ザ・ビートルズ/アメリカ盤の謎

 アメリカにおけるビートルズの本格的テレビ出演の最初とされるのが、1964年1月3日の「ジャック・パー・ショー(NBC)」とされています。内容はイギリスのBBCで1963年10月9日に放送された「マージー・サウンド」というスペシャル番組から、She Loves You を披露する彼等の勇姿です。

 またこの頃になるとキャピトルがバラ撒いたプロモ盤によるラジオのオンエアも急増し、ビートルズ熱は一気に沸騰し、I Want To You Hold Your Hand は2月1日には第1位になっていますが、何とこの時点で、前年にヴィー・ジェイから発売されていた Please Please Me が69位、スワンから発売されていた She Loves You が21位にランクされ、しかも後者は I Want To You Hold Your Hand を蹴落として3月21日にはチャート1位となる爆発的売上げになったのですから、大宣伝に便乗されたキャピトル側は心中穏やかではありません。

 さらにキャピトルから1月20日に発売されたアルバム Meet The Beatles も大ヒット、これもチャート1位になっていますが、それ以前のビートルズの楽曲のライセンスを得ていたヴィー・ジェイ・レコードが Introducing The Beatles の選曲を変更して再発し、チャート2位の売上げを記録したのです。また、同時期にはその手持ちの曲を使って、いろいろなレコードを発売しています。それが――

Introducing The Beatles(VeeJay VJLP1062:mono / SR1062:stereo)
A-1 I Saw Her Standing There
A-2 Misery
A-3 Anna
A-4 Chains
A-5 Boys
A-6 Ask Me Why
B-1 Please Please Me
B-2 Baby It's You
B-3 Do You Want To Know A Secret
B-4 A Taste Of Honey
B-5 There's A Place
B-6 Twist And Shout

 前年発売したものから、Love Me Do P.S. I Love You を外し、すでにシングル盤として発売していた Please Please Me Ask Me Why を入れた内容です。ちなみに、ここでしか聴けない曲が――

▲A-1 I Saw Her Standing There
 曲の始まりのあまりにも有名なポールのカウント「ワン、ツー、スリー、フォー」が、ここではカットされて「フォー」の半分位からしか聴くことが出来ません。

 このアルバムは他にもタイトルを変えて同内容で再発が繰返されました。それが――

The Beatles vs The Four Seasons(VeeJay VJDX30)
Songs,Pictures And Stories Of The Fabulous Beatles(VeeJay VJLP1062)

等々です。また4曲入りのEP盤として――

The Beatles(VeeJay VJEP1-903:mono)
A-1 Misery
A-2 A Taste Of Honey
B-1 Ask Me Why
B-2 Anna

 このEPという形態のレコードは、当時のアメリカでは一般的ではありませんでしたが、イギリスではかなり人気があったことに着目したヴィー・ジェイが、ビートルズのアメリカ上陸記念盤として厚紙ジャケットのミニLP仕様で発売したために、珍しさもあって100万枚売れたと云われております。さらにヴィー・ジェイのセコイ商売は続き、アルバム収録曲のシングル・カット発売には子会社のトリー、オールディズというレーベルを使うのでした。それが――

Do You Want To Know A Secret / Thank You Girl(VeeJay VJ587)
Twist And Shout / There's A Place(Tollie 9001)
Love Me Do / P.S. I Love You(Tollie 9008)
Do You Want To Know A Secret / Thank You Girl(Oldies 149)
Please Please Me / Form Me To You(Oldies 150)
Love Me Do / P.S. I Love You(Oldies 151)
Twist And Shout / There's A Place(Oldies 152)

 おまけに、ここでやるかというアルバムが――

The Beatles & Frank Ifield On Satge(VeeJay VJLP1085)
 いかにもライブ盤のようなタイトルですが、両者のスタジオ録音既発曲を組み合わせただけのもので、ビートルズの曲は Please Please MeThank You GirlForm Me To YouAsk Me Why が収録されているらしいのですが、聴いたことが無いので、ここまでしか書きません。ちなみにフランク・アイフィールドは1960年代初期にイギリスで人気のあったポビュラー系の歌手で、ビートルズは1962年12月2日に、唯一度だけ彼の前座を務めており、その因縁を持ち出してデッチ上げたアルバムというわけです。

 以上は4月から8月までの、極めて短期間に発売されたもので、猛烈なビートルズ旋風があったとはいえ、こういう激しい商売をやったのには、それなりの理由がありました。実は「第1回」ですでに述べたように、ヴィー・ジェイが最初に発売したビートルズの2枚のシングル盤の印税未払問題が訴訟沙汰に発展していたのです。

 EMI側の要求に対してヴィー・ジェイ側は、ビートルズとは5年の契約があるので、印税の未払いは契約不履行では無い、という言い分でした。つまりレコード販売の売掛回収がすめば、すぐに支払うということなのです。この辺りはイギリスとアメリカのシステムの違いにつけこんだキャピトルの陰謀という見方がどうしても強くなります。ビートルズは彼等を拒否し続けたキャピトルの思惑以上にお金を呼ぶ存在だったのですから……。

 で、結局、裁判所の判断で、ヴィー・ジェイは1964年10月15日まで、保有するマスターから自由にビートルズのレコードを発売する権利を得るのですが、それが爆発的に売れたがために自前のレコード・プレス工場を持っていないヴィー・ジェイは、現金取引が当り前のそれを外部発注する資金に詰まり経営が悪化、倒産に到るという皮肉な結末となりました。ただし、後にそれらの整理がつくと、ヴィー・ジェイ・インターナショナルとして再出発しています。

 この裁判所の命令は、アメリカでのもうひとつの販売レーベルであるスワンにも下されますが、その間の1964年5月に興味深いシングル盤が発売されています。それは――

Sie Liebt Dich / I'll Get You(Swan 4182)
 A面は She Loves You のドイツ語バージョンです。もちろんドイツ向けの商品でしたが、ビートルズ本人達は録音するのを嫌がったらしいですね。現在「パスト・マスターズVol.1」でCD化されています。もちろんこのシングル盤同様のモノラル仕様ですが、ステレオ・バージョンがアナログLPのイギリス盤「レアリティーズ(PCM1001)」に収録されています。

 というようなドタバタが当時のレコード業界にはあったわけですが、ビートルズ一行は契約どおり、2月7日にジョン・F・ケネディ国際空港に降り立ち、アメリカ本土での狂騒が始まります。ちなみに現場で出迎えた女の子達はキャピトル側の仕込みで、そのお礼はシングル盤1枚だったと云われております。そしてその熱狂は全世界に報道され、テレビでは「エド・サリヴァン・ショー」に出演して驚異的な視聴率を取り、ワシントン・コロシアムとカーネギー・ホールでのライブをこなして帰国しますが、ここから世界中をさらに加熱させるビートルズ・ブームが本格的にスタートするのです。そしてもちろん、キャピトルからは本国とは違った形態のレコードが次々と発売されていくのでした。

参考文献:「ビートルズ・全記録 / マーク・ルウィソーン」

(2004.10.21 敬称略・続く)