Eric Dolphy At The Five Spot Vol.1(原盤:New Jazz 8260=LP)
 Booker Little(tp) Eric Dolphy(as,bcl) Mal Waldron(p)
 Richard Davis(b) Ed Blackwell(ds)
 1961年7月16日、ニューヨークのライブハウス「ファイブ・スポット」での実況録音

 主役であるエリック・ドルフィも相方のブッカー・リトルも、1960年代に新しいジャズの姿を模索しながら、共に若くして亡くなった天才ミュージシャンです。そして彼等が如何に凄かったか、それがしっかりと記録されているのが、このアルバムです。

 ドルフィーの魅力、私は「勢い」だと思います。とにかく猛烈なドライブ感、爆発力、瞬発力! 溢れ出る奇妙奇天烈なアドリブ・メロディ! 情念の噴出! それはスローなバラード曲でも変わることなく、ドルフィーだけが表現出来る「女々しさ」が、これでもかと吐露されます。しかも、けっしてデタラメをやっているように聴こえないところが、凄いです。

 ドルフィーは音楽的基礎をしっかり学んでいたらしく、楽器の技術もバッチリ、しかも編曲や譜面にも強いということで、西海岸での下積み時代には多くのダンス・バンドを渡り歩き、スタジオ・ミュージシャンとしても働いていたそうです。その中でどうにかメジャーになれたのが、LAの人気バンド=チコ・ハミルトン・クインテットに加入してからですが、その頃の録音を聴いても、後年の破天荒なものは感じられません。ちなみにこの頃の彼の姿と演奏は、1958年のニューポート・ジャズ祭のドキュメント映画「真夏の夜のジャズ」で接することが出来ます。

 ところが1959年末頃にニューヨークに出て来ると、いきなり初リーダー盤「Outward Bound:New Jazz 8236」を吹込み、さらにジャズ界の頑固親父=チャールズ・ミンガスのバンドに入って大爆発、当時の誰よりもブッ飛んだ演奏を聴かせました。いったい、この落差はどっから来たのでしょう……? また同時期にオーネット・コールマン、オリバー・ネルソン、ジョージ・ラッセル、ジョン・コルトレーンといった進歩的なミュージシャン達と録音を残していますが、リーダーよりも目立つ強烈な演奏をしています。そしてその過程で、ここでの相方であるブッカー・リトルと邂逅しています。

 トランペッターのブッカー・リトルはクラシックをみっちり勉強していたので、音色の美しさや表現力は抜群、そしてアドリブ・フレーズにマイナー調の泣きを入れてくるのが持ち味です。しかも独特のスピード感が新しさを強く感じさせます。彼は若干19歳だった1958年に、ジャズ界の過激分子=マックス・ローチのバンドに加入して活躍、このライブ・セッションの時点で、すでにリーダー盤も出していた俊英です。

 さて、こういう新しい感覚を持った二人がいっしょにバンドを組んでしまうというのは自然の流れだったかもしれませんが、ジャズの世界は当時も今も、自分のバンドを維持していくことは容易ではありません。理由はもちろん経済的な面で、それゆえ彼等も有名リーダーのバンドで仕事をしながらの活動だったわけですが、ラッキーだったのは、前述のミンガスやローチは黒人としての怒りを演奏に置き換える音楽性がバンド・カラーだったので、ドルフィーもブッカー・リトルも何ら遠慮することなく、自分の個性を存分に発揮出来たことです。そしてその中で煮詰められ培われたものが、数少ない自分達のバンドのライブの場で新しい形になりつつあった、まさにその瞬間を記録したのが、このアルバムというわけです。ですから、その情熱の迸りは半端ではありません。その内容は――

A-1 Fire Waltz(M.Waldron)
 タイトルどおりワルツ曲ですが、4ビートと8ビートが激しく混濁しており、それを叩き出しているリズム隊=マル・ウォルドロン、リチャード・デイビス、エド・ブラックウェルは素晴らしすぎ! 特にエド・ブラックウェルは細かいビートを積み重ねて大きなうねりを作り出し、マルは執拗に同じフレーズを繰返すという、まさに情念のイタコ弾き! そしてリチャード・デイビスのベースは、そのリズムに絡みながらもビートの芯を外さない力強さを存分に発揮しています。
 肝心のドルフィーはアルト・サックスで激情を爆発させ、ブッカー・リトルも得意のマイナー・フレーズを織り込んで聴き手を恍惚とさせてしまいますが、リズム隊の強靭な波動に飲み込まれる寸前になっています。しかし、このある種の危機感が演奏のキモになっていて、スリル満点です。そして何よりも、新しい感覚のリズム的興奮が快感です。

A-2 Bee Vamp(B.Little)
 ここではドルフィーがバス・クラリネットを吹いています。この楽器がジャズで使われるのは珍しいことですが、ドルフィー自身の個性は何ら変わることなく発揮されています。そしてこの楽器の存在がジャズ・ファンに知れたのも、ここでの演奏からだと思います。実際、これを初めて聴いた私は、そのブヒプヒ、モリモリいう音色と感覚に脳天まで痺れさせられました。
 演奏はアップ・テンポで4ビートと変拍子が交錯して進行、激しいアドリフ・フレーズの噴出に心が思いっきり乱されますが、4ビートの部分で思わずホッとするのが正直な感想という展開です。ブッカー・リトルのアドリブ・ソロはややスケール練習的で垂れ流し気味ではありますが、それをここまで情熱的にやってしまうのは、やはり尋常ではありません。

B-1 The Prophet(E.Dolphy)
 このアルバムはジャズ喫茶の人気盤ですが、鳴るのはいつもA面でした。しかし、B面をいっぱいに使ったこの演奏も強烈です。ドルフィー自身の出来としては、A面を凌いで、こちらが最高かもしれません。聴くほどに異様な高揚感に包まれるテーマ・メロディ、ギシギシ、グリグリと迫ってくるアルト・サックスの咆哮と呻きがたまらないのです。曲調はミディアム・テンポでリズムもかなりフリーになっていますが、ビートの芯がはっきりしているので、案外聴きやすい演奏です。しかし内容は濃密!

 という演奏はジャズの歴史的名演&名盤です。初心者でも、まずこれを聴いて興奮・感動しない人はいないと思われます。その秘密は既に述べたように、ジャズにどっぷりの演奏でありながらリズム感覚が新しく、密かにロック・ビートが内包されているところではないでしょうか? もちろんジャズ・ロックとは違うのですが、このリズム的興奮はクセになるはずです。そしてドルフィーとブッカー・リトルの丁々発止のアドリブ合戦が強烈です。

 こうして彼等の情熱的演奏は今日まで聴きつがれることになりましたが、残念ながらこのバンドは秋にブッカー・リトルが享年23歳で急逝し、終焉を迎えます。このアルバムはちょうどその頃に発売されたと思われますが、それはジャズ物としては異例の速さであり、内容の素晴らしさを物語っています。そしてこの時の残りの録音も「同Vol.2」等々、アナログ盤4枚に分散されて発売されていくのでした。ちなみにドルフィーはその後、コルトレーンやミンガスのバンドに入って大暴れ、最終的にはヨーロッパで活動中の1964年にベルリンで病のために亡くなりました。享年36歳、その公式ラスト・レコーディングの最後に残された言葉「音楽は演奏とともに空に消え、二度とそれを取り戻すことは出来ない」は、あまりにも有名です。

 さて、喫茶店という場所は、どんな種類でも、例えば「名曲」「ノーパン」「歌声」「純」「漫画」等々、極言すればそのムードを楽しむ処ですが、ジャズ喫茶もジャズを聴く目的以外に、実はジャズのムードを楽しむ処と解釈すれば、このアルバムほど、そのムードを作り出す盤は他に幾つもありません。人気盤になっているのは、そのあたりにも要因があると思われます。熱気とタバコの煙、コーヒーの香りと得たいの知れない人種が集った、暗い閉鎖空間的な当時のジャズ喫茶……。その中でビートに身を委ね、あるいは気持ちよく居眠りをした1970年代前半までのジャズ喫茶……。そういう雰囲気をこのアルバムは再現してくれます。欠点は大きな音で鳴らさないとダメなことですが、それはB面のオドロの雰囲気でカバーして下さい。こちらはそれなりの音量でも、その魔界に引きずり込まれてしまいます。

【現行CD】
 とにかく歴史的名盤・人気盤なので、いつの時代も入手は容易です。CDも通常盤の他に紙ジャケット仕様盤やハイビット・マスタリング盤等々、いろいろと出ています。尚、CDにはオマケとして Bee Vamp の別テイクが収録されています。また、この時の残り演奏も全て集大成したCDも出ています。

(2004.08.16掲載・敬称略)