実写版「ハレンチ学園」の世界−1

 昭和43(1968)年の夏ごろ、当時中学生だった私の前に「少年ジャンプ」という新しい漫画雑誌が登場しました。当時の漫画雑誌は月刊誌から週刊誌にその主力が移っていた頃で、「少年マガジン」「少年サンデー」「少年キング」という所謂三大誌が人気を競っていたのですが、そこへ割って入った「少年ジャンプ」がそれらと決定的に違っていたのは有名漫画家の作品が載っていないというところでした。実際、創刊当時の「少年ジャンプ」で活躍されていた漫画家の中で私が知っていたのは貝塚ひろしだけでした。このあたりは有望な新進の漫画家を育てる編集方針ということで後年評価、あるいは酷評されておりますが、実際は後発の弱みで有名漫画家から原稿をいただけないという部分を逆手に取った苦肉の策と受け取れないこともありません。ですからリアルタイムで接していた私からすると、あきらかに「少年ジャンプ」は他誌に比べて魅力に乏しいものでした。

 ところが毎号続けて読み重ねていくうちに私の心を掴んで離さない作品に遭遇、それが小室孝太郎のSF作品「ワースト」と永井豪のギャグ漫画「ハレンチ学園」でした。

 「ワースト」は大雨が降り続いた後にそれに濡れた人類が異生物に変貌し、生き残った地球人と凄まじい戦いを繰り広げるという、所謂侵略テーマのSF作品で、画風は手塚調でしたが物語展開がとても上手い上に救いの無い部分があったりして、連載開始直後から忽ち惹きつけられました。しかし残念ながら小室孝太郎は編集部とのトラブル等で表舞台から消えていくことになります。

 一方「ハレンチ学園」は生徒対先生の戦いを主題にした学園物で、破天荒なギャグが物凄いパワーを発散しており、とても新鮮な面白さが感じられました。この作品については今日、エッチで反社会的な少年漫画の元祖的な評価を受けておりますが、連載開始当時はエッチな部分は今日言われているほど感じませんでした。むしろそれよりも当時の常識を超えた物語設定・展開が強烈で、なにしろ登場する学園の先生達がまず異常変質者的キャラクターとなっており、例えば全身に虎の毛皮をまといながら尻だけは丸出しにしている吉永先生=通称ヒゲゴジラとか、常に「丸ゴシデパート」の宣伝を入れたフンドシをヒラヒラさせている荒井先生=通称マルゴシ、あるいは西部劇のガンマンスタイルで登場するマカロニ先生等々が生徒を徹底的にしごきまくるのですが、その内容が今日でいうところのセクハラを含んでおり、さらにそれに対する生徒の反撃がかなり暴力的に描かれておりました。と、言うよりも物語の基本が生徒達のヒゲゴジラいじめ、つまり生徒が先生をやっつけるという漫画がそれまでは無く、そのあたりに私は痛快なものを感じていたのです。

 で、肝心のエッチな部分ですが、すでに述べたようにそれは連載開始当初から露骨になっていたのではなく、連載が続いていくうちに「女子身体検査のぞき」とか有名な「スカートまくり」が登場していくのですが、「女子身体検査」の場面では乳・尻・裸体がはっきり描かれていることは無く、また日本中の学校で問題化した「スカートまくり」にしてもこの作品が元凶では無かったということで、実はその下地になっていたのが昭和44(1969)年にテレビで放送されていた丸善石油のCMでした。それは猛スピードの車にあおられて女の子のスカートがめくれて白いパンティがチラリと見えてしまい、それを演じていた小川ローザというモデルが思わず「オゥ、モーレツ〜」とつぶやいてしまうというもので、もちろんこのCMは大ヒット、彼女も人気者になりましたが、今の感覚からするとそれほど露出度が高いというわけではなかったと思います。ただ、当時の日本のお茶の間にはこういうものに対する免疫がありませんでした。したがってこの「オゥ、モーレツ〜」は流行語となり、小川ローザのパンチラが拝める丸善石油のポスターは貼っても貼っても次々に盗まれ、テレビのお笑い系番組等では「オゥ、モーレツ〜」と言いながら女の子のスカートをまくるのがギャグとなり、さらに子供達がそれを真似していくというある種の社会現象となっていきました。

 そしてその影響を受けたひとつの例が「ハレンチ学園・モーレツごっこの巻」でした。このエピソードはスカートまくりが流行っている学園にヒロインの柳生みつ子がノーパンで登校してしまうという部分がミソになっているのですが、その最初の部分で主人公の男子である山岸八十八が小川ローザのCMを見ているというカットがあるのです。

 このように当時の学校や子供たちの間では「スカートまくり」がすでに流行っており、「ハレンチ学園」がその発信源と思われているのは正しくはありません。しかし、この「モーレツごっこの巻」は私にとって物凄く刺激的でした。特に遅刻しそうになり、学校のフェンスを飛び越えた柳生みつ子がその時の風圧でノーパンだったことに気づき、スカートの前を押さえて「はいていないわ……」と困惑して恥じらいを見せる場面、さらに学校の階段や教室でもその事を気にしてモジモジする場面等々、最高の色っぽさというか、そのエッチな雰囲気の仕草にはクラクラするほど興奮させられた鮮烈な記憶が今もあります。おそらくこれは私だけでは無かったはずで、これをきっかけにしてますます「スカートまくり」が流行し、その結果「ハレンチ学園」が俗悪な漫画として叩かれる一因になったのだと思います。

 ところでこの「ハレンチ学園」が当時どのような経緯で社会問題化したかというと、それは三重県のある中学教師が教え子たちに人気のある漫画ということで「少年ジャンプ」を手にしたところ、「ハレンチ学園」のあまりに反教育的な内容に驚愕し、新聞に投書したところから全国的なニュースになっていったのでした。なにしろ聖職者であるべき教師が変質者的に描かれ、率先して生徒達にエッチないたずらを仕掛ければ生徒達が反逆して先生を懲らしめ、さらには文部省の役人と思しき人たちまでもがハレンチな行動をしてしまうという、教育に携わる大人にとっては許しがたい内容でしたからその衝撃度はかなりのものだったのでしょう。当然PTAを中心とした親達も同調、マスコミはその衝撃的な部分を強調しておもしろおかしく報道していったのは言うまでもなく、「ハレンチ学園」と「永井豪」そして「少年ジャンプ」はその騒動によって有名になったと言っても過言では無いのです。しかし、それによって「ハレンチ学園」の表現が抑えられたのかというとそれはむしろ逆であり、例えばいきなり本筋と関係なくヒロイン・柳生みつ子の裸の絵が入ってきたりして、もちろん人気は大爆発、ついに映画化されることになります。

 この作品については現在、一部でつまらないという悪評が定着しつつありますが、リアルタイムで観ていた当時中学生だった私にはなかなか刺激的で面白かった記憶が残っております。もちろん観に行ったのはエッチ目当てです。今となってはその部分など???と言えるほど他愛が無く、またギャグそのものも今日の感覚からすると何が可笑しいのか分からない部分もあるはずで、そのあたりが今日の悪評に繋がっているのかもしれません。しかしそれが当時、社会現象になるほど俗悪であったということは今では歴史の一頁! 今回はそのあたりを踏まえて、未見の方にも分かりやすいようにご紹介させていただきます。
(敬称略・続く)


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