生贄夫人

 日活ロマンポルノ路線では初の本格SM作品として、昭和49年6月に公開され大ヒットとなった「花と蛇」は、真のSM愛好者や原作に愛着を持つファンからは酷評され、もちろん原作者の団鬼六は試写の段階で「メチャクチャやないか! バカ、もうやめや!」と激怒した伝説が残されましたが、どうやらこれは真実らしいです。

 しかし、せっかく掴んだドル箱を手放してしまうほど、日活は甘い会社ではありません。前述のような経緯で団鬼六から原作を得られなくなったとはいえ、再び「花と蛇」と同じ監督・脚本・主演女優で、すぐさま第2弾が企画・製作されたのです。それが――

生贄夫人(昭和49年10月)
  監督:小沼勝
  脚本:田中陽造
  撮影:森勝
  音楽:月見里太一(=鏑木創)
  出演:谷ナオミ(秋子)、東てる美(薫)
     :坂本長利(国貞)、景山英俊(潔)、高山千草(ハル)、庄司三郎(ハンター)
     :谷文太(ハンター)、中平哲仠(刑事)、小宮山玉樹(刑事) 他

 俯瞰撮影された橋の上を白い日傘が移動している、その白い部分に「生贄夫人」とタイトルが出る、この瞬間が、まず、たまりません。日傘をさしているのは、もちろん和服姿の谷ナオミです。その彼女が何かに気づいてハッとする表情を見せ、物語は始まります。

 彼女が見たのは、かつての夫である国貞=坂本長利でした。その国貞は車の中から河原を見つめているのですが、そこには小学生くらいの女の子がしゃがみこみ、放尿している姿がっ! ここは放尿そのものの水流こそ描写されていませんが、その女の子が完全に尻を出してしゃがみこんでいるので、放尿としか受け取れない映像です。もちろん現代では撮影することが許されない演出ですが、当時はOKとしても、やはり何となく禁断の香りが強い場面です。だいたい成人映画に小学生の女の子が登場すること自体、危ないものを感じるはずです。

 で、ここは自然と目線を合わせてしまう2人というわけですが、それを意識しつつもグッと感情を押し殺し、日傘で顔を覆いつつ、凛としてその場を立ち去る谷ナオミが強烈な美しさです。ちなみに私は、これまで度々述べているように、この作品で初めて谷ナオミに邂逅したわけですが、この場面で既に彼女が団鬼六のSM作品に登場する被虐のヒロインのイメージそのものだと、強い感銘を受けています。

 さて、かつての夫は、どうやらその小学生の女の子を連れまわしていたらしいのですが、実は高校教師でありながら、3年前にやはり小学生にイタズラを働き、逮捕されたあげくに家出していたのです。つまりロリコン偏執狂というわけですが、ここまでの映像で谷ナオミは見事に完熟した美女という部分が徹底的に強調されているので、さもありなんと、説得力があります。ちなみに谷ナオミは生花の師匠で旧家のお嬢様、坂本長利は入り婿という設定です。

 結局、国貞=坂本長利は前述した女の子・ミカちゃんをその場に置き去りにして姿をくらますのですが、案の定、ミカちゃんは誘拐された子供でした。しかも国貞の長期間にわたる特殊な愛撫によって秘部が異常発達していたと、訪ねて来た刑事に告げられた谷ナオミは、絶望の渕に追いやられるのです。

 そしてある日、母親の墓参りに出かけた谷ナオミは、そこで待ち伏せされていたと言うよりも、実は尾行されていたのでしょう、坂本長利と出会い、強引に指輪を嵌められますが、これが意外な罠! 詳しくはネタバレになるので書けませんが、思わず唸る仕掛けによって、谷ナオミは捕らわれの身となるのです♪

 こうして山奥の廃屋に連れ込まれた谷ナオミは、いよいよ被虐のヒロインになっていくのですが、その道すがらの自然描写の美しさと彼女の妖しい魅力が絶妙なコントラストの映像美学に昇華されています。和服姿の谷ナオミの怯えが、こよなく美しい……。

 で、その廃屋は当然、電気も無く薄暗いのですが、ここは屋外からもれてくる陽射しと巨大蝋燭だけの灯りという雰囲気を見事に表現する照明&撮影技術が流石です。もちろん肝心なところが強調され、しっかり見える映像になっているのです。

 しかも演出がいきなりの陵辱とはならず、2人の無言の芝居、谷ナオミの不信と怯えが切りつめられた台詞に凝縮され、「間
を大切にした芝居が、これからいよいよっ! という展開を予感させてくれるのですから、ワクワクしてきます。そして、すすり泣く谷ナオミにジンワリと迫る坂本長利が、ついに彼女の帯を解きにかかりますが、もちろん谷ナオミは帰してくれることを条件に肉体を許すのです。ここは豊満な彼女の乳と乳首に執拗に吸い付く坂本長利の無言の演技が嬉々とした自然体で羨ましく、谷ナオミの官能の表情はもちろん素晴らしさの極致です。

 さらにお約束として、彼女は両手を縛られ、巨大蝋燭で秘部を陵辱されるのですから、もう、たまりません♪ もちろん彼女は家に帰してもらえるはずも無く、和服姿で縛られて監禁され続けるのです。

 こうなると皆様、既にご推察のように、食事は縛られたままで犬のように食う他はありません。そして生理現象としての要求も! ここは坂本長利がその場に居ないという設定なので、彼女は縛られたままで必死に用意されていた洗面器に跨るのですが、いよいよというその瞬間に、実は隠れてそれを観察していた坂本長利が「どっか、わるいんですかぁ」と冷酷に声をかけるのです。もちろん谷ナオミは羞恥の極みと極限の生理現象の狭間で、消え入りそうに悶絶し、悲しみのどん底に突き落とされるのです。――

 秋子:「お願いっ……、お願いっ、お便所に行かせてっ」
 国貞:「そこでしたら、いいでしょう」

という定番の台詞、そして身を捩り、自らの窮状を懸命に堪えながら訴える谷ナオミのギリギリの演技は、大袈裟という範疇を超えて、観るもの全てを惹き込む妖しさに満ちています。もちろん坂本長利は冷淡に焦らし、その背後で泣きじゃくる谷ナオミという、完璧な演出です。

 そして縄姿のまま、屋外のトイレに連れて行かれる彼女の全身での表現も素晴らしく、そのまま、しゃがみこんで縄を解いてくれるように懇願する演技、さらにそれを拒絶されて尻を捲くられ、扉を開けたまま、その後の行為の全てを観察される場面での身悶え等々、ここはいくら書いても素晴らしい映像と演技の前では、虚しくなるだけです。ちなみに谷ナオミは大小いっしょに用を足すわけですが、それは音と一瞬の映像だけになっています。また坂本長利が無表情な冷淡さからギラギラした本性をムキ出しにしていくあたりの演技も出色です。

 こうして出すものを出した谷ナオミは、汚れた身体を清める行水で、その豊満な肉体を拝ませてくれるのですが、愕く無かれ、この作品における彼女の本格的な全裸は、この場面が最初です。しかし、ここまでの興奮度はすでに頂点に達するほどです♪ さらにここで彼女はカミソリで坂本長利に反撃を試みますが、もちろんそれは虚しく失敗し、青竹まで使ってグリグリに縛られるのです! そして強烈な蝋燭責めまでもっ!

 ここでの谷ナオミは烈しい悲鳴、羞恥の嗚咽、肉体的な苦痛が官能に変化していく、その刹那の演技が唯一無二の素晴らしさで、それまで文章では知っていた究極の妖しさを実写した映像に、初めて観た時の私はクラクラするほどの感動を覚えたのでした。

 もちろん名匠・森勝のカメラワークも絶品です! それは彼女が気を失うまでの一部始終を完璧に活写しています。で、彼女が気がつくと、坂本長利がいません。そこで必死に縄から逃れ、廃屋から逃走をはかる谷ナオミという場面も、究極のリアルさがあります。もちろん全裸に縄ですから、古いコートを着て逃げ出すのですが、現実は厳しく、その途中で2人組のハンターに出会ったその瞬間から、次なる受難が降りかかるのです。

 それはもちろんレイプ! 2人かかりで押さえつけられ、裸体の縄をナイフで切られますが、今度はドロ塗れにされ、脂汗を流しながら苦痛の中で犯されていく谷ナオミは、物凄い熱演です。プルンと揺れる弾力に満ちた乳もたまりません♪

 そしてそのまんま、森の中に放置されている彼女を発見するのが戻ってきた坂本長利で、続けて彼女の汚れきった豊満な肉体を小川で洗ってやる時の優しさに満ちた表情と行動が、美しい自然描写と完全に一体になった、ここは本当に素晴らしすぎる名場面♪ もちろん谷ナオミは放心状態で無防備な裸体を晒すのです。

 そして名場面は、まだまだ続きます。それは今日あまりにも有名になっている、緊縛された花嫁姿の谷ナオミ! 国貞は「今夜、2人だけの結婚式を挙げようと思いましてね」と呟きながら、白無垢姿の谷ナオミを後手に縛りあげて梁から吊るし、彼女の太股を割り開いて秘部の剃毛まで始めるのです。

 ここも妄想を実写化した、如何にも映画的な構図・構成ですが、実際に縛られて宙吊りになっている谷ナオミのリアルな痴態が物凄く、しかもその場の嫌がり、怯え、滲み出る羞恥心には完全降伏です。坂本長利も完全に成り切った演技で丁寧にカミソリを使い、谷ナオミの乳首に吸い付いて、さらに冷静に花嫁姿の彼女と交合していくのです。

 もちろん谷ナオミも最高のリアクションでそれに応え、その官能美は怖ろしいほどです。ちなみにこういう男女の絡みは、当時の成人映画ではお互いに全裸という映像は許されておらず、必ずどちらかが衣服をつけていたりする不自然なものですが、ここはそれを逆手にとった名演出になっています。また余談ですが、小沼組では、そういう時の女体の揺れ具合を描写する時に、女優さんの足をスタッフが持って、烈しく揺するという裏ワザがあるそうですが、ここでの谷ナオミには必要ありますまい。それほど完熟している演技のそのあたりも、ご堪能下さい。

 さて、こうして谷ナオミを屈服させた坂本長利は、ある日、釣りに出た渓流の岩場で心中を図っている若い男女のカップルを発見します。この美女が東てる美ですが、しかし流石は坂本長利、すぐに助けるようなことはせず、彼女の体を撫で回し、まだ息をあるのを確認すると、その衣服の胸を開いて白ブラをずらし、まずは乳首のチェック♪ そしてスカートの中に手を入れて下着を抜き取り、そのまま昏睡状態の擬似死姦! ここでの東てる美は完全に夢の中の世界で愉悦の表情を滲ませるのです。

 さらに棲家にしている廃屋に彼女を連れ帰った坂本長利は、ここで股縄から全身へ強烈な縛りを仕掛けるのです。なにしろその映像が、いきなり白いパンティ越しにグリグリとワレメに縄をクイ込ませるアップになっておりますから、強烈です。また時が経ち、目覚めた東てる美の嫌がりにもグッときます。

 物語はこの後、心中が結局、失敗という未遂からの後悔、さらに男も意識を取り戻して、朦朧状態で廃屋に辿りついたことから捕らわれの身となって、いよいよ東てる美への浣腸という素晴らしい場面へ繋がります。

 なにしろ東てる美は後手に縛られ、尻を突き出すポーズで青竹まで使って拘束されているのです。そして浣腸の描写も、その薬液を溶かすところから彼女のヒップの検査、さらに大きな浣腸器の扱いと強引な挿入、彼女の苦しみと嫌がりの表情、注入されていく悪魔の液体の状態等々、細部にわたってリアルに、そして映画的構成に間然することのない描写が続きます。

 もちろん、その後は強烈な便意に襲われ、「トイレ……、早く……」云々という彼女の台詞と泣き叫び、痴態・狂態も迫真の演技で、しかもその刹那の世話をするのが谷ナオミという、これは凄まじい場面です。おそらく日本映画史上、初めてここまで撮影された、屈指の浣腸シーンでしょう。バックに流れる劇的な音楽も素晴らしく、また、その場の人物の表情・仕草も完璧な描写・演出になっています。

 そして、何とこの世に未練がなかったはずの死にぞこないの男が、自分の恋人の浣腸シーンを間直に見て、烈しく勃起! そこを谷ナオミに妖しく責められるのですから、これはもう、完全に天国と地獄です。もちろん東てる美は、坂本長利に縛られたまま犯されています。

 こうして現世への未練と執着を露わにしてしまった若いカップルは、再び、今度は褌姿で縛られ、磔にされて反省の時間を与えられますが、その間に坂本長利と谷ナオミは谷川の岩場で縄と鞭のお楽しみです。しかも谷ナオミは、もう完全にSMの世界に覚醒しており、その表情や仕草の妖しさは唯一無二の世界を現出させています。

 そしてここまで来ると、もう坂本長利がいくら責めても、彼女の世界を切り崩すことが出来無くなるのです。さらに物語は恐るべきオチがついて、然るべき大団円へと繋がるのですが、そこでグリグリに縛られながら、縄を解かないように懇願する谷ナオミの愉悦に満ちた表情は、とてつもない輝きです。

 ということで、これはロマンポルノの秀作にしてSM物の大傑作です。しかも、その映像のほとんどがSM場面であるにもかかわらず、非常にドラマ性が大切にされています。例えばロマンポルノでは先にドラマがあって、そこへエッチ場面を挿入して作り上げたかのような作品がかなりあるのですが、この「生贄夫人」は先にSM場面があって、そこから人間ドラマが生まれていくというような按配です。否、SMという行為が奥底に潜んでいた人間ドラマを掘り起こしたと言うべきかもしれません。

 劇中、坂本長利は谷ナオミという絶世の美女を妻にしていながら、何故ロリコンに走って事件を起こしたのか? そのロリコンおやじが、何故もう一度、大人の女である谷ナオミと関係を持ち、生活を共にしようとするのか? とにかく前半で谷ナオミを責めて、責めて、責めまくるところは圧巻です。

 また共演の東てる美の可憐で素朴な美しさはどうでしょう!? 完熟した谷ナオミとの対比も素晴らしく、これほど鮮烈なデビューを飾った女優さんも稀だと思います。なにしろ当時の彼女は現役の高校生で、しかも同時代のアルドル(山口百恵、アグネス・チャン、麻丘めぐみ等)よりもずっと可愛く、実際、こんなアイドルみたいな娘に浣腸なんてっ! という強烈な興奮度は、今もそのまんまです。その彼女のプロフィールは――

東てる美(あずまてるみ)
 昭和31年生まれで東京都出身、高校時代から谷ナオミ劇団に所属して舞台に出ていたという、言わば谷ナオミの妹分という存在から、この「生贄夫人」で銀幕デビューしています。そして続けて日活では「残酷・黒薔薇私刑(昭和50年・藤井克彦監督)」「お柳情炎・縛り肌(同)」「新妻地獄(同・加藤彰監督)」といった、谷ナオミ主演のSM物に助演し、主演作品が無いうちから、忽ちスタアになりました。もちろんその魅力は清純な雰囲気とピチピチした肉体、そしてグリグリに縛られ、虐められても、可憐な雰囲気を失わずに痴態・狂態を見せてくれるイキの良い演技でした。また同時に男性誌のグラビアや表紙にも頻繁に登場し、「オナペット・アイドル」と呼ばれるようになります。肝心の主演作品は同じ日活ロマンポルノ路線で「残酷・女高生(秘)私刑(昭和50年・林功監督)」「濡れて立つ(昭和51年・加藤彰監督)」「禁断・制服の悶え(同・林功監督)」「性処女・ひと夏の経験(同・蔵原惟二監督)」があり、彼女の人気に比例して大ヒットしていますが、いずれもSM物ではないのが残念です。しかしセーラー服&美少女マニアは必見かもしれません。そしてこのあたりから、彼女はロマンポルノの枠を越えて他社の一般作品やテレビにも多数出演するようになり、今日に至っているわけですが、その才能は単なるセクシー女優の域に止まらず、歌や司会、さらに全てを自分でこなした自主制作映画「闇に白き獣たちの感触」の配給・公開、東てる美劇団の運営・公演等々、多岐にわたっています。しかし私のような者には、この作品での浣腸場面とか赤褌姿、そして好きな男とピッタリと向かい合わせにグリグリと縛られ、即物的に放置されている彼女の姿が、ある種のトラウマになっているのでした。

 このように「生贄夫人」については、いくら書いても果てしない思い入れしかありませんが、そのあたりについては拙稿「闇に蠢く・第2回」も、ご一読願います。

 また私はこの作品によって、小沼勝という監督の素晴らしさ、恐ろしさ、そのヌメヌメとした演出の虜になりました。そしてそこに同居する妙な大らかさも、私個人の感性にジャストミートしています。冒頭で述べたように、小沼監督は前作「花と蛇」を原作者からメタメタに貶されていますが、その雪辱戦のようなこの「生贄夫人」に対しては、団鬼六も激賞したと言われています。そしてその後、再び、日活SM物に原作を提供することになるという、これはその意味でも重要な作品となっていますので、ぜひとも皆様にはご覧いただきたいところです。

 そして、これを観なければ谷ナオミもSM映画も語れないと、私は強く思っています。ちなみに予告篇では、本篇に使用されなかったカットもご覧いただけるはずです。

(2006.03.11 敬称略・参考文献:「永遠のSM女王・谷ナオミ / コアマガジン」)