花と蛇 飼育篇

 昭和60年代の日本は急速な家庭用ビデオの普及により、映像文化が決定的に変化しました。中でも特に急激なアダルト・ビデオの台頭は、それまでのエロ映画を完全に駆逐する勢いでした。独立系のプロダクションはそのAVソフト製作に方針転換し、あるいは非合法の裏ビデオに活路を見出すところさえありました。そして同様に、流石のロマンポルノもかつての勢いを失っていきます。

 しかし、そんな中でもドル箱は確実に存在し、そのひとつが「花と蛇」でした。その時代に作られたのが次の作品です。

花と蛇・飼育篇(昭和61年3月)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
脚本:掛札昌裕
出演:小川美那子(遠山静子)、永井秀明(遠山隆義)、港雄一(田代)
    舵川まり子(村瀬美津子)、矢生有里(千代)、坂元貞美(杉本) 他

 相変わらず妙なキャスト・役名がありますが、結論からいうと、今回は原作にあった、女中の千代が妖計を企んで遠山隆義の妻に納まるエピソードを巧に絡めた展開になっています。もちろん彼女は住込みの女中ですが、その目論みを後押しする悪徳弁護士の伊沢のキャラクターが、ここでは同じ顧問弁護士の杉本という人物に変えられています。その物語とは――

 不吉な予感を漂わせる寒々とした木立の住宅街を早足で歩く遠山静子=小川美那子、それは背後から不気味に付回す1台の車の所為でした……、という発端がタイトルロールになっています。

 で、そうした恐怖に追い立てられて自宅に辿り着いた彼女は、もちろん富豪・遠山隆義の若き妻、さらにここでは書道家としても活躍しているという設定です。そして実はその日が彼女の誕生日、夜にはその祝の席に遠山家の顧問弁護士・杉本=坂元貞美、彼女の書道の弟子である村瀬美津子=舵川まり子、他2名が集っています。

 さて、その和やかな席上、美津子が星占いで静子夫人が幸福な星の下に生まれていることを持ち出し、話を側で働く女中の千代にふったことから、場がシラケてしまいます。なにしろ彼女は静子夫人と同じ日に生まれていたのです。ところが美人でも、裕福でもなく、しかも遠山家の使用人なのですから、星占いなんて信じないと、暗く、そして強く言われてしまうのです……。

 一方、遠山隆義はその夜も忙しく、某ホテルの玄関にやってくると、そこには田代=港雄一が待ち受けており、なんとか自分の会社との契約を延長してくれるように懇願されます。この作品での田代は零細コンクリート屋の経営者に設定されており、港雄一は皆様よくご存知の悪党面ですが、ここでは倒産の危機に瀕して必死の形相で人生を賭けている芝居が、なかなか真に迫っています。もちろんそれは、あえなく却下、そしてその思いが後に爆発していくのは言わずもがなです。

 また、この作品で遠山隆義を演じている永井秀明のベテランらしい的確な演技は流石で、その夜、帰宅してからの静子夫人との濡場の自然な絡み、あるいはネチネチとした中年男のイヤラシサがリアルです。そしてその場の小川美那子がまた絶品、羞恥心の塊のような受身の演技にグッときます。なにしろ、その夜は村瀬美津子が同じ家に泊まっているということで、若い肉体の中で燃え上がる情炎の悦びから、何とか声をたてまいと手で口を覆ってしまう演技など、これまた、たまりません。原作での静子夫人よりは可愛い雰囲気です。ただし、乳首が黒っぽ過ぎるところが個人的には気になります。あと、その2人の絡みの最中の寝室に女中の千代が堂々と入ってきて、冷静に水割りを作って立ち去るという演出もありますが、これは物語の伏線というよりはスパイスというところです。

 こうして朝を迎えた遠山家では、早朝から静子夫人と村瀬美津子が書道の稽古、しかしここへ入ってきた女中の千代が、出来上がった習字の上に墨をひっくり返したことから、厳しく叱責されます。ここは後のクライマックスへの伏線です。また稽古を終えたところへ入ってきた杉本が情けない告白をするのですが、それは杉本が遠山家の世話で学校を出してもらい、さらに顧問弁護士の座を得るために、恋人だった静子を遠山隆義に差し出したことが明かされます。当然、静子夫人はそれを許していないところが、もうひとつの伏線になっています。

 というように、ここまでで、この作品がまたしても原作には忠実でないことが明らかなっていますが、私は憎めないものを感じています。それはまず出演者の芝居がしっかりとしていることです。小川美那子=静子夫人の印象など、谷ナオミに比べると原作のイメージからは相当違いますが、この物語展開では違和感がありません。また村瀬美津子も、マニアにしてみれば噴飯物の役名ですが、原作に登場した2人のヒロイン=村瀬小夜子&野島美津子の清純でお嬢様っぽい部分をそれなりに感じさせる正統派美女の舵川まり子が演じているのは、正解だと思います。そして何よりも素晴らしいのは、女中の千代を演じた矢生有里です。私は彼女が昭和のある事件の容疑者と関係があったらしいということ以外に、この人を良く知らないのですが、もちろん失礼ながら美人ではありません。しかし時に暗く、時に情熱的なここでの演技と醸し出す雰囲気は素晴らしく、原作のイメージと違和感が無いと思っています。

 ということで、主な登場人物がそろったここから、物語はお約束の展開となります。それはまず、静子夫人の拉致・監禁で、もちろん犯人は田代とその一味です。彼等は会社が遠山隆義に見捨てられたことから裏ビデオの製作に事業転換、その看板女優として静子夫人を手に入れ、尚且つ復讐も果たすという一石二鳥を企てたのです。この場面は地下駐車場で、緊張感とスピード感がある良い演出ですが、さらにそれを女中の千代が見ていたという伏線まで張ってあります。またここでは遠山家の運転手がグルだったような描写があり、その人物がチラリと登場しますが、これは原作では彼女の兄であった運転手の川田一夫か否か? 等々とマニアックに推理する楽しみもあります。

 肝心の拉致された静子夫人は、青いビニール・シートに包まれたまま、ある倉庫に連れ込まれます。そして意識を取り戻した後は男達に取り囲まれ、抵抗すれば平手打ち、さらに着物を剥ぎ取られていきますが、この場面のカメラワークは独特の粘っこさがあってワクワクさせられます。もちろんこの後は男達に全身をイタズラされ、トドメは田代の犯しです。

 その田代を演じる港雄一は成人映画〜エロ映画の名物俳優で、作家の安部譲二に似た悪党面とネチネチとした女の扱い、さらにドスのきいた呻き声のような台詞を囁きながら女と絡むそのメリハリの効いた演技は、「犯し屋」の異名に恥じないものです。ここでもそれが充分に発揮されておりますが、その相手になっている小川美那子が、また素晴らしく、けっして大袈裟にならない官能の表現と可愛い雰囲気の台詞回し、さらにそれとは対照的な黒い乳首と如何にも和風な体形が、多くのファンを掴んだ秘密だと思われます。

 それは続く責めの剃毛の場面でもたっぷり楽しめます。ここは倉庫に置かれた西洋バスタブの中に後手に縛られ、強引に足を割り開かれて立たされる彼女への、正面からのハサミ&カミソリ当てが迫真で、ご推察のようにその中には水が半分ほど入れられているので、まずハサミで切られていく陰毛がハラハラとその中に落ちていく描写、そして、それを覗き込む男達を描くカメラワークが、映画的面白さを大切にしています。お目当ての小川美那子の嫌がりも大袈裟でない分だけ、男心をくすぐるというか、その表情と声には必ずやグッとくるはずです。さらにカミソリで仕上げられた後に、鏡を使って彼女を羞恥のどん底に落とし込む港雄一の骨太な嬲りと、そこで身悶えする小川美那子のコントラストも最高です。

 また全裸で縛られ、かなりアクロバティックな姿勢で吊るされている彼女の秘部に、極太ソーセージを突っ込み、さらにそれを無理矢理食べさせようとする場面も迫力があります。

 物語はここで杉本がその現場にやって来たことから、何とか静子夫人=小川美那子を助けようとするのですが、逆に彼女から一味の仲間と誤解され、冷たい言葉を浴びせられたことから、結局彼等と共謀するという展開になります。

 こうして遠山家に戻った杉本は、そこで心配する遠山隆義と不可解な千代の言動により全てを決心して彼女を問い詰めると、実は静子夫人を陥れたのは千代、その理由は妬みと杉本への叶わぬ恋でした。あ〜ぁ、女心は哀しいなぁ、というところですが、ここに限らず矢生有里の演技は、作品全体をしっかりと引き締めていると感じます。

 さて肝心のお目当ての見せ場は、この後いよいよ本格的になり、例の倉庫で逆さ吊りにされている小川美那子を下ろして縛り直し、大量の塩水を漏斗と柄杓を使って無理矢理に飲ませるというお楽しみがあります。ここは港雄一の嬉々とした表情、苦しみから美しい面立ちを歪ませる小川美那子、彼女の口から涎とともに溢れて流れる液体の汚らしさ、そしてギュルギュルと膨らんでいく彼女の腹の描写が圧巻です。もちろん彼女が激しい尿意に苛まれるのは必然で、懸命の我慢も無駄な抵抗、乳や下腹部を執拗に揉まれた上に両脚を2人の男に抱えられ、ついに屈辱の水流を激しく迸らせてしまいます。しかもそれが、そのまんま、その場にいた杉本に浴びせかけられるのですから強烈です。ただし、個人的にはここでの彼女の台詞が物足りず、せっかく可愛い台詞回しが出来るのですから、「もれそう……」とか「許して……」というような切ない呻きが欲しかったところです。

 しかし次の場面では、その素敵な彼女の声がたっぷりです。それは拘束されたまま杉本にネチネチと犯されている時のよがり声、そしてその最中に手錠を外してくれるように懇願する台詞です。もちろんそれに負けた杉本が、言いなりになって逃走されるのはお約束です。そして彼女が必死になって闇夜の中を逃げ、自宅に電話連絡を入れるものの、結局は連れ戻されて過酷な仕置きを受けるところも定番の展開で、ニヤリとさせられます。また、ここで電話に出てしまったことから村瀬美津子=舵川まり子が事件に巻き込まれていくところも、自然で上手い流れだと思います。

 その部分をさらに詳しく書き述べれば、捕まった彼女は平手打ちから着物を剥がされて縛り上げられ、ついには小さな檻に入れられます。一方、美津子は救出に向かったものの同行した千代に裏切られ、一味に捕らわれます。もちろん裸に剥かれて縛られるのです。場所は当然、例の倉庫で、師弟の対面から小川美那子には美津子の前でのオナニーが強要され、さらに港雄一にバックから激しく責められます。そしてそれを柱の陰から覗く千代――

 そこへ杉本が現れたことから千代は狼狽しますが、ここでさらに静子夫人=小川美那子を精神的に追いつめるために、杉本はある妖計を提案します。それが弁護士の立場を利用して遠山静子を離縁させ、千代を再婚させるという、むごい筋書きです。

 それは暗い倉庫で縛られ、うな垂れている静子夫人の前に、彼女が遠山隆義と婚約した記念にもらった豪華な和服を着た千代が現れるという演出から、静子は離縁され、千代が新しい遠山夫人に納まるという、運命の逆転を告げられるのです。そしてこれまで千代をコキ使ってきたことの謝罪を求められるのですが、ここで物語冒頭の、同じ日に生まれていながら正反対の境遇云々という、星占いのエピソードが活きてくるのです。執拗に謝罪の言葉を強要され、泣きべそで必死にその言葉をなぞる小川美那子の刹那の演技は秀逸です。しかもそうした精神的な責めから打ちひしがれている彼女に、千代は極太電動バイブ責め、そして足舐めを強要するのです。さらにそれを感心しながら見ていた田代=港雄一に、千代は裏ビデオ用の演出として、秘部で筆を咥え込んでの書道芸を提案するという、本当にここはゾクゾクする名場面です!

 そのクライマックス、書道の場面は本格的な道具立てで、全裸で四つん這いにさせられた小川美那子の秘部に筆を咥えさせ、足の間に広げられた半紙に「いろは」の文字を書くことを命じられるのです。書道家にとって、これ以上無い屈辱に泣き叫ぶ彼女の呻き、そして必死に秘部に力入れて筆を動かそうとする時の悶えの表情と全身の妖しい蠢きが堪りません。もちろん上手く出来るはずもなく、叱責する千代の怖さ・憎たらしさも強烈です。もちろんこういう痴態を演じてしまうのは、美津子が縛られて人質に取られているからですが、それでも上手くいかず、ついには墨を半紙にこぼしてしまうという失態に、千代の仕置きは苛烈になっていくのです。ここも、物語冒頭の書道の場面で千代が静子夫人から叱責されたことの意趣返しになっているのですが、小川美那子も矢生有里も最高の演技です。そして震える筆で書かれていく「いろは」の文字の崩れ方が、なんともリアルです。

 しかし結局、この芸は静子夫人の奮闘虚しく失敗に終わり、彼女は千代から顔面を草履を履いた足で踏みつけられ、縛られて吊るされ、さらに乳首周囲をクリップで摘み上げられて悶絶します。おまけにその体勢で、おしゃぶりの強要までっ! もちろんその間に美津子はチンピラ達に縛られたまま、犯されてしまいます。

 こうして迎える最後の場面は、すっかり調教された静子と美津子が裏ビデオのスターとして遠山隆義の前に現れるという締め括りになります。場所は例の倉庫、まず青い縄で縛られた美津子=舵川まり子が登場しますが、彼女は柔らかな面立ちに、なかなか私好みの美乳! 思わず見とれてしまいます。ただし全篇を通して彼女に対する縄が緩いのが残念です。そして次に登場するのが、お待ちかねの静子夫人というわけで、こちらは赤い縄姿、当然、狼狽する遠山隆義という展開です。

 その最後の見せ場となるのが、まず花電車芸の書道で、描かれるのは「性」と「奴」の文字です。しかも側では千代が女王様スタイルで鞭を振るい、その命令によって小川美那子と舵川まり子はレズから男との絡みまでも演じてしまいます。そして完全に打ちのめされた遠山隆義に、田代は2人の出演裏ビデオ1万本を2億円で買取要求するのでした。

 というこの作品は、すでに述べたように原作には忠実ではありませんが、原作はもちろんのこと、団鬼六作品のエッセンスを上手く取りいれつつ、現代的なスピード感を加味した巧みな脚本と演出が見事だと思います。それは別の見方をすれば、ひとつひとつの責めが時間的に短く、やや物足りないということでもありますが、そこは職人的なカメラワークと照明、役者の個性を大切にした西村監督の度量が大きい演出と映像表現が光るところでもあります。そして素晴らしいのが、出演俳優が全て芸達者で、最高の演技をしているということです。特に主役の小川美那子は可愛い雰囲気に加えて哀切の表情の上手さ、大袈裟でない官能表現のリアルさ、そしてその台詞回しと被虐のヒロインとしての自覚がはっきりとした演技等々、本当に惹きつけられます。実際、正直に告白すると、私は彼女に対して作品の始まりでは静子夫人を演じることに違和感があったのですが、観ていくうちに完全に虜になりました。その彼女の簡単なプロフィールは――

小川美那子(おがわみなこ)
 昭和37(1962)年、宮城県生まれの彼女は、高校生の頃からモデルとして活動し、その後、独立系の成人映画でデビューしています。ロマンポルノには昭和60(1985)年頃から登場し、この作品の他にも「人妻コレクター(昭和60年・佐藤寿保監督)」「マゾヒスト(同・菅野隆監督)」等々の秀作に出演しています。また一般作品やオリジナル・ビデオ作品にも多数出演して現在に到っていますが、その間に写真集やエッセイ本も出版しているという多芸多才な実力派です。

 そのあたりは、この作品のラストで演じる「ひとり蝋燭ショウ」でのイメージ・カットを超越した妖しい蠢きに、さらりと凝縮されています。

 ということで、実はこの作品封切当時、私はもうエロ映画をリアルタイムで観ることには熱心ではありませんでしたが、やはりパブロフの犬というか、「花と蛇」と冠されていればそうはいきませんでした。しかしそれでも、あまり期待していなかったのは事実で、それがこの作品では良い方に裏切られました。それは物語展開や責め自体に新鮮味があるわけではないし、低予算ミエミエの作りでしたが、その中で監督&スタッフの職人的製作方針の律儀さ、そして出演俳優の秀逸な演技が一体となった意外な傑作ともいうべきものです。皆様も機会があれば、どうかご覧いただきとうございます。観るほどジワジワと迫ってくる不思議な熱気に、おもわず引き込まれる逸品だと思います。

(2004.11.07掲載・敬称略)