江戸川乱歩の黄金仮 妖精の美女


 たとえ何であろうとも、面白い物は面白い! 江戸川乱歩でいえば、それは「黄金仮面」ではないでしょうか!? 確かにこの作品は本格ミステリでは無いし、エログロや猟奇趣味もやや控え気味、さらに乱歩ワールドの根底にある怪奇・幻想、奇妙な味すらもグッと押さえてあります。しかしここには大衆文学の醍醐味がぎっしり詰まっており、そのポイントは「対決物」であることです。

 古来から「対決物」と言えば、「建御雷 vs 建御名方」という神代の昔から、「武蔵 vs 小次郎」「巨人 vs 阪神」「キングコング vs ゴジラ」等々、血沸き肉躍るものばかりですが、明智小五郎にとっては宿敵・二十面相登場以前に黄金仮面という、強烈なライバルが出現していました。

 この黄金仮面は大胆不敵、神出鬼没、さらに女にもモテモテで正体不明という、流石の明智も手こずる相手ではありますが、この対決が後の二十面相との果てない闘争に与えた影響は計り知れません。

 もちろん日本国民は時には固唾を呑んで見守り、時には興奮のルツボに叩き込まれており、すでにリアルタイムで「黄金仮面」という芝居まで上演されていた事は、原作にしっかりと記録されています。それは――

黄金仮面 / 江戸川乱歩・著
初出:昭和5年9月〜昭和6年10月、「キング」に連載

 物語は帝都に出没する黄金の仮面をつけた怪人=黄金仮面と明智小五郎の必死の闘争を描いています。この黄金仮面は国宝級の美術品や宝物を狙い、それを堂々と予告して盗み出したり、奇想天外なトリックで警察を欺いたりするのです。

 流石の明智小五郎も翻弄されますが、そこは天下の名探偵、得意の変装、独善的推理を支える情報収集力、そして何者にも負けないプライドの高さで対抗し、勝負は丁々発止、波乱万丈の連続です。

 そしてこの物語を一層、複雑に面白くしているのが、複数の犯罪が絡み合い、複数の黄金仮面が登場するという、順列組合わせ的な展開から鮮やかなオチがつけられていくエピソードが積み重ねられていることです。それをいちいち書くことは、ネタばれになりますので控えますが、その本質は痛快無比!

 またここで明智は、不経済なホテル住まいをよして、御茶ノ水の開化アパートに居を構えている事実を明かしています。しかも、どうやら気楽な独身貴族を謳歌しているようです。これは怪賊とはいえ、あまりにもスマートな黄金仮面に対抗するべくモダン化した我国の名探偵のミエかもしれません。それほど、この黄金仮面は粋な犯罪者なのです。そして明智探偵は黄金仮面の驚くべき正体を、A・Lの頭文字で名指しするのでした。

 ということで、この作品は乱歩の通俗物の中では一番、娯楽味が強いと思います。したがって映像化も比較的容易いと思われがちですが、実は作中には大掛かりなトリック、命がけのアクション、次々と登場するギミック、おまけに波乱万丈な物語展開と人間ドラマ等々が積み重ねてあるので、原作を忠実に再現しようすれば、その演出は並大抵の力量では無理なところです。

 しかし、それを見事にやり遂げたのが、「美女シリーズ」の次の作品です――

江戸川乱歩の黄金仮面;妖精の美女
監督:井上梅次
脚本:長谷川公之
原作:江戸川乱歩「黄金仮面」
放送:昭和53(1978)年12月30日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」
出演:天知茂(明智小五郎)、由美かおる(大島不二子)、荒井注(浪越警部)
■出演:結城美栄子(大島絹江)、岡麻美(大島美子)、五十嵐みぐみ(文代)
■出演:伊吹吾郎(ロベール・サトー)、ジェリー伊藤(ジョルジュ・ポワン)、柏原貴(小林芳雄)
■出演:森次晃嗣(浦瀬七郎)、山本リンダ(セシル)、野平ゆき(小雪)、藤村有弘(三好)
■出演:松下達夫(大島喜三郎)、北町嘉朗、託磨繁春=現・宅麻伸 他

 この作品は年末特別番組ということでシリーズ初の120分枠になっています。記録によれば、何とこの年に放映された「美女シリーズ」は、これで5本目! しかも1週間後には「宝石の美女」が放映されているのですから、当時の「美女シリーズ」の人気の高さが窺い知れようというものです。

 ちなみにこの作品も原作を昭和の現代に置き換えてあるので、キャストを増減するなどのアレンジが施されていますが、物語展開の主要なプロットは原作を大切にしてあります。

 で、期待ワクワクで観始めると、何といきなり天知茂の明智小五郎が、例のアクの強い面構えで我々に語りかけてくるじゃありませんか! これにはドギモを抜かれますが、思えば画面の向こう側から語りかけてくる役者は、他に東映の「不良番長シリーズ」における山城新伍くらいで、こういう演出は本物の存在感があるスタアしか許されることではありません。

 その明智小五郎が語るのは、数ヶ月前から出没する怪人=黄金仮面の跳梁跋扈! とまあ、ここまでは良いのですが、次のタイトルロールのテロップで明智小五郎対怪盗○○○と、せっかく私が原作紹介で秘していた大ネタを割っているのが???です。これはどうしたもんでしょう、実は私もこれを伏せて文章を書くのが非常につらいのです。ということで、この先、それを明かしてしまうかもしれませので、どうかご承知おき願います。

 さて、その黄金仮面が狙いをつけたのが、石油王・大島喜三郎のコレクションです。しかも大胆不敵にそれを頂戴するという予告状が届いたことから、浪越警部を経由して明智小五郎に出馬の依頼がなされるのです。この時の明智の、申し訳ないけど楽しいなぁ、という表情がたまりません。

 そして舞台は大島氏の美術館になっている箱根の別荘へ移り、そこへ訪れるのがフランス大使館員のジョルジュ氏と大島氏の長女・絹江の恋人である貿易商のロベール・サトー、もちろん警察は厳重警備、明智は得意の変装で張り込んでいます。

 ここで紹介される大島家の3人娘はいずれも美女で、早速、三女の美子=岡麻美が和服を脱いで入浴シーンの大サービスです。彼女は日本が誇る巨乳スターで、映画出演は少ないものの、当時の男性誌のグラビアでは大活躍でした。またカメラ店やフィルム会社が主催するアマチュア写真家の撮影会にも頻繁に起用され、彼女が出るか否かで参加人数が大幅に違ったという伝説が残されています。彼女の動く画像というのは少ないので、巨乳マニアの皆様はお見逃しなきように♪

 その彼女はここでも浴室で全裸を披露、その巨乳をたっぷりと拝めますが、そこへ黄金仮面が現れて彼女に襲いかかり、ナイフでメッタ刺し! 美子=岡麻美は血まみれにされて殺されますが、ここは当時のテレビとしても非常にグロい演出で、今日、初めてご覧になられる皆様は仰天されると思います。

 それにしても初っ端から黄金仮面が殺人を! というのは、分かる人には違和感たっぷりのはずですが、その真相を明智は、何もかも自分だけが知っていたという、毎度お馴染みの独善的推理で解決し、真犯人を名指しするのです。このあたりの演技は天知茂ならではのアクの強さが存分に発揮されていて最高に痛快です。

 一方、黄金仮面は、やはり大島美術館に出現していました。そしてお目当ての宝物を盗み出すと、湖をモーターボートで逃走、これを明智以下の警備陣が車で追跡する見せ場となります。ここは音楽もスピード感溢れるジャズ・フュージョン風で、あれっ、これって!? そうです、当時既に人気が爆発していた某関連アニメ作品のイメージと重なってしまいます。これもあえて書きませんが、分かる人には肯いていただけるものと思います。

 そしてここでまたひとり、悲しい運命に翻弄され、命を落とす美女が小雪=野平ゆきです。その死に際はまたしても血みどろで、乳まで見せて死んでいくという、悲惨だか大サービスだか判断に苦しむ演出ですが、演じる野平ゆきは哀切の名演だと思います。その彼女のプロフィールは――

野平ゆき(のひらゆき)
 デビューはおそらく「暴走の季節(昭和51年・東映・石井輝男監督)」で、もちろんその時は端役、芸名は野平ユキになっています。その後、日活と契約し、ロマンポルノ作品「肉体の悪魔(昭和52年・日活・西村昭五郎監督)」のヒロインとして本格デビューしています。芸名もこの時から野平ゆきになり、スリム〜しなやか系の野性的な可愛らしさで人気を集めました。主演作品は他に「修道女ルシア・辱す(昭和53年・日活・小原宏裕監督)」「同・濡れ縄ざんげ(昭和54年・同)」等があります。また男性誌のグラビアでも高い人気がありました。もちろんテレビ出演も2時間ドラマを中心に多数あります。

 それにしても、ここで小雪の衣装の胸をわざわざ開くのは、明智なんですよねぇ〜♪ そして鮮血に染まった乳が丸見えというわけでした。まあ、それはそれとして彼女を殺したのが、またまた黄金仮面とは、これ如何に! そんなわだかまりを残して舞台は東京へ移ります。

 で、場所はロベール・サトーの大邸宅、ここへ大島絹江と不二子の姉妹が、宝物の虚空蔵菩薩を携えて遊びに行くというので、秘密裏に明智に警備が依頼されます。明智もこれを囮に黄金仮面を誘き出し、前回の失地を回復しようと大張り切りなのですが……。

 そして当日、そこへは不二子と恋仲になっているフランス大使館員のジョルジュ氏も遊びに来ていますが、その彼の元へ謎の美女=山本リンダが訪ねて来たり、当然、黄金仮面も邸に出没しますが、明智はまたしても翻弄されるのでした。

 ここでの美味しい見所としては、由美かおるのテニスルック姿とお約束のシャワー・シーン、それと黄金仮面とのキス・シーンでしょうか。また姉・大島絹江=結城美栄子との諍いもあり、どうやらこの姉妹は母親が違うという事情が明かされますが、この時の由美かおるの泣き顔がグッときます。そしてここで黄金仮面が彼女の前に現れて同情を寄せ、しかも仮面まで取って正体を明かしたことから不二子は恋に落ちて……、という展開に原作がアレンジしてあります。

 ちなみに結城美栄子は外交官を父に持つお嬢様育ちで、幼少の頃から海外生活を送っており、帰国後の昭和36年、18歳でミス東京コンテストで準優勝し、芸能界入りしています。主な活動は舞台やテレビでしたが、高貴なお姫様から庶民的な役まで的確にこなす演技力は高く評価されています。もちろんこの作品のような、我侭でキツイお嬢様役は十八番です。

 ということで後半は、すっかり黄金仮面の恋人になった不二子=由美かおるを中心に物語が展開します。それは毎夜のように呼び出しを受けて逢瀬を重ねる彼女を尾行した執事の三好の報告により、明智が黄金仮面の隠れ家を急襲したり、逆に襲撃を受けて窮地に陥れられたり、この辺りのスリルとサスペンスは原作の味を大切にしつつ、上手く現代的に作られています。ただし、埠頭で襲撃された明智が海に飛び込み行方不明となり、死亡の可能性が高いという展開は、原作どおりとはいえ、現代の視聴者にはあまりにも結果が見え透いているようで???です。もちろんこれは、毎度お馴染みの、例のお約束に直結はしているのですが……。

 また、この作品には久々に小林芳雄が登場しています。配役は第1作「氷柱の美女」の大和田獏から柏原貴に変わっており、その所為か大張り切りで迷推理を披露したり、下手を打ってばかりの先生=明智小五郎を批判したりと、ボケとツッコミをひとりでやったような大活躍です。これには明智も返す言葉が無く、天知茂の困り顔が何ともいえません。

 こうして物語は、ロベール・サトー邸での年越しパーティで山場を迎えます。当局は万全の警備ですが、もちろん黄金仮面は堂々と出現します。ところがここで何と、黄金仮面がロベール・サトーに射殺されてしまいます。そしてその驚愕の正体は、ロベールの秘書・浦瀬七郎=森次晃嗣! この人はウルトラセブンのモロボシ・ダンとして歴史上の人物ですが、それはそれとして、やややっ、これで本当に良いのか?! と思った次の瞬間、お約束の変装を解いて颯爽と登場するのは明智小五郎! 全くの独善的推理で本物の黄金仮面を指摘するのですが、ここは原作を上手くアレンジしており、二段構えの驚きが用意してあります。

 しかしそれが行き過ぎて、黄金仮面の正体を「二世」としているのは???で、すると明智も二代目か? うむむ、これは興味深い展開ですね。このあたりについては、拙稿「私説・明智小五郎三代記」をご一読下さい。

 また「黄金仮面」と「殺人」の関連性については、明智小五郎が劇中で「黄金仮面は殺人を犯さない」云々と言っておりますが、原作中の黄金仮面は植民地では殺人を犯しています。このあたりは昭和5年当時の国際情勢と我国の関係、国粋思想等々が複雑に絡み合い、それが至極当然というような雰囲気が濃厚に漂っていたわけですが、それをきちんと書きこんだ江戸川乱歩は流石ではないでしょうか。

 しかし昭和の現代においては、それはあまりにも時代錯誤というか、触れてはならない問題ということで、ここは「二世」にしたのかもしれません。

 ということで、ここからはもう大アクション大会、逃走する黄金仮面を追跡する小林芳雄と文代のカーチェイス、巨大石仏のアジト、何故か親分・子分が全て黄金仮面という一味のスタイル、さらには不二子と黄金仮面の愛のふれあい、おまけに空中での脱出劇等々、原作と脚本の兼ね合いも絶妙で楽しい限りです。もちろん最後まで明智小五郎は翻弄されっぱなしですが、そこがまた、痛快至極! ちなみにラストのオチは原作とは異なっています。

 このように、「妖精の美女」は娯楽に徹した楽しい出来になっておりますが、しかし不満が無いわけではありません。それはまず、タイトルに一目瞭然、「黄金仮面」が大きく、そして「妖精の美女」が小さく扱われています。その所為か否か、ヒロイン・由美かおるは確かに妖精に相応しいのですが、こちらが期待したほどのサービス場面も無く、このあたりは冬の放送ということで、衣装が薄物でなかったという恨みもあります。もちろんこれは山本リンダにも言えることです。ちなみにこの2人の美女については言わずもがなということで、プロフィールは別の機会に譲りたいと思いますので、悪しからずお願い致します。

 また、このヒロイン・不二子というのは、やはり関連する某アニメ作品のヒロインと同じ名前ですが、その原作者も江戸川乱歩の「黄金仮面」を無視することは出来なかったのでしょうか? その意味で、この「妖精の美女」で「二世」を登場させたのは、稚気が感じられて好感が持てます。

 そんなこんなの思いも、物語のラストで再び我々に語りかけてくる明智小五郎=天知茂のアクの強い口調に圧倒され、次回への期待と変わるのですが、黄金仮面の愛嬌のあるマスクが、いつまでも心に残っていくのでした。

(参考文献:DVD「妖精の美女」付属解説書」)

(2005.06.19 敬称略)