江戸川乱歩「悪魔の紋章」より 死刑台の美女


 乱歩作品の魅力のひとつが、エログロです。これは否定しようもありません。したがって映像化された乱歩作品では、それを見せようとする下心がミエミエになることが多々あるのですが、そこが如何に「乱歩のエログロ」になっているかが、成功作となるカギではないでしょうか。

 土曜ワイド劇場の「美女シリーズ」は、その辺りを充分に心得て製作されたと私は思うのですが、しかし中にはやや暴走した作品も無いわけではありません。ただし、それでもやはり面白いものは面白い! と納得させられるのが、このシリーズの凄さかもしれません。それが今回ご紹介する「死刑台の美女」です。その原作は――

悪魔の紋章 / 江戸川乱歩著
初出:昭和12年9月〜昭和13年10月、「日の出」に連載

 結論から言うと、これは江戸川乱歩の某作品のバリエーションです。また作中に出で来るトリック、ギミック、プロット等々も、これまで度々乱歩が使ってきたネタの再使用になっています。したがって乱歩作品に親しんだ読者ならば、あぁ、そうかっ! と納得して悦に入ったり、または、なぁ〜んだ……、と失望したりするのが本当のところだと思います。

 しかし初めて読む読者は、その間然することの無い面白さに狂喜乱舞されるはずです。また、当時の社会風俗の実相も鮮やかに描かれていますし、名探偵とは何か?! という問にもスカッと答えてくれる作品でもあるのです。

 さて物語は、製糖会社取締役・川手庄太郎が一族皆殺しの脅迫状を受け取ったことから、明智小五郎に事件調査を依頼しますが、名探偵は某国事犯を追って朝鮮に出張中ということで、当時メキメキと注目されていた法医学者・宗像隆一郎博士が出馬することになります。

 宗像博士は数年前から丸の内に「宗像研究所」を設け、犯罪学の追求と探偵事業を行っていますが、その専門は所謂迷宮入り事件で、初年度から2つの難事件を解決し、もうひとりの名探偵として当局も一目置く存在でした。

 ところが今回の事件の犯人はあまりにも狡猾で、事件に乗り出した直後から博士の助手が殺されるなど、苦戦を強いられますが、しかしその中で、犯人割り出しの決め手となる三重渦状の怪指紋を入手するのです。これは文字通り、1個の指紋に渦巻が3つあるという奇怪なもので、犯人が現場に度々残していくものでした。その目的は復讐予告の脅しに他なりません。

 こうして宗像博士と犯人の必死の闘争は、開始早々から白熱しますが、巧緻な犯人の計画の前には、流石の宗像博士も失態続きです。その犯人像は黒メガネとマスクの大男と小男の2人組とまではわかるのですが、なにしろ彼等は不可能犯罪を易々と成し遂げ、目的を達していくのです。

 そしてついに、宗像博士によって秘密裏に匿われた川手庄太郎までもが悪人の手に落ち、行方不明となりますが、宗像博士の活躍により、犯人のうちの小男が追いつめられて自殺、その意外な正体が暴露されます。そして最後には主犯格の大男も所期の目的を達成したところで、追いつめられ、事件の真相を記した遺書を残して自殺するのでした。

 ということで事件は収束し、何とか宗像博士も面目を保った形にはなりましたが、その時帰国した明智は、全く別な角度から事件に取り組んでいたのです。そして名探偵同士の対決が始まるのですが……。

 という展開の中で、前述した「三重渦状紋」の存在、衛生博覧会、人間椅子、生きながらの火葬、化け物屋敷の見世物、鏡の魔術、過去の犯罪の再現劇、生体埋葬、そして晒し者にされる美女の死体等々、乱歩ワールドには欠かせない出し物が次々に登場してくるのですから、初めて読む読者は夢中になるはずですし、年季の入ったファンにしても、分かっちゃいるけど止められない状態♪ まさに通俗物の水戸黄門的展開というか、乱歩の黄金律が溢れ出た名作だと思います。

 また名探偵同士の比較というか、堅実で科学的捜査が信条の宗像博士と天才的な閃きと行動力が持ち味の明智小五郎の対決は、なかなか読ませてくれます。特にクライマックスでの明智の全く独善的な推理は、呆れを通り越して痛快ですらあります。

 で、この原作を「美女シリーズ」として映像化したのが――

江戸川乱歩の「悪魔の紋章」より;死刑台の美女
監督:井上梅次
脚本:宮川一郎、井上梅次
原作:江戸川乱歩「悪魔の紋章」
放送:昭和53(1978)年4月8日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」
出演:天知茂(明智小五郎)、伊吹吾郎(宗像隆一郎)、荒井注(浪越警部)
■出演:松原智恵子(宗像京子)、稲垣美穂子(北園竜子)、五十嵐みぐみ(文代)
■出演:かたせ梨乃(川手民子)、三崎奈美(川手春子)、結城マミ(川手雪子) 他

 この作品も時代背景を昭和の現代に設定し、原作のプロットを大切にしつつ、物語展開をアレンジしてあります。特にラストが大きく変えられていますが、それはもちろん、サービス精神の表れに他なりません。

 物語は明智小五郎が同業者・宗像博士の依頼で、香港に赴くために宗像邸を訪れ、そこで博士の妻・宗像京子=松原智恵子に会うところから始まります。彼女は病弱で車椅子の生活ですが、それでも精一杯、夫に尽くしている健気な佇まいに、明智小五郎は完全に心を奪われてしまうのでした。実際、この時の天知茂の演技は、彼女にメロメロな心情を完璧に表現していますし、もちろん松原智恵子も完璧なハマり役です。その彼女のプロフィールは――

松原智恵子(まつばらちえこ)
 16歳でニューフェイスとして日活入社、吉永小百合、和泉雅子、松原智恵子の3人娘として売り出されました。したがって同社の青春物やアクション物には夥しく出演しておりますが、その基本は清純派で、綺麗な瞳と儚げな風情、さらに健気な佇まいと演技が魅力です。中でも渡哲也の相手役としての活躍が個人的には印象深く、特に「無頼」シリーズでの恋人役・雪子は最高でした。しかし主演作品では決定版が思い当たらず、日活後期の女任侠物である「鉄火場慕情(昭和45年・日活・小沢啓一監督)」が傑作らしいのですが……。しかし彼女の場合は、日活退社後のテレビでの活躍の方が、その資質にあっていたような気がします。

 一方、気になる宗像博士という人物は、自宅にカラクリ仕掛けの研究室を設け、そこには古今東西の拷問道具をズラリと展示していたり、また、人体生皮からの刺青標本や責め絵等も蒐集しているという、なかなか共感を覚える人物です。

 さて、今回の事件は原作どおり、川手家に脅迫の魔の手が伸びたことにより、浪越警部経由で明智に事件の調査が依頼されるものの、前述の出張により宗像博士が出馬するという展開です。どうやら事件の背景には、川手庄太郎の腹違いの妹である北園竜子が名乗り出て、財産争いが始まっているという事情があるようです。

 そして最初の犠牲者は三女の雪子=結城マミで、温水プールから誘い出され、絞殺されたあげくにマネキン人形とともにトラックに乗せられて晒し者になります。ここでの結城マミはプールということで、当然、ビキニの水着姿が眩しく、細身ながらしなやかな肢体を拝めます。その彼女のプロフィールは――

結城マミ(ゆうきまみ)
 高卒後に本名の薗部真美子として東映テレビ系作品にちょい役出演後、日活と契約、結城マミを芸名として「新実録おんな鑑別所・恋獄(昭和51年・日活・小原裕宏監督)」の端役でデビューしています。その後、ロマンポルノ作品には多数出演していますが、ロリ風のルックスで人気があり、主演した「私は18才・(秘)二号生活(同・八巻昌彦監督)」での、中年男と同棲している苦学生は最高でした。彼女はオトボケの演技も良い味を出しますし、またセーラー服が似合うので、学園物でひときわ輝いていましたが、SM物の「黒薔薇夫人(昭和53年・日活・西村昭五郎監督)」での人妻役も忘れがたい好演だったように、幅広い役をこなせる演技力があり、一般映画やテレビでも活躍しています。ちなみに昭和55年には芸名を薗めぐみに改めています。

 という彼女を殺害した容疑者は、サングラスとマスクで顔を隠した大男と小男の2人組だと推定され、しかも被害者の頬に残されたのは、奇怪な三重渦状紋!

 そして雪子の葬儀に、当然やって来るのが、川手庄太郎の異母妹・北園竜子です。ここでは財産争いがあるために、残された雪子の姉達から犯人扱いされ、屈辱に震えて帰宅しますが、そこへ現れるのが、最近、彼女の「男」になった謎の人物です。この北園竜子を演じているのが稲垣美穂子で、この人も日活出身、「孤独の人(昭和32年・日活・西河克己監督)」で皇太子の恋人役を演じたことで有名です。若い頃は上品なところがウリだったそうですが、舞台やテレビでは情熱的な役も多く、昭和40年代後半からはかなりキツイ演技が印象的になりました。もちろんここでも、その十八番がたっぷり堪能できます。

 で、この北園竜子の「男」はサングラスにマスク姿! 事を済ませた後、人目を避けるように彼女の家から出て行くのですが、ここでその怪しい男を尾行するのが、探偵趣味のある川手家の次女・春子=三崎奈美です。ちなみに原作では川手家の娘は2人=妙子と雪子になっていますが、この「死刑台の美女」では3人姉妹で、それはすなわち、「美女シリーズ」のお約束をたっぷり見せる趣向というわけです。

 そして当然、謎の大男に感づかれて殺害され、哀れにも三崎奈美は裸に剥かれ、ストリップ小屋の看板として晒し者にされるのです。もちろん現場には例の「三重渦状紋」が残されていますが、あぁ、それにしても、ここでの彼女の肉体は素晴らし過ぎです♪ 無残に殺害された死顔の無念さとは対照的に、熟れた肢体の美味しさは格別の名場面! その彼女のプロフィールは――

三崎奈美(みさきなみ)
 モデル活動を経て、21歳で「処女監禁(昭和52年・東映・関本郁夫監督)」のヒロインに抜擢されデビューしています。彼女の魅力は、あどけなさを残した面立ちに反比例する豊満な肉体、特に天然物の巨乳には涎が止まらなくなります。このデビュー作は超低予算でありながら、いじけたダメ男が憧れの美女を監禁するという、昨今では問題になりそうな内容ですが、彼女の巨乳、その嫌がり表情、また監禁の末におしっこを漏らして股間を洗われるという粘っこい演出等々に加えて、躍動的なカメラワークも素晴らしいという、関本監督の異次元エロス感覚が爆発したカルト作品になっています。後のインタビューによれば、彼女はこの撮影中に本当に泣いたことが何度もあったとか……。で、ここでの好演が認められ、東映の一般作品「多羅尾伴内(昭和53年・鈴木則文監督)」等に出演していきます。また、同時に香港製作の空手アクション作品に李海姫として主演し、残念ながら私は全てを観ていませんが、シリーズとして数作が作られたというほど、東南アジア各国でヒットしています。国内での活動としては、やはりロマンポルノでの活躍で、ホステスの悲哀を描いた主演作「むちむちネオン街・私たべごろ(昭和54年・中川好久監督)」は素晴らしい出来でした。また彼女の肉体が最高に輝いた「(本)噂のストリッパー(昭和57年・森田芳光監督)」も必見です。ロマンボルノでは他にも昭和59年頃まで多数出演しておりますが、同時にテレビのサスペンス物にも脱ぎ要員として起用されることが多く、「美女シリーズ」では、この作品の他に「赤いさそりの美女」にも出演しています。芝居が素人っぽいと言われますが、私にはそこがまた、魅力なのです。

 しかしこうなると、明智の代わりに事件を引き受けた宗像博士はメンツが丸潰れです。したがって次に民子に襲いかかるであろう魔の手は絶対に阻止しなければならないわけですが、この毅然として理知的な宗像博士を演じる伊吹吾郎がまた、完璧にキマッています。この人は東宝現代劇の出身ですが、最初にブレイクしたのが昭和44年のテレビ時代劇「無用ノ介(日本テレビ)」で、さいとうたかを原作のイメージを見事にそのまんま演じました。また同じくテレビ時代劇の「水戸黄門(TBS)」では長らく「格さん」を演じ、クライマックスでの印籠出しは、この人ならではの押しの強さがある名演でした。あっ、そうか、だからこの「悪魔の紋章」には伊吹吾郎なんだっ! と納得したのは、前述したように、この作品には水戸黄門的な味わいがあるからだという訳ですが……。それはそれとして、「美女シリーズ」では「妖精の美女」と「桜の国の美女」にも出演しておりますし、劇場用作品では「忘八武士道(昭和48年・東映・石井輝男監督)」でのニヒルな演技が、これまた忘れられません。

 ここでも天知茂に勝るとも劣らないクールな味で名探偵を演じています。しかしそれを上回るのが犯人の姦計です。厳重な警備を敷いた寝室から民子は消失、行方不明になるのです。ここは乱歩十八番のトリックが実写で見事に映像化されているので必見です。また明智の不在を埋めるかのように文代=五十嵐めぐみが、冴えた推理で活躍しています。そして生体火葬寸前で、民子は救出されるのですが……。

 一方、ようやく香港から帰国した明智は、早速、宗像博士の邸を訪れ、宗像京子に高価なお土産を渡して下心を満足させますが、ここで彼女の悲しい運命の告白を聞き、ますます心を奪われてしまうのです。ここは松原智恵子ならではの十八番の演技なので、彼女のファンにはたまらないはずです。

 こうして宗像博士と明智小五郎という名探偵2人は共闘して事件解決にあたるのですが、まずは宗像博士の提案により、川手親子を秘密の場所に匿うことにするのです。しかもそこは犯人に知れることを警戒して、明智や警察関係者にも秘密にされるほどの慎重さで選んだ、ある山中の寺院でした。しかしそこにさえ、悪漢の魔の手伸び、何とその夜には事件の真相を明かす再現芝居まで行われるのです。そしてやはり動機は、過去に遡る復讐でした。

 ここは現代感覚からいうと笑ってしまう皆様もいらっしゃるかもしれませんが、これこそが江戸川乱歩ならではのケレン味! じっくり味わうのが王道だと思います。

 そして事件は急展開、川手親子は行方不明、さらにどうやら犯人のひとりの小男は女ではないかというセンも浮かんだことから、北園竜子の嫌疑が濃厚ということで、警察が事情聴取に向かいますが、彼女は既に息絶えて……。さらに続けて主犯格と思われる大男も遺書を残して飛び降り自殺して、事件は幕が下りたと思われるのですが、行方不明と思われた川手庄太郎の生存が確認されたことから、次の山場へと移ります。

 ここからは原作を大幅にアレンジして、いかにも「土曜ワイド劇場」というか、完全に「美女シリーズ」らしい見せ場がたっぷりと続きます。それは死んだと思われた例の大男が現れたことから文代が追跡し、もちろん感づかれて捕らわれの美女の監禁、そして拷問という美味しすぎる場面です。

 何とそこには行方不明だった川手民子=かたせ梨乃までもが、拷問台に大の字に拘束されており、下着姿の彼女の上からは巨大な振り子状の刃物がゆっくりと降下しているのです。この時の彼女の怯えの表情と泣き叫びはお約束で、しかも、ついには下着が切り裂かれ、豊満な乳がはみ出して血が滲んでくるという、目が離せない演出になっています。もちろんこの乳首は吹替えだろうとは思うのですが、その彼女のプロフィールは――

かたせ梨乃(かたせりの)
 この人もモデル出身の巨乳スターとして注目され、最初はCMや男性誌のグラビアで活躍していました。女優として人気が出たのは、おそらくテレビ時代劇「大江戸捜査網(テレビ朝日)」での「流れ星おりん」役からだと思います。これは劇場版も作られたほどの人気番組でした。現在の彼女はテレビの2時間サスペンスではレギュラー役もあり、また劇場用映画でも東映の「極道の妻」シリーズ等々で、女優としての地位を確立しておりますが、この「死刑台の美女」は、役者としては極めて初期の出演という貴重なお宝です。

 また、もうひとり捕らわれている文代=五十嵐めぐみも下着姿で縛られています。と言っても、ここは上半身だけですが、何と下半身には両脚に縄がかけられて、股裂きの刑! テレビですから、これではジーパンを脱がせるわけにはいきませんが、この時の彼女の泣き叫び、嫌がりの表情は迫真の素晴らしさで、けっして見逃してなりません。五十嵐めぐみのプロフィールについては別の機会に譲りますが、「美女シリーズ」における彼女の見せ場としては屈指の名演になっています。

 ちなみに、この2人の美女への拷問は原作には無い部分ですが、もしかしたら製作者側は、これを見せたくて物語を展開させていたのでは? とまで思わせられます。もちろん出来は最高で、かたせ梨乃は胸を血に染めて失神、五十嵐めぐみは最終的に180度の超開脚にまで持っていかれるのです♪

 こうして物語は大団円、明智小五郎は真犯人と対決し、そのトリックと真相をズバリと指摘します。もちろん復讐者の怨念を木っ端微塵にするプライドの高さが痛快です。ただしシリーズ全体の中では、やや明智の変装に精彩が無く、またクライマックスに原作には無い拷問シーンを持ってきたために、ややストーリー展開に無駄な演出と映像があったように思います。それはネタばれになるので、ここには書けませんが、ご覧になられた皆様は、すぐに、これはなぁ〜、おかしいなぁ〜、と思われるはずです。

 しかしそれも、松原智恵子の完全にツボを押さえた名演で帳消しです。実際、この「死刑台の美女」は彼女の代表作のひとつとして良いと思います。彼女の存在は原作では違った立場なのですが、ここでの役柄は大正解で、特に明智とのやりとりは最高です。流石の名探偵も野暮天を通り越して、人情ホロリの天知茂という、極めて珍しい演技に接することが出来ます。

 それと浪越警部=荒井注が最初から最後までオトボケ全開なのも見逃せません。シリーズでは2度目の登場となりますが、この後のキャラクターが全て確立された名演だと思います。

 ということで、最後にやや収まりが悪い部分もありますが、総じてサービス精神に溢れた出来栄えだと思います。問題の拷問シーンの追加が暴走だとしても、やはりそこは嬉しい趣向ですし、そういうケレンが乱歩の持ち味でもあるわけですから、素直に楽しむべきでしょう。また、劇中のある箇所で「うつし世は夢」という、例の乱歩のお気に入りの言葉が台詞で語られるところは、ゾクリとします。

(参考文献:DVD「死刑台の美女」付属解説書」)

(2005.06.23 敬称略)