五重塔の美女 江戸川乱歩の「幽鬼の搭」


 日本歌謡界に筒美京平という大作曲家がいて、今日までに夥しい数のヒット曲を書いていますが、その基本が洋楽の大胆なパクリであることは良く知られています。しかし筒美京平が偉大なのは、元ネタよりも良いメロディー、日本人の琴線に触れる素敵な曲を作ってしまうことです。

 と、ここまで書けばご推察のとおり、江戸川乱歩もまた、そういう換骨奪体の大名人で、その腕前は「赤毛のレドメイン家 / イーデン・フィルポッツ著(1922)」を翻案して原作を超えた「緑衣の鬼」が有名ですが、他にも「白髪鬼」「幽霊搭」「三角館の恐怖」等々、また少年物に度々使われる海外ミステリからのメイントリックの流用・変形に良く示されているところです。そして今回ご紹介する「幽鬼の搭」もまた、そのひとつです――

幽鬼の搭 / 江戸川乱歩・著
 初出:昭和14年4月〜昭和15年3月、「日の出」に連載

 乱歩お得意の通俗物ですが、元ネタはフレンチ・ミステリの巨匠であるジョルジュ・シムノン:Georges Simenon の「聖フォリアン寺院の首吊男(1930)」です。ちなみにジョルジュ・シムノンはベルギー人で、ミステリ作家というよりは大衆作家、その作風は様々な出来事を素晴らしい人間ドラマとして構築する巧みな語り口でしょうか、そのあたりの味は江戸川乱歩と共通する部分も若干、あると感じます。ただし我国で翻訳されているものは、人間味溢れる警察官・メグレを主人公にしたミステリ物、所謂「メグレ」シリーズがほとんどで、それも全部で120話ほどある作品中のほんの一部なのですから残念極まりないところです。この「聖フォリアン寺院の首吊男(1930)」もメグレ物ですが、個人的にはミステリを超えてしまった「雪は汚れていた(1948)」をぜひとも読んでいただきたいと、激オススメです。

 肝心の「幽鬼の搭」は、素人道楽探偵・河津三郎を主人公とする怪奇ミステリで、当時の社会風俗等も書き込まれており、一気に読んでしまう面白さに溢れています。

 その発端は、と言う前に、この主人公・河津三郎は莫大な財産を相続した天涯孤独な青年で、探偵趣味が高じて素人ながらも日々、各種資料収集や犯罪研究、そして変装しての市中探索に勤しむ猟奇の徒です。しかし、そうやって覗き見して掴んだ犯罪の証拠や予兆をきちんと当局に通報し、密かにその一部始終を眺めては喜んでいるという正義と真実の人でもあり、このあたりは元祖「影男」か? あるいは片岡千恵蔵の当り役・東映の「多羅尾伴内」を思わせたりもします。

 で、その河津三郎が春のある夜に目星をつけたのが、吾妻橋から古い鞄を投げ捨てた男です。彼はその後、そこから取り出した新聞包みを大切そうに抱えて新しい鞄を買い、簡易旅館に宿泊するのですが、河津三郎はもちろん尾行して同じ鞄を買い、同じ旅館の隣室に入り、覗き見した挙句に鞄まですり替えてしまうのです。

 そして中に入っている例の新聞包みを開けてみると、そこには薄汚い麻縄の束、直径三寸ほどの木製の滑車、洋画家が着るような仕事着の汚れたブラウズがあるだけでした。ちなみに問題の男は、みすぼらしい風体ではありますが、財布の中に大金を所持しているのですから、ますます謎が深まります。

 一方その男は、鞄がすり替えられたことには気づかず、ただ中身の新聞包みが紛失したことにショックを受け、狼狽して旅館を飛び出すと深夜の街を彷徨い歩き、所持していた札束を燃やした後、上野公園に建つ五重塔の最上階の欄干から首を吊ってしまうのです。もちろん河津三郎が後をつけ、その一部始終を観察しているのは言わずもがなですが、このあたりの乱歩の筆は不気味な陰湿さがあって臨場感満点、五重塔からぶら下がる風鈴に喩えられる首吊り男の図は、トラウマになりそうです。

 という思わぬ展開から自殺を止められなかった河津三郎は、警察に匿名で通報してからこっそりとその始末を見届けますが、自責の念に駆られるように独力でその男の謎を追求していくのです。そして例の新聞包みの中身を丹念に調べてみると、汚れたブラウズのポケット中から、切断されてミイラ化した1本の指が出てくるのでした。

 物語には、この後、妖しい狂女・礼子とその父で洋品雑貨問屋の進藤健三や謎の紳士、そして五重塔首吊り図ばかりを描く怪画家・三田村が登場して執拗に河津三郎をつけ狙い、素人探偵は疾走する列車から突き落とされたり、監禁されたりと危機の連続ですが、その展開の中で問題の首吊り男は時計職人の鶴田正雄と身元が判明します。もちろん、河津三郎もやられっぱなしでは無く、死んだふりの幽霊探偵を演じたりして、なかなかオチャメに反撃、このあたりの丁々発止の攻防はグイグイ惹きつけられる面白さです。

 そして後半には大物政治家・大田黒大造、人気小説家・青木昌作までもが事件に絡んできますが、何と彼等は皆、静岡県の某市付近が本籍地であり、それを突き止めた河津三郎は、首吊り男の謎の根底には彼等の郷里に秘密が、と推理して早速、問題の地へ急行するのです。しかし、そこにはまたしても「五重塔の呪い」と「あかずの蔵」、そして6人の学生と1人の美少女で構成された秘密クラブの存在という、新たな謎が待ち受けているのでした……。

 というこの作品は、物語展開が面白いのはもちろんのこと、とにかく乱歩の筆が絶好調で、エログロ描写は抑えつつも、怪奇趣味が横溢し、何ともいえないブラックユーモアとテンポの良さが最高です。刺激的であり、その上ジワジワと染みてくる魅力は再読・三読しても消えうせるどころか、ますます強くなります。また素人道楽探偵・河津三郎のオチャメなキャラクターも、個人的には大好きです。

 ちなみに、この「幽鬼の搭」を執筆・発表した当時の乱歩は、戦時体制が強化された国家主義の中で創作活動にいろいろな制約を受け、隠棲を決意していたと言われておりますが、それにしても、ここでの柔軟な筆の冴えは絶品だと思います。果たしてこの面白さが「美女シリーズ」ではどうなっているのかというと――

五重塔の美女;江戸川乱歩の幽鬼の搭
 監督:井上梅次
 脚本:櫻井康裕
 原作:江戸川乱歩「幽鬼の搭」
 放送:昭和56(1981)年1月10日、テレビ朝日「土曜ワイド劇場」
 出演:天知茂(明智小五郎)、片平なぎさ(川井奈津子)、生田悦子(大沢夫人)
    :入川保則(大沢祐司)、草薙幸二郎(鶴田正雄)、森次晃嗣(三田村啓介)
    :勝部演之(青木昌作)、石浜朗(進藤健三)、宮井えりな(レイコ)
    :荒井注(浪越警部)、五十嵐めぐみ(文代)、柏原貴(小林芳雄)
    :今福将雄(南彦次郎)、岡部正純、南條豊 他

 またまたキャラの濃い出演者揃いですが、今回は特に男優陣が凄いの一言です。

 物語は、ある霊媒祈祷所を訪れた文代が、呼び出された亡き恋人の霊魂に怯えて逃走した不審な男=草薙幸二郎に遭遇、しかもその男が古いロープや滑車、幾つかの札束を所持していたのに加え、切断されて不気味にミイラ化した指を落としていったことから、深夜の街を追跡するのが発端です。

 そしてその男は森林公園で不気味に笑いながら札束に火をつけて彷徨い歩き、大木に滑車とロープで首吊りにされた変死体と成り果てるのですが、文代はそこで4人の謎の男に遭遇し、さらに格子縞模様のワンピースを着た女を目撃するのです。

 で、一夜明けた現場では本格的捜査が始まり、浪越警部以下の捜査陣に加えて文代が第一発見者ということで明智小五郎も出馬していますが、男の身元も首吊りの動機も不明、さらに自殺か他殺かもはっきりしない状況になっていきます。しかし現場に残された遺留品の中には五重塔の写真と看護婦・川井奈津子名義の身分証明書が発見され、明智と浪越警部は早速、彼女が勤務する病院に急行するのですが……。

 というように、この「五重塔の美女」では原作の主人公・河津三郎は登場していませんが、発端でのその役割を文代に与え、その後は明智が引き継ぐという形に探偵の役割を改変してあります。また首吊りの状況が自殺か他殺か不明にしてあるのも、物語展開を原作から膨らませるための布石になっていますし、原作に登場しない川井奈津子=片平なぎさの存在も同様です。

 その彼女の事件当夜のアリバイは、もちろんはっきりするはずが無いのはミステリ物のお約束です。しかし、ここで助け舟を出すのが彼女に気がある若手医師=南條豊、そしてそれに絡むのが同じ病院の有名医師・大沢祐司=入川保則という、一癖ある男達です。

 この入川保則(いりかわやすのり)は「美女シリーズ」では「赤いさそりの美女」にも重要な役で出演していましたが、そのキャリアは昭和40年代後半から松竹の劇場用作品で活躍している二枚目俳優です。そして昭和50年代からのテレビ中心の活動においても、シブイ中年男を演じてはピカイチの存在で、さらに羨ましいことに、あの巨乳女優のホーン・ユキと結婚されたはずです。

 また南條豊(なんじょうゆたか)は昭和51年に突如、山口百恵の相手役として「エデンの海(東宝・西河克己監督)」でデビューしたラッキーボーイで、当時は三浦友和以外の共演者として大いに注目されましたが、その後も落ち着いた二枚目として堅実な演技力で活躍しています。

 そして謎の首吊り男を演じた草薙幸二郎(くさなぎこうじろう)は「劇団民芸」出身の実力派で、「美女シリーズ」では「湖底の美女」にも出演しておりますが、昭和30年代後半から日活や大映のプログラムピクチャー多数で悪役を熱演していました。しかし一番強烈なのは実在の冤罪事件を扱った社会派映画「真昼の暗黒(昭和31年・今井正監督)」における主人公・植村清治役で、その魂の叫び、情念の演技には圧倒されます。この作品はビデオ化されていますので、皆様には、ぜひとも、ご覧いただきたい名作です。また、そういう熱い役ばかりで無く、テレビ作品では人情味溢れる中年男やダメおやじ、あるいは物分りの良い上司、しぶとい刑事といった幅広い役柄を堅実にこなす素晴らしい役者で、もちろんここでの狂気に駆られた首吊り男の演技も絶妙です。

 さて物語は文代の記憶を頼りに、彼女が現場で見かけた4人の男の正体を探る展開となり、それは新進気鋭の画家・三田村啓介=森次晃嗣、売れっ子デザイナー・進藤健三=石浜朗、人気小説家・青木昌作=勝部演之と3人までは判明するのですが、ここで浪越警部から首吊り男の身元は依然として不明ながら、死因は他殺に断定という知らせが入り、また前述した看護婦・川井奈津子=片平なぎさが様々な状況証拠から嫌疑が濃厚とされてしまいます。しかし名探偵・明智小五郎は、現場に居合わせた男達と被害者が同年齢だった事、また例のミイラ化した指の存在、そして現場に残された五重塔の写真に興味があると、思わせぶりに呟くのでした……。

 このように「五重塔の美女」は原作を現代的に上手く改変しており、次の展開では進藤健三が何者かの脅迫の怯えた挙句、遊園地のお化け屋敷内にある五重塔の前で首吊り変死体で発見されますが、もちろんここも原作をアレンジして乱歩色を強くした演出です。

 またこの前段として、それを心配した進藤の愛人でモデルのレイコが明智事務所を訪れ、脅迫に使われた五重塔の写真を提出したことから、事件は名探偵の前で大きく動き出します。そして続けて謎の首吊り男の身元がタクシー運転手・鶴田正雄と判明、しかも彼と進藤、三田村、青木が同じ郷里だったことから、明智と浪越は富士山が見える地方都市へ向かうのですが、そこには写真に写っていた五重塔と問題の男達が関係していた過去の事件が存在していたのです。

 とここまで読まれると、かなり複雑怪奇な物語と思われるかもしれませんが、実際そうであっても映像化されたストーリー展開はテンポが良く、ダレることがありません。そして物語は中盤で、前述した男達の告白によって過去の事件が明らかになります。それは当時学生だった鶴田や大沢を含む7人の男が1人の美少女・南志津枝を霊媒にして崇めていた秘密クラブの存在、そしてそのメンバー2人の連続自殺(他殺?)事件でした。

 この辺りもまた原作の味を大切にした改変ですが、この作品ではさらに大沢祐司=入川保則が、現代の首吊り男事件の重要参考人である川井奈津子の勤務する病院の医師だったことから、新たな謎と事件が発生していく展開に物語を膨らませています。しかもここでその2人に不倫疑惑があると、大沢夫人=生田悦子が明智に訴えるという家庭の事情までもが入り込んでくるのですから、流石の名探偵も困惑です。

 さて問題の川井奈津子=片平なぎさは、何故か劇中では事件現場やポイントとなる場面で頻繁に登場し、自ら嫌疑を深めてしまうという行動ばかりですが、その彼女のプロフィールは――

片平なぎさ(かたひらなぎさ)
 現在では2時間サスペンスの女王として君臨する彼女も、昭和50(1975)年、15歳でデビューした時はアイドル歌手でした。そして長身と大きな瞳が魅力となって忽ちアイドルとなりましたが、特に大きなヒットも無いまま女優としての資質が注目されていきます。特にデビュー作となった青春映画の古典のリメイク「青い山脈(昭和50年・川崎義祐監督)」で演じた主人公・寺沢新子役は絶賛され、以後数多くの作品に出演、さらにテレビドラマ出演も夥しく、中でも「火曜サスペンス(日本テレビ)」における「小京都シリーズ」は大ヒットして今日に至りました。しかしこれまでの彼女は清純派であり、それ故にエグイ役柄もなかったことから、個人的にはどうも……。アイドルとしてのデビュー当時は水着姿の仕事もこなしていた彼女だけに勿体無い限りです。と今更嘆いても遅いわけですが、今後は女としての生臭い演技にも期待しています。ということで、画像は水着姿を使いました。

 ところで今回は「美女シリーズ」のお約束の場面、つまり入浴シーン等の美味しいところは無いの? という声がはっきりと聞こえてまいりますが、ご安心下さい、宮井えりなの出演は飾りではありません。ちゃんと彼女は入浴シーンを演じ、張りのある美肌乳から綺麗な腋の下、そして尻のワレメまでも見せつけた上で、殺害されるのです。その彼女のプロフィールは――

宮井えりな(みやいえりな)
 生い立ち等はあまり知らないのですが、噂ではお嬢様育ちらしいです。そして学生時代から演劇の勉強をしつつ昭和49年、21歳の時にテレビドラマのちょい役としてデビューしましたが、一躍注目されたのは昭和51年、日活ロマンポルノ作品「団地妻・(秘)出張売春(白井伸明監督)」に主演してからです。そして以後は的確な演技力を発揮して同路線のスタアとなり、夥しい作品に出演していきますが、昭和56年あたりからは裸のお仕事をセーブして一般映画やテレビ作品が中心となっていきますので、この「五重塔の美女」における入浴シーンは案外貴重なお宝かもしれません。また、彼女はスタアになってからも、幾つかの小劇団にお忍びで出演していたという噂もあり、それはお色気作品からベタなお笑い物、都会的な美女から陰湿な悪女まで、器用にこなしてしまう演技力があってのことだと思います。この作品でもそのあたりは充分に発揮され、清楚な美人でありながら玄人っぽいお色気を滲ませる名演を見せています。それと彼女のロマンポルノ時代の代表作である「愛欲の標的(昭和54年・田中登監督)」には「美女シリーズ」の「白い人魚の美女」に脱ぎ要員して登場していた日野繭子も出演しており、こじつけではありますが、ここに偶然の繋がりが発見されましたので、画像はその作品のポスターを使います。大きく写っているのが宮井えりな、全身の立ち姿が日野繭子です。ちなみに真ん中の白ブラの美女は水島美奈子で、当時は犯され役として人気がありました♪

 もうひとつ、お色気シーンというか、問題場面となるのが、大沢夫人=生田悦子が夫の浮気調査の依頼に明智探偵事務所を訪れた際の天知茂との絡みです。彼女はその時、すでに酒に酔っており、小林芳雄に退室を要求して名探偵に甘えるのです。

 生田悦子(いくたえつこ)は今でこそ萩本欽一の人気番組、通称「欽どこ」での良いOLとか、他バラエティ番組での毒舌放言が印象的ですが、昭和30年代後半は売れっ子モデル、さらに昭和41年に松竹で映画デビューした当時は爽やかな清純派でした。しかし昭和45年あたりからは、かなりキツイ役も演じるようになり、この「五重塔の美女」では片平なぎさとの浮気に走る夫の入川保則にイヤミの言い放題、そして明智に色仕掛けと、なかなかキャラの濃い演技を見せてくれます。もちろん明智はこれまでどおり、自己の信念にしたがってそれを軽くいなすと思いきや、何と今回は「私は探偵、依頼人のお役に立つのが商売ですから」と言いながら、彼女の髪の毛を優しく撫でたりして、完全に「いただきます」状態! 野暮天の名探偵もいいですが、やはりこっちの方が人間的というか、アメリカの私立探偵のような明智小五郎=天知茂も憎めないものがあります。

 というような展開があると、何だかこの「五重塔の美女」は纏まりが良くない出来か? と思ってしまいますが、否、実はこういう様々な脇道が最後にはひとつの結論に収斂していくです。それはミステリの醍醐味に他なりません。

 物語はこの後、明智が車ごと爆殺されるというシリーズでは定番の見せ場からクライマックスは霊媒による心霊術で事件の真相を暴くという、ケレン味たっぷりの場面へ繋ぐ荒業が出ます。そして意外な犯人が暴かれるのですが、こういう展開が成功するのも出演男優陣の好演があってのことです。

 なにしろその場には一癖ある男優陣が揃っており、前述した大沢祐司=入川保則、その下で働く若手医師=南條豊の他に、南志津枝の父親・彦次郎=今福将雄(いまふくまさお)は若い頃から老け役が多いという名脇役ですし、三田村啓介=森次晃嗣(もりつぐこうじ)は「ウルトラセブン(TBS)」のモロボシ・ダンという以上に、気の弱い屈折した演技が絶品の二枚目、青木昌作=勝部演之(かつべのぶゆき)は舞台出身の重厚な演技がウリのしぶとい役者ですから、漫然とここまで観ていたのでは犯人の見当をつけるのが難しいはずです。

 もちろん劇中にはきちんと布石が打ってあり、フェアな推理を導き出せるようになっていますので、原作をかなり捻って犯人当てミステリに仕立てたとはいえ、その醍醐味が満喫出来るのです。それは原作にもある黒猫の存在や明智のさりげなくも印象的な行為、さらに登場人物各々の行動を、きちんと推理の糸口に繋げてあるからです。そして「あぁ、そうだったのかっ」という、騙されて心地良い脚本・演出の素晴らしさに驚嘆するはずです。

 さらに天知茂も明智小五郎として、素晴らしい男優陣の中で主役としての貫禄を見せつけますし、浪越警部としての荒井注も良い味を出しています。

 ということは、シリーズの冠になっている「美女」という部分が今回は確かに弱い雰囲気です。それがこの作品をシリーズ中では地味な存在にしているのですが、それでも片平なぎさが入川保則にレイプされそうになるあたりはグッときますし、文代=五十嵐めぐみが明智探偵事務所でストレッチ体操をしている時の僅かに揺れる乳の存在に萌えたり、ファッション・ショウの楽屋風景ではモデルさん達の下着姿に目線が釘づけになったりする細かい楽しみもありますので、DVD鑑賞の際にはぜひともご確認下さい。

 最後になりましたが、ここで舞台となった五重塔は静岡県富士宮市にある大石寺ではなかろうかと思いますが、いかがなものでしょう? あの土蔵も近くに在るのでしょうか? そうだとしたら、またひとつ、乱歩の名所になるわけですが、個人的にはぜひとも訪れたいと思っています。

(参考文献:DVD「五重塔の美女」付属解説書」)

(2005.09.01 敬称略)