花と蛇 地獄篇

 谷ナオミ主演による「花と蛇(昭和49年・小沼勝監督)」は、ディープな愛好者からはコキ下ろされたものの、現実には大ヒット、そして日活はロマンポルノ路線の中で幾多のSM物を製作・公開していきました。もちろんその全てが傑作とはいえないものの、安定した興行成績があったことは間違いなく、下番館ではSM作品の特集が頻繁に催され、また相乗効果としてSM誌も掲載作品や挿絵が充実、さらに美麗な表紙に加えてカラーグラビアが満載されるなど、マニアには嬉しい状況だったのが、昭和50年代でした。

 そしてついに、それから10年後の昭和59年、そのブームは「花と蛇」の原作が角川文庫に入るという、驚愕の出来事に繋がりました。もちろんそこに到るまでには、社内的にもいろいろとあったようですし、一般社会でも角川文庫ともあろうものが……、というような批判がしっかりとありました。しかし、この企画はやはりヒット、ここにSMというジャンルがある意味で市民権を得たような雰囲気が、確かに残ったのです。

 実際、この当時の書店では角川文庫版「花と蛇」がジャンルを隔てられることなく一般の文庫本と同列に扱われ、さらにSM誌が堂々と平積みで販売されるようになりました。また男性週刊誌や過激系女性週刊誌には、特集記事としてSMプレイの要領までもが掲載され始めたのです。さらにテレビのお笑いバラエティ等では、鞭や蝋燭責めで悶えるところがギャグとして用いられ、もはやSMは淫靡な闇の華では無く、お茶の間に漂う気まずい雰囲気を通り越した世界になっていったのです。そしてそういう時代に作られ、公開された劇場用映画の「花と蛇」が次の作品です――

花と蛇・地獄篇(昭和60年8月・にっかつ)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
脚本:桂千穂
出演:麻生かおり(遠山静子)、藤村真美(遠山京子)、中田譲治(川田美津夫)
    清元香代(銀子)、渚あけみ(マリ)、染井真理(朱美)、仙波和之(田代一平)
    児玉謙次(遠山義隆)、平泉成(津山淳) 他

 またしても、キャスト・役名に???なものがありますが、物語展開は発端から原作の味を大切にしてあります。ただし時代設定は現代で、まず空港へ向かう高級車の中で戯れる遠山義孝と静子夫人、そしてそれを気にしながら運転する川田という映像のバックにはデジタル・ビートのフュージョン曲というタイトル・ロールになっております。ここは和服姿の麻生かおりが着物の前を割り開かれて乳を揉まれ、首筋から耳朶を刺激され、もちろん太腿から、さらにその奥までも淫らに描写されています。このあたりは原作にはありませんが、成人映画〜ロマンポルノではお約束というところです。ただし続く空港でのシーンでは、静子夫人が後妻であり、血の繋がりが無い母娘関係は良くないという設定が明らかにされます。

 そしてこの後、彼女が帰宅してみると、義理の娘の遠山京子=藤村真美が、所属する不良グループ内のイザコザから監禁され、300万円を要求される展開になるのですが、ここでどうも納得出来ないのが、何故、藤村真美の役名が京子なのか? という点です。せっかく原作どおりの発端にしたのですから、ここは桂子にするのが王道だと思うのですが……。

 で、とにかく静子夫人はお金を用意して約束の場所へ向かいますが、ここで運転手の川田が車を離れたスキにスケバン・グループが現れ、車に強引に乗り込んで静子夫人を連れ去ります。彼女達のファッションはノースリーブのブラウスに長いスカートのセーラー服という、これが当時のスケバン・ファッションの典型でした。静子夫人の粋な和服姿との対比も鮮やかです。

 こうして拉致された静子夫人=麻生かおりが連れ込まれるのは、お約束の廃屋です。そこには遠山京子=藤村真美が縛られ監禁されているのですが、もちろんこれはお芝居で、つまり麻生かおりが罠に落とされるところは原作どおりです。狙いはお金と継母に対する妬みの一石二鳥なのは言わずもがなですが、それにしても遠山義隆の娘を京子と書くのは、どうしても違和感が払拭出来ないので、以後は藤村真美、静子夫人は麻生かおりと記述させていただきます。その彼女のプロフィールは――

麻生かおり(あそうかおり)
 昭和38年生まれの彼女は、まず、本名の高橋かおり名義でロマンポルノのSM物「団鬼六・縄責め(昭和59年・関本郁夫監督/高倉美貴主演)」にチョイ役として出演した後、麻生かおりと改名、同じ路線の「団鬼六・緊縛卍責め(昭和60年・関本郁夫監督/高倉美貴主演)」では準主役として高倉美貴の妹役を好演して強い印象を残しました。もちろん両作品ともハードに縛られ責められておりますが、淫乱な場面でも、そこはかとない知的な風情を漂わせるところが人気の秘密だと思われます。そしてそういう資質を認められ、この作品では主役として遠山静子という上流階級夫人を演じたわけですが、和服姿もなかなかに魅力的ですし、その面立ちや肉体も和風でグッときます。ちなみに彼女は、この作品とタイアップする形で出版された富士見文庫版「花と蛇」の表紙写真にも、なかなか色っぽい和服で登場しています。

 ですからスケバン達に嬲られ、着物を剥ぎ取られて縛られる場面の泣き叫びや、必死で裸体を隠そうとする仕草にはゾクゾクさせられますが、和服の下にパンツを履いているのは減点です。ただし続いて縄姿を写真撮影されるところでは、そのパンツを無理矢理に脱がされ、大股開きで秘部を晒し、「み、見ないでっ〜」という定番の台詞が迫真なので、結果オーライなのかもしれません。

 そしてそこへ登場するのが津山、というのがこの作品の次なる展開です。ここでの津山はルーレット・クラブの支配人、藤村真美はそこで借金を作っており、その遊び仲間が遠山家の運転手である川田、もちろん2人はデキているという設定になっております。彼女が芝居を打ったのも実はその借金返済の為であり、当然、川田もグルだったのですが、その彼が登場したことにより、裸で縛られている麻生かおりの狼狽・驚愕は頂点に達し、またしても「みっ、見ないでぇ〜!」という絶叫が堪りません。

 ところがその借金がいつの間にか大きく膨らんでおり、まきあげた300万円では足りず、スケバン達もアテが外れたことから仲間割れ、結局、継母である麻生かおりを売り飛ばす提案をされた藤村真美と葉桜団のスケバン達がカミソリと鎌で大立ち回りのあげく、2人はその廃屋から脱出しますが、土壇場での川田の裏切りから藤村真美は車の中でレイプ、麻生かおりはトランクに監禁されます。この時の彼女の泣き叫び、さらに口の中にボロ切れを押し込まれる演出もスピード感があります。また藤村真美を気絶させておいてからの川田の犯しが、なかなか粘っこく、仕上げの美味しいところは津山が締めくくるというお楽しみもリアルです。

 さて一方、裏切られた形となったスケバン達は、藤村真美への復讐のためにある目論見を企て、捕らわれの身になる2人の調教を申し出るのですが、なんとここで「死んだ鬼源の一人娘、鬼塚マリだよ」とスケバンのひとり、マリ=渚あけみを紹介するのです! こっ、これはっ?!

 こうして舞台は田代邸に移り、当然、2人は裸に剥かれ、麻生かおりは黒い極小バタフライだけで縛られ、吊るされていますし、藤村真美もパンツ一丁で柱に立ち縛りです。ここで麻生かおりに心底惚れている川田の情けない片思いの告白、それに嘲笑を浴びせるスケバン達の下卑た仕草、さらに継母と義理の娘の葛藤と裏切りの罵り合い、そして藤村真美を助けるために剃毛を承諾する麻生かおりの切ない呻き……。この辺りのテンポの良い芝居と演出は素晴らしいものがあります。

 そして肝心の剃毛は藤村真美の手によって行われ、ここでの描写はそのものズバリは無理な事を逆手に取った巧みな描写が秀逸です。おまけに親不孝を理由に、またまた藤村真美は捕らわれの身になるのですから、たまりません。そして責めは麻生かおりへの浣腸と発展し、両手を鎖で天上から吊るされている彼女の両脚が、今度は竹竿と縄で強引に割り開かれ、ついにはオシメ交換スタイルに! さらにその御開帳されている大切な部分に褌が締め込まれていくのです。ここに到るまでの彼女の嫌がりと哀切の表情の連続は、本当に最高です。

 もちろん、こうした責めは藤村真美にも加えられ、全裸にされてピンク色の褌をきつく締め込まれ、腰縄をつけられたまま、継母に浣腸を打つように強要されるのです。しかもここで、彼女が激しい尿意を訴えるのですから、素晴らしい展開です! おしっこを漏らしそうになりながら、麻生かおりに浣腸を打つ彼女の仕草にグッときます。しかも、そうした命令を必死でやり終えた彼女が許されるはずもなく、再び柱に立ち縛りにされるのは、お約束です。

 つまり麻生かおりが先か、あるいは藤村真美が先か、という妖計から最後の痴態を何とか堪えようとする2人の競演が見事です。もちろん結果は避けようが無く、まず藤村真美が柱に立ち縛りのまま褌越しに屈辱の水流を滲ませてしまいます。ここは「お嬢さんの、負けだな」という津山の一言がキメになり、歓声をあげるスケバン達、開放感と屈辱の狭間で股間から太腿、そして足元に置かれた洗面器へ伝い流れる水流が微妙に黄色くてリアルです。びしょ濡れになった褌で顔を覆われる演出も、流石、西村監督! 藤村真美の演技も、お嬢様ではなく、いかにも不良少女という感じで賛否が分かれるかもしれませんが、私はかなり良いと思います。

 そして次のクライマックスは、麻生かおりが悪魔の薬液に悶え苦しみ、全身に脂汗のお約束から最後の瞬間を迎える場面です。ここでの彼女も見応えがありますが、取り囲むメンバーの演技も、その場を盛り上げてくれます。最後の瞬間の後、彼女は始末を頼む台詞「私の汚した褌とお尻を綺麗にして下さい」を強要されるところも最高です。そして川田の後始末も丁寧に描かれ、嘲笑するスケバン達、そして惨めに泣き続ける麻生かおりという、音声の効果も抜群です。

 物語はこの後、麻生かおりと川田の床入りの場面となり、ここで「縄を解いて〜、逃げたりしないわぁ」と懇願する彼女の声が、妙に可愛い雰囲気です。もちろん逆に縄がグリグリに締上げられ、そのままの交わりになるのは必然の流れ、ここでの彼女のヨガリ声もなかなか素敵です。

 一方、藤村真美は立ち縛りのままで田代に犯されていきますが、強引なキスが何とも言えません。また、その周囲で繰広げられるスケバン達の裸踊りはサービスカットです。

 こうして悪夢の一夜を過ごした2人は、翌朝から本格的な調教を受け、股縄を掛けられたままの母娘レズを仕込まれていくのです。さらに夜には逆さ吊りから様々な淫らな行為を強要され、この場面での麻生かおりの狂態・痴態は、本当に根性の演技です。もちろんお約束の蝋燭責めもたっぷりで、褌と縄姿の彼女の悶えが、またまた素敵です。そして最後は田代のバックからの犯しになるのですが、このあたりの彼女の演技は本当に良いなぁ、と私は大いに気に入っています。

 しかしここで、用済みになって追い出された川田が救出に飛び込み、さらにスケバン達が2人を敵対する松岡組に売り飛ばす計画を立てていたことから田代邸は混乱の中で火災発生、それに乗じて麻生かおりと藤村真美は全裸で脱出するのです。そしてそれが、血の繋がらない母と娘の心の絆を強くするというのが、この作品のオチというわけです。

 というこの作品は結局原作とは違った展開になっておりましたが、その味を大切にしつつ、上手く纏めていると思います。確かに縄の緩さが目立つところや、お目当ての場面のエグサという点では、少し物足りないものがありますが、主演の麻生かおりの悶え苦しみの表情と声が抜群に素晴らしく、私は気に入っております。特に中盤から後半での輝きは最高で、皆様には一度はご覧いただきとうございます。

 もちろん劇場ではヒットを記録し、前述したようにタイアップの富士見版文庫本も出版されました。しかし当時の社会風俗の中では、それほどのインパクトが無かったのも事実で、それはSMがすでに一般に認知されていた証であったように思います。そしてまた映画界そのものが、この時期からの家庭用ビデオの普及に伴って衰退期に入り、それが一番大きく影響するのがエロ映画ということで、そのほとんど最後の一線がこの作品でもあったと、今になって感慨も深くなっております。

(2004.11.03掲載・敬称略)