江戸川乱歩「緑衣の鬼」より 白い人魚の美女


 ミステリの世界には「社会派」と呼ばれる分野があります。それは従来の所謂「探偵小説」から荒唐無稽な部分や伝奇的な彩り、さらにキワモノ的なエログロを取り去り、より生活密着型というか、現実的な事象を背景にした事件や人間模様を扱うという、私から見れば、あまりにも夢の無い、センス・オブ・ワンダーの無い世界です。

 しかし、これが実際には人気があり、テレビのサスペンス物の大部分はこの「社会派」の作りになっています。それは人間のドロドロした部分を扱いやすいからで、確かに素晴らしい作品も山ほどありますが、「娯楽」という観点から見ると、優れた作品ほど結末の後味がよろしくありません。

 そこで江戸川乱歩です。確かにその作品世界は荒唐無稽、エログロに満ちておりますが、その奥底に潜む人間心理の深い洞察、人情の機微、さらには運命の恐ろしさ等々、これこそこの世の真実か? うつし世は夢? と思わず考えさせられる作品ばかりです。しかもその基本姿勢は「娯楽」という大切な部分を忘れていないのです。

 したがって、乱歩の原作で作られる映像作品も多々あるのは当然ですが、今回ご紹介する「白い人魚の美女」は、何と「土曜ワイド劇場放送開始1周年記念娯楽大作」とされた素晴らしい作品です。何とわざわざ「娯楽」と一言、入れているんですよ、「娯楽」とっ♪ そして確かに、不可解な謎と複雑なトリック、そしてエログロ満載という、テレビ作品としては驚異的な「娯楽」作品に仕上がっており、あらためて乱歩ワールドの凄さ、面白さを痛感させられたのでした。まず、その原作とは――

緑衣の鬼 / 江戸川乱歩・著
初出:昭和11年1月〜12月、「講談倶楽部」に連載

 江戸川乱歩の天才を証明する事柄のひとつが、タイトル、そして章題の付けかたの上手さです。例えばこの作品も「緑衣」という、なんじゃ、これっ、的なところから、続いて「鬼」ときては、思わず手に取ってページを開いてみたくなるじゃありませんか。さらにその第1章が「巨人の短剣」、続く第2章が「笑う影絵」ですから、たまりません。もちろん全篇が、この調子なのです。そして肝心の中身は、その語り口の上手さ、物語設定の巧さ、奥底から滲み出てくる猟奇・怪奇! リアルタイムでの読者は、乱歩の新作が出る度に、こういう楽しみに身も心も奪われていたという羨ましい時代が、確かにあったのです。

 また、それを生み出す乱歩の天才的な感覚は、自分の興味を探求する部分にまで伸びていたことは間違いなく、同時にそれは、我国に面白いミステリを紹介したという偉大な業績になっています。

 その乱歩が特に気に入っていたのが、イギリスの推理作家=イーデン・フィルポッツが1922年に発表した「赤毛のレドメイン家」という本格物です。この作品は今日でもミステリ・ベストテンを募ると必ず上位に入る傑作ですが、乱歩は未だ完全翻訳物が普及していなかった戦前からこれを激賞、「このように濃厚な色彩残像を残す探偵小説を私は嘗て読んだことがない」云々と「海外探偵小説・作家と作品」の中で、熱く語られています。

 そしてこの作品を何とかものにしたいという乱歩の情熱は、ついに翻案という必殺のウラ技で我々の前に供されました。それがこの「緑衣の鬼」です。連載された期間に注目すると、それはちょうど乱歩の少年物という、もうひとつの傑作世界を形作る「怪盗二十面相」の連載開始直前であり、その所為か、後の少年物におけるケレン味が随所に出ています。例えばそれが、前述した章題「巨人の短剣」であり、「笑う影絵」なのです。

 白状すると、私が最初に読んだ乱歩の大人物の小説が、この「緑衣の鬼」です。それまで少年物=二十面相&少年探偵団シリーズに耽溺していた私が、乱歩の大人物に進んでいくのは当然の流れなのですが、その小学6年生の時、この「緑衣の鬼」に少年物と同じ匂いを感じて、これならっ♪ と読み始めたというわけです。もちろん、忽ち虜になったのは言うまでもありません。

 物語は夜の銀座通りに突如大きな影法師が出現し、ひとりの美女に襲いかかるという不思議な悪戯を目撃した探偵作家・大江白虹と新聞記者の折口幸吉が、その美女・芳枝を取巻く奇怪な事件を解決しようと乗り出すのですが……、という最高の発端から、緑衣の怪人の出現と消失、続発する殺人事件、不可能興味、そして大江白虹の恋愛も絡ませてのストーリーは、全く予断を許さぬ展開で進みます。

 もちろんこの「緑衣」がオリジナルの「赤毛」をアレンジしたもの、さらにメイン・トリックとプロットは原作からの「いただき」であることは言わずもがなですが、物語展開そのもののテンポの良さ、さらに天才乱歩だけが成しうる語り口の上手さ、おまけに乱歩ならではのエグイ仕掛けと描写が最高です。

 そして事件は迷宮入りかと思われた時、変人探偵・乗杉竜平が颯爽と登場し、快刀乱麻に不可能犯罪を暴き、驚愕の真相が明かされるそのスリルとサスペンス、そしてその謎の論理的組立と解明は最高の快感で、初めて読んだ時の私は、こんなに凄い推理小説があるのか! と数日間、魘されました。後にそれは「赤毛のレドメイン家」の翻案と知るのですが、当然、原作を読んでみても、乱歩の「緑衣の鬼」のほうが、遥かに素晴らしいと思わざるをえませんでした。これは今でも、そう思っています。

 で、それを映像化したのが――

江戸川乱歩「緑衣の鬼」より;白い人魚の美女
監督:井上梅次
脚本:宮川一郎
原作:江戸川乱歩「緑衣の鬼」
放送:昭和54(1979)年7月8日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」
出演:天知茂(明智小五郎)、夏純子(笹本芳枝)、荒井注(浪越警部)
■出演:朝加真由美(夏目知子)、松村達雄(夏目菊太郎)、五十嵐めぐみ(文代)
■出演:荻島真一(山崎)、日野繭子(家政婦)、北町嘉朗 他

 まず結論から言うと、原作は明智探偵物では無かったので、ここではキャスティングを増減しておりますが、けっして原作のプロットを壊しておらず、否、むしろ登場人物の一挙手一投足、台詞の一言の隅々まで疎かに出来ない、非情に濃厚な本格ミステリに仕上がりになっています。

 物語は夜の明智探偵事務所で残業中の明智小五郎と文代が、妙な光と踊る影法師を発見し、名探偵ならではの嗅覚からその実態を確かめに行った所で、巨大な影法師が美女・笹本芳枝=夏純子に襲いかかるという、原作に極めて近い発端です。もちろんここは、原作での探偵作家・大江白虹と新聞記者・折口幸吉を明智小五郎と文代に置き換えているわけですが、巨大な影法師がビルの壁に映し出され、奇妙に踊り、最後に短剣を振りかざして美女に襲い掛かるという仕掛けがきちんと実写化されています。

 偶然にもこの美女・笹本芳枝は文代の女子大時代の先輩で、現在は詩人の笹本静雄夫人、さらに最近度々、今回のような「影」につきまとわれる怪奇現象に悩まされ、夫の笹本静雄は完全にノイローゼ状態ということで、早速、明智小五郎が調査に乗り出すという展開です。これはもちろん、明智小五郎=天知茂が、人妻・笹本芳枝=夏純子の美貌とその魅力の虜になって、というのは言わずもがなですが、これは原作での大江白虹が彼女に横恋慕する展開のバリエーションになっています。ただしこの「白い人魚の美女」では、そういう明智に文代が異常なほどヤキモチを焼くところが楽しく、それはこの後も度々、文代の露骨な皮肉として台詞になって現れます。

 この辺りは「美女シリーズ」における明智と文代の関係を暗示するものとして重要ですが、この作品では特にそれを強調する演出が多く、例えば冒頭の夜の明智探偵事務所で、終業後に明智が文代に「送るよ」と言い、文代が嬉しそうな仕草を滲ませるあたりは、どうしても彼女が明智の「お手つき」になっている雰囲気が濃厚です。これは全くの独断と偏見かもしれませんが、私にはそう感じられますし、このあたりは、劇中で他にも随所に出てきますので、その都度、私の見解を述べさせていただきます。

 で、その夜、明智と文代はそのまま芳枝と共に笹本家に行くのですが、そこでは笹本静雄が完全に引き篭もり状態、光と影を恐れ、真っ暗な寝室に閉じこもっているのです。そして何とか明智が事情を尋ねるのですが、その間にも不気味な影が現れ、嘲笑が響き渡ります。もちろん明智と文代は、すぐさま影を追跡するのですが、確かに生身の人間を確認していながら、それが瞬時に消失するという不可解な顛末となります。そしてこういう怪事が、笹本家を常日頃から襲っていると、家政婦までもが証言するのでした。

 こうして事件に関わった明智小五郎ですが、やはり極端な事件性が薄いために積極的に事件に乗り出すことはせず、ある日、文代に笹本家の様子を見に行かせると、応接間には芳枝が倒れており、寝室では笹本静雄が殺害されているのを発見します。しかもその瞬間、文代は背後から襲われて意識を失いますが、その刹那、ちらりと見た犯人は全身が緑色!

 一方、明智は浪越警部に調査の協力を要請するのですが、そこでも明智の美女に対する弱さ、文代との公に出来ない関係(?)等々を皮肉られます。ここでの明智の弱り顔は、日頃のクールな物腰とは対照的で、見逃せません。

 しかし文代から何の連絡も無いことから、明智が笹本家を訪れてみると、文代が倒れています。驚いて文代を介抱する明智、そして意識を取り戻す文代……。ここは文代=五十嵐めぐみの「……先生……」と呟きながらの朦朧とした表情の演技が、私生活における愉悦の表情にも見えて、何となく明智と文代のその場面を連想させられます。というか、文代が進んで明智に初めて肉体を捧げた時は、こんなふうだったのかも……、等と不届きな妄想しか出来ないサイケおやじは、謹んでお叱りを頂戴したく思います。どうかご容赦下さい。でも、カメラワークが、モロにそれ風なんですよね……。

 肝心の事件は、殺されていたはずの笹本静雄の死体が消失しており、また芳枝も行方不明、さらに浴室では家政婦が全裸で殺され、バスタブに放り込まれています。この家政婦を演じているのが、隠れファンの多い日野繭子です。その彼女のプロフィールは――

日野繭子(ひのまゆこ)
 昭和53年の日活ロマンポルノ「性愛占星術・SEX味くらべ(曽根中生監督)」がデビュー作と思われますが、それ以前には地方の小劇団で活動していたと言われています。ロマンポルノでは他に「エロチックな関係(昭和53年・日活・長谷部安春監督)」「愛の標的(昭和54年・にっかつ・田中登監督)」等々に出演していますが、いずれも脇役です。しかし独立系のエロ映画では大きな役が多く、例えば「日本の拷問(昭和53年・新東宝・若松孝二監督)」「聖処女縛り(昭和54年・新東宝・渡辺譲監督)」「愛玩少女(昭和54年・獅子プロ・中村幻児監督)」他、多数に出演し、マニア泣かせの名演を残しています。彼女はトランジスター・グラマーなところから、愛称は「親指マユコ」と呼ばれ、その愛くるしい雰囲気とは逆のディープ演技で人気を集めました。そして昭和54年には「新大阪新聞社ポルノ女優大賞」を受賞していますが、残念ながら昭和59年に健康を害して引退されました。しかし平成に入ってから芸能界に復帰しているようです。彼女は裸の演技以外にも歌と踊りが抜群でしたから、その方面での活動をしていると思われます。

 その彼女は家政婦役とあって、ここでは意図的に野暮ったい雰囲気ですが、その本質はもちろんサービスカットの脱ぎ要員♪ オールヌードの変死体となって浴槽で発見されますが、うつ伏せ状態なのが残念……、と思いきや次の瞬間、ちゃ〜んと水中からの映像のように彼女の無機質な死相とお目当ての乳が拝めます。それにしても彼女の出番が少なくて残念……。

 で、結局事件は、様々な状況証拠から笹本芳枝の従兄・夏目太郎が容疑者として浮上、その動機は芳枝への横恋慕とされます。彼は大財閥・夏目家の嫡男ですが、とにかく緑色が大好きで、自室も衣類も家具も全て緑色でなければ気がすまない、緑衣の鬼! その夏目太郎が某ホテルに潜伏していることを突き止めた捜査陣は、逮捕に向いますが、ここでも不可能犯罪が起こるのです。それは密室からの消失でした。

 しかし幸いにもこの部屋から、誘拐されていた芳枝がトランク詰めにされていながらも、虫の息で発見されます。しかもここでの彼女はスリップ姿で、ゴロリとトランクの中から転がり出てくるのですから、たまりません♪ 適度に汚れた下着の雰囲気もグッときます。もちろん夏純子の体当たりの演技です。その彼女のプロフィールは――

夏純子(なつじゅんこ)
 18歳の時にピンク映画「犯された白衣(昭和42年・若松プロ・若松孝二監督)」でデビュー、このエロ映画の大傑作で主演の唐十郎の相手役として熱演しました。ちなみにこの時の芸名は本名の坂本道子になっています。その後、各社の作品にちょい役で出演し、昭和45年に日活と契約、初主演作品はスケバン物の「女子学園・悪い遊び(昭和45年・日活・江崎実生監督)」で、そのセクシーで溌剌とした演技は大きな注目を集め、人気が爆発しました。そしてこの路線で「女子学園・ヤバい卒業(同・沢田幸弘監督)」「女子学園・おとなの遊び(昭和46年・日活・加藤章監督)」とヒット作を続け、製作者協会新人賞を受賞しています。さらに「不良少女・魔子(同・藤原惟二監督)」にも主演しますが、何とこの作品を最後に日活が映画製作を一時停止、その内容以上に、夏純子こそ日活最後の主演女優という、歴史上の人物となりました。日活はこの後、ロマンポルノ製作で息を吹きかえすのですが、私は彼女もその路線に主演していくものと楽しみにしていました。しかし現実には松竹に移籍、一般作品やテレビで活動していきます。彼女の魅力は脱ぎっぷりの良さ、ねちっこいながらも陰湿さが無いお色気、さらにキャラクターの濃い芝居と根性の入った存在感で、それはこの「白い人魚の美女」でも存分に発揮されています。

 ということで、犯人は夏目太郎とされ、舞台は夏目家の別荘がある熱川に移るのですが、そこでも緑衣の鬼が跳梁跋扈! 突如の出現と不可解な消失を繰返すのです。芳枝には山崎という好青年がボディガードとして付き添い、文代と明智も現地に赴き警備にあたるのですが……。ちなみにこの山崎という青年は、夏目太郎の父親・夏目菊太郎のお気に入りで、爽やかな二枚目、演じているのは荻島真一ですから、これはナイス・キャスティングです。

 で、このように積み重なる不可能犯罪の中でついに行方不明だった笹本静雄の腐乱死体も発見され、芳枝は失意のどん底から明智に縋りつくように助けを求めます。流石の名探偵も、まんざらでもない表情ですが、現実の事件解明は遅々として進みません。

 そしてついに、緑衣の鬼は、実の妹・知子までも殺害、ここでも不可解な犯人消失がありますが、観ている側にはブラウスを引裂かれた朝加真由美の姿が、強い印象として残ります。その彼女のプロフィールは――

朝加真由美(あさかまゆみ)
 高校時代からモデルとして活動し、昭和48年に「オールスター家族対抗歌合戦(フジテレビ)」の爽やかなアシスタントとして人気が出ました。同時にアイドル歌手としてもデビューしています。後には女優が本業となる彼女ですが、この作品出演当時は、ちょうどアイドルからの端境期で、お色気を秘めた清楚な魅力に溢れています。

 さて、こういう難事件には流石の明智もメンツが丸潰れ、もちろん浪越警部もお手上げということで、事件解明には犯人の出現と消失に関する一覧表まで製作されます。これは原作にもあったところで、映像作品でありながら、このように論理的解明をきちんとつけていこうとする姿勢は、本格ミステリの王道を大切にしていて好感が持てます。

 また人間ドラマの部分も密度が濃く、次々に不幸に見舞われるヒロイン芳枝の悲嘆、そして男に救いを求めることを大義名分にした男好きの本性告白、芳枝の明智に対する想いに嫉妬する文代のいじましさ、さらに芳枝と山崎の恋……。特に物語中の恋愛については、原作中で大江白虹と山崎が芳枝を巡っての恋の駆け引きという部分をアレンジしてある面白いところなので、観ている側も疎かに接してはなりません。それがますます緑衣の鬼の悪辣さを増長させるのです。ついには芳枝が裸に剥かれ、水族館の水槽に生きながら閉じ込められ、当に「白い人魚」と化すのです。

 というような恐ろしい犯罪物語も、名探偵・明智小五郎の鮮やかな推理と活躍によって大団円を迎えますが、「2つの不可解と5つの不可能」と明智が定義する、その巧緻な姦計には大仰天される皆様がいらっしゃるはずです。とにかく90分の放送枠をギリギリに使って、センス・オブ・ワンダーとトリックの連続技、そして濃密な人間ドラマが積み重ねられているのです。もちろん「美女シリーズ」ではお約束の明智の変装と独善的な推理、犯人の悲しみと悪あがき、波越警部=荒井注のおとぼけ、そしてテレビではギリギリのお色気が満載と、これはシリーズ屈指の傑作となっています。特に犯人を決めつける時の明智小五郎、と言うよりは天知茂に、拍手喝采です。

 またヒロインの芳枝=夏純子の脂っこさと紙一重の演技は最高で、人妻としての貞淑な部分と運命に翻弄される未亡人としての悲しみ、そのどちらからも滲み出るお色気の素晴らしさは、たまりません。そして緑衣の鬼に襲われる場面では、必ずと言っていいほど衣類を剥がされ、下着姿や時には乳までも見せてしまう大サービスの大熱演です。さらに、山崎=荻島真一との濡場で見せる濃厚な官能の演技、愉悦の表情、甘い囁き……、この辺りはお茶の間に気まずい雰囲気を漂わせるには充分過ぎる名演だと思います。

 それと放送が夏ということで、登場人物の衣装が夏物、ということはもちろん、女優さんの衣装も薄物♪ 当然、そこはかとなく存在が気になる下着のライン、特に透けて見えるブラひもが、これでもかと楽しめるので、サイケおやじとしては、ここを激オススメの見所としておきます。

 そして劇中では、何時になく「美女シリーズ」における明智の女性感が明かされています。それは芳枝に「どうして、結婚なさらないんですか?」と訪ねられた明智が「私は、いつ、どんな時でも探偵という職業が捨てられない、だからまだ、独り者なんでしょうねぇ……」と答えています。また前述したように、文代がどうも明智に……、という雰囲気が漂っていますし、波越警部もそのあたりを察している様子です。もちろん文代も「(明智)先生、全然、相手にしてくれないの……」と芳枝に語るなど、いよいよ当時の明智探偵事務所の内幕が垣間見えてきて、その意味でも見逃せない作品だと思います。

 ということでこれは非常に秀逸な作品ですが、原作と比べた場合、物足りない点も確かにあります。それは、いささかネタばれになるので、ここでは書くことが出来ません。しかしあえて、何故、大江白虹と山崎の恋の駆け引きがあるのか? そして何故、わざわざ乗杉竜平という探偵を登場させているのか? とだけ書いておきます。このあたりは原作をお読みになられた皆様には、充分にご理解いただけるものと思います。そして未読の皆様には、ぜひとも原作で、そのあたりをご確認していただきとうございます。

(参考文献:DVD「白い人魚の美女」付属解説書」)

(2005.06.11 敬称略)