バングラ・デシ・コンサート始末

 寄り道&回り道しながら述べてきたように、これだけの経緯があるメンバーが集ったのですから、コンサートは単なる顔見世ではない迫力がありました。そして幸いにも映像として残されたのです。それが――

バングラディシュ・コンサート:The Concert For Bangladesh
 製作:ジョージ・ハリスン&アラン・クライン
 監督:ソール・スイマー

 第2回ですでに述べたように、1971年8月1日に昼・夜2回行われたステージから夜の部を中心に編集されています。

 まずジョージとラビ・シャンカールが出席して開かれた記者会見の模様が短く映し出され、「報道は良く知らなかったが、友人から惨状を聞いて、なんらかの助けになれば……」云々というジョージのコメントがあります。

 この後にリハーサルの模様が短く入り、そこではディランとジョージのツーショットが見所です。

01 Bangla Dune / Ravi Shankar
 そしていよいよ本番の映像、まずジョージひとりが登場しただけで拍手が鳴り止まない熱狂から、チャリティへの感謝の言葉とラビ・シャンカールの演奏が始まることを告げます。「ロックと違いインド音楽は厳粛だから……、じっくり聴いてほしい」とコメント、続いてラビ・シャンカール:Ravi Shankar(sitar)、アリ・アクバル・カーン:Usted Aliakbar Khan(sarod)、アラ・ラッカ:Alla Rakah(tabra)、キャメラ:Kamala Chakravarty が登場し、インド音楽の楽器を超絶技巧で操り、厳かな雰囲気から徐々に盛り上げていく鋭角的な演奏が繰り広げられますが、その前段として映画的映像手法よるバングラ・デシの当時の惨状を伝えるフィルムが挿入されます。「演奏中はタバコをやめてほしい」というラビ・シャンカールのMCも印象的です。ちなみにこの曲は、いつくかの小品をメドレー形式で組立てたもののようです。

02 Wah-Wah / George Harrison
 ここからは第2部のロックショウが始まりますが、その前段として楽屋からステージ向かうリンゴとレオン・ラッセル、フィル・スペクターとアラン・クライン、白いスーツ姿のジョージが登場、暗転からいきなりこの曲のイントロが始まります。それは圧倒的な音圧で、ステージに集合したメンツはエレキ・ギターが3人、生ギターが3人、ドラムスが2人、キーボードが2人、ホーン隊&コーラス隊にベースと打楽器という大所帯で演じられています。ここではクラプトンのワウワウを使ったオカズの入れ方がカッコ良く、ビリー・プレストンのオルガンが絶妙な隠し味、さらにジム・ホーンのサックス・ソロとコーラス隊の掛け合いも迫力があります。そしてそれに囲い込まれたジョージの幾分かぼそいボーカルが、スペクター・サウンドの生の再現として、最高です。ちなみにオリジナルは「オール・シングス・マスト・パス」に収録されています。

03 My Sweet Lord / George Harrison
 実際のステージではラス前に演奏されましたが、編集でこの位置にもってきたのは大正解、ジョージが生ギターに持ち替えて、嬉々として歌う姿が印象的です。最初はほとんどクラプトンのスライドギターとのデュオという雰囲気ですが、途中からコーラス隊が入ってきて、グッと盛り上がっていきます。ちなみにこの曲は1970年11月にシングル盤として発売されるや全世界でチャート1位の大ヒットになりました。しかし1971年3月に、アメリカの黒人女性グループであるシフォンズ:Chiffons が1963年に放ったヒット曲「ヒーズ・ソー・ファイン:He's So Fome」の盗作だとして訴えられたという、その裁判の最中でのライブ演奏でしたが、そんなことは微塵も感じられない高揚感と楽しさが感じられます。

04 Awaiting On You All / George Harrison
 これも「オール・シングス・マスト・パス」に収録された曲で、そこでは壮大な音の壁に包まれたロックン・ロールという雰囲気でしたが、ここでもその大袈裟な楽しさは見事に再現されています。しかしそれとは裏腹に、ステージ上のメンバーは意外なほど冷静な表情で演奏しています。クラプトンはほとんど居眠り状態?

05 That's The Way God Planned It / Billy Preston
 お待ちかね、実力者のビリー・プレストンが登場です。演目はアップルから発売されたリーダー盤「神の掟」収録のタイトル曲! 黒くて荘厳なゴスペル風オルガンのイントロから、魂の歌とコーラスが初っ端から熱気を撒き散らします。間奏のオルガンとクラプトンの控えめな伴奏ギターが、また最高の安らぎと緊張感を醸し出してくれますし、レオン・ラッセルの生ピアノが、これまた味があります。そして演奏は定石どうり、テンポアップさせてビリー・プレストンがバカノリのダンス! スタジオ録音盤ではウリだったクラプトンのギターソロが物足りませんが、ステージはどこまでも盛り上がり、観客は熱狂するので、これは映像の方が楽しめます。

06 It Don't Come Easy / Rongo Starr
 この熱気を引き継ぐのが、リンゴ・スターのヒット曲「明日への願い」、ドラムを敲きながらの熱唱は、「嵐を呼ぶ男」状態ですが、それでもリンゴのドラムスの上手さが分かる演奏です。もうひとりのドラムス、ジム・ケルトナーの柔軟なサポートも印象的です。

07 Beware Of Darkness / George Harrison
 「オール・シングス・マスト・パス」収録の隠れ名曲で、宗教的な内容の歌詞とスローな曲想が素敵です。しかもこのライブ・バージョンでは途中でレオン・ラッセルのボーカル・パートが用意されており、絶妙なアクセントになっているのです。この2人は実際のレコーディング現場ではすれ違いでしたが、「オール・シングス・マスト・パス」にレオン・ラッセルが参加していたらどうなっていたかなぁ……、という答えの僅かなものが、ここにあると思います。あと、余談ですが、この曲を聴くと、萩原健一と井上バンドの「祭ばやしが聞こえる」を口ずさんでしまう私は……。ちなみに「祭りばやし」のオリジナルは柳ジョージですが……。

08 While My Guitar Gently Weeps / George Harrison
 メンバー紹介に続き、ついに出たっ! ビートルズ時代のジョージ畢生の名曲です。もちろんギター・ソロはオリジナル・バージョンと同じくクラプトンですが、これがヨレて、かなり危ない雰囲気です。しかしそれが、声が出きらずに苦しくあえぐジョージのボーカルと意外なほど相性がいいんです。ウラ声ギリギリの泣きが、かえって効果的なこの曲は、やはり名曲です。そして最後のギター・ソロの部分では、クラプトンに寄添ってカウンターメロディを弾くジョージ♪ なかなかの名場面です。クラプトンの表情にも余裕が出てきています。ちなみに吸いかけのタバコをギターのネックの頭に挟む有名な場面もここです。映像ではぜひとも、そのあたりもご注目下さい。

09 Jumping Jack Flush 〜 Young Blood / Leon Russell
 もうひとりの主役、レオン・ラッセルが主役のメドレーです。最初はストーズのヒット曲で、これは参加できなかったミック・ジャガー用にアレンジしてあったものを流用したのかもしれませんが、レオン・ラッセルは熱演です。ここではギターにドン・プレントン、ベースにカール・レイドルが加わり、コーラス隊も熱くシャウトしています。イントロに絡むビリー・プレストンのオルガンの入り方も鳥肌もの! そしてドン・プレストンのギター・ブレイクを挟んで、後半はブルース&ゴスペル大会へ! これが今でもすばらしいノリで、熱くなります。さらに大団円では全員がスワンプの泥沼へ♪ レオン・ラッセルのマイクを舐めるような濁声の歌い方も含めて、これは映像で観ると感激の度合いが違います。

10 Here Comes The Sun / George Harrison
 これもビートルズ時代の人気曲なので、イントロが出た瞬間、大歓声が湧きあがります。演じるのはジョージとバッドフィンガーのピート・ハムによる生ギター2人組で、ジョージの鼻歌風のボーカルが原曲の良さを活かしているのは、自作自演の強みというところです。

11 A Hard Rain's Gonna Fall / Bob Dylan
 いよいよクライマックスの第1章、ボブ・ディランの登場で観衆も大熱狂です。この当時は日本でも空前のフォーク・ブームだったので、潜在的なディラン人気があったのですが、肝心の本人が人前に出てこないので、私は動くディランをこの映画で初めて見ました。そして出演メンバーの豪華さからいえば、ここはフォーク・ロック路線のエレキ・ギンギンでも許されたと思うのですが、ディランはあえて往年のプロテスト・スタイル、つまり生ギターにハーモニカで演奏しています。さらに伴奏にはジョージとレオン・ラッセルが! そしてこの世の悲惨な現実を歌うディランは、最初から自然体で輝いています。ちなみに日本語タイトルは「はげしい雨が降る」です。

12 It Takes A Lot To Laugh,It Takes A Train To Cry / Bob Dylan
 日本語タイトルは「悲しみは果てしなく」で、ここは軽いフォーク・ロック風に歌っています。ジョージのライト感覚なスライド・ギターが隠し味でしょうか。

13 Blowin' In The Wind / Bob Dylan
 ご存知「風に吹かれて」ですが、これはジョージのリクエストだったとか……。するとディランは「君は抱きしめたいを歌うのかい?」と答えたという伝説があります。それとさておき、ディランは久々にステージでこの曲を歌ったはずですが、ハーモニカの吹き方もキマッていますし、観衆も曲の出だしで感動している雰囲気があります。

14 Just Like A Woman / Bob Dylan
 日本語タイトルは「女の如く」で、結論から言うと、ディランの歌いっぷりは最高です。さらにジョージとレオン・ラッセルが寄り添ってキメのコーラスをつけるという見せ場があります。冒頭に掲載したポスターの写真が、それです。ディランの後世に残る素晴らしいパフォーマンスだと思います。

15 Something / George Harrison
 静謐と熱狂が混在したディランの演奏の後に相応しい名曲が登場です。実際のステージ曲順では3曲目でしたが、編集でこの位置に持ってきたのは正解だと思います。ビリー・プレントンのオルガンを筆頭にしたスワンプ〜ゴスペル風味の演奏は、この曲の隠された魅力と秘密を解き明かしています。つまり、ジョージ版の「レット・イット・ビー」でしょうか、ラフな中にも、芳醇な香りが漂う演奏になっています。

16 Bangla Desh / George Harrison
 大団円は、やはりコンサートのテーマ曲でした。観衆の熱狂にアンコールで登場したかのような演出から、ジョージ十八番の泣き節が出ます。映像処理ではバングラ・デシの悲惨な現状のフィルムが挿入されていますが、違和感がありません。ジョージの歌唱も鬼気迫るものが感じられますし、バックの分厚い演奏もド迫力です。 映画ではジョージが退場した曲終わりの演奏あたりから、出演者のクレジットが制止画像とともに出てきて、鳴り止まない拍手・歓声が続き、フェードアウトしていきます。

 というこのロック映画は、出演メンバーの豪華さもあって大ヒットしています。ただしその映像は、今日的感覚から言えば、やや単調です。編集も楽屋風景とかリハーサル映像も観たかったところですが、逆にステージをじっくりと映し出した手法は実際の会場に入れなかった大勢のファンを納得させるものでした。

 出演メンバーの中ではスワンプ・ロックの実力者であるギタリストのジェシ・エド・デイビスに全く見せ場がなかったのが寂しいところですが、これはエリック・クラプトンが心身ともにイマイチ危ない状態だったためのサポートということで、結果オーライでした。

 あと、素晴らしいパフォーマンスを披露したボブ・ディランでは、公式盤レコードに収録されていた「ミスター・タンブリマン」の映像がカットされていたのが残念ですが、それは今回のDVD化のボーナスとして観られる予定になっていますので、楽しみです。

(2005.10.31 敬称略・続く)