実写版「ハレンチ学園」の世界−2

○ハレンチ学園(昭和45年5月)
製作:日東プロ&ピロ企画
配給:日活
監督:丹野雄二
原作:永井豪
脚本:山崎巌、鴨井達比古
監修:阿部進
音楽:山本直純
出演:児島みゆき(柳生みつ子=通称・十兵衛)
   宍戸錠(マカロニ)、藤村俊二(ヒゲゴジラ)
   小松方正(マルゴシ)、由利徹(パラソル)
   上田吉二郎(校長)、左ト全(用務員の甚兵衛)
   うつみみどり、石井均、大泉滉
   なべおさみ、小松政夫、小桜京子
   武智豊子、十朱久雄、ミッキー安川
   三遊亭歌奴、雷門ケン坊(山岸八十八)
   大谷淳(イキドマリ) 他

 原作の大ヒットを受けての実写版第1作です。まず豪華出演者にご注目下さい。当時の社会的反響の大きさを思えば、その映画化には各社かなりの争奪戦があったのではないかと推察できますが、エッチで過激な学園ギャグ物という原作の性格を鑑みれば日活配給というのは頷けるものがありますし、それだけに製作者側も力が入っていたのでしょう。これだけバリバリの大物を一度に揃えたのは単なる子供向けの作品ではなく、大人の集客をも狙っていたことは明らかでした。またこの出演者達は当時日本テレビ系列で放送され物凄い人気があったギャグ番組「ゲバゲバ90分」の出演者とも一部重複しております。この番組は大橋巨泉と前田武彦が司会を担当し、テレビCMサイズ程の短いナンセンス・ギャグの連発で構成されたバラエティで、当初はプロ野球ナイター中継が無いときの穴埋め的な番組として製作されていたらしいのですが、いかにも高度成長爛熟期の当時にピッタリのせわしなさとバカバカしさ、そして微妙なエッチ感覚が受けて昭和44〜46年に高視聴率を上げておりました。そのバカバカしい部分ではハナ肇がヒッピーに扮し「♪アッと驚くタメゴロウ〜」と唸るギャグを憶えておられる方も多かろうと思います。ちなみにこの大ヒットを受けて作られたのが「アッと驚く為五郎(昭和45年・松竹)」というそのまんまのバカ映画で、これもヒットしたのでしょう、シリーズ化され全部で5本ほど製作されました。一方、エッチな感覚では例えば朝岡雪路あたりの大物女優の超ミニスカや水着姿でのあられもないお笑い演技とか、他にも松岡きっこ、小川知子等々、正統派の女優が乳揉みやパンチラ等も含む活きの良いところを見せてくれるので、個人的にはこの部分が大好きでした。

 こうした大物俳優達に混じってのヒロイン=柳生みつ子役にはオーディションで児島みゆきを抜擢、彼女は東映児童研究所に所属し、子役として活動していたようですが、この作品で一躍アイドルとして注目されていきます。

 肝心の本篇の内容は原作から様々なエピソードを巧みに取り入れ、それを積み重ねて約82分に纏めたもので、舞台が小学校から中学校へ変更されている他は登場キャラクターの色合も含めて原作の雰囲気を壊さないように極力努力が払われているところは好感が持てました。このあたりは永井豪自身もそれなりに脚本に参加していたのかもしれません。それはタイトルバックや本篇内に永井豪自らの絵がカットとして用いられていることからも推察できます。

 そしてそのタイトルバックに流れるのが作詞・永井豪、作曲・佐々木勉によるグルーヴ感いっぱいの名曲「ズビズビロック」で、勉強不足で誰が歌っていたのか今となっては不明ですが、確か当時東芝レコードから発売されていました。

 で、物語は原作では入学式からスタートしていましたが、ここでは卒業式の場面から始まります。もちろん「ハレンチ学園」ですから校長は堂々と居眠り、生徒は悪ふざけ、父兄はだらしなく♪仰〜げば尊〜し等と歌っているので指揮者はブチキレてしまい、それを引き継いでヒゲゴジラがアダムとイブのセックス物語を生徒に語ってしまうという、いきなりのタブー全開! さらにこの混乱の場に教育委員会のお偉方が到着すると、あわてた校長がまず接待場所の確保を命ずる始末です。しかしこの乱れた卒業式の現場を見られては来年度から補助金を打ち切られることに気付いた教師達は式を一時中断させ、善後策協議のために職員会議に入ります。当然のその会議もメチャクチャです。

 このあたりまでですでに主要キャラクターが登場しておりますが、まずヒゲゴジラ役の藤村俊二がオネエ言葉や屈折した含み笑いを自在に操り、またマルゴシ役の小松方正も原作そのまんまの雰囲気で好演です。さらに校長役の上田吉二郎が出鱈目な演技で良い味を出しまくれば、左ト全も亡羊とした持ち味を全開させております。そして特筆すべきは生徒も教師も大人達もすべて自分の都合を優先させて行動しているという、いくらギャグとはいえ、それまでの学園物では抑えられてきた部分が堂々と表現されているということです。

 物語はその後、生徒からオール1の通知表をオール5に書き換えることを条件提示されたヒゲゴジラがそれを受け入れ、卒業式は整然と無事再スタートしていきますが、ここで挨拶に立った教育長=三遊亭歌奴(現・円歌)が得意のエロ味を含んだ漫談をやらかしてしまうというオチがついております。

 それにしても当時の封切日はゴールデンウィーク中であり、話題作でもあったために満員の劇場内には教育関係者や一目でPTAと窺い知れるおばちゃん連中が来ていましたが、今思うとこうまで学校教育そのものをコケにされたのでは相当熱くなっていたことでしょう。それは破天荒な物語そのものとともに、実はタイトルロール直後、つまり物語が開始されるその最初に昭和26年5月5日に制定された「児童憲章」の冒頭の三行=児童は人として尊ばれる、児童は社会の一員として重んじられる、児童は良い環境の中で育てられる、が声だけですが生徒役の出演者達によって唱和されているのことで増幅されているに違いありません。封切日が子供の日でなかった(資料によれば5月2日封切、ちなみに私は3日に鑑賞)のが残念なくらいです。

 この芸の細かさはおそらく監修を担当された阿部進の存在の大きさを示すものと推察しておりますが、この人は小学校教師から教育評論家に転じ、特に性教育問題についても熱心であり、斬新で鋭い意見を親しみやすいキャラクターで述べるということで、通称・カバゴンと呼ばれテレビ等のマスコミから注目されておりました。ですからその発言・行動は当時からかなりの影響力があったのですが、その阿部進が折から社会問題化していた「ハレンチ学園」を擁護する側に立ったのはその問題を益々過熱させる要因であったと思います。このあたりは現在では如何様にも勘ぐることが出来ますが、この作品が単なるギャグだけではなく、シニカルな味を含んだバカ映画の傑作に仕上がっているのは製作にその阿部進が関与していたからではなかろうかと思います。

 そうした皮肉たっぷりの部分は次の場面にも引き継がれます。それは通知表を持って帰った山岸八十八が家に入るなり父親から包丁を投げつけられるところから始まる親子喧嘩です。しかも山岸の両親は成績が悪い事を理由に息子をぶっ飛ばすことを楽しみにしているのであり、実際はオール5になっている通知表の存在を、また必死でそれを訴える息子をも信じない、そして子供を虐待することが生きがいになっているという恐ろしい事実がお笑いでありながら表現されているのです。もちろん息子も親をバカにしており、忽ち大立ち回りに発展しますが、そのギャグの部分もコマ落とし〜早回しの映画的技法で笑いのエッセンスを巧みに抽出しており、特に父親役の石井均の演技が最高です。そしてここでのオチは本当にオール5の通知表を見せられた両親が息子を褒めるのではなく、これまでの楽しみ、つまり不出来な息子を虐待することが出来なくなったことを嘆くというものになっております。怖いですねぇ〜。しかし、それが理屈抜きに笑えるものになっているところが出演者の力量も含めてこの作品の凄いところです。

 こうして新学期を向かえた学園では最初に恒例のクラス換えが行われますが、下心のある教師達は男子生徒を檻に閉じ込め、女子生徒だけを集めてセクハラ・悪ふざけを始めます。そしてここに登場してくるのが流浪の体育教師マカロニ=宍戸錠で、そのスタイルはウェスタンハットにポンチョ姿、もちろん腰にはリボルバー、馬に跨り棺桶を引きずってくるという完璧さです。しかもお得意のシャープなガンプレイを披露し、トランプ勝負のイカサマでマルゴシを引掛けて男子生徒達を解放してしまうという、それは宍戸錠が日活無国籍アクション作品で毎度演じてきたことの再現であり、つまりは自分自身の往年の当り役をパロッているですから、このあたりから物語構成は理屈抜きで暴走を始めます。

 まずマカロニが男子生徒を拳銃で脅しながら体育の授業でしごきまくれば、ヒゲゴジラは女子生徒を下着姿にしてのセクハラ授業です。ここがこの作品の最初のエッチ場面で、さあ皆様、十代の美しき肉体をたっぷりお楽しみ下さいという趣向になり、ヒゲゴジラは女子生徒達に机を片付けさせ、下着姿の全身が完全に見えるように命令します。しかもその片付けをしている女子生徒達にちょっかいを出すというワルノリです。ただしここでの下着姿というのは生のブラジャー&パンティではなく、画面上ではビキニ、あるいはセパレーツの水着姿ですのでやや残念ではあります。しかし、それでも女子生徒達の嫌がりはなかなか楽しめます。

 一方、これを知った男子生徒達はヒゲゴジラ打倒のために一致団結、デモから強制突入を敢行しますが、このあたりは当時の学生運動をモチーフにしているために今の人達には笑えないところかもしれません。こうした学生運動のデモやアジテーションは当時日常的に見られたものでしたが、この作品公開当時はそれがやや下火になって来ており、そこでこうしたギャグにも取り入ることができたのだと思います。

 もちろん教室は大混乱、その上そこにマカロニやマルゴシまでもが加わっての騒動となりますが、お約束の女子生徒達の若々しい肉体を強調した映像、お笑い場面もたっぷりあります。また校長に男子生徒が立ちションを浴びせるという反体制的なギャグも用意されております。

 というわけで、このあたりまではやや学園物の王道を外れた作りになっておりましたが、次の場面では山岸と十兵衛のライトなキス・シーンがあって青春の香りを漂わせることも忘れておりません。

 ところでヒロインのニックネームがなぜ十兵衛かといえば、それはもちろん苗字から推察できるように、柳生十兵衛の血を引く一族の子孫であるからで、家族は皆、柳生流の武術・忍術の使い手であり、もちろん柳生みつ子もその流儀を会得しており、それを使ったアクション場面ではセーラー服のスカートが派手にひるがえったり、またレオタード姿に変身したりして、児島みゆきの明るく健康的なお色気の見せ場になっております。

 しかし、その溌剌としたヒロインの家庭にもちゃんと問題があり、それは婿養子に入った父親が虐待され居場所を失っているということです。この虐げられるダメおやじ=なべおさみが大熱演、ワイシャツ姿に赤いパンツという、浮気現場から逃げ出したような格好で鬼妻=ミッキー安川から虐められる場面では劇場内が爆笑の渦でしたが、その場に居た大人達の中にはきっと笑えなかった人も……。と、ここまでが前半です。
(敬称略・続く)


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