ザ・ビートルズ/アメリカ盤の謎

 1964年にアメリカを襲い、忽ち全米制覇を成し遂げたビートルズは、業界のキワモノ予測を覆し、翌1965年になると、いよいよその巨大な天才性を発揮していきます。ただし彼等はこの時期、過酷な巡業とテレビ・ラジオ出演、さらに劇場用映画の撮影等々、スケジュールは常にギチギチであり、その中で新曲を作り、レコーディングを行っていたのですから、その創作能力は本当に驚異的です。

 しかし、そういう余裕の無さから製作過程で様々な齟齬が生じていたのも、また事実で、今日いろいろとバージョン違いの楽曲が散見されるのは、それゆえの事です。

 そのあたりをアメリカ盤中心に取上げてみると、、まずこの年最初に発売されたのが――

4 By The Beatles(Capitol R 5365:mono)
A-1 Honey Don't
A-2 I'm A Loser
B-1 Mr.Moonlight
B-2 Everybody's Trying To Be My Baby
 1965年2月1日に発売されたキャピトルでは2枚目のEP盤ですが、もちろん前年末に発表したアルバム「ビートルズ65:Beatles '65」からのカットで、全てモノラル・バージョンによる収録です。

 さらに追い討ちとして2月15日に発売されたのが――

Eight Days A Week / I Don't Want To Spoil The Party(Capitol 5371:mono)
 2曲とも、すでに本国イギリスでは4枚目のアルバム「ビートルズ・フォー・セール:Beatles For Sale」に収録され、前年12月に発表されていたのですが、アメリカではこれまで度々述べてきたような事情により、英国とは違った発売形式になっていたために、新曲扱いのシングル盤として登場しています。もちろんここではモノラル仕様ですが、英国アルバム収録のステレオ・バージョンとの比較では、「I Don't Want To Spoil The Party」において、間奏直前にあった掛声が、このモノラル・バージョンでは消えています。

 さて、そうこうしているうちに、前年、キャピトルと揉めまくったヴィー・ジェイ・レコードが倒産! その理由については「第3回」をごらんいただきたいのですが、押さえられていたビートルズ初期音源の権利をようやく得たキャピトルは、3月22日に新譜扱いとして次のアルバムを出すのです――

The Early Beatles(Capitol T2309:mono / ST2309:stereo )
A-1 Love Me Do
A-2 Twist And Shout
A-3 Anna
A-4 Chains
A-5 Boys
A-6 Ask Me Why
B-1 Please Please Me
B-2 P.S.I Love You
B-3 Baby It's You
B-4 A Taste Of Honey
B-5 Do You Want To Know A Secret

 これらの楽曲はいずれも、すでにヴィー・ジェイ・レコードから発売されたアルバム「Introducing The Beatles」やシングル盤に収録されていたもので、ステレオ&モノラルの両バージョンの存在自体もアナログ盤時代においては珍しいものではありませんでした。

 しかしCD時代になって初期の音源がモノラル仕様だけになってしまったことから、今回の復刻によって、ここにあらためてその違い等々を取上げてみると、まず★印がステレオ・バージョン初CD化となります。また、▲印は擬似ステレオ・バージョンだと思われますが、それらの詳細は――

▲A-1 Love Me Do
 この曲に関しては、リアルタイムで2つの公式テイクが存在していることが有名でした。それは録音に参加しているドラマーの違いです。
 結論から言うと、このアルバム収録のテイクは1962年9月11日に録音されており、ドラマーはセッションマンのアンディ・ホワイト、リンゴはタンバリンを担当しています。そしてそれに先立つ9月4日の録音テイクこそ、リンゴがドラムスを担当したもので、これが英国デビューシングルに採用されたのですが、それでさえも実は1964年中頃に、このアルバムのテイクに差し替えられたのです。しかもそのオリジナル・マスターが、その時に処分されたという暴挙までも、今日明らかになっています。
 したがってアメリカ盤で聴かれるこの曲は全て、アンディ・ホワイトがドラムスを担当したテイクです。しかもモノラルのマスターしか残されていませんので、ステレオ表記があっても、それは全て、擬似ステレオということです。分かりやすく分類すると――
 ●リンゴ・スター・バージョン:1962年9月4日録音;英国デビュー・シングル
 ●アンディ・ホワイト・バージョン:同年9月11日録音;各国アルバム、EP、シングル
ということで、リアルタイムのアメリカ盤ではリンゴがドラムスを担当しているテイクは聴くことが出来ませんでした。この事情は日本でも同じですし、現代の歴史では、結局リンゴ・スター・バージョンは英国での初期プレスのシングル及びカナダ盤シングルの初期プレスだけだとされています。それが――
 ◎英国盤レッド・パーロフォン・レーベル(Parlophone R-4949)
 ◎カナダ盤イエロー・オレンジ・レーベル(Capitol 72076)
という、上記の2種類です。ただし後年、その価値が見直されて復刻され、それは現行CDでは「パスト・マスターズVol.1」や「シングル・コレクション」に収録されていますが、前述のような事情から、全てアナログレコード盤からの針落としで再録されたものです。
 というわけで、米国キャピトル盤アルバムで聴けるこの曲では、リンゴ・スターがドラムスを叩いていないバージョンです。

★B-1 Please Please Me
 モノラルとステレオではテイクが違っています。
 それはジョンが歌詞を間違えていることから明らかで、特にステレオ・バージョンの3番「I Know you never even try girl」の部分を「Why know I」と完全に瞬間作詞して歌い、次の「Come on」の箇所では、それに気がついて思わず吹き出し笑いするという、憎めないことをやっています。
 また演奏部分では、ステレオ・バージョンのイントロのギターでジョージがミスっていますし、その他にも、何となく細かい違いが感じられます。ちなみに資料にした「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」によれば、ステレオ・バージョンはテイク 16・17・18 を編集したということですが、全体的には、モノラル・バージョンの方がボーカルが力強く、ステレオ・バージョンはエコーが強い感じがします。

 ということで、このアルバムでのモノラルとステレオの両バージョンにおける大きな違いは、上記の2曲だけです。ただしそれは、演奏とボーカルのパートが右と左に泣き分かれという仕上がりですから、どちらか一方を録音してビートルズ・カラオケを作ったりするのも一興です。

 ちなみにこのアルバムは、その内容がヴィー・ジェイ・レコードによって、これまでに何回も再発が繰り返されていた楽曲中心ということで、リアルタイムのチャートではトップになれませんでした。しかし翌月、ついに素晴らしい新曲が発売されるのです。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
      :「The Beatles' Story On Capitol Records / Bruce Spizer」

(2006.03.25 敬称略・続く)