Booker Little / Booker Little(原盤:Time 2011=LP)
 Booker Little(tp) Tommy Flanagan(p:A-1&2,B-2&3) Wynton Kelly(p:A-3,B-1)
 Scott Lafaro(b) Roy Haynes(ds)
 1960年4月13日&15日に録音

 1970年代前半に「幻の名盤」ブームという現象がありました。「幻の名盤」とは、今では廃盤になって入手不可能なレコードの中で、特に演奏が優れているものを指します。

 ジャズ全盛期のアメリカのレコード会社は、大手と言えるのがRCAビクター、CBSコロムビア、キャピトル、デッカぐらいで、後はマイナー・レーベル、つまりインディーズでした。モダン・ジャズの有名レーベルであるブルーノート、プレスティッジ、リバーサイドはもちろんの事、アトランティックやヴァーヴ等の膨大なカタログ数を誇る会社でさえ、弱小扱いなのです。これはジャズに限ったことでは無く、当時の黒人音楽=ブルースやR&Bを扱っているレーベルはほとんどがそうでした。特にモダン・ジャズの場合は大衆的な人気が無いので、熱心なファンの趣味が高じて好きなジャズメンのレコードを作ってしまった、という発端からレーベルが誕生する例が多数あり、しかもそれゆえに長続きせずに消えていくという繰り返しでした。

 しかし、その残されたレコードの中から優れたものや歴史的価値のあるものは、ちゃんとジャズ・ファンに認められ、結局、マニアは血眼になってそれらを捜し求めた結果、「幻の名盤」が浮かび上がってきたのです。そしてそのブームが頂点に達したのが、1970年代前半の日本だったわけです。

 当然、そうしたオリジナル盤は貴重品として高値で売買され、ジャズ喫茶ではそれらを何とか入手して、店の看板にするところが当たり前でした。もちろんお客さんは、お目当ての「幻の名盤」をリクエストするために、普通の喫茶店よりも高めのコーヒーを注文するのです。

 ところがそういう「幻の名盤」は、いざ聴いてみると珍しいだけというか、案外がっかりするものが少なくありません。しかしそれでも、確実に名盤・人気盤として認められるものがあり、今回ご紹介するこのアルバムはその代表です。

 ブッカー・リトルは若くして新しい感覚を発散させた天才トランペッターで、エリック・ドルフィーの盟友としての活躍は、例えばファイブ・スポットでのライブ盤等々でジャズ史にしっかり残されておりますが、残念ながら1961年に若干23歳で夭折しています。このアルバムは彼の2枚目のリーダー作品で、ピアノ・トリオのリズム隊を従えて彼のトランペットが主役という、所謂ワン・ホーンの傑作になっています。その内容は――

A-1 Opening Statement (Booker Little)
 ブッカー・リトルで私が好きなところは、溌剌とした音色で奏でられる哀愁モードというか、アドリブ・ソロに頻繁に織り込まれるマイナー調のフレーズで、それがここでは彼自身が作曲したテーマからして全開です。いきなり出だしから琴線にふれてくる吹奏がせつなさいっぱいです。続くピアノ・ソロは名盤請負人と呼ばれるトミー・フラナガンで、その繊細なメロディー感覚を存分に発揮しています。そしてなにより凄いのは、これも夭逝した天才であるスコット・ラファロのベースで、バックでもソロでもハッとさせられるプレーの連続です。もちろん全体を引き締め、さらに盛り上げるロイ・ヘインズのドラムスも最高!

A-2 Minor Sweet (Booker Little)
 これまた泣きがたっぷりの名曲・名演です。まず冒頭から1分ほど、ブッカー・リトルがひとりで青春の悲しみを歌い上げます。時折入るロイ・ヘインズのアクセントが、また絶妙です。そしてそのまま、情熱のテーマからアドリブへ、一気になだれ込んでいくところが最高です。さらにここでもスコット・ラファロのベースが強烈で、いつしか彼の演奏にだけ耳がいってしまう瞬間があります。彼はこの当時、ビル・エバンス・トリオで活躍中の俊英で、この時期に残された演奏が、今もってエバンスの最高傑作とされているのも、彼の存在ゆえのことです。

A-3 Bee Tee's Minor Plea (Booker Little)
 これも日本人好みというか、哀愁のマイナー・ブルースで、これでもかというくらい、泣きのフレーズを連発するブッカー・リトルは最高です。ここではピアノがウイントン・ケリーに交代していますが、彼もまた、溌剌とした中にブルーなメロディを忍ばせてツボをはずしていません。ところが次に出てくるスコット・ラファロのベース・ソロが、突然、異次元へワープしています。打ち震えるような繊細な新感覚で、それまでの保守的な快感をぶち壊し、聴き手を惑わせます。しかし、それは次に出てくる哀愁のテーマをより一層せつなくさせる、抜群の演出なのでした。

B-1 Life's A Little Blue (Booker Little)
 基本的には「A-1」と似たような構造の曲ですが、アドリブ・ソロそのものは、やるせない激情が良く表出されていて、こちらの方が冴えているように思います。ただし、ややリズム隊に精彩が感じられないのが残念です。

B-2 The Grand Valse (Booker Little)
 ちょっと変則的なメロディ感覚のワルツ曲ですが、アドリブ・ソロでの繊細な感覚や泣きのフレーズの連発は、ブッカー・リトルならではの天才性だと思います。もっとも、このあたりが、聴き手の好き嫌いに関わってくるところではありますが……。

B-3 Who Can I Turn To (A. Wilder / B. Engvick)
 このアルバムで唯一演奏されたスタンダード曲ですが、スロー・テンポで堂々とテーマを歌い上げるブッカー・リトルは、やはり素晴らしいです。アドリブに入っても得意のキメである泣きのフレーズを織り込んで、その歌心溢れる展開は間然することがありません。リズム隊の的確な絡みと後押しも申し分なく、何度でも聴きたくなる名演だと思います。アナログ盤ではここでお終いになりますが、CDでは冒頭「A-1」にリピートすると最高です。

 というこのアルバムは、当時のジャズ喫茶ではリクエストが頻発し、特にA面が人気なので店主やウェイトレスは辟易していたらしいです。そこで、そのあたりを突いて「B面、お願いします」と申し出て、ウェイトレスの気を引こうとする者まで現れたとか……。

 そういう人気盤ですから、これが1975年春に我国で復刻された時は、ベストセラーに入らんばかりの勢いで売れました。当然、私もその時にしっかりゲットしています。しかしそれでも、ジャズ喫茶でのリクエストは途絶えることなく、それは現在でも継続していると思われます。そしてこれは「幻」では無く、間違いなく「現役」の名盤なっています。入者にも絶対のオススメです。

【現行CD】
 これは現役の人気盤なので、入手は容易です。日本盤と輸入盤がありますが、マスタリングの点で日本盤が宜しかろうと思います。

(2004.08.19掲載・敬称略)