ザ・ビートルズ/アメリカ盤の謎

 ビートルズとの契約で最初から下手を打ってしまったキャピトルですが、そこは大会社の底力、いじましいばかりの商魂を発揮していきます。何しろ初主演映画のサントラ盤を出せない上に、初期の楽曲権利をマイナー・レーベルに奪われていたのですから、それならばと出してきたのが、次のアルバムです――

Something New(Capitol T2108:mono / ST-2108:stereo )

A-1 I'll Cry Instead
A-2 Things We Said Today
A-3 Any Time At All
A-4 When I Get Home
A-5 Slow Down
A-6 Matchbox
B-1 Tell Me Why
B-2 And I Love Her
B-3 I'm Happy Just To Dance With You
B-4 If I Fell
B-5 Komm,Gib Mir Deine Hand

 1964年7月20日にアメリカで発売されたこのアルバムは、曲目をご覧になれば一目瞭然、イギリス盤LP「ハード・デイズ・ナイト」から8曲、イギリス盤EP「ロング・トール・サリー」から2曲、そしてドイツ語バージョンの「抱きしめたい:Komm,Gib Mir Deine Hand」を収録していますが、そのうちの5曲がユナイテッド・アーティスツ盤「ハード・デイズ・ナイト」とダブっているという、強引なものでした。したがってチャートは2位止まりでしたが、そこでは擬似ステレオで収録された曲が、このアルバムではリアル・ステレオ・バージョンになっていますし、またしても、ここでしか聴けないバージョンが含まれております。それは――

★A-1 I'll Cry Instead
 これはユナイテッド・アーティスツ盤「ハード・デイズ・ナイト」収録と同じで、モノラル・バージョンは最後にもう一度、1番の歌詞を歌うので、その分長い演奏になっています。またステレオ盤はリアル・ステレオ・バージョンです。

★A-3 Any Time At All
 アメリカ盤のモノラル・バージョンだけ、間奏のピアノの入り方がやや遅れてフェードインしてきます。

★A-4 When I Get Home
 これもアメリカ盤のモノラル・バージョンだけ、サビでのジョンの歌い方が一部違っています。

★A-5 Slow Down
 モノラルとステレオではジョージのリード・ギターがイントロと間奏で微妙に違います。また曲終わりのジョンの叫び声がステレオでは2回、モノラルでは1回です。これはアメリカ盤に限ったことでは無いですが、今回の復刻では両バージョンが収録予定なので、じっくりと聞き比べて下さい。

★A-6 Matchbox
 モノラルとステレオではリンゴのボーカルが間奏の後で違ってた印象で聴こえてきます。これは2〜3種類入っているリンゴのボーカルのミックスの状態が、モノラルとステレオで変えられているのが原因かと思われます。同じことがジョージのリード・ギターにもあって、間奏が違っています。これも今回の復刻では両バージョンが収録予定なので、じっくりと聞き比べて下さい。

★B-1 Tell Me Why
 ユナイテッド・アーティスツ盤「ハード・デイズ・ナイト」収録のものとは違い、このアルバムのステレオ盤はリアル・ステレオ・バージョンを収録しています。ジョンのボーカルの微妙な違いは、イギリス・オリジナル盤と同じです。

★B-2 And I Love Her
 これもステレオ盤ではちゃんとリアル・ステレオ・バージョンを収録しているので、ポールのボーカルの違い、特にラストのハミングの有無が比較出来ます。アメリカ盤のモノラル・バージョンだけに、それが無いのです。

★B-4 If I Fell
 イギリス・オリジナル盤と同じリアル・ステレオ・バージョンを収録していますので、モノラル・バージョンと比較して、その雑な仕上がりに愕然とするはずです。ポールの声が苦しそうに途切れたり、ジョンの一人多重録音のボーカルがずれていたりします。ここにステレオ・バージョンがこれまでCD化されなかった理由があるのかもしれません。

★B-5 Komm,Gib Mir Deine Hand
  I Want To You Hold Your Hand のドイツ語バージョンです。現行CDでは「パスト・マスターズVol.1」に収録されていますが、それはモノラル・バージョンでしたので、今回の復刻ではステレオ・バージョンが初CD化ということです。

 他に Things We Said Today I'm Happy Just To Dance With You の2曲が、ステレオ・バージョン初CD化となります。

 というこのアルバムは収録曲にややインパクトが足りませんが、それでもこのアメリカ仕様盤は全篇なかなかマニアックな違いが楽しめるので貴重です。しかも今回の復刻はCD1枚にモノラルとステレオの両バージョン収録ということで、その顕著な部分がじっくりと聞き比べ出来るのです。これは軽んじてはなりません。

 それにしても当時のアメリカのファンは、イギリスでは1枚で聞けるものを2枚に分けて買わされていたわけですが、しかしそれは、当時の経済大国アメリカならでは事情を上手く使ったキャピトルの戦略勝ちというところでしょうか。時期的にはビートルズ側も、そろそろアルバムそのもののコンセプトを明確にして製作に入りつつあったわけですが、それでもこうしたキャピトルの姿勢を容認していたのは、やはりアメリカの市場の大きさ=利益の高さに飲み込まれていたからなのでしょう。こうした状況は、まだまだ続いていくのでした。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」

(2004.11.11 敬称略・続く)