ストーンズのロックンロール・サーカスがDVD化

 ローリング・ストーンズが混濁の極みにあった1968年に製作した幻のテレビ番組「ロックンロール・サーカス」が待望のDVD化です。
 「ロックンロール・サーカス」とは1968年のクリスマス・シーズンに合わせてBBCで放映する予定で作られた特別番組で、出演はストーンズの他にジョン・レノンエリック・クラプトンザ・フー、ダジ・マハール、マリアンヌ・フェイスフル、ジェスロ・タル等々、まさに1960年代ロックのある一面を象徴する興味深い面々です。
 で、内容は、彼等の演奏&おしゃべり、そしてアトラクションがサーカス・ショウを模して進行、スタジオにはお客も入れて、その熱気を丸ごと収めようと企画されたものでした。
 その製作にはストーンズ側が資金を出し、当然、主導権は彼等が握っており、それは当時の彼等が麻薬問題〜裁判〜グループ内の人間関係等々で活動が袋小路に陥っていたところから、何とか現状打破を図ろうとした目論みでした。そしてご推察のように、そのヒントになったのがビートルズのテレビ放映番組「マジカル・ミステリー・ツアー」だったと思われます。
 これはビートルズがバスに乗ってハプニングを求めたサイケな旅を繰広げ、その結末は個人の自由な意思による選択が可能という、なんとも当時ならではの企画で、賛否両論の出来でしたが、やはりビートルズを大いに意識していたストーンズとしては、当時の状況からあやかりたい気持ちが強かったと思われます。向こうが「魔法」なら、こっちは「サーカス」だという、なんだか分かったような、分からないような……、ではありますが。
 ということで、この「ロックンロール・サーカス」は、資料によれば1968年12月8日〜12日にかけて、ロンドンのインターテルTVスタジオで製作されました。その出演者の主な出し物を完成フィルム順に観ていくとは――

Song For Jeffery / Jethro Tull
 Ian Anderson(fl,vo) Glen Corneck(b) Clive Bunker(ds) Tony Iommi(g)
 ジェスロ・タルは1968年初頭にデビューしたブルース・ロック系のバンドですが、一本足でフルートを吹きながらエキセントリックに歌うイアン・アンーダーソンの存在があまりにも目立つマニアックな存在です。そのためにこの番組出演時にはスター候補だったギタリストのミック・エイブラハムズが脱退、そこでトラに雇われたのが、後にブラック・サバスを結成するトニー・アイオミでした。
 ということで、ここでの演奏は口パクですが、何とも胡散臭い見世物という雰囲気がたっぷりの彼等のパフォーマンスは、まさにサーカスにぴったりです。一説によれば、彼等の代わりに出演が打診されていたのは、デビューまもないレッド・ツェッペリンだったとか……、それも興味深いエピソードです。

A Quick One While He's Away / The Who
 Roger Daltrey(vo) Peter Townshend(g) John Entwistel(b) Keith Moon(ds)
 当時、日本での人気はイマイチでしたが、欧米ではバリバリのトップ・バンドだった彼は、ここでも圧倒的なパフォーマンスを披露しています。演奏された曲はミニ・オペラ形式の組曲スタイルで、ライブ・バンドとして定評が確立していた彼等は、ストーンズへの対抗意識でしょうか、素晴らしい勢いです。

Ain't That A Lot Of Love / Taj Mahal
 Taj Mahal(vo,hca) Jesse Ed Davis(g) Gary Gilmore(b) Chuck Blackwell(ds)
 タジ・マハールは黒人でありながら、白人のブルース・ロックをやっていた人、というよりも、誰よりも早く白黒混合の汎用ロックをやっていた人だと、私は解釈しています。実際に彼のアレンジは、多くの白人ロックバンドにパクられていています。ここで演奏される曲はアメリカ南部系のR&Bですが、素晴らしく粘っこい出来は最高で、後に発表されたザ・バンド:The Bandのバージョンに大きな影響を与えていると思います。また、後にスワンプ・ロックの代表選手になるバックの面々にもご注目下さい。

Something Better / Marianne Faithfull
 マリアンヌ・フェイスフルは貴族の血を引く美人アイドルとして1964年にデビュー、そのきっかけはストーンズのマネージャーの目に留まったことだったので、当然彼等との関係も深く、既婚者だったにもかかわらず、メンバーのブライアン、キース、ミックと次々に恋愛関係を持ち、ミックの子供まで身籠るほどでした。しかし、この番組出演の直前に流産、それでもここに登場したのは、その退廃的な美貌ゆえのことでしょうか……。歌唱にもそればかりが滲み出ていて、精彩が感じられません。

Yer Blues / The Dirty Mac
 John Lennon(vo,g) Eric Clapton(g) Keith Richard(b) Mitch Mitchell(ds)
 この企画の目玉バンドがこれで、メンツを見ただけで仰天だと思います。しかもやっているのが、ビートルズとしてはピカピカの新曲「ヤー・ブルース」で、これは3週間程前に発売されたばかりの「ホワイト・アルバム」収録曲なのです。で、この演奏はなかなか荒っぽくて迫力があります。特にクラプトンはクリームを止めたばかりだったせいか、吹っ切れたような味が感じられます。ちなみにバンド名の「Mac」は「McCartney」から付けられているのは、言わずもがなです。

Whole Lotta Yoko / Yoko Ono & Ivry Gitlis
 Yoko Ono(vo) Ivry Gitlis(vln) with The Dirty Mac
 先のバンドにヨーコとバイオリン奏者のイヴリー・ギトリスが加わってのジャム・セッション的な演奏で、全体的にテンションが高いノリを満喫できます。

Jumpin' Jack Flash / The Rolling Stones
 Parachute Woman
 No Expectations
 You Can't Always Get What You Want
 Sympathy For Devil
 Salt Of The Earth

 Mick Jagger(vo) Keith Richard(g) Brian Jones(g) Bill Wyman(b) Charlie Watts(ds)
 Rocky Dijon(per) Nicky Hopkins(p)
 打楽器奏者のロッキー・ディジョーンとピアニストのニッキー・ホプキンスをサポートにしたストーンズは6曲を演奏しましたが、結論から言うと、やや精彩がありません。それでも「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のノリ、「ノー・エクスペクテーション」のブライアンのスライドは流石です。また泥臭い「無常の世界」もしっかりと聴かせてくれますが、アフリカ色の「悪魔を憐れむ歌」は後年の演奏に比べると、まだまだ消化不良が目立ちます。それとここまでの出演バンドがそれなりに皆、テンションが高かったので、肝心のストーンズに期待しすぎてハズレた雰囲気が漂うのを否定出来ません。

 ということで、そんな理由からでしょうか、結局このフィルムの放送は中止となりました。それはストーンズ側が製作資金を出していたので、諦めるほかはなく、そして長らく幻と化していたのですが、その音源だけは海賊盤として出回り、また映像も家庭用ビデオが普及した1980年代になってから、地下ルートでお目にかかれるようになり、ついに1997年に公式ビデオ&レーザー・ディスクが発売され、また音源もCD化されて、その全貌に接することが出来たのです。そして今回、待望のDVD化となりました。
 肝心の映像的な見所は、タイトルどおりスタジオ内にはサーカスのテント小屋のセットが組まれ、出演者も前述のメンツの他に本物のサーカス芸人とかフリークス達が登場、さらに全員の衣装もサーカス&19世紀風なもので、これは入れ込まれた観客にもフェルトの帽子を支給して統一感を生み出しています。
 こういう演出を施した映像を監督したのは、マイケル・リンジー・ホッグ、そして音響担当はグリン・ジョンズという、翌年から、あのビートルズの「レット・イット・ビー」に関わったスタッフでした。それについては拙稿「偏愛音楽館:ザ・ビートルズ/レット・イット・ビーの謎」をご一読願いたいのですが、つまりストーンズはビートルズに影響されてこのフィルムを残し、それがまたビートルズに反響していったという、まさに当時の英国ロック界の主流を形成した美しき流れのヒトコマが、ここにあるのです。そしてそういう観点から「マジカル・ミステリー・ツアー」→「ロックンロール・サーカス」→「レット・イット・ビー」を連続して観ると、それは間違いなく、行くところまで行ってしまった黄金期のロックの実態に触れることが出来ると思います。
 とすると、待たれるのは映画「レット・イット・ビー」のDVD化ですが、それはひとまず置いて、まずは「ロックンロール・サーカス」を存分にお楽しみいただきとうございます。個人的なオススメはやはりザ・フーとジョン・レノンです。

ロックンロール・サーカス
 ※品番:UIBO 1033
 ※予価:4500円
 ※発売予定日:11月10日
 ※予定特典映像:バックステージ風景、ピート・タウンゼントのインタビュー等々

 さあ、退廃と煌きに満ちた1960年代ロックの真髄に触れてみましょう。

(2004.09.10 敬称略)