Dig It! / Red Garland With John Coltrane(原盤:Prestige 7229=LP)
 Donald Byrd(tp:A-1 B-1) John Coltrane(ts:A-1,3 B-1) Red Garland(p)
 Paul Chambers(b:A-2,3) George Joyner(b:A-1 B-1) Art Taylor(ds)
 Mal Waldron(p:A-3 ?)
 1957年3月22日&12月13日、1958年2月7日に録音

 モダンジャズ黄金時代のインディーズ・レーベルで、ブルーノートと並ぶ存在だったのがプレスティッジです。しかしこの両社は、一時期、似たようなメンバーで録音・製作をやっていたのに、決定的に違う特徴がありました。

 それはブルーノートが録音に際して、コンセプトを明確にし、ミュージシャンにきちんとギャラを払ったリハーサルを行ってアルバムを製作していたのに対し、プレスティッジは、まず先に録音有りが基本でした。リハーサルも、当日のスタジオで簡単な打合せをやる程度だったと言われております。そしてこうして録り溜めした音源を、いろいろと組み合わせてアルバムを作っていたのです。

 ですから、発売される作品は、リアルタイムの流行物もありましたが、録音されてからかなりの年月が経過した後に蔵出しされたようなものが多かったのです。その一番有名な例が、マイルス・デイビスの所謂「ing」シリーズの4部作で、これについてはいずれ詳しく述べるとして、基本姿勢は宣伝の他力本願、つまり参加ミュージシャンが有名になった頃を見計らって、いかにも新録というような体裁でアルバムを発売していたのです。

 しかし、こうした方針は瞬間芸が基本のジャズではかなり適していて、まず録音時に製作者側がいろいろと注文をつけないので、ミュージシャン同志の自然な姿がとらえられた演奏が多数残されております。ただし、オムニバス盤的傾向が強いことから、何かと妙な問題が含まれてしまったアルバムもあり、今回ご紹介する盤もそうしたひとつです。その内容は――

A-1 Billie's Bounce(C.Parker):1957年12月13日録音
 Donald Byrd(tp) John Coltrane(ts) Red Garland(p) George Joyner(b)
 Art Taylor(ds)
 オリジナルはあまりにも有名なチャーリー・パーカー作のブルース、モダンジャズでは定番なので多くの演奏が残されておりますが、このバージョンも素晴らしい出来です。メンバー全員の息の合ったテーマ合奏から、まず先発のコルトレーンが凄まじく音数の多いアドリブで聴き手を圧倒してくれます。この時期のコルトレーンは麻薬問題等でマイルス・デイビスのバンドをクビになり、セロニアス・モンクのバンドに拾われていた頃でしたが、後にシーツ・オブ・サウンドと呼ばれるようになる独自の奏法を完成させつつあった昇り調子の演奏がこれです。
 レッド・ガーランドは、どちらかというと保守的なピアニストと思われがちですが、実はそうしたコルトレーンを高く評価しており、自分のリーダー・セッションには積極的に起用していたそうです。したがってガーランド本人のテンションも高く、アドリブ・パートでは十八番のブロックコード弾きが大爆発、またバッキングも絶妙で、それにノセられてドナルド・バードのトランペットも快調、ブルースではお約束のフレーズを織り込んで聴き手を楽しませてくれます。そしてさらに凄いのが、ジョージ・ジョイナーのベース・ソロで、出だしからビンビン弾き出される速射砲のようなフレーズには大興奮させられます。この人は日本ではほとんど評価されていませんが、やはり本物の実力者、現在でもジャミール・ナッサー:Jamil Nasser の名前で活躍しています。
 ということで、この演奏はアルバムの初っ端に相応しい大熱演なのですが、ここで特に顕著なのが、コルトレーンのアドリブ・フレーズだけからブルースっぽさが排除されていることで、他のメンバーのソロと比較すると、その新感覚が感じ取れます。ちなみに1945年11月26日に録音されたチャーリー・パーカーのオリジナル・バージョンは、今日のモダンジャズに繋がるビバップと呼ばれた新感覚のジャズを初めて完璧に記録した世界遺産ですが、その同じ素材からジャズの新時代を開拓していこうとする演奏が生まれたのは、感慨深いものがあります。

A-2 Crazy Rhythm(I.Caeser-J.Mayer&R.W.Kahn):1958年2月7日録音
 Red Garland(p) Paul Chambers(b) Art Taylor(ds)
 これはトリオ演奏ですが、最初っからガンガン飛ばしています。この3人はガーランドをリーダーにしてプレスティッジに夥しい録音を残しているので、コンビネーションは最高! 安心して聴ける中にもスリル満点で、ジャズの醍醐味を堪能出来ます。
 ちなみにこの日の演奏は、後年にガーランドのリーダー盤「It's A Blue World:Prestige 7838」として纏められ発売されますが、何故かそこに、この演奏も含まれております。このあたりのファジーな製作方針が同レーベルの持ち味でしょうか。

A-3 C.T.A(J.Heath):1957年3月22日録音
 John Coltrane(ts) Red Garland or Mal Waldron(p) Paul Chambers(b) Art Taylor(ds)
 これがまた、いろいろと問題を含んだ演奏で、まず参加ピアニストが本当にレッド・ガーランドなのか、否か? ということが、昔から論議されています。というのは、この日の録音場所であるルディ・ヴァン・ゲルダー・スタジオでは、まず、ポール・チェンバースとアート・テイラー、そしてレッド・ガーランドからなるトリオでのセッションが行われ、続けてケニー・バレル(g)、マル・ウオルドロン(p)、そしてジョン・コルトレーンを含む4本の管楽器奏者によるジャム・セッションが録音されているのです。もちろんベースとドラムスは前記の2人です。そして実際にこの曲を聴いてみると、どうもピアノがガーランドにしては、彼の特徴である玉を転がすような気持ちの良いフレーズ&ノリが出てこないのです。どこか訥弁スタイルで、するとこれは、マル? というのがマニアの聴き方でした。
 その上、この演奏はこれが初出ではなく、実はアート・テイラーのリーダー盤である「Taylor's Wailers:Prestige 7117」に収録され、既に発売されていたものです。そしてそこでのピアニストのクレジットは、レッド・ガーランドになっているのですが……。
 で、実際に聴いてみると、イントロのピアノのフレーズは、ややガーランドらしくないガチガチのノリですが、私にはガーランド特有の「節」が聴き取れます。ところがアドリブ・パートになると、全くガーランドらしが出てきません。トツトツ・ブツブツのフレーズがほとんどなのです。やぱっり、これって、マル? と思わざるをえません。
 う〜ん、これは悩みますが、その挙句に私なりの解答を捻り出してみると、イントロはガーランド、アドリブ・パートはマルということで、途中で演奏者が交代したのではなかろうか……、ということです。なにしろスタジオにはピアニストが2人いたのですから! そして良く聴くと、コルトレーンのアドリブ・ソロの途中で、ピアノのバッキングが聴こえてこなくなる部分が、確かにあるのです。というように、いろいろと想像を逞しくして聴くのも、ジャズの楽しみのひとつでもあります。
 あと、ガーランドの訥弁スタイルでは、ソニー・ロリンズのリーダー盤「Tenor Madness:Prestige 7047」のB面が、かなりその雰囲気なので、もしかしたらここでの演奏も、全てガーランドの演奏なのかもしれません。このあたりは当時の参加メンバーか関係者にでも確かめる他は無いのですが、残念ながらほとんどが故人……。誰か録音技師のルディ・ヴァン・ゲルダーに確かめてみる人は居ないもんでしょうか。
 さて、肝心の演奏は、これもド迫力の出来で、まずコルトレーンがギザギザに振幅の大きいアドリブ・フレーズを撒き散らせば、ドラマーのアート・テイラーがビシバシと応戦しています。この人はあまりにも演奏が安定しているのでイマイチ評価されていませんが、基本はパワー派で、私は実演に接していますがシンバルはギンギン、オカズもズバッと切れ味があります。そのあたりの音の迫力が、当時のレコーディングでは上手く記録されていないのが低評価の要因かもしれません。しかしコルトレーンとの直接対決はこの後も続き、それが1959年録音のコルトレーンのリーダー盤「Giant Steps:Atlantic 1311」で結実するのでした。

B-1 Lazy Mae(R.Garland):1957年12月13日録音
 Donald Byrd(tp) John Coltrane(ts) Red Garland(p) George Joyner(b)
 Art Taylor(ds)
 LP片面いっぱいを使った16分強のスロー・ブルースですが、これといったテーマ・メロディは無く、まずガーランドがピアノの三連フレーズを得意のブロック・コードに発展させ、いかにもブルースというペースを設定、やややっ、これはアースキン・ホーキンス楽団のR&Bヒット曲 After Hours じゃないか? というモロな雰囲気が横溢しています。しかしガーランドのアドリブ・フレーズはそういう黒人臭さを出しながらも、微妙にソフトな口当たりが魅力です。
 続くコルトレーンも音数の多いフレーズを多用しながらも、ここではブルースの雰囲気を大切にした演奏ですし、ジョージ・ジョイナーのベースはアドリブ・パートでも、バッキングでも粘っこさの塊を聴かせます。さらにドナルド・バードは、これぞファンキーというフレーズを連発して山場を作り上げていくのです。このあたりは、ハード・バップ〜ファンキー・ジャズ全盛期の証というか、このテンポと曲調でも全くダレることのない熱い演奏が楽しめます。

 ということで、このアルバムは1957年末から1958年初頭にかけての演奏を収録しているにもかかわらず、実際の発売は1962年頃です。そしてそのリアルタイムでは、ガーランドはニューヨークのジャズ・シーンから引退して故郷のテキサスに戻るギリギリの時期であり、一方コルトレーンは自己のバンドを率いて昇り調子、大いに注目され始めていた頃にあたります。したがって名義はレッド・ガーランドでもジャケットにはコルトレーンの名前が大きく入っているところが、如何にも商売が上手いプレスティッジのアルバムという見方も出来ますが、内容は保証付きの素晴らしさです。モダンジャズ全盛期の熱気にとことん浸って下さい。

現行CD
 輸入盤も日本盤も出ています。音質はキレの良い輸入盤、厚みのある日本盤という雰囲気で、これは皆様それぞれのお好みというところです。あと、コルトレーンのプレスティッジ録音を集大成した箱物:The Complete Prestige Recordings だと録音日ごとに演奏が聴けますので、特に1957年12月13日のセッションにおけるコルトレーンの好調さを堪能出来ると思います。 

(2005.01.23掲載・敬称略)