エマニエルの美女 江戸川乱歩の「化人幻戯」


 「桜の国の美女」の後、半年近くのブランクを経て放映さたのが、この「エマニエルの美女」です。実は放送ローテーション間隔は第9作「赤いさそりの美女」から、それに続く「大時計の美女」そして「桜の国の美女」と、それぞれ5ヵ月ほど開いていたのですが、前作が正直言って悲惨な出来だったので、これは打ち切りか? と、私は悲観していたのが本当のところです。

 しかしこれは「美女シリーズ」の名に恥じない、しかも後の作品に大きな影響を与えた問題作でした。まず、その原作とは――

化人幻戯 / 江戸川乱歩・著
 昭和29年11月〜昭和30年10月、「宝石」に連載

 乱歩作品の大きな魅力はエログロ、怪奇幻想に加えて、ガチガチになりやすい本格ミステリをロマンの香り高く書き上げてしまうところです。これは天才的な文章力はもちろんのこと、夢や幻想という非日常的なものが、実は人間の存在意義に欠かせないものだという、まさに乱歩が大好きだった「うしつ世は夢」の世界を、自然体で表現した結果なのです。すると好きなように書いていただけ? もしかすると、その答えらしきものが、この作品ではなかろうか……、と私は思います。

 物語はブラブラしていた25歳の独身青年・庄司武彦が、骨董商の父親の進めで元公爵の事業家・大河原義明の秘書になり、そこで美貌の若妻・由美子夫人に忽ち心を奪われ、メロメロになるというが発端です。彼女は27歳で、やはり元・華族のお姫様でしたが、もちろん実家は戦後に零落、その為に大河原義明の後妻になったという訳があるのです。しかしこの夫婦は実に仲が良く、共通する趣味は望遠鏡による覗きというのですから、いやはや、なんとも……。

 という大河原邸には政財界や芸能界、花柳界等々、多くの人物が頻繁に訪れるのが日常ですが、それ以外にも大河原義明が目をかけている若者がお出入りになっており、自らが経営に携わっている会社の有望社員である姫田吾郎と村越均は特にお気に入りでした。もちろん彼等も由美子夫人の虜になっているのは隠しようがなく、単なる雇い人にすぎない庄司武彦は内向的に嫉妬心を燃やすのです。

 このあたりを描写する乱歩の筆は最高で、レンズマニアが屈託無く進行した望遠鏡覗き趣味では、由美子夫人が高性能レンズを活かして庭に生息する昆虫の営みを観察したり、他人の家の窓を覗いたりするところは、異様な迫力があります。また、庄司武彦の暗い独白というか、内向的な性格や行動を綴っては、太宰治も顔色無しの人間失格的な味があり、また女性観や叶わぬ恋の煩悶、自己嫌悪が後に発生する事件に対しての悪い予感に満たされている部分は、個人的に大好きです。

 さらに庄司武彦が大河原義明に仕えるようになったきっかけが、共通するミステリ趣味というあたりから、物語展開の中に多々挿入される古今東西の名作ミステリ&名探偵のエピソードもニヤリとさせてくれますし、何と、作者本人である江戸川乱歩までもが劇中人物として登場してくるのです。

 しかし大河原夫妻には全く屈託がありません。自分達よりも地位も富も無い若者といっしょになって楽しみ、運転手までも入れてブリッジに興じたりするのです。特に由美子夫人の開けっぴろげな性格は、その自然体のお色気が強烈な分だけ若者達を悩ませているわけで、庄司武彦は悶々としていますが、同時に姫田吾郎と村越均もそれが故に反目していることに気がつくのです。

 そして、ある秋晴の休日、伊豆の別荘に集った彼等の前に驚愕の事態が発生します。それは姫田吾郎が岬の断崖から転落する事件でした。しかも自殺の名所である問題の岬から海へ投身するその瞬間を、別荘に備え付けられた高性能双眼鏡で大河原夫妻がはっきりと見ており、他の面々も同じ洋室の広間でそれを眺めていたという、恐ろしい偶然の中の出来事だったのです。

 もちろん警察にはすぐに連絡、ほどなく姫田吾郎は遺体となって発見されますが、自殺の動機が無いことに加えて、所持品の中の白い鳥の羽根の存在に違和感を覚えたミステリ・マニアの大河原義明と庄司武彦は、早速、独自の調査を開始し、事件の直前に大きなトランクを持った謎の人物が岬に向かっていたことを突き止めるのですが……。

 しかし現地の警察ではそれ以上の捜査の進展は無く、舞台は東京に戻ります。ここで警視庁のベテラン刑事・箕浦警部補が登場、姫田吾郎の手帳に残された謎の数字を手掛りに継続捜査を展開します。そして、どうやらそれは、女との逢引に関することではないかと当りをつけ、懇意にしている名探偵・明智小五郎のアドバイスもあって、少しずつ事件の核心に迫っていくのですが、そこには大河原由美子の不倫疑惑が浮かび上がってくるのでした。

 一計を案じた明智小五郎は、そのあたりの疑惑を匂わせつつ、交友のある庄司武彦に大河原家の内情を探るように頼みますが、完全に由美子夫人の虜になっている彼は気も漫ろ、ついに大河原義明が出張で留守の晩、由美子夫人に秘密捜査のあれこれを詰問され、篭絡されたあげくに浴室で一線を越えてしまうのでした。

 ここも乱歩でしか描けない愛欲場面の妖しさは強烈で、昨今のエロ小説のような、そのものズバリの表現や執拗な擬音の連発等無いのに、哀しみと紙一重の不思議な悦楽がこみあげてくる物凄い場面です。しかもその前段として、箕浦警部補や明智小五郎の捜査過程が社会派ミステリ調でじっくりと書き込んであったので、この恐ろしいばかりのコントラストは流石です。

 その頃、捜査の手は姫田吾郎と反目していた村越均のアリバイ崩しに伸びていました。つまり姫田を殺害したのはトランクを持って不審な行動をしていた謎の男で、その容疑者が、その日、伊豆の大河原別荘に来ていなかった村越という読みです。しかしその村越も、密室状態の自宅アパートで変死、状況からピストル自殺と見なされるのですが、現場に白い鳥の羽根が残されていたことから、断定は控えられます。

 しかも同時に捜査陣が目をつけていた村越の友人である怪画家・讃岐丈吉までもが水死体で発見され、事件は混迷を極めるのでした。

 そしてついに名探偵・明智小五郎が本格的に出馬、大河原邸を訪れ、当主の義明や由美子夫人、庄司武彦と推理合戦を繰り広げ、姫田吾郎偽装自殺や村越均の密室殺人トリックに言及するのですが、決定的な証拠は提示出来ません。しかし庄司武彦は由美子夫人との不倫が続いているので、うしろめたさを超えた恐怖に慄くのです。

 それは由美子夫人の恐ろしい秘密です。もちろん不倫は今度だけではない……、以前にも……、という疑惑からの疑心暗鬼……、そして、もしかすると……、という疑念に後押しされ、庄司武彦は、とうとう由美子夫人の日記帳を盗み読みするのです。するとっ!

 そこにはあまりにも鋭い事件への推理があり、恐るべき犯人が指摘されていたのです。あぁ、孝ならんと欲すれば忠ならず、とでも申しましょうか、ついに庄司武彦はその秘密を抑えきれず、明智小五郎に全てを告白し、問題の日記帳を差し出すのです。

 この後の展開は、ますます恐ろしく、豊穣な妖しさに満ち溢れています。愛欲場面の濃厚さはもちろんのこと、事件の真相を容赦なく暴く明智小五郎の独善的な推理の披露、思わず唸るどんでん返し、防空壕の中という抜群の舞台設定の中で、ミステリの醍醐味が満喫出来ます。

 しかも、名探偵までもが恐怖する、最後の最後での天衣無縫さは、筆舌に尽くしがたいものがあります。また全体の構成では従来の乱歩調と当時流行の兆しが見えていた社会派ミステリの味を交互に織り交ぜて、「うつし世は夢」の世界を完璧に描いています。まさに傑作! 大傑作! というこの作品を「美女シリーズ」化したのが――

エマニエルの美女;江戸川乱歩の「化人幻戯」
 監督:井上梅次
 脚本:ジェームス三木
 原作:江戸川乱歩「化人幻戯」
 放送:昭和55(1980)年10月4日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」
 出演:天知茂(明智小五郎)、夏樹陽子(大河原由美子)、中条きよし(姫田吾郎)
    :岡田英次(大河原義明)、吉岡ひとみ(山村弘子)、江木俊夫(杉本治郎)
    :荒井注(浪越警部)、五十嵐めぐみ(文代)、柏原貴(小林芳雄)
    :荒谷公之(庄司武彦)、志賀真津子(トキ)、草薙幸二郎(福本教授)
    :茶川一郎(マネキン屋) 他

 キャストに若干の変更がありますが、全体としては原作を大切にした改変になっています。ということは、もちろん、大河原由美子=夏樹陽子の妖しい魅力がたっぷり堪能出来るという楽しみに溢れた仕上がりということです。

 物語は高名なミステリ作家・大河原義明=岡田英次の邸で開かれるパーティに招かれた明智小五郎と浪越警部が、そこで原作どおりの断崖転落事件を目撃するのが発端です。

 大河原邸は三浦半島の景勝地に建つ大豪邸、その夜のパーティには大河原夫妻の他に、大河原義明の弟子の杉本治郎=江木俊夫、若手評論家の姫田吾郎=中条きよし、女優の山村弘子=吉岡ひとみ、犯罪心理学者の福本教授、テレビ・プロデューサーの讃岐が集っています。そこへ訪れたのが名探偵と名(迷)警部とあって、座は一段と盛上がり、特に浪越警部は大ファンの女優といっしょになって大はしゃぎ! しかしその場にも、何処か不穏な空気が漂い、それは杉本と姫田の反目、原作を超えて異常なまでの由美子夫人のカマキリ嫌い、そして大河原義明の犯罪・拷問コレクションの披露と続く場面でジワジワと上手くこちらに伝わってきます。

 しかしその中でも明智小五郎=天知茂はクールな姿勢を崩しません。独りベランダで海を眺め、深夜にも波の音に誘われて窓辺に立てば、岩場に佇む由美子夫人を見つけて近づいていくのです。このあたりのダンディな振舞いは、ミエミエの下心を滲ませつつも、野暮天と紙一重の部分があって微笑ましくも憎めません。

 そして翌朝、散歩に出た姫田吾郎は、大河原邸に集う面々が見ている前で岬から転落! もちろんここは原作どおり、由美子夫人が双眼鏡で一部始終を覗いており、すぐに警察に通報してから2時間後、姫田は遺体となって発見されるのです。これは自殺との見方が有力ですが、動機が無い事と所持品の中に白い鳥の羽根が残されていたことで見せた杉本の怯えに何かを感じた名探偵は、独善的にこれを他殺と判断し、驚いた事に、その日、大河原邸に集っていた者の中に犯人の関係者がいると決めつけるのです。

 これには一同も憤慨! なにしろ全員にアリバイが成立しているのです。しかし死亡推定時刻が曖昧なことから明智も引き下がらず、1週間後に事件解明を約束して立ち去ります。ここは当時人気があった海外ミステリドラマ「刑事コロンボ」的な味も入れた演出になっておりますが、実は原作にも少し似た場面があるので、芸が細かいところです。

 また明智探偵事務所での推理合戦では、これも当時ブームだったオセロゲームが使われているのも、今となっては昭和のヒトコマとして楽しい思い出が蘇えりますが、決め手がつかめない明智は関係者の調査を続行するのです。

 そしてその名探偵の前に助けを求めてくるのが、大河原義明の弟子・杉本=江木俊夫です。それは彼にも問題の白い鳥の羽根が送られてきたことから、実は大河原義明が発表していた作品は、何年も前から弟子の庄司武彦が代作していたという秘密を打ち明けるのです。しかもその庄司が、そういう境遇に耐え切れず、自己名義で発表した作品が江戸川乱歩賞を獲得、しかしその直後に、大河原邸の近くの林で首吊り自殺を遂げたのは、反乱された大河原の仕業だと申し出るのですが……。

 折も折、今度は女優の山村弘子=吉岡ひとみがホテルのプールで変死体となって発見されます。ここはもちろん裸体が強調され、うつ伏せに浮かぶその肉体を水中から捕らえたショッキングな映像には、お目当ての乳首が完全に映し出されています。それを演じた吉岡ひとみは、ロマンポルノや独立系成人映画にノンクレジットで出演する裸のお仕事をしていたという噂がありますが、それは噂の域を出ないもので、彼女が本格的にブレイクするのは、この作品放映の翌年10月からスタートして1年続いた人気特撮ファミリードラマ「ロボット8ちゃん(フジテレビ)」でのバラバラギャル・白鳥メイ役でした。また昭和58年の「宇宙刑事シャリバン(テレビ朝日)」でのドクターポルター役も、そのヒステリックな美貌で人気が高いものです。そしてこの間に、ようやくというか、きちんとクレジットされて出演したロマンポルノが「闇に抱かれて(昭和57年・武田一成監督)」で、ちょい役ですが、抜群のお色気を発揮していました。

 というこの殺人にも、白い鳥の羽根が絡んでいたことから大河原義明に対する嫌疑は濃厚になりますが、アリバイは完璧です。そして姫田吾郎変死事件から1週間後、約束どおり、明智は関係者の前でそのトリックを暴き、さらにこれまでの事件は全て関連有りと独善的な推理を披露して、大河原義明を激怒させるのでした。

 物語はこの後、姫田吾郎が手帳に残した謎の数字から由美子夫人の不倫疑惑が浮上し、その上、明智探偵所には故人になっている姫田吾郎から謎の包みが届くのです。それは由美子夫人の日記帳でした。そこには既に明智が推理していた事件の真相を含めた驚くべき内容が綴られており、さらに思わせぶりに犯人が指摘してあったのですが……。

 ここでは日記帳が届けられた件で連絡を受けた夏樹陽子の恥じらいと諦めの表情・演技が仄かにグッときますし、独り占めして読むことにクールを装いながらも、実はワクワクして日記帳の鍵を操る天知茂のむっつりスケベな風情、さらにその秘密を分けてもらえない荒井注の不貞腐れと、三者三様の演技が楽しめます。

 そしてここからは由美子夫人=夏樹陽子を主人公として、彼女の恥かしい告白を綴ったその日記の再現ドラマが展開されますが、これがロマンポルノも仰天という強烈なエロ描写の連続です♪

 それはまず、セクシーな普段着姿の夏樹陽子に始まり、庄司武彦=荒谷公之のアパートにおける濡場では、いきなりの抱擁から下着をとって熟れた肉体を見せつける彼女♪ ここは玄人っぽいブラジャーの外し方がふっふっふっ、です。しかも、こういう不倫関係は大河原義明が弟子を引き止めるために彼女を使っていたというのですから、ますます驚愕です。さらにその思惑を超越して、彼女が若い男に夢中になっているのですから!

 さらに次の場面では、新しい弟子となった杉本=江木俊夫を誘惑、続く浴室での戯れが、これ、本当にテレビかよ〜っ!? と激情にかられるほどです。なにしろ2人とほとんど全裸状態ですし、男の体に唇を這わせる夏樹陽子の妖しい表情と熱いキスは本当にディープです。しかもここは乳首に吸い付く江木俊夫が演技を超えて楽しんでいる雰囲気まであって、思わずコノヤロ〜! と叫びそうになります。おまけにそれを大河原義明が覗いているという、いかにも乱歩的な演出まであるのです。

 そして姫田吾郎との絡みでは、ゴルフ場で夏樹陽子を指導すると見せかけて、彼女のヒップあたりをさりげなく触る中条きよしが、プレイボーイ丸出しという部分を自然体で演じて出色です。また2人がホテルで密会する時は金髪コールガールに変装する夏樹陽子というもの、見逃せません。もちろんベッドシーンも腰のあたりにシーツはあるものの、肉体の重なりと蠢きには角度的になかなか危ないものがありますし、彼女の愉悦の表情もたまりません。

 もちろん杉本のヤキモチと焦燥、それを弄ぶ由美子夫人という描写もあります。そして何よりもこの再現ドラマには、由美子夫人の露骨な心情吐露という夏樹陽子自身のナレーションが感情たっぶりに重ねられており、それはとてもここで文章にすることが出来ないほどに濃密で妖艶なのですから、もう最高です。

 当然、頻発した事件の真相にも迫っており、明智の推理の裏づけが皮肉にもここで証明される形になるのですが、物語本篇はまだまだ終わりません。名探偵のジリジリとした活動を尻目に夏樹陽子と江木俊夫の再度の絡みは、またしても浴室です。そしてここでは、恐ろしいばかりのエロスの奔流と究極の愛の表現が展開されるのでした。「あぁ……、僕は幸せだぁ……」と刹那の呻きをもらす江木俊夫は演技になっていないリアルさです。当たり前だよなぁ〜、誰だって、この状況じゃ〜、という場面をじっくりとご覧下さい。

 こうして物語は大団円へ突入していきますが、お約束の残酷シーンと明智の変装が、今回は上手く関連付けられているのが特徴的です。しかし、ネタバレになるので詳らかには出来ませんが、私は水中でじっとしている常識外の明智の辛抱強さには苦笑です。

 またラスト・シーンのオチはあまりにも後付け的だと思いました。せっかく犯人の告白が映像化されているのですから、ここはやはり原作どおり、天真爛漫というか、恐さと表裏一体の純真さが出た「トランプ」を用いて欲しかったのですが……。

 ということで、これは全く夏樹陽子の魅力で押し切ってしまった感があります。彼女は「美女シリーズ」では傑作「浴室の美女」以来、2度目のヒロイン役ですが、その妖艶さは勝るとも劣らず、凄みさえ感じさせてくれました。しかしそれゆえに濃密でありますが、全体としてどこか未完成な部分が残されてしまったような気がしています。例えば、明智小五郎は最初から由美子夫人の虜になっているがミエミエなのですが、ここでは天知茂のクールな演技が表に出すぎているので、どこか違和感があります。また大河原義明は、原作と異なってエキセントリックな人物に描かれていますが、妻を虐めているという部分の描写が物足りません。

 しかし、この作品は冒頭で既に述べたように、後の作品に大きな影響を与えているのです。それはこのエピソードを境にして、明智小五郎が意識的に美女に深入りしないというか、メロメロになることを見せなくなるのです。もちろん美女に気を魅かれるところはあるのですが、恐らくこの事件で流石の名探偵も恐さを感じたのかもしれません。それは窮地に陥り、危機一髪で助けられた明智が文代に対して「お、遅かったじゃないか……」と、息も絶えんばかりの安堵の表情で言う台詞に顕著だと思います。

 それと私がこの作品で感じた未完成な部分は、後に村川透監督によって撮られた「天使と悪魔の美女」で見事に完結されます。そこにはほとんどリメイクと言っていい部分が多々あり、例えば冒頭のパーティの場面から残虐拷問コレクションの披露、虐げられる若妻、浴室での不倫からそれを覗く夫、そして明智への拷問等々が、よりエグミを強め、エキセントリックに演出されているのです。それゆえ「天使と悪魔の美女」では「企画協力:ジェームズ三木」とクレジットが入っているのですが、しかし、それでもこの「エマニエルの美女」の存在価値が下がることはありません。

 ちなみにタイトルの「エマニエル」とはもちろん、1975年に大ヒットした「エマニエル夫人」というフランス製作のポルノ映画からきています。この作品は1960年代にエマニエル・アルサンによって書かれたボルノ小説を原作として、シルビア・クリステル主演によって作られましたが、ファンション感覚たっぷりの映像美学を全開させたジュスト・ジャカン監督の演出が冴えて、我国では女性までもが劇場に押しかけるという伝説を残しました。そして当然シリーズ化され、正当な続篇が5本作られ、その内容は清楚な上流階級夫人が、あるきっかけで淫蕩な性の虜になる物語が展開されています。そこで「エマニエル」といえば、有閑マダムの淫乱不倫とショートカットさせてしまうのが日本の凄いところで、当時は田口久美主演による「東京エマニエル夫人(昭和50年・加藤彰監督)」」というロマンポルノさえ作られて大ヒットしているほどでしたので、この「エマニエルの美女」も、その流れの中にあるというわけです。実際、夏樹陽子が大きな籐椅子にもたれているところは、オリジナルの「エマニエル夫人」でシルビア・クリステルが一際印象的に演じた名場面からのイタダキなのは言わずもがなですから、彼女自らが「私はエマニエル」と呟く予告篇を観ただけで、とてもテレビ作品とは思えない濃厚なエロ描写も当たり前と、ブラウン管の前のファンは期待していたのですが、まさか、ここまでとはっ!

 ですから、ここはやはり夏樹陽子の魅力に身も心も委ねて観るのが王道だと思います。その妖艶で男好きする部分は唯一無二の素晴らしさですが、劇中で披露する裸体の肝心な部分、例えば乳首は徹底的にガードされ、問題の浴室の場面でも関係がある男の前なのに両手で隠す等々、不自然な描写があります。しかしそこがまた、現代では失われてしまった女の羞恥心を露わにしているようで、逆にグッときます。もちろん完全な乳見せは吹替えですが、おそらく現場では夏樹陽子の乳首や乳輪は完全に露出したりして、かなり難しい撮影場面が多々あったことは本篇をご覧になれば充分に納得、妄想を膨らませることが出来ます。

 あと、レギュラー出演者では浪越警部=荒井注のオトボケが今回もツボを外さない楽しさですが、文代=五十嵐めぐみは夏樹陽子に押されたのか、野暮ったい雰囲気が丸出しになっています。このあたりは賛否両論の演出でしょうが、美女に弱いと明智小五郎にイヤミを言う場面も説得力がイマイチ欠けていると、私は思います。

 肝心の天知茂は今回もダンディでクールな佇まい全開ですが、その裏側に潜む下心とむっつりスケベ的な味を滲ませた演技は秀逸です。しかし女の前で必要以上にカッコをつけてしまうあたりが、事件を大きくする要因なのは否定出来ません。それは名探偵の条件なのかもしれませんが、そこは前半にある夜の海辺の岩場における由美子夫人=夏樹陽子との場面でじっくりと吟味くださいませ。

(参考文献:DVD「エマニエルの美女」付属解説書」)

(2005.11.07 敬称略)

【付記】

 「乱歩 / 美女シリーズの妖しい世界」における本稿「エマニエルの美女」の掲載順序は、文中でも触れた「天使と悪魔の美女」よりも後になっています。それは、皆様ご推察のように、本稿を先にしてしまうと「天使と悪魔の美女」が書きづらいからに他なりません。そのあたりの苦しい事情を、どうかお察し願います。