私説「明智小五郎三代記」

 平成16(2004)年2月からスタートした日テレ系のドラマ「乱歩R」は、なかなか良い出来だと思います。皆様良くご存知のとおり、これは江戸川乱歩の原作を基に、名探偵明智小五郎の活躍を描いておりますが、過去に製作された同様企画の作品と決定的に違うのが、「乱歩R」は21世紀の現代日本を舞台に三代目・明智小五郎の活躍を堂々と描いているという点です。

 こういう設定そのものは「ルパン三世」や「金田一少年の事件簿」等々、過去の名作・人気作を踏襲したものですが、しかし、それらに比べて私が特にこの「乱歩R」に大きな魅力を感じるのは、年老いた小林少年=小林老人を登場させたり、現・明智探偵事務所の所長が二代目の友人であったりというように、過去から現在に到る明智小五郎ワールドを大切にしているからです。

 映画でも小説でもシリーズ物になると、それが長期になればなるほど、物語そのものよりも登場人物のキャラクターや私生活等が気になってくるものですが、明智小五郎という魅力的な謎が多い人物も、ついに三代目が登場ということで、ますますその周辺が気になっております。その初代・明智小五郎という人物を簡単に考察してみると――

 大正14年の「D坂の殺人事件」で我々の前に初登場した彼は、その時点で25歳以下の痩せ型の青年であり、髪の毛はモジャモジャで木綿の着物に兵児帯のスタイル、さらに探偵小説が好きで、いかにも変わり者の頭の良い人物等々と描写されていました。そして講釈師の神田伯龍にそっくりだとも……。

 初登場の時はもちろん素人探偵だった明智も、その後「心理試験」「黒手組」といった事件を解決し、さらに上海に渡り、帰国後に「一寸法師」事件を解決してからは正式に探偵を生業にすることになったようです。

 そして昭和5年の「魔術師」及び「吸血鬼」事件で、明智は文代という美人と知り合い、後に結婚に到ります。また「吸血鬼」事件では少年助手の小林芳雄が雇われており、この頃の住まいは御茶ノ水の「開化アパート」で、2階の3部屋を借りていたことから、明智夫妻と小林少年は同居生活だったと思われます。それは麻布の竜土町の白い西洋館に転居していた昭和9年の「人間豹」事件の頃でも続いており、さらに昭和11年の「怪人二十面相」事件の頃には女中が一人雇われているというように、明智ファミリーが形成されていきました。

 さてこうして暮らしていた明智ファミリーは戦後になると千代田区麹町の西洋風な「麹町アパート」を事務所兼住居としておりますが、昭和27〜28年頃から文代が長い病気を患い、転地療法で高原療養所へ入所、以降の明智は小林少年との二人暮しなったようです。そしてそれは公には初代・明智小五郎の最後の事件となっている昭和37年の「超人ニコラ」事件まで、基本的には変わりませんでした。

 肝心の明智本人については、まずその服装がいつしかダンディな洋装に変化していて、例えば昭和11年の「怪人二十面相」事件で東京駅に降り立った時には黒ずくめの洋装でした。また昭和29年の「化人幻戯」事件では50歳になっても肥りもせず、昔のままの痩せ型であるとされております。つまり大正15年の「一寸法師」事件では赤坂の菊水旅館でゴロゴロしていた明智が、その後、正式に明智探偵事務所を開設してからは、お洒落な紳士になったという雰囲気が濃厚です。

 ところで、明智自身の素性や係累の存在はほとんど明らかになっておりませんが、この21世紀に三代目が存在しているということは、二代目となった人物も当然居るわけで、そこのところが今回、私がとても気になっている部分です。なにしろ聖典では初代・明智小五郎に子供がいたという記述が無く、さらに正式に結婚している文代との間にも子供が誕生している雰囲気がとても薄いのですから……。すると二代目はどういうことになるのでしょうか、まず、文代以外に明智を取巻く女性関係を見てみると――

 まず私が気になるのが花崎マユミです。彼女は昭和32年の「妖人ゴング」事件で初登場した明智探偵事務所の女助手ですが、実は鬼検事・花崎俊夫の愛娘でありながら、なんと高校卒業後に明智事務所に住込みで働いているのです。しかも物語設定では文代の姉の子供ということになっておりますが、皆様ご存知のとおり、文代には女の姉妹がありませんので???です。

 ここで思い出されるのが、昭和26年の「透明怪人」事件で明智が用意した文代そっくりの替玉の女性です。彼女は透明怪人に誘拐されるのですが、その際にも冷静に替玉を勤め通したほどですから、かなり場数を踏んでいることは間違いなく、ただの素人とは思えません。

 また「透明怪人」のクライマックスでは本物・偽者が入り乱れる展開になるのですが、何故か本物の文代が登場しないところが、非常に気になります。いったい彼女は何処へ?

 ここからは全くの私の妄想だとお断りしてお話を進めさせていただくと、「透明怪人」で替玉と明智が言う文代は、実は本物だったのではないかと思うのです。でなければ、本物の文代がその場に現れない点について、個人的にどうしても納得がいきません。

 皆様良くご存知のとおり、明智は二十面相との虚々実々のかけひきの末に、何もかも自分だけが知っていたという独善的な推理を披露して、例えば二十面相が用意した火薬を水浸しにしていたり、ピストルの弾を抜き取っていたりして、この宿命のライバルを徹底的にコケにしております。しかもそれは、二十面相が絶対に人殺しはしないという事を知っていながらなのですから、慎重というか性質が悪いというか……。したがって「透明怪人」のクライマックスでも本物の文代を登場させて二十面相をペシャンコにするのが常道ではなかったでしょうか?

 では何故、その時、明智は文代を替玉と言い通したのでしょう? それは文代が二十面相に誘拐されていた、つまり誘拐されてそのまま無傷でいたはずが無いと、明智の独善的な猜疑心が働いたからではないでしょうか? そしてこれは普通に考えてもそうではないでしょうか? つまり二十面相は宿敵の美しい妻を誘拐し、我が物にして優越感に浸っていたはずで、そこがどうしても明智には許せなかったのだと思います。

 これは文代に対しても同様で、この事件後に彼女が姿を消してしまったのも、実は妊娠という事実があったからではないでしょうか? もちろん明智本人に思い当たるフシが無いというか、喜びよりも猜疑心が勝ったというか、とにかく明智と文代の間には居たたまれないほどの葛藤・確執が生まれていたのでは、と私は思います。こうなると文代の行き場所は実家の玉村家しかありません。明智はそこのところを転地療法と言いつくろっていたのかもしれないのです。

 こうして歳月が流れました。そして昭和37年の「超人ニコラ」事件の時、疎遠になっていた玉村家を訪れた明智は、そこで成長した文代の息子と対面したのではないでしょうか? 聖典にはこの事件以降の明智の活躍は載っていませんので、またしても私の妄想でしかありませんが、この時明智は、凛々しく聡明に成長した自分の息子を認め、跡目を継がせる決意をしたものと思います。つまり二代目の認知です。普通に考えれば、明智には子供がいないということになっていたのですから、二代目を襲名するのは小林芳雄であるはずですが、「乱歩R」で彼が小林老人となっていたのはこの所為だと私は思います。

 おそらくこれ以降の明智は二代目と共に活動した時期があったはずで、自分の持てるものを徹底的に二代目に仕込んだはずと思われます。しかし、どうでしょう、二代目と明智との関係はけっして上手くはいかなかったというのが、常識的な見方だと思います。これは小林芳雄と二代目との関係にも当てはまり、また明智事務所に同居している花崎マユミの存在もあり、老境の明智の世話は小林芳雄がしていたのではないでしょうか? そして二代目は明智探偵事務所を引き継いで華々しい活躍をしていったというのが、私の妄想です。

 それではその二代目というのは誰でしょう。まず浮かんでくるのが天知茂です。この事件簿は昭和50年代を舞台にして映像化されておりますので、時代推移的にも合致しており、加えて名探偵の独善的な推理や鮮やかな変装術等々、まさに二代目としての面目躍如たるものがあります。また五十嵐めぐみが演じる女探偵助手を花崎マユミと見ることも可能です。

 しかし三代目の雰囲気から逆に推察すると、私には天知茂はややアクが強すぎて???な部分があります。では誰が良いのかというと、小野寺昭ではどうでしょう?

 彼の事件簿は時代が平成になってから2本だけ公表されましたが、いずれも舞台背景が昭和40年代中〜後半に設定されているようです。特に「黒蜥蜴」事件においては物語中でさりげなく「恋の季節/ピンキーとキラーズ」や「白い蝶のサンバ/森山加代子」といった当時のヒット曲が流されておりますし、浪越警部を演じたなべおさみが明智と自分の父親はとても深い仲だった、明智は子供の頃から聡明だったのに、自分は……というような独白をしており、つまり明智も浪越も二代目であるという事実を述べているのでした。

 この解釈は時代設定的にやや無理があるかもしれませんが、先の浪越の発言は非常に重みがあり、また小野寺昭のスマートでありながらどこかしら屈折した明智探偵としての風情が、大富豪の家で育ちながら、出生の秘密を少しばかり翳りとして持っているという、私の妄想にピッタリなのです。また事務所で働く女助手の森尾由美を花崎マユミと見ることも、また可能なのです。

 ただ、いずれにしろ二代目と小林芳雄はソリが合わなかったと思われます。したがって彼が再び公に堂々と姿を現したのは、三代目が登場したからなのだと私は思います。

 また、この世の中にどうして2人の二代目が存在してしまったのかというと、それは天知茂と小野寺昭の資質の違いというか、もし二代目が明智の懸念したとおり二十面相の血筋であれば、それは天知茂であり、自分の血筋であれば小野寺昭であるという、それぞれに独自の解決を見出せるようにした大乱歩の意思の力の大きさを表すものと、私は解釈したいと思います。そして天知茂のあのアクの強さ、自信満々の態度で事件を解明するあの行動力と雰囲気、巧みな変装等々、それは二十面相と大いに重なる部分が私には感じられるのですが……。

 ということで、猟奇の果ての妄想もここまで来てしまいました。皆様のお叱り、削除要求、顰蹙等々は覚悟しております。ただし、これだけは書き残しておきたいのが、三代目の物語が素敵だ! ということです。そして回を重ねる毎に登場人物の素性が明らかになりつつある今日この頃、拙文が何らかのスパイスになれば、幸いでございます。

主要参考文献:「魔術師(角川文庫)」「透明怪人(ポプラ社)」

(2004.02.21 敬称略)

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