天知茂主演 / 明智探偵事務所の魅力





 明智小五郎は探偵の中の名探偵! ですから今日まで夥しい数の明智探偵物語が映像化され、何人もの俳優がこの稀代の人物を演じておりますが、その中でも特に印象深いのが、天知茂が演じた明智小五郎です。

 その天知茂主演による映像作品は、今日では「江戸川乱歩の美女シリーズ」と称されておりますが、それは全25本が制作された各々に「〜の美女」とタイトルされているからで、そのとおり、劇中のヒロインは全てが美女♪ つまりリアルタイムで第一線の美人女優さんが出演されているというのが、大きな魅力になっています。

 また物語そのものが、江戸川乱歩の原作を昭和の現代に置き換えてはいるものの、原作の味を極力損ねないよう綿密に演出されており、それはもちろんエログロや猟奇・怪奇に彩られた本格ミステリ、通俗風味が強いサスペンス物の王道を外していないのです。

 そして肝心の名探偵=明智小五郎のアクの強い魅力、すなわち天知茂のキャラクターの濃い演技が強烈な印象を残します。

 明智小五郎という人物は、原作中では様々な描かれ方をしておりますが、正式に探偵業を営むようになってからはスマートでモダンな振舞い、抜群の行動力、クライマックスでの何もかも自分だけが知っていたという独善的な推理の披露、さらに女性に対してのストイックな態度、そして犯罪者やライバルに対する圧倒的なプライドの高さ等々、現実世界ではキザを通り越して物笑いの対象になりそうなギリギリの性格破綻者ですが、それこそが実は、名探偵の必要充分条件だと、私は思います。そしてそれを演じきる役者もまた、生半可な演技力やキャラクターでは務まらないはずです。

 そこで天知茂です。何故このシリーズが人気を呼び、25本も制作されたのか? また何故に天知茂=明智小五郎なのかと思う時、それは俳優としての天知茂、その人の魅力を無視出来ません。それは――

天知茂(あまちしげる)
 昭和26(1951)年、20歳でニューフェイスとして新東宝と契約、すなわち最初っからスター候補生だった天知茂は、同社で夥しい役柄を演じていますが、やはり当時からニヒルでクールな演技にひときわ輝くものがありました。代表作としては「東海道四谷怪談(昭和34年・中川信夫監督)」の民谷伊右衛門があまりにも有名ですが、「黒線地帯」「黄線地帯」等々のハードボイルド物も本領発揮の名演です。その極みつきが新東宝倒産後に大映で出演した「座頭市物語(昭和37年・三隅研次監督)」における平手造酒でしょうか、一代の当り役というか、この後、誰も天知茂を越えた演技を見せていません、と決めつけておくほどです。とにかく翳があって執念もみせる、クールではあるけれどギラギラした本性も滲みだせるという、男の生き様の理想を体現したかのような演技は絶品で、それは出演作品全てに共通する天知茂の魅力です。ちなみにこの「美女シリーズ」に主演していた当時の天知茂は46〜54歳という男盛りの時期でした。

 しかしこのシリーズは、その天知茂の魅力だけが成功の要因ではありません。加えてさらに製作スタッフや共演者の充実度にも大きな魅力があるのです。

 まずシリーズ全25作中、1作目から19作目までを演出した井上梅次監督は、新東宝〜宝塚〜日活で多くヒット作を連発、その後も大映や松竹、東映でも良い仕事を残し、つまりは日本の大手映画会社すべてで作品を撮っていることは、日本映画史に燦然と輝く偉業となっています。さらに昭和40年代後半からはテレビでも活躍、おまけにこの間には、香港や東南アジア諸国でも劇場用作品を手がける等、常に前向きな活動を続けており、その基本姿勢は手抜きをしないところだと、私は思います。

 そして決定的なのは、明智探偵物の傑作「黒蜥蜴(昭和37年・大映)」を撮っていることで、何とこれはミュージカル風味の破天荒な作品ですが、元々はダンサーだった京マチ子を黒蜥蜴に抜擢し、原作の味を損なわない強烈なサスペンス物に仕上げた演出力は見事でした。

 またシリーズの脚本は宮川一郎ジェームス三木といった大御所が担当しておりますが、宮川一郎もまた、新東宝で活動していた時期があるという、この「新東宝」をルーツとしているところが、「美女シリーズ」のミソになっているようです。

 皆様よくご存知のとおり「新東宝」という映画会社は、東宝の労働争議から昭和21年に誕生、しかし配給権のもつれから赤字が累積し、そこで昭和30年暮れに社長に就任した凄腕興行師=大蔵貢の好み&方針により、娯楽映画の上澄みと沈殿物をすくい上げてゴッタ煮にしたようなエグミの強い作品を続々と製作していくのです。その詳しい内容は割愛させていただきますが、一言でいうと、大映+日活×東映というか、つまりそれはエログロ! そしてその中で活躍していた天知茂、井上梅次、宮川一郎が参集して作り出されたのがこの「美女シリーズ」というわけで、まさに乱歩ワールドの映像化にはうってつけ!

 ということで、この「美女シリーズ」はテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」で昭和52(1977)年8月から昭和60(1985)年3月の間に放送されたものです。そしてシリーズを通しての主要キャストが固定されているのも嬉しいところです。それが――

明智小五郎=天知茂
 原作ではある事件で知り合った文代と結婚したことになっておりますが、このシリーズでは独身とされており、したがって美女に弱く、それゆえに事件に巻き込まれるパターンが多い展開となります。原作中の明智小五郎は、女性に対してかなりストイックな部分があるような気も致しますが、若い頃は高等遊民としての生活もあったわけで、やはりかなりの遊び人の資質があり、この設定にも無理がないと思います。また、このシリーズでのウリとして決定的なのが、明智小五郎の変装術! その変幻自在な変わり身は痛快であり、それを逆手にとってのトリックもあるという素晴らしさです。さらに天知茂の役者としてのアクの強さが、ダイレクトに明智小五郎という人物に結びつく瞬間と、その逆に強烈な違和感を醸し出してしまう後味が、ファンにとってはある種の快感になっています。このあたりは賛否両論でしょうが、その謎については拙文「私説・明智小五郎三代記」をぜひともご一読下さい。

文代=五十嵐めぐみ、高見知佳、藤吉久美子
 原作ではある事件で重要な人物として登場し、後に明智の妻となり、幾つかの事件で活躍しましたが、胸を患って高原の療養所に入ってからは、シリーズ表舞台で姿を消しています。しかしこの「美女シリーズ」では最初から明智探偵の助手として登場し、明智小五郎に恋心も抱いているようですが、その存在はどちらかというと、花崎マユミという雰囲気です。そのあたりの事情についても、前述同様に拙文「私説・明智小五郎三代記」をぜひともご一読下さい。

小林芳雄=大和田獏、柏原貴、小野田真之
 原作では赤い頬の美少年でしたが、ここでは完全に小林青年になっています。彼もまた、原作を読み解いていくうちにいろいろと複雑な事情を抱えた人物であることが浮かび上がってくるのですが、この「美女シリーズ」では屈託のない好青年というところでしょうか……。やや物足りない雰囲気もありますが、そのあたりの事情についても、前述同様に拙文「私説・明智小五郎三代記」をぜひともご一読下さい。

浪越警部=荒井注
 シリーズ2作目から登場する名物キャラクターで、演じる荒井注については説明不要とはいえ、ビートルズの東京公演の前座も演じた元ドリフターズにして、本音とおとぼけで押し通した名優です。その魅力はこの「美女シリーズ」でも全開、ドロドロした物語展開の中では峠の茶店というか、思わず和む最高のキャスティングになりました。もちろん犯人と明智小五郎に翻弄される警察官を熱演しています。

 で、以上のようなレギュラー陣が、毎回、美女と猟奇とサスペンスに満ち溢れた事件を解決していくのがこの「美女シリーズ」の概要です。そしてもちろん、お約束としてエッチ場面もたっぷり♪ 現代のテレビ放送では絶対に無理な描写が、ひとつの見所となっております。

 ということで、サイケおやじ的な見方としては、どうしてもそっちへ話が行きがちではありますが、あくまでもミステリ物としての素晴らしさをご紹介するという意図を忘れずに、またネタバレも極力避けながら、作品を語っていく所存です。

(2005.05.31 敬称略)