「魅惑のムード / 秘宝館」鑑賞記 


 秘宝館参之館(disc-3)はキング・レコード&徳間音工、及びその周辺の音源を収録しています。

01 甘い囁き/宮下順子&水乃麻希(昭和50年)
   (作詞:杉紀彦 作曲:G.Ferrio 編曲:川上栄一)
 当時世界的に流行っていたフレンチ・ポップスのデュエット曲で、ここに収録されたのは当然カバー・バージョンですが、一応本命盤とされていたのがアラン・ドロンとダリダで製作された「Paroles...Paroles」、「甘い囁き」という邦題どおり、ダリダの官能的なボーカルにムードたっぷりなアラン・ドロンの女殺しの台詞が絡むという構成になっていました。ちなみに日本語盤で一番ヒットしたのは中村晃子と細川俊之のバージョンだったと思います。
 ここに収録されたバージョンは当時の日活ロマンポルノの看板女優を集めて製作されたアルバム「おんな不貞寝の子守唄」の冒頭を飾っていたもので、宮下順子の台詞部分の甘く濃密なムードがボサノバ風の曲調にピッタリ、そして懸命に歌う水乃麻希のボーカルとのコントラストが印象的な仕上がりになっています。
 宮下順子はいまさら述べるまでもない成人映画〜ロマンポルノの大スターですが、水乃麻希は日本舞踊・藤間流の名取から女優に転じた正統派の美女で、ロマンポルノでは「続・レズビアンの世界〜愛撫(昭和50年・曽根中生監督)」で山科ゆりと演じたレズの熱演はあまりにも有名です。また一般映画では水野麻希、あるいは水乃麻規子として多くの作品に脇役として出演しておりました。

02 あなたっていいわ/司美智子(昭和44年)
   (作詞・作曲:北木平八郎 編曲:東八郎)

 司美智子は昭和40年代に肉体派女優として一世を風靡しましたが、そのキャリアのスタートはナイトクラブの歌手で、この曲はメジャー・デビューとなったエロ小唄です。曲調にはラテン味も塗してあり、パーカッションやチープなオルガン、そしてキメのリズム・アレンジが秀逸です。そしてそこで存分に発揮される彼女のお色気ボーカルとバックのコーラスの妙がたっぷりと楽しめます。また胸の谷間を強調したジャケットも刺激的です。

03 めくるめく季節/田口久美(昭和50年)
   (作詞:増永直子 作・編曲:佐藤健)
 田口久美もまた、昭和50年代前半に大活躍したグラマー女優です。代表作は日活ロマンポルノでも飛びぬけて大ヒットした「東京エマニエル夫人(昭和50年・加藤彰監督)」で、この曲はその続篇「東京エマニエル夫人・個人教授(昭和50年・藤井克彦監督)」の主題歌でした。曲調は甘いフレンチ・ジャズ風で、気だるい雰囲気が存分に滲み出た彼女のお色気ボーカルが素敵です。

04 白い風/田中真理(昭和48年)
   (作詞:小谷夏 作・編曲:小室等)
 昭和47年の日活ロマンポルノ摘発事件により、「エロスの女闘士」として一躍社会現象にまでなった女優が田中真理でした。その辺りの詳しい事情については拙文「闇の中の妖精・第9回」に掲載してありますが、この曲はそうした紆余曲折の後にテレビに活動の場を移した彼女が出演したドラマ「白い影(昭和48年・TBS)」の挿入歌です。曲調は当時の流行であるフォーク歌謡でなかなかの佳曲ですが、残念ながら彼女の歌唱力に稚拙な部分が目立ちます。しかし、それでも切々と歌い上げるところに何とも言えない魅力を感じるのは、私だけでしょうか……。

05 愛のかわき/渥美まり恵(昭和50年)
   (作詞:なかにし礼 作曲:いずみたく 編曲:上田力)
 渥美まり恵は、大映末期の看板女優だった「渥美まり」と同一人物です。渥美まり時代の彼女は素晴らしい演技力と魅力的な肉体で一世を風靡しました。しかしその絶頂期に様々な事情から大映を退社し、改名して再出発したのですが、その間に驚くほど急速にスターとしての輝きを失ってしまったのは残念でした。
 この曲はスクリーンから遠ざかった後、本格的に歌手として転身を図った際にリリースされたもので、当時流行しつつあったクロスオーバー=フュージョン・サウンドを取り入れたなかなかの佳曲ですが、肝心の彼女のボーカルに稚拙な部分が目立ち、まったくヒットしませんでした。しかしこれは隠れた昭和名曲、現代でのカバーによる復活を待ち望んでおります。
 ちなみに彼女については「浪漫活劇文庫第二号」における拙文で取上げておりますので、機会があればぜひともご一読、お願い申し上げます。

06 今夜おしえて/牧村純子(昭和42年)
   (作詞・作曲:遠藤実)
 牧村純子は「牧村旬子」として、永遠のデュエット定番曲「銀座の恋の物語」で石原裕次郎の相手役としての活動が有名ですが、もちろんソロとしてもムード歌謡の人気歌手として昭和30年代中頃から40年代前半にかけて活躍し、多くの録音を残しております。彼女の魅力はその大人のムードと柔らかいお色気、そしてそれと相反するかのように時として漂わせるロリータ的な雰囲気だと私は思います。この曲はその辺りがとても顕著に発揮されたラテン調が入った歌謡曲で、彼女はやや甘えたような歌い方で迫っております。またこの曲を発表した時にはそのプロモーションのひとつとして、男性誌のヌード・グラビアにも登場したと、付属解説書にありましたが、その所為かレコード・ジャケットにもセミ・ヌードが使われております。

07 熊ん蜂/山内えみこ(昭和49年)
   (作詞:ちあき哲也 作・編曲:高田弘)
 「ネオンくらげ(昭和48年・内藤誠監督)」や「番格ロック(同)」等、数本の東映エロ・アクション系のプログラム・ピクチャーに主演・出演したことから、今でも熱狂的な隠れファンが多い山内えみこの歌手デビュー曲です。もちろんこれは映画での人気に肖って企画されたもので、スクリーンでの役柄同様にドライなお色気を発散させたアップ・テンポのアイドル・ポップスになっておりますが、しかし、その歌詞にはセックスそのものを感じさせる部分がある辺り、一筋縄ではいかない雰囲気があります。例えば「刺されたの私、抱かれたの私」とか「ぬいちゃいやっ、甘い針」等々というかなり際どいところを屈託の無い幼い感性で歌っているそのボーカルは、なかなか刺激的です。これが自然体なのか、それとも彼女の歌唱力ゆえの成果なのか、かなり興味を惹かれますが、いずれにせよその歌手としての実力はかなりものがあり、各社から発売された数枚のシングルやアルバムをぜひとも復刻・集大成していただきたいところです。

08 あたしでいいのかい/伊佐山ひろ子(昭和52年)
   (作詞:石原信一 作・編曲:栫ヒロ)
 ロマンポルノと言うよりも日本映画の名作と私が思い込んでいる「白い指の戯れ(昭和47年・村川透監督)」に主演して注目された伊佐山ひろ子は、けっして美人でもグラマーでもありませんでしたが、ややクセのある演技が中毒症状を招くほど強烈な個性を発揮して、その年のキネマ旬報主演女優賞を獲得するほどの活躍を見せました。その芸風は当時の世相・若者文化に強く結びついていたシラケ・不貞腐れという、桃井かおりに通じるものでしたが、彼女の場合はそれが公私の区別がつかないほど強烈なものだったらしく、それゆえに後の作品ではその個性を活かせる役が見当たらないのは残念でした。
 この曲はキング・レコードから発売されたシングル盤B面曲で、いわゆる「ズベ公歌謡」、やや自嘲的な歌詞をあばずれ的雰囲気で歌っており、その歌唱力は褒められたものではありませんが、滲み出る純情や一抹の寂しさのようなものが感じられて、個人的には気に入っております。

09 好き、嫌い/キューティ・Q(昭和44年)
   (作詞:前田武彦 作曲:いずみたく 編曲:大柿隆)
 「キューティ・Q」は大阪松竹歌劇団出身の女性コーラス・グループで、いろいろなキャリアがありますが、その中で特に目立つのが作曲家・いずみたくの作品に関わる活動でした。そこではかなりの数の録音を残しているようですが、彼女達は歌って踊って、さらにはお喋りもこなせるということで、昭和40年代にはテレビのバラエティ番組にも頻繁に顔を出していたように、その実力は万人の認めるところであり、特に不思議なお色気を発散させるそのコーラスが人気の秘密でした。それはこの曲でも存分に発揮され、何気ない歌詞の一節が、何故かエッチな雰囲気に聴こえてまいります。

10 愛の花園/ひろみ麻耶&谷口香織(昭和50年)
   (作詞:杉紀彦 作曲:S.Gainsbourg 編曲:萩原秀樹)
 Track-01で取上げた企画アルバム「おんな不貞寝の子守唄」の収録曲です。これもまたフレンチ・ポップスのカバーで、オリジナルはジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンスブールによるデュエット曲「Je T'aime... Moi Non Plus」です。
 スロー・テンポでムードたっぷりに歌っているひろみ麻耶は、ヌード・モデルとして活動した後、日活ロマンポルノ「実録ジプシー・ローズ(昭和49年・西村昭五郎監督)」の主役として鮮烈にデビューしたグラマーな美女で、そのエキゾチックな面立ちと抜群のスタイルを存分に活かした鋭い演技で人気を集め、日活だけで無く各社で多くの作品に出演しましたが、残念ながら大麻や覚醒剤で逮捕され、フェードアウトしています。
 谷口香織もモデル出身ですが、中学卒業後から文学座等で演技の勉強をしていただけあって、日活と契約して主演したロマンポルノ「わななき(昭和50年・西村昭五郎監督)」では愛くるしい雰囲気を存分に発揮した名演を見せました。彼女の魅力はズバリ、ロリータ的な部分で、この曲でもそのロリータ・ボイスで甘く切ない語りをたっぷりと聞かせてくれます。彼女もまた今もって熱狂的な隠れファンが多く、それは出演作品が少ないことが要因ではありますが、ここで醸し出されているような禁断のイメージが大きいと思います。

11 裏切り/夏木マリ(昭和51年)
   (作詞:橋本淳 作・編曲:萩田光雄)
 昭和歌謡曲に燦然と輝く「セクシー歌謡」というジャンルの女王が夏木マリだと、私は思います。彼女のヒット曲では今や伝説となったフィンガー・アクションによる「絹の靴下」があまりにも有名ですが、楽曲的にはこの曲も素晴らしく、ヨーロピアン・プログレとアメリカン・ニュー・ソウル、そして昭和歌謡曲の湿っぽい部分が巧みにブレンドされた名曲だと思います。もちろん夏木マリの場合、巨乳で抜群のスタイルというグラマーな肢体を存分に活かしたアクションで歌う実演が最高に魅力的なのですが、この曲で聴かれるように「ため息」の部分も含めた表現力豊かな歌唱も強力です。それは「夏木マリ」になる前の下積み時代から培われてきたもので、それがこの時点で大輪の花を咲かせたのでした。

12 月光のエロス/中島淳子(昭和47年)
   (作詞:ヒロコ・ムトー 作曲:三月はじめ 編曲:テディ池谷)
 前掲「夏木マリ」が下積時代に本名でリリースした2枚目のシングル盤A面曲がこれです。曲調はすでにお色気路線を狙っており、ラテン風味を取り入れた典型的な昭和歌謡曲になっています。彼女の歌唱は高校生の頃からレッスンを重ねていただけあって、なかなか安定した実力を発揮しておりますが、かなり際どい歌詞の解釈がイマイチというところがヒットしなかった要因かもしれません。ただし、今聴くとその部分が堪らない魅力になっているのも事実で、やはり唯一無二の個性を持った名歌手の片鱗を漂わせています。ちなみに彼女はクラシックの声楽修行中に芸能界の目に止まり、テレビや舞台等でチョイ役として活動後の昭和46年に正式デビューしましたが、この曲も含めてさっぱり売れずに結局引退、しかし昭和48年に「夏木マリ」として再デビューし、大活躍していくのは、皆様ご存知のとおりです。

13 ただそれだけのこと/林マキ(昭和46年)
   (作詞:なかにし礼 作曲:村井邦彦 編曲:馬飼野俊一)
 近年のソフトロック・ブームでにわかに人気が出てきた曲で、このバージョンの他にもオリジナルの笠井紀美子バージョンの他、数人の歌手の録音が残されていると言われております。しかし、ここで聴かれるバージョンは全然ソフトロックでは無くかなりR&B調にアレンジしてあり、グルーヴ感たっぷりのリズム隊や躍動感のあるブラス・アレンジ等、非常にカッコイイ仕上がりです。ただし、失礼ながら林マキの歌唱が当たり前すぎるのが減点です。この辺りは彼女がクラシック出身ということから安定した実力を発揮している部分が裏目に出ているものと思われます。つまり少しばかり「汚れ」が足りないのが残念……。ちなみに付属解説書によれば彼女は103-60-98の爆裂ボディだったそうで、うむむむ……。

14 ベッドにばかりいるの/フラワー・メグ(昭和46年)
   (作詞:春名美幸 作・編曲:池野成秋)
 フラワー・メグは昭和46年春頃から男性誌のグラビアやテレビの深夜番組に、いつの間にか登場していたという記憶が、私には残っています。そしてそのイメージはヒッピー娘というか、「裸なんて平気!」っていう部分が非常に強く、実際、テレビではパンツ一丁で歌って世間を騒がせました。彼女の位置付けは所謂セクシー・タレントですが、不思議な雰囲気を漂わせる面立ちや芸風はいかにも昭和40年代的で、それは出演した映画、例えば「不良番長/手八丁口八丁(東映・昭和46年・内藤誠監督)」等でご確認下さい。ちなみに彼女は、吉祥寺に今もあるジャズ喫茶「メグ」でウェイトレスとして働いていたらしく、芸名もそれに因んでいるという説が有力です。
 ここに収録されたのはそうした活動が一番注目されていた頃に発表された彼女のデビュー曲で、当時のプロモーションには、レコーディングはオール・ヌードで行われたという煽りがありましたが、やや水気の多い甘えた歌い方や、ブレスの合間に「うふっ」という囁きがあったりして、フレンチ・ジャズ風のメロディが然も有りなんの出来です。

15 闇に白き獣たちの感触のテーマ/東てる美(昭和53年)
   (作詞・作曲:東てる美 補作曲:四方章人 編曲:小笠原寛)
 日活SM物の傑作「生贄夫人(昭和49年・小沼勝監督)」で強烈な浣腸シーンを演じて鮮烈にメジャー・デビューした東てる美は、その愛くるしい魅力と新鮮な肉体で銀幕ばかりか男性誌のグラビア等でも活躍し、忽ちオナペット・アイドルbPとして注目を集めました。しかし彼女は単なるセクシー女優では無く、的確な演技力が高く評価されて一般映画やテレビにも進出していきました。また自ら主催する劇団での公演や映画制作における活動もあり、昭和53年には製作・原作・監督・脚本・音楽そして主演をすべてやってのけた自主制作映画「闇に白き獣たちの感触」を完成させています。
 この曲はその主題歌で、ストリングス・アレンジも流麗なヨーロッパ系ポップスのスロー・ナンバーです。囁くような彼女の歌い方は、自作曲なのでその解釈も絶妙で、サビからの展開はコーラスやメロディも素敵、そしてバックのフュージョン風の演奏と良くマッチしています。彼女の溢れんばかりの才能の一端をじっくりとお楽しみいただきとうございます。

16 黒いらんたん/鰐淵晴子(昭和51年)
   (作詞:杉紀彦 作曲:加藤和彦 編曲:石川鷹彦)
 ドイツ系ハーフの彼女は、幼少の頃に天才バイオリニストとして注目され、次いで映画・テレビで活躍、さらには国際派女優として大輪の花を咲かせた魅惑の美女ですが、個人的は写真家・タッド若松とのコラボレーションによる「Ipy Girl Ipy」での、当時としては斬新で刺激的なヌードが忘れられません。細身なのに乳が大きめで……。
 というような部分はさておいて、この曲はアルバム「らしゃめん」からシングルカットされたA面曲で、プロデュースを担当した加藤和彦お得意のエスニック風味を全開させた素敵なメロディに乗せて、彼女が雰囲気たっぷりに歌っております。尚、彼女は翌年の東映作品「らしゃめん(牧口雄二監督)」に主演しますが、前述した同名アルバムとの関係は所謂「にわとりと卵」というか、その公開の合わせてこの曲もタイトル曲のB面として再発されました。ちなみに「らしゃめん」とは江戸時代末期〜戦前にかけて、毛唐に囲われていたお妾さんの通称ですが、元々は長い船旅をしてくる毛唐たちが船内に飼っていた綿羊を指す言葉で、もちろん綿羊のあの部分を使って性欲を解消していたところから来たことは言わずもがなです。

17 おぼろ橋/白川和子(昭和50年)
   (作詞:杉紀彦 作・編曲:曽根幸明)
 ピンク映画〜日活ロマンポルノの大看板として素晴らしい活躍をした彼女は、昭和48年に惜しまれつつ引退、結婚されました。しかし昭和50年頃から再び芸能活動を再開、この曲はその時期に発売されたシングル盤A面曲で、典型的な昭和流行歌のメロディに乗せた語り物という仕上がりになっております。したがって彼女はそのメロディの一節しか歌っておりませんが、哀切の雰囲気と余韻を漂わせて語られる娼婦の悲しい心情が心に染みてきて、それがかえって効果的です。

18 爪/片桐夕子(昭和50年)
   (作詞・作曲:平岡精二 編曲:河村利夫)
 これもTrack-01およびTrack-10と同じアルバム「おんな不貞寝の子守唄」に収録されていたもので、ジャズっぽいムードが堪らなく素敵な、昭和歌謡曲史に残る名曲のカバーです。この曲は大人のムードを持った女性歌手ならば、そのほとんどが自分のレパートリーに加えており、音源的にも数多くの優れたバージョンが存在しているために、ここで聞かれる片桐夕子の歌唱には稚拙なものを感じてしまいますが、懸命に歌う彼女の健気な雰囲気は棄てがたいものがあります。
 片桐夕子はロマンポルノ初期からの大スターですが、下積み時代には五月由美として数本の日活一般作品やテレビに出演しているようです。彼女は演技も肉体も和風でありながら、その巨乳や時として訴えかけるような台詞回し等々が、私にはとても魅力的で忘れられません。

 (敬称略・続く)