「魅惑のムード / 秘宝館」鑑賞記 


 少年時代からセックス・シンボルが歌ったレコードがとても気になっていました。昭和40年代のテレビでは歌番組が多く、またラジオの深夜放送も全盛であり、そこから様々なジャンルのエッチな歌が流れ、また素敵なセクシー・アイドル、お色気歌手が大勢登場していました。

 しかし、この手のレコードは気になっていたとしても、当時の少年には買える代物ではありませんでした。理由は小遣いの少なさということはもちろんですが、恥ずかしくて買えない、あるいは買っても自ら進んで鑑賞することが恥ずかしいという部分が大きいことは、ご理解いただけるかと思います。

 そして時が流れました。そんなイノセントな少年も大人になるにつれ、その手のレコードを収集し、独り悦にいる楽しみに耽るようになりましたが、その頃にはもうすでに入手不可能なブツが幻となって名盤扱いされていたのでした。

 ところが平成12(2000)年末、その方面の好事家を驚愕させる音源集が発売されました。それが今回ご紹介する「魅惑のムード/秘宝館」と題されたCD6枚組のボックス・セットです。

 これは東芝の通販専門部で扱っている所謂「ファミリー・クラブ商品」ですが、その音源は日本コロムビア、日本クラウン、キングレコード、テイチク、ビクター、東芝EMI等々から、風俗資料研究家の獅子十六によって厳選されたものです。しかもそれが昭和38(1963)年から昭和40年代という、個人的には日本歌謡曲が最もそれらしかったと思っている時代を中心にした選曲という点がまた素敵でもあり、脳天から股間までシビレさせていただきました。

 ちなみに日本の歌謡曲について、個人的に考察すれば、まず古賀政夫と服部良一という両巨匠の存在があり、前者については所謂「古賀メロディー」と呼ばれる日本人の琴線に触れる一抹の哀愁を漂わせた作風を確立し、歌謡曲の本流となっていきますが、これはどうも朝鮮半島のモードを巧みに取り入れたもののようです。モードというのは各音階、各音符から始まる5〜7音のことで、簡単に言うと、メロディーの雰囲気、例えば沖縄民謡には聴いた瞬間に沖縄と分かる調子があるように、その独特の音の並びを称したものです。他にもスパニッシュ・モードではどうやってもスペインや地中海の香りが漂ってくるように、あるいはビートルズのポール・マッカトニーが作る曲のように北イギリスのモードを使ったものとか、とにかくその音列・音階をどのように組み合わせて使っても、その雰囲気になってしまうというものです。もっと実践的に言えば、ピアノの黒鍵だけを色々と弾いてみると、何となく昭和の歌謡曲になってしまいますので、お試し下さい。一方、服部良一もまた「服部メロディー」として今日でも通用する洒落た感覚をちりばめた素敵な楽曲を次々に発表していきましたが、これはもちろんアメリカのポピュラー・ミュージック、ジャズ・ソングの影響を受けたものでして、実はそれはユダヤ人モードだと思います。

 で、日本の昭和40年代の歌謡曲ではそうした感覚がさらに昇華され、当時の洋楽の流行を取り入れた部分と従来の日本〜朝鮮半島のメロディがギリギリのところで最高度に煮詰められていたのではなかろうかと、今日推察しております。これが昭和50年代には所謂「ニュー・ミュージック」の台頭により、もうひとつ上の段階へ登りつめようとしていたのですが、悲しいかなそこには洋楽の単なるデッド・コピーとでも言いましょうか、所謂「もろパクリ」の世界が堂々とまかり通るようになり、それもネタが尽きると、今度は定型リズムと起承転結の見えない転調ばかりに依存した曲の乱発になり、今日の袋小路に至っていると思います。

 昭和40年代の歌謡曲の素晴らしさは、今日の若者がその当時の曲をカラオケで愛唱し、また製作サイドではそれ等を続々とリメイクしてヒットに繋げていくという現状を鑑みれば明らかで、そのあたりもこのセットの素晴らしさを痛感させてくれるところです。

(敬称略・続く/掲載画像は期間限定、クリックすると拡大します。)