花と蛇 白衣縄奴隷

 映画化された「花と蛇」は、ダメだ、ダメだと言われつつも、それなりにヒットしていたのが現実でした。特に昭和60年代に作られた「地獄篇」「飼育篇」の2本は、後期ロマンポルノの中では、やはり存在感があり、当然、プログラム・ビクチャーの宿命として続篇が作られました。それが次の作品です。

花と蛇・白衣縄奴隷(昭和61年12月・にっかつ)
監督:西村昭五郎
原作:団鬼六
出演:真咲乱(山際美貴)、小川美那子(竹内直江)、江崎和代(伊藤希代子) 他

 傑作「団鬼六・美教師地獄責め(昭和60年・にっかつ・瀬川正仁監督)」でデビューし、「4代目SMの女王」に認定された真咲乱主演による本作は、結論から言うと、完全に原作を逸脱しています。ちなみにそれはキャスト・役名を見ても明らかだと思います。

 日活製作によるSM物には、昭和51年の「夕顔夫人(藤井克彦監督)」から、タイトルの前に「団鬼六」という輝かしい接頭語が添えられるようになりましたが、それはすなわち団鬼六のお墨付きというか、ある種の保証書のようなものだったと思います。これについては続く昭和52年の「檻の中の妖精(小原宏裕監督)」では用いられておりませんが、それをひとつおいて同年に公開された「貴婦人縛り壷(小沼勝監督)」からは復活し、高倉美貴主演による昭和60年の「緊縛卍責め(関本郁夫監督)」まで美しき流れとして続きます。

 では何故ここでそれが途切れたかといえば、次に公開されたのが「花と蛇・地獄篇」だったからで、続く真咲乱のデビュー作では再び「団鬼六」の冠が復活します。そして翌年は「花と蛇・飼育篇」「団鬼六・蛇と鞭」と流れていけば、次は必然的に「花と蛇〜」となってしまうのような按配で、このタイトルになってしまったのでしょうか? これを表に纏めてみると――

公開年度
作 品 名
監 督
主演女優
共演女優
昭和60年 団鬼六・緊縛卍責め 関本郁夫 高倉美貴 高橋かおり
花と蛇・地獄篇 西村昭五郎 麻布かおり 藤村真美
団鬼六・美教師地獄責め 瀬川正仁 真咲乱 志摩いづみ
昭和61年 花と蛇・飼育篇 西村昭五郎 小川美那子 舵川まり
団鬼六・蛇と鞭 西村昭五郎 真咲乱 黒木玲奈
花と蛇・白衣縄奴隷 西村昭五郎 真咲乱 江崎和代
昭和62年 団鬼六・生贄姉妹 西村昭五郎 小川美那子 松本美幸


 このあたりは個人的推察の域を出ておりませんが、SM物の一級品=団鬼六=花と蛇、というような図式がマニアだけでなく、当時もうすでに不特定多数の一般大衆にも深く認識されていたという証なのではないでしょうか。

 あるいは昭和55年にはこの作品と同じ西村監督による「団鬼六・白衣縄地獄」という麻吹淳子の主演作品がすでに公開されていたので、そのリメイクと混同されるのを避ける処置だったのかもしれません。また、ここで製作・公開されている3本の「花と蛇」はすぺて西村昭五郎監督作品なので、そのあたりも何かしらの関係があるものと思われます。

 ということで、いよいよこの作品についてですが、開始早々の吊るし、縛り、叩きというSMイメージを横溢させたタイトルバックから、いきなりピンクの粘膜の大アップに続き、なにやら女性のよがり声が被ってきますので吃驚される方もいらっしゃるかと思います。実際、私も映画館の大スクリーンで初めて見た時は思わず衝撃を受けましたが、実はこれ、口腔内粘膜のアップであり、つまり歯医者の治療場面だったというオチがついております。

 物語はその歯科医院から始まり、その歯医者は治療と共に目を付けた美女を麻酔で眠らせて慰み者にしているという設定なので、当然看護婦=小川美那子もグルであり、そうした行為の果てに興奮した2人が診察室で絡みあうという秘め事が続きます。そしてその新たな餌食になるのが真咲乱です。

 彼女はOLでありながら、組み紐の勉強もしているということで、この歯科医院にはそのお師匠さん=江崎和代の紹介でやって来るのですが、ここでの歯の治療が真っ当にやればやるほど拷問に見えてくるという、このあたりは皆様も経験があるところだと思います。実際、虫歯を削ったりするところでは痛みに耐えかねての彼女の涙という描写もありますし、何よりも患者が座らせられるあの歯医者の椅子そのものが拷問道具と紙一重と、痛感させられます。

 こうして悪徳歯科医師に目を付けられた彼女は2回目の診察では麻酔で眠らされ、裸に剥かれて大股開きで例の椅子に縛られ、秘所を撮影されたり、悪戯されたりします。もちろん巨乳を嬲られる場面もあり、夢と現の間で悶える真咲乱の痴態・狂態は見応えがあります。またその時の男の嬉々とした表情とクールに構えているようで興奮してしまう小川美那子の対比も興味深いものがあります。

 もちろんそこには彼女の嫉妬心というものが内在しており、これは後半へ繋がる伏線になっております。

 ところでこれも当然とでも言いますか、お約束として真咲乱と江崎和代はレズの関係として設定されており、その2人の絡みも美しさ、粘っこさがあってかなり興奮度が高く見逃せません。西村監督の演出も2人の肌の艶やかさ・柔らかさというあたりを存分に活かしたものになっていると感じます。またここでも真咲乱に対する愛情と嫉妬が伏線としてちりばめられ、それをジクジクと表出していく江崎和代の演技も素晴らしいと思います。

 このようにこの作品は2人の女=小川美那子と江崎和代の存在がかなりのウェートを占めており、それが物語の中盤から後半にかけてのクライマックスを大いに盛り上げてくれます。

 まず、真咲乱が最後の歯科治療診察の後に悪徳歯科医から土蔵に誘い込まれ、襲われて縛りからレイプと続きますが、その時使われるのが彼女のお師匠さん=江崎和代が編んだ組み紐というところが芸が細かく、さらにその場に乗り込んできた小川美那子が嫉妬に狂い、真咲乱をその組み紐でビシバシに打ち据えるあたりは強烈で、場面はそのまま蝋燭責めに発展します。もちろん真咲乱の嫌がり、悶えの表情も本気度がかなり高いようで刺激的です。

 一方、江崎和代は彼女が捕らわれ犯されているとは知らず、身も心も傷ついて戻ってきた真咲乱を激しく詰問します。この時の「男ができたのねっ……」と言いながら彼女に迫る江崎和代の怖さ、さらに無抵抗の真咲乱の衣服を剥がし、美しい肌に残された縄目や鞭打ちの痕跡を舌で舐めまわす時の妖しい雰囲気は最高です。

 肝心の真咲乱は困惑の中にも、このころになると己が豊満な肉体に刻み付けられた被虐の喜びに心の内までも侵食されてきており、再び連れ込まれた悪徳歯科医院でおもちゃとなってしまいます。それはまず診察椅子に全裸で固定され歯茎に何本も注射を打たれるというところから、利尿剤をチューブで体内に入れられての放尿強制と続きますが、ここでは彼女の口が医療器具で強制的に開けられ固定されているので呻き声だけしか聞かれないのがやや残念で、個人的には「もっ、もれそうよっ……」というような台詞が欲しかったところです。

 で、こうした展開の後、物語はその場に江崎和代が乗り込んで来るというところから2人は例の土蔵に監禁され、縛り、鞭打ち、強制レズ、バイプ責め、おしゃぶり強制、氷責め等々の見せ場となります。

 ここで特筆しておきたいのが、江崎和代の演技の素晴らしさで、彼女はこれまで出演してきたSM物では屈折した虐め役が多かったのですが、ここでの和服姿での被虐の官能美には思わずグッと来るものがあり本当に素敵です。

 また小川美那子のクールな演技も衝撃のクライマックスに向けて巧みにこちらを導いてくれますし、悲劇が結局、登場人物を新しい世界に導いてくれるというラストには、真咲乱の本当に美しい被虐の姿が拝めます。

 以上のように、この作品はなかなか雰囲気のある秀作で、女の嫉妬とSM風味を巧みに混在させて見せ場を作っていく西村監督の手際の良さは、流石数多いロマンポルノを手がけ、特にその中では最多のSM物を撮っているだけのことがあると感服させられるところです。

 しかし、その中にも不満が無いわけではありません。

 まず被虐のヒロインというべき真咲乱が物語の中で狂言回し的な役割になってしまっていること、また彼女に対する縛りがやや甘く緩いということです。それは江崎和代といっしょに縛られてる場面を見ると一層はっきりしており、せっかくムチムチで縛りがいのある彼女の肉体が活かされておらず残念でした。実はその点については後のインタビュー記事等によると、彼女はSM物出演に当初から嫌気がさしていたらしく、そのあたりがここへ来て影響してしまったものと推察しております。

 それと一番問題なのは、何故これが「花と蛇」なんだっ! ということです。成人映画〜エロ映画ではタイトルと内容が大きく異なっていることは、常識といってしまえばミもフタも無いわけですが、それにしても全く原作とかけ離れているこの作品を「花と蛇」として製作しているとしたら、それは許せるべきものではありません。「SM物の一級品=花と蛇」という公式が存在していたとしてもです。

 では、「花と蛇」の必要最低条件はと言えば、やはり「遠山静子」という上流階級の美しき若妻が拉致・監禁されて、辱めを受け、その被虐の中から官能を見出して、異世界に覚醒するというところだと、私は思います。そして、その意味において、この作品は全くの失格ですが、SM映画としては、まあまあの佳作だと思います。どうか、そのあたりを踏まえてご覧いただきとうございます。

【付記】
 拙文は「闇の中の妖精第11回・真咲乱の巻」の一部分を改稿したものです。

(2004.12.08掲載・敬称略)