ザ・ビートルズ/アメリカ盤の謎

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 今日、ビートルズは20世紀の偉大なる音楽集団と看做される傾向がありますが、リアルタイムではアイドル以外の何者でもありませんでした。それは主演2作目の劇場用映画「Help !」の邦題を「4人はアルドル」としたことに、端的に現れていますが、それは間違いではありませんでした。

 この作品は後に日本のグループサウンズが主演するアイドル映画の雛形になったほど、その手の王道という作りで、バカ映画と紙一重のベタなギャグ、その反対の捻った考えオチ、追っかけ主体のドタバタという古典主義等々がゴッタ煮になった名・迷作です。

 今回、この映画そのものについては詳しく触れることは致しませんが、しかしそれに関する音楽部分、つまりビートルズの新曲は、そんな王道路線とは逆に、怖ろしい勢い進化していたのです。その中で最初に発表されのが――

Ticket To Ride / Yes It Is (Capitol 5407:mono)
 本国イギリスよりも5日遅れの1965年4月14日に発売されたこのシングル盤は、新作映画からの1曲として宣伝されました。それは初回プレスのレーベルに「ユナイテッド・アーティスツ封切映画 Eight Arms To Hold You より」とクレジットされていたのです。しかしこれは大きな間違いというか、それが後に「Help !」とされるのは、皆様良くご存知のとおりです。ちなみにこの映画は、1965年2月末頃から撮影が開始され、バハマ、オーストリア、アルプス山脈、ロンドン等々でロケを重ね、さらに過密なスケジュールの合間にスタジオで撮影が敢行されていたのです。そして、そんな最中に製作されたのが、このシングルだったというわけですが、もちろん両面共にモノラル仕様です。

Ticket To Ride
 映画では雪の中の場面で流れましたが、そこで使用されたバージョンはモノラルとはいえ、このシングルとは別ミックスだと、資料にはあります。ただし残念ながら現行ビデオでは、オリジナル・ステレオ・バージョンに差し替えられています。

Yes It Is
 ジョンが作った3連ロカバラードの隠れ人気曲です。アナログ盤時代は英国オリジナルLP未収録でしたので、このシングル盤は重宝されました。現在では、ここで聴かれるモノラル・バージョンが「シングル・コレクション」に、またステレオ・バージョンが「パスト・マスターズVol.1」に収録されてCD化となっています。

 さて、このシングルはもちろんチャート・トップの大ヒットになっており、続けて1965年6月14日発売されたアルバムが――

Beatles Y (Capitol T2358:mono / ST2358:stereo)
A-1 Kansas City
A-2 Eight Days A Week
A-3 You Like Me Too Much ★▲
A-4 Bad Boy ▲
A-5 I Don't Want to Spoil The Party
A-6 Words Of Love ★
B-1 What You'er Doing
B-2 Yes It Is
B-3 Dizzy Miss Lizzy ★▲
B-4 Tell Me What You See ★▲
B-5 Every Little Thing ★

 内容は「A-1」「A-2」「A-5」「A-6」「B-1」「B-5」の6曲が、英国では前年のクリスマス・シーズンに発表されていた4枚目のオリジナルLP「フォー・セール:Beatles For Sale」で既発でありながら、米国ではこの前の作品として発売された「ビートルズ65:Beatles '65」には用いられなかったという、現代感覚としては新鮮味の無い半年遅れの編集ですが、「A-3」「B-3」「B-4」がこの時点では未だリリースされていなかった新作「ヘルプ!:Help !」から、そして「A-4」もまたピカピカの新録音というのがウリになっていました。

 今回の復刻では、例によって★印がオリジナル・ステレオ・バージョン初CD化というわけですが、英国盤オリジナルLP「フォー・セール:Beatles For Sale」からの6曲は、アナログ盤時代にはモノラルとステレオの両バージョンが存在していたものの、CD化された時点でモノラル・バージョンに統一されてしまったので、今回の復刻は貴重かつ嬉しいところです。もちろんその違いも確認出来ます。

 また新録扱いの4曲も「ヘルプ!:Help !」からのものは、現行CDではステレオ・バージョンながら、アナログ盤のオリジナル・ステレオ・バージョンとはミックスが違いますし、逆にモノラル・バージョンが聴けなくなっているので、これまた今回の復刻は大歓迎♪ それは▲印で示しておりますが、
その詳細は――

★A-1 Kansas City
 ステレオ・バージョンはモノラル・バージョンよりもフェイドアウトが5秒ほど長くなっています。

★A-3 You Like Me Too Much
 現行CDではステレオ・バージョンとはいえ、左右の音が真ん中よりに集められています。またモノラル・バージョンは既に「EPコレクション」でCD化済みですが、それは高価なブツでしたから、今回の復刻で手軽に聴けるようになりました。

▲A-4 Bad Boy
 本国イギリスでは1966年12月に発売されるベスト盤「オールディズ:A Collection Of Beatles Oldies」に新曲扱いで収録されたこの曲は、実はこの時点で録音、アメリカ先行で発表されていたというわけです。もちろんアナログ盤時代はモノラルとステレオの両バージョンが存在していましたが、現行CDでは「パスト・マスターズVol.1」に収録され、ステレオ・バージョンに統一されていますので、今回の復刻でモノラル・バージョンが初CD化となりました。

★A-5 I Don't Want to Spoil The Party
 ステレオ・バージョンでは間奏直前にある掛声が、モノラル・バージョンでは消えています。また現行CDバージョンはモノラルですが、そのイントロのギターがアナログ盤ステレオ・バージョンよりも、かなり小さな音にされています。今回はどのような処理になっているのでしょうか、楽しみです。

★A-6 Words Of Love
 ステレオ・バージョンはエンディングのコーラスの繰り返しがモノラル・バージョンよりも2回少なくなっていますので、物足りなさが……。

★B-1 What You'er Doing
 ステレオ・バージョンではイントロで誰かの声が聞こえます。

★▲B-3 Dizzy Miss Lizzy
 現行CDはアナログ盤に比べてボーカルに強いエコーが掛けられており、???です。また今回の復刻ではモノラル・バージョンも堂々の初CD化です。

★▲B-4 Tell Me What You See
 
現行CDはステレオ・バージョンながら、左右の音の広がりが中央よりにミックスが変えられました。また楽器の定位も少し変化しています。そしてこれもモノラル・バージョンが初CD化となりますので、じっくりと聞き比べてみて下さい。

B-5 Every Little Thing
 
ステレオ・バージョンはモノラル・バージョンよりもフェイドアウトが長くなっています。

 ということで、もちろんこのアルバムもチャート1位の大ヒット♪ 新旧入り乱れた一見とりとめのない編集盤と思われがちですが、実際に聴いてみると、なかなかロック味が強い曲の流れが素敵です。中でも「Kansas City」「Bad Boy」「Dizzy Miss Lizzy」は、いずれもアメリカの黒人R&Bのカバーながら、ビートルズ流ルーツ・オブ・ハードロックという趣があります。

 また夭逝した天才白人ロッカー=バディ・ホリーのカバー「Words Of Love」やオリジナルの「Yes It Is」と「I Don't Want to Spoil The Party」からはアメリカン・ポップスの甘さ・明快さが感じられます。

 そういう音楽面での人種融合の妙は、この後のビートルズ・ミュージックでますます顕著になっていくわけですが、その意味で最新録音だった「Tell Me What You See」は、ポップスの革新的名盤「ラバーソウル:Rubber Soul」への序曲として、このアルバムでは絶妙のアクセントになっていると思います。

 そしてその前段にして最新主演映画の主題歌が、いよいよ発売されるのでした。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション / マーク・ルウィソーン」
      :「The Beatles' Story On Capitol Records / Bruce Spizer」

(2006.04.01 敬称略・続く)