感涙! サイケ映画「不思議の壁」がDVD化

 サイケといえばこの映画! というのが「不思議の壁/ワンダーウォール:Wonderwall」、それがついにDVD化されます。

 この作品はサイケ全盛期の1968年にイギリスで製作され、音楽をビートルズのジョージ・ハリソンが担当したことから、当時、世界中でかなり話題になりましたが、我国ではリアルタイムの劇場公開がありませんでした。ただしその予告篇のようなものはテレビでも紹介され、私はそのサイケ・ギンギンの雰囲気とエッチな部分に非常に幻惑されたのでした。

不思議の壁/ワンダーウォール:Wonderwall(1968・英)
監督:ジョー・マソット
音楽:ジョージ・ハリソン
出演:ジャック・マッゴーラン、ジェーン・バーキン 他

 物語は勤勉な科学者=コリンズ教授が、ある日、自宅のアパートの壁に開いた小さな穴を発見し、そこから覗いた世界に住む美女に魅せられて……、というものです。このコリンズ教授は独身でマザコンの五十男、研究一筋の生活を長年続けていたという設定で、当然、アパート内は老朽化したオタク部屋という雰囲気ですが、その穴から覗く世界は幻想的で華やかな雰囲気に満ちているのです。実はそこは、隣の部屋にいつの間にか出来ていた撮影スタジオであり、魅惑の美女はモデルだったというタネが明かされるのですが、そんなことはコリンズ教授には関係の無い話で、ついに研究を対象を彼女に変えてしまうのです。

 それは壁の穴を大きくし、また何ヶ所にも増やし、さらには屋根裏までも這い回るというお約束に発展していきます。もちろんその過程でムキになる五十男の情熱がたまらなく可笑しく、なにしろそのスタジオでパーティがあれば、自分もそれなりの服装をして壁越しに覗いて参加するほどなのです。

 しかしこの作品の見所は、そんなお笑い部分よりも、壁の向こう側の華やかな世界と美女であることは、言わずもがなです。それは当時の最先端の流行だったサイケな雰囲気であり、問題の美女を演じているのが、まさにその時代の妖精=ジェーン・バーキンなのです。その彼女のプロフィールは――

ジェーン・バーキン:Jane Birkin(1946-)
 イギリスで生まれ、子供時代からモデルとして活動後、007シリーズの音楽担当として有名な作曲家=ジョン・バリーと結婚しますが、すぐに離婚しています。映画出演は1966年頃からですが、一躍有名になったのは、1966年に出演した「欲望:Blow Up」で、多分イギリスのメジャーでは初めてだと思われるヘア・ヌードをやってしまってからです。ちなみにこの作品も幻想味が強く、またロック・ファンにはヤード・バーズが出演していること、ジャズ・ファンにはハービー・ハンコックが音楽を担当していることでも有名です。
 さて、お目当ての彼女の魅力は、グラマーではないのに、とてもセクシーなところです。なにしろこの作品では一言の台詞も無いのに所謂イノセントな子悪魔的魅力が全開で、堂々の主演女優として観ている全ての男を惑わせるのです。もちろん劇中ではヌードミニスカでのパンツ見せベッドシーン等々はたっぷりですが、乳首や尻のワレメは見えていませんので念のため……。しかし逆にそのあたりの身のこなしが非常にセクシー♪ 妖しく愁いの滲み出る表情も絶品です。
 そして彼女はこの作品でカルトな人気を掴みましたが、本当に凄くなるのは、直後に渡仏してセルジュ・ゲンスブールに接近してからで、彼の音楽性どころか生き様までも変えてしまうのです。2人のデュエット曲「ジュ・テーム」があまりに濃厚なために放送禁止という国が多数あったのも、今では懐かしい思い出ではありますが、このあたりは後でまた詳しく取上げるとして、とにかく彼女はサイケ時代のファム・ファタールでありました。

 というこの作品を私が大好きなことは言うまでもありませんが、とはいえ前述したようにリアルタイムでは観ることが出来ず、1970年代になってようやく自主上映会で初体験というのが本当のところです。もちろんその頃にはサイケ・ブームは去っており、それ故に感想は、案外マトモだなぁ……、というものでした。確かに物語のオチも安易だし、サイケの扱い方も無難、そしてお笑い感覚もセクシーな部分も、あまりにも英国的な型に嵌まり過ぎていると、当時は思いました。

 しかしそれでも後年、この作品がビデオ化された時には逸早く入手してしまったのは、悲しいサガというところですが、そこに映像として残されてた当時の文化は不滅の価値があることに気がつかされました。そしてそれは年々大きくなっているはずです。

 例えば当時の流行の最先端だったファッションやヘアスタイル、サイケな風俗、セックス・ドラッグ・ロックンロールをさらに一段高めた音楽と前向きな混濁、諧謔的なユーモア等々がしっかりと映像として残されているのです。特にジョージ・ハリスンが担当した音楽は、サイケとインドという切っても切り離せない当時のビートルズそのまんまの雰囲気が濃厚です。もちろんこのサウンド・トラックは「Wonderwall Music:Appie APCOR 1」としてアルバム化され、ちなみにこれは実質的にはジョージの1stアルバムでしたが、その内容はインストだったためか、当時は全く無視されてしまいました。しかし今日聴くと、なかなか心高鳴るものがあります。当然、映像といっしょだと、あの屈折したジョージ節が心に染みてくるのです。

 ということで、この作品はサイケ全盛期の1960年代後半の雰囲気を知りたい方には激オススメ、とにかく観て下さいと言うしかありませんが、あえて不必要と思える個人的解釈を付け加えるならば、ここでの狙いはビートルズ出現以降に起こった世代間のギャップをちゃかすものだったのでは? ということです。当時の世界は戦争、貧富の差、宗教や人種の問題等々が大きく表面化し、あるゆる価値観が混濁を極めていましたが、それが全て前向きに退廃していたのがサイケ時代だったと思います。それが行くところまで行って、スト〜ンと落ち、上澄みと澱に二極分化のが1970年代の文化と雰囲気というわけです。その意味からギリギリのところで作られたのがこの作品かも? と心して観ると、幻想に落ちていくコリンズ教授や自然体で男を惑わせるジェーン・バーキンの存在が、いっそう愛しく感じられるのでした。

 という独り善がりの寝言はこのくらいにして、今回のDVDの仕様は――

 ※発売予定日5月11日
 ※カタログ番号KIBF-303
 ※予価4,935円(税込)

となっております。以前ビデオ化されたものは、残念ながら画質がイマイチでしたので、今回のDVDには大いに期待しております。

(2005.03.06 敬称略)