エルビス・プレスリーの真髄、ついにDVD化!
 ビートルズ等の英国勢やモータウン&スタックスの黒人歌手の活躍をよそに、長い間銀幕の世界に沈溺していたロックンロールの王様=エルビス・プレスリーが、その真髄を世に知らしめた伝説のテレビ番組の全貌がついに明らかになります。

 それは1968年12月3日にアメリカで放送された「エルビス」というショー番組で、視聴率は脅威の70.2%! この大成功により、ふたたび歌手としての素晴らしい活動が再開されていったことから、今日では通称「カムバック・スペシャル」と呼ばれています。

 その内容はおおよそ「スタンド・アップ・ショー」「シット・ダウン・ショー」「ミュージカル」の3パートに分類出来、それらを混ぜ合わせて実質約45分間程に編集したものが放送されました。

 「スタンド・アップ・ショー」とは、エルビスが客を入れ込んだスタジオで、オーケストラをバックに熱唱する部分のことです。

 「シット・ダウン・ショー」とは、同じく客を入れ込んだスタジオではありますが、ここは昔の巡業仲間とか、友人達が車座になって和気藹々、エルビス自らがギターを弾き語るという、元祖アンプラグドとでも言うべき素晴らしい演奏・演出になっている部分です。

 「ミュージカル」の部分はちょっと分りづらい物語のですが、ギターを抱えた渡り鳥風なエルビスが、街をうろついたりするもので、それが現実の歌の部分と重なっていくような演出になっています。

 これらのパートは6月20日〜30日にかけて制作されたもので、当然放送用本篇にはその一部しか用いられなかったのですが、後に音源や映像が少しずつ蔵出しされ、ついに今回、「Elvis:'68 Comeback Special:Deluxe Edition」というタイトルでのDVD化で、かなり纏まった未発表マテリアルに接することが出来るようです。その概要は――



DISC 1 (running time: 2:40:49)
Chapter1:Elvis, NBC TV Special Original December 3, 1967 Broadcast(15tracks)
 これはアメリカで放送されたオリジナルをそのまま収録してあるようです。ちなみにこの番組は翌年再放送され、その際にはクリスマス関係の曲を外して、別の曲に差替えがありました。日本で放送された時にもオリジナルではなかったようですし、これまでに発売されてきたビデオ版でも完全オリジナルは無かったと思われますので、貴重です。
Chapter2:Black Leather Sit-Down Show #1 June 27, 1968 (15tracks)
Chapter3:Black Leather Sit-Down Show #2 June 27, 1968 (15tracks)
 上記2つは所謂「シット・ダウン・ショー」と呼ばれている部分で、似たような演目のライブが2回録画されました。当然放送用本篇では、その中から良い部分だけを抽出してありましたので、コンプリート映像の公式発表は初めてとなります。リラックスして歌うエルビスではありますが、その凄みは震えが来るほどです。

DISC 2 (running time: 1:48:32)
Chapter1:Black Leather Stand-Up Show #1 June 29, 1968 (10tracks)
Chapter2:Black Leather Stand-Up Show #2 June 29, 1968 (12tracks)
 上記2つが所謂「スタンド・アップ・ショー」になります。こちらは当時最高のスタジオ・ミュージシャンを中心に編成したオーケストラをバックに、エルビスが熱唱します。演目はほぼ同じですが、これまでに発表された音源を聴くと、1回目は物凄く気合が入っていますし、2回目はやや荒っぽい雰囲気ですが、そこがまた魅力です。
Chapter3:Trouble/Guitar Man TV Show Opener June 30, 1968 (10tracks)
 これはおそらく、番組の出だしの部分だろうと思います。エルビスの歌はカラオケをバックにしているようです。
Chapter4:If Can Dream TV Show Closer June 30, 1968 (4tracks)
 番組の最後に熱唱された名曲「明日への願い」のバージョン違いが4テイク収録されているものだと思います。
Chapter5:Huh-huh-huh Promo June 30, 1968
 番組放送前の宣伝用映像ではないでしょうか?
Chapter6:Elvis Closing Credits Scene Without Credits Roll June 30, 1968
 番組のエンドロールからクレジットを除いた映像ではないでしょうか?
Chapter7:If I Can Dream Special Music Video 2004
 今回のDVD化にあたって製作されたプロモ映像かもしれません。
Chapter8:DVD Credits Roll(A Little Less Conversation)
 現時点では内容が不明です。どなたかの解説をお待ちしております。

DISC 3 (running time: 2:51:27)
Chapter1: Gospel Production Number ?
Sometimes I Feel Like a Motherless Child/Where Could I Go But To the Lord /Up Above My Head/Saved (21tracks)
Chapter2:Guitar Man Production Number ?
Big Boss Man/ It Hurts Me/ Let Yourself Go/ Nothingville/Guitar Man/ Little Egypt/Trouble (65tracks)
 上記の2つは所謂「ミュージカル」仕立になっている部分で、エルビスの歌はあらかじめスタジオで完成された物を使用したクチパクになっています。放送されたものは、いろいろな制約からかなりカットされているので、ここではおそらくその全貌に接することが出来ると楽しみにしております。

映像、サウンド共にデジタル・リマスター&ドルビー5.1サラウンド。



 というDVD3枚組、約7時間20分の半分以上が未発表という驚愕の内容になっております。アメリカでの発売は一応6月下旬、日本盤発売は8月16日に予定されています。そしてその一部はネット・プロモとしてここで観ることが出来ます。

 ところで、この番組は日本でも昭和45(1970)年1月3日の午後4時から「エルビス・プレスリーのすべて」のタイトルで放送され、中学生の私はそれをリアルタイムで観ています。しかし漫然と観ていて、率直に言うと、古臭〜ぇなぁというのがその時の印象でした。当時のメモによると、その日は土曜日で私は友人とボーリングに行っており、帰宅後にこの番組を観たことになっています。ちなみにその後は続けて「三波春夫ショウ」、さらに夜には「ドリフの全員集合」「キイハンター」を観ていました。

 このように、当時の私はエルビスの凄さが全く分っていませんでした。エルビスは歌う映画スター、つまり私の中では小林旭とか加山雄三あたりと同列の受け取り方だったのです。もちろん小林旭も加山雄三も素晴らしい才能の持ち主ですし、私は大好きですが、エルビスの凄さは別格です。愚かにも当時の私はそれに気づいていなかったのです。何故かと言えば、その頃の日本の洋楽事情は、ビートルズが何でも一番という状況が続いていましたし、男性歌手ではスコット・ウオーカーという、今では知っている人・覚えている人のほうが珍しいという白人が一番人気でした。その他ではストーンズ、ドアーズ、ジミヘン、ナンシー・シナトラあたりの人気が高く、そこへレッド・ツェッペリン、ブラインド・フェイス、CCR等々のニューロック勢がジリジリと注目を集めており、私の世代ではエルビスは完全に忘れられたというよりも、最初からミュージシャンとして認識されていなかったのではないでしょうか……?

 そして時が流れました。洋楽もサイケ〜ハードロック、プログレを経て、いつしかシンガー・ソングライターやスワンプロック等が流行る時代となり、私もロックばかりではなく、ジャズやソウル、ブルース等々の黒人音楽を知るようになりました。そしてその中でエルビスに邂逅し、その凄みに圧倒されたのです。目覚めさせられた曲は、この「カムバック・スペシャル」でもハイライトを成していた「明日への願い」でした。

 皆様良くご存知のとおり、エルビスは1954年7月、メンフィスのサン・レコードという小さな会社からデビュー、忽ち南部で人気を集め、翌年にはメジャーのRCAに移籍して大ヒットを連発、世界中をロックンロールの熱狂に巻き込みました。それは単に音楽的な部分だけでなく、白人と黒人の人種と文化の混合というような社会的・歴史的に大きな意味のある出来事でした。もちろんロックンロールはエルビスが発明したものではありませんが、エルビスがいなければ、それは単に黒人文化を搾取した白人の金儲け音楽で終わっていたと思われます。

 さてエルビスの魅力とはなんでしょう? 多くの素晴らしい魅力がありますが、私は全てを超越した「歌の力」だと思っています。ご存知のようにエルビスは自分ではほとんど曲を作りませんし、他人の十八番・持ち歌を沢山レパートリーにしています。しかしそれらは人種や肌の色、文化の違いを超えて、エルビスが歌うと間違いなく最良のものになってしまうのです。この抜群の歌の上手さ、ディープで力強く、神聖な歌の世界、スタジオで綿密に練り上げられたポップスも、ライブでの長いギターソロも、エルビスが歌うワンフレーズの前には簡単にひれ伏してしまうのです。そしてエルビスがいなかったら、今日の音楽シーンだけでなく世界文化も間違いなく別のものになっていたはずなのです。

 このあたりの事については私などには書き尽くせるものではありません。いくら文章で書いたところで、エルビスの「歌の力」の前には無力なのです。まず皆様には、エルビスの歌を感じ取っていただきとうございます。それにはまず、このDVDが最高のものになると思います。

(2004.06.19 敬称略)

【付記】
 この拙稿を纏めるにあたってはエルビス・プレスリーのファンサイト「TIGER MAN」の管理人様および掲示板に集う皆様から多大なご指導をいただきました。心から感謝申し上げます。皆様もぜひ訪れてみて下さい。

 それとこの「カムバック・スペシャル」については、「偏愛音楽館」でじっくりと取上げて みたいのですが、私にとってはあまりにも大きな山であり、いつの事になるのやら……。

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