DVDドナルド・リチー作品集が発売

 映像評論家として名高いドナルド・リチーが、自ら撮った映画作品がDVD化されます。
 ドナルド・リチーは戦後すぐに進駐軍の一員として来日するや、仕事を放り出して映画館に入り浸り、日本映画に夢中になっていた人です。そして小津安二郎に痺れ、欧米に紹介したのも彼です。同様に、誰よりも早く黒澤明を認めていました。
 そのドナルド・リチーは評論活動で異彩を放つ一方、1960年代から映像作品も製作するようになりましたが、それは主に前衛的な短編でした。しかし監督だけが一方的に分かっているものではなく、観ている側に確実に伝わってくる「何か」が不思議な魅力になっていました。当然、映画青少年のある種の憧れというか、背伸びの対象でもあったわけです。
 で、その作品群がようやくDVD化されますので、ご紹介致します。今回は以下の4本が収録予定です――

戦争ごっこ(昭和37=1962年)
監督、脚本:ドナルド・リチー
 白山羊と14人の少年達が海辺で繰広げる前衛劇です。モチーフはもちろん白山羊の死であり、少年達の残酷意識、荒れ狂う波、ギリギリの緊張感といったものが、暗黙の了解で展開されていきます。ちなみに振付は土方巽! 20分程のモノクロ作品ですが、観ているうちに心はヒリヒリ、息苦しくなります。

熱海ブルース(昭和37=1962年)
監督:ドナルド・リチー
脚本:マリー・エヴァンス
音楽:武満徹
出演:ワダ・チエコ、スズキ・トモスケ
 これが代表作でしょうか、舞台は熱海、ある旅館の浴場で、先客がいるのも知らず戸を開けてしまった青年と、その場にいた女の恋の駆け引きが描かれていきます。もちろんエロスを含んだ退廃ムードが溢れており、見所は女を口説き落とそうとする男、そして焦らす女の心理的映像の彩が素敵です。また、当時の熱海温泉の風景では、活気と勢いがあった当時の日本を感じとることも出来ます。そして物語の最後のオチが笑えるかどうかで、自分の感性を測るモノサシになる作品だとも云われております。
 これもモノクロ作品ですが、初公開の時は40分だったものが、後に半分程に再編集されたそうで、私が観たのは短縮版でした。今回のDVDではどちらが収録されるか、現在、調査中ですが、願わくば、両バージョンお願いしたいところです。
 あと、音楽は前衛ジャズ風で、武満徹のピアノはセロニアス・モンクになっています。

五つの哲学的寓話(昭和42=1967年)
監督、脚本:ドナルド・リチー
出演:日本マイム研究会
 タイトルどおり、5つの寸劇からなる40分程のオムニバス作品です。正直言うと、これは観た私自身が良く分かっていない作品ですが、今でも印象に残っているのが、3人家族がピクニックに出かけて、その内のひとりを食べてしまうというグロテスクな物語です。あと、逆立ちして女の子を見つめているという話もありました。この作品は三島由紀夫が絶賛したということで、やはり凄い出来なのでしょうが……。この機会にじっくりと観る必要がありそうです。

シベール(昭和43=1968年)
監督、脚本:ドナルド・リチー
出演:パフォーマンス集団ゼロ次元
 これも20分程の作品で、古代の儀式を現代に復活させた様子が描かれていますが、その内容が強烈です。SM味が強調され、女王様が男奴隷のペニスに紐を付けて引き回したり、肛門に線香の束を突っ込んで火責めにしたり、とにかく悪行の限りを尽くすという、ただそれだけの映画です。しかし、これはかなりの覚悟が観る前に必要かもしれません。なにしろ前衛という大義名分に隠れているのですから、タチが悪いのです。ただ結論は、これも分からない映画です。ちなみにこの作品はモノクロ版とカラー版があると云われており、今回、どちらが収録されるかは不明です。

 以上の作品は、言うまでもなく倒錯的感覚に満ちており、それ故に全て幻化していたものばかりです。以下は今回発売予定のDVDの仕様です。

★ドナルド・リチー作品集
 ※発売元:ダゲレオ出版
 ※品番:DAD-04009
 ※予価:6090円
 ※発売予定日:9月24日

 この作品集は万人向けではありません。しかし1960年代の日本で、こういう前衛映画が作られていたという事実は、皆様にご理解いただきたいところです。それが昭和文化、ひいては世界的なサイケ&アバンギャルド文化に通じていたことを、感じ取っていただきとうございます。ちなみに彼の作品は、まだまだ有りますので、今後に期待したいと思います。

(2004.09.19 敬称略)