ盤が欲しくなりますが、それゆえに高値になっているとか……。で、そのあたりの事情から日本盤CDは紙ジャケット仕様盤も出ていますので、見つけたらすぐゲットされることをオススメ致します。

(2004.08.23掲載・敬称略)