念願のアメリカ進出の成功を飛越えて世界中で大ブレイクしてしまったビートルズの1964年は、超過密スケジュールに追い回されていました。しかもレコード会社、特に米国キャピトルの貪欲な姿勢は、つまり稼げる時に稼いでおけというような、キワモノ扱いに近いものだったように思います。しかし、そんな中でもビートルズの創作意欲は衰えること無く、常に斬新なものを心がけていたのです。それがはっきりと現れているのはシングル盤で、特に年末に発表されたものは強烈でした。それが――
■I
Feel Fine / She's A Woman(Capitol
5327) 久々に純然たる新曲を収録したこのシングル盤は、11月23日に発売されましたが、それは本国イギリスよりも4日早いというところに、当時のキャピトルの力の入れ方が感じられます。そしてその所為か否か、何とこの2曲はイギリス盤とは完璧に違う仕上がりになっているのです。また、もちろんこれはモノラル仕様ですが、ステレオ・バージョンとも異なっているのです。それは――
★I
Feel
Fine イントロにフィード・バック奏法を取り入れたこの曲は、ニューロックの夜明けを示唆する歴史的名演ですが、アメリカのバージョンはイギリスのものよりも短くなっています。つまりイギリス盤はラストのリフの部分が約4秒ほど長くなっているのです。この短めの米国モノラル・バージョンは後述するアルバム「ビートルズ65:Beatles
'65」のモノラル盤にも収められるのですが、実はそこでも少し違いがあるので、厄介です。また、このシングル・バージョンは、レコードのプレス時期によっても違いがあるというのですが、未確認なので詳細はご容赦下さい。
結論から言うと、資料とした「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」によれば、英国モノラル・バージョンは「リミックス3」であり、米国モノラル・バージョンは「リミックス4」ということです。さらに個人的に、英国モノラル・バージョン=英国シングル盤を基準に聞き比べた結果で分類してみると―― ●英国モノラル・バージョン:英シングル盤 ●米国モノラル・バージョン:英モノラル・バージョンより短い=米シングル盤 ●英国ステレオ・バージョン:エンディングに手拍子有り=LP「オールディズ」 ●米国ステレオ・バージョン:擬似ステレオ疑惑、手拍子無し、エコー大=LP「'65」 ●新版ステレオ・バージョン:イントロ前にスタジオ内の話声有り=LP「赤盤」 というところですが、この他にも微妙な違いが沢山あるらしいです。
★She's
A Woman これもまた英米モノラル・バージョンが異なっています。それはラストの「♪She's A Woman
!」の繰り返しがイギリス盤では5回、アメリカ盤では3回ということで、はっきりしています。 あと、今回聴き比べをしていて初めて気がつきましたが、CD「EPボックスセット」に収録されたこの曲は、イントロにポールの「1、2、3、4」というカウントが入っているのに加えて、ステレオ・バージョンになっていました。
というように、今となってはお騒がせのシングル盤ですが、当然チャート1位の大ヒットになっています。そしてその勢いで出してきたアルバムが――
■Beatles
'65(Capitol T2228:mono / ST-2228:stereo )
A-1 No Reply
★
A-2 I'm A Loser ★ A-3 Baby's In Black ★ A-4 Rock
And Roll Music ★ A-5 I'll Follow The Sun ★ A-6 Mr.
Moonlight ★ B-1 Honey Don't ★ B-2 I'll Be Back ★ B-3
She's A Woman ▲ B-4 I Feel Fine ▲ B-5 Everybody's Trying
To Be My Baby
★
1964年12月15日に発売されたこのアルバムは、英国オリジナル・アルバム「フォー・セール:Beatles For
Sale」を基にして、そこから8曲、同じく「ハード・デイズ・ナイト」から1曲、そして既発シングル盤AB面の2曲を収録しています。アメリカでこの年に発売されたビートルズのアルバムとしては6枚目となりますが、それはおなじみの11曲仕様の成せるワザでした。ただしイギリス盤とアメリカ盤での違いはそれほど無いと思われます。しかし、モノラルとステレオの両バージョンの存在に起因違いはかなり目立ちますので、今回の復刻でその両方が収録されるこのアルバムも聞き逃すことが出来ません。それは――
★A-1
No
Reply モノラルではそれほど目立たないジョンの一人二重唱のボーカルのズレが、ステレオ・バージョンでは顕著です。このあたりは、フィーリング重視のジョンらしさでしょうか。
★A-6
Mr. Moonlight 曲終わりの「♪Mr.
Moonlight〜」と歌われる繰り返しが、モノラル・バージョンでは3回、ステレオ・バージョンでは4回になっています。
▲B-3 She's
A
Woman ステレオ盤アルバム収録のこの曲は、擬似ステレオ疑惑があり、エコーも強くかかっています。ただしモノラルとステレオのバージョン毎の曲の長さはイギリス盤と同じです。
▲B-4
I Feel
Fine
シングル盤のところですでに述べたように、ステレオ盤アルバム収録のこの曲は擬似ステレオ疑惑が濃厚です。つまりアメリカ仕様のモノラル・バージョンを電気的処理で強引にステレオ化にしたもので、そのために強力なエコーがかけられていますが、実はモノラル盤に収録された純正アメリカ仕様のモノラル・バージョン(=米シングル盤)にまで、それと同様な強力エコーがかけられているのです。したがって、このアメリカ盤アルバムで聴くと、違って聴こるようでもあり、また、実は同じにも聴こえてしまうという、罪作りになっています。
他にも★印をつけた
I'm A Loser、Baby's In Black、Rock And Roll Music、I'll Follow
The Sun、Honey Don't、I'll Be Back、Everybody's Trying To Be
My Baby
が、今回の復刻でステレオ・バージョンが初CD化となります。
アナログ盤時代はステレオ盤の方が多く流通していましたが、CD時代になってからはこの辺りまでの作品=初期の英国オリジナル・アルバム4枚がモノラル仕様になっていたので、新鮮な気持ちでステレオ・バージョンを聴けるファンも多いと思います。ただしそれは、現在のオーディオ的感覚からいうと稚拙なもので、極端に言えば右と左に泣き別れという雰囲気です。しかしそれ故に、色々なところで様々な違いが浮き彫りになるという楽しみがあるのでした。そして、こういう傾向は、まだまだ続いていくのです。
参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
(2004.11.14 敬称略・続く)
|