ザ・ビートルズ/アメリカ盤の謎

 当時はどんな世界のスターにも映画出演がお約束でした。ビートルズの場合も、イギリスや欧州で人気が出た1963年にはもう、ユナイテッド・アーティスツと出演契約が結ばれていました。そして作られた作品が、アイドル映画にドキュメント性を取り入れた傑作「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!:A Hard Day's Night」です。したがって、そのサントラ盤は当然、同社からの発売となり、ここでも出遅れたキャピトルが地団太を踏むことになったのです。そしてそれ故にアメリカでは、またまた妙な編集盤が登場することになりました。それが――

■A Hard Day's Night(United Artists UAS6366:mono / UAL3366:stereo )
A-1 A Hard Day's Night
A-2 Tell Me Why
A-3 I'll Cry Instead
A-4 I Should Have Known Better
A-5 I'm Happy Just To Dance With You
A-6 And I Love Her
B-1 I Should Have Known Better
B-2 If I Fell
B-3 And I Love Her
B-4 Ringo's Theme
B-5 Can't Buy Me Love
B-6 A Hard Day's Night

 このアルバムはもちろん、イギリスでのオリジナル・アルバム「ハード・デイズ・ナイト」と重なる曲があるのですが、ここでは映画に使われた曲のみを収録しており、▼印はジョージ・マーティン指揮のオーケストラによる演奏です。ちなみにこの映画の一般封切はイギリスでは8月2日、アメリカでは8月12日で、イギリスでのオリジナル・アルバムの発売は7月10日でしたが、このアルバムはそれより早い6月26日に発売されています。

 アルバム「ハード・デイズ・ナイト」関連の曲は、ビートルズの創作力に勢いがあったことに加えて、録音に初めて4トラックのレコーダーが使われたこともあり、様々なアイディアがちりばめられた斬新な出来となっています。そしてそのためにモノラルとステレオの両バージョンの違いも顕著なものが多く、もちろん、このアルバムもいろいろと罪作りなバージョンが含まれることになりました。それは――

 まずこのアルバムのステレオ盤は、ビートルズの演奏した曲すべてが擬似ステレオになっています。したがってモノラル・バージョンで比較してみると――

★A-1 A Hard Day's Night
 イギリス・オリジナル盤のモノラルとステレオにおけるエンディングのギター・リフの回数が違うことは有名ですが、このアメリカ盤はさらに違います。英モノ・4回、英・ステレオ・7回だったものが、米モノは5回になっています。

★A-2 Tell Me Why
 これもイギリス・オリジナル盤ではモノラルとステレオでジョンのボーカルが微妙に違いますが、アメリカ盤のステレオ・バージョンは擬似ステレオなのに、途中でそのボーカルが左右に激しく移動するような一瞬があります。全体のエコー処理も強く、最後にギターの弦を擦るような音が聞こえるのも気になります。

★A-3 I'll Cry Instead
 アメリカ盤のモノラル・バージョンは最後にもう一度、1番の歌詞を歌うので、その分長い演奏になっています。

★B-3 And I Love Her
 イギリス・オリジナル盤ではモノラルとステレオでポールのボーカルに少し違いがありますが、アメリカ盤のモノラル・バージョンではさらに曲終わりのポールのハミングが入っていません。

★B-5 Can't Buy Me Love
 このアルバムのステレオ盤は擬似ステレオですが、これも途中でボーカルが左右に揺れ動く瞬間があります。

 主だったところは以上ですが、今回の復刻ではこのアルバムが対象外なのが残念です。もともとイギリス・オリジナルのアルバム「ハード・デイズ・ナイト」は、ステレオとモノラルが別物といってもいいほどに違いますが、当時の製作者側が拘っていたのはモノラルの方で、それが現行CDがモノラルになっている要因と思われますし、ステレオの方が意味不明な処理が多数、散見されます。それがアメリカ盤ではさらに増えているのですから、今となっては楽しいやら???やらです。

 また映画絡みということで、実際のフィルム・サウンドトラックに使われた音源にも違いがあります。それは今日、作品がビデオ化、レーザー化、DVD化していく過程でさらに複雑多岐なバージョンに生まれ変っているようですが、今回は割愛ということで、ご容赦願います。

 で、このアルバムは予約だけで100万枚の大ヒット、またしても大魚を逃したキャピトルが7月13日に発売したのが――

A Hard Day's Night / I Should Have Known Better(Capitol 5222)
 同名映画の主題歌ではありますが、純粋な新曲ということでキャピトルからの発売になりました。当然チャート1位の大ヒットです。両面ともにモノラル仕様で、すでに述べたように A Hard Day's Night はエンディングがモノラルとステレオでは違います。
 また I Should Have Known Better もモノラルとステレオでは違いがあり、イントロのハーモニカがステレオでは一瞬途切れます。また曲終わりもステレオの方が若干長くなっています。

 さらに映画関連アルバムを出せないキャピトルはシングル盤攻勢を続けて1週間後の7月20日には、次の2枚をリリースしています。

I'll Cry Instead / I'm Happy Just To Dance With You(Capitol 5234)
And I Love Her / If I Fell(Capitol 5235)
 すべてモノラル仕様で、ステレオ・バージョンと違いのある I'll Cry Instead And I Love Her についてはすでに述べたところですが、他に、If I Fell もボーカルがステレオ・バージョンで雑な出来になっています。高音部でボールの声が苦しそうに息切れする瞬間があるのです。

 ということで、ビートルズ旋風が吹荒れる最中に、その主演映画のタイトル曲でアルバムを組めないキャピトルは、結局独自の編集盤を発売していくのでした。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」

(2004.11.05 敬称略・続く)