Cannonball Adderley In Chicago(原盤:Mercury MG-20449=LP)
 Cannonball Adderley(as) John Coltrane(ts) Wynton Kelly(p)
 Paul Chambers(b) Jimmy Cobb(ds)
 1959年2月3日、シカゴで録音

 1950年代中頃に、モダンジャズはビバップからハードバップという、より大衆性の強いものに進化したわけですが、それはミュージシャンの技量・音楽性の深化とともに、オーディオ技術の進歩も大きな役割を果たしたと思います。

 それはまずレコードが、3分間程度の録音しか出来なかったSPから、長時間録音が可能なLPに変化した事、そしてモノラルからステレオに録音技術が発展したことがあげられます。特に後者は、富裕な白人層でなければ再生装置を入手出来ないという当時の事情があったにも関わらず、各社は続々とステレオ録音を敢行していくのです。もちろん同じ作品のモノラル仕様盤も同時に発売していくのですが、元々大手レコード会社はオーディオ機器も扱っているので、こういう流れは新しい方向に向かっていったものと思われます。ただし、マニアはこの当時の録音では、まだまだモノラル盤の方が音が良いことを知っており、それは現在でも変わっていません。

 では、当時のステレオ盤はどのような部分をウリにしていたかといえば、まず左右に音がはっきり分離しているところです。しかも真ん中から音が出ていない物がほとんどです。そして、それを活かす最高の設定が、ジャズではバトル物と云われる、同一楽器奏者による対決セッションの録音盤でした。

 このバトル物は、ジャズの世界では古くから行われていたことで、同一楽器で、尚且つ演奏スタイルが似通った者が、互いのアドリブを競い合って観客を興奮に導く演出でした。あるいは正反対のスタイルを持った同一楽器奏者の対決という趣向もありました。ですから、この当時のステレオ録音では、そういう趣向のアルバムがかなり作られています。つまり同一楽器奏者が左右のスピーカーで技を競うわけで、今回ご紹介するこの作品も、そうした意図が覗える1枚です。

 とはいえ、このアルバムのメンバーをご覧になれば、これが当時のマイルス・デイビス・バンドからのボス抜きセッションになっていることにお気づきになられるかと思います。おそらく録音はその巡業中のオフに行われたはずで、そういう意味でも、ひとつの絶頂時にあった当時のモダンジャズの真髄が聴かれる作品でもあります。その内容は――

A-1 Limehouse Blues(D.Furber-P.Braham)
 弾むようなリズム隊のイントロに導かれ、キャノンボールとコルトレーンが猛スピードでテーマを吹奏します。そして待ってましたとばかりに左チャンネルから激しく飛び出すのがキャノンボールのアルト・ソロです。続くコルトレーンは右チャンネルから、これも激しい吹奏です。ピアノ・ソロを挟んでのクライマックスはジミー・コブのドラムスと対峙しながらキャノンボールとコルトレーンのソロ・バトル! 最高に盛上がっています。

A-2 Stars Fell On Alabama(M.Parrish-F.Perkins)
 ここではコルトレーンが抜けて、キャノンボールの一人舞台、邦題「アラバマに星落ちて」というスタンダード曲を素材に、激情と泣きをたっぷり含んだ歌心溢れる演奏を聴かせてくれます。このボリューム感というか、膨らみとドライブ感に満ちたキャノンボールの吹きっぷりは他の追従を許さない、唯一無二の素晴らしさです。そして続くウイントン・ケリーのピアノ・ソロも素晴らしいアドリブ・メロディーを紡ぎ出していて、思わず、良いなぁと唸ってしまいます。

A-3 Wabash(J.Adderley)
 これまたリズム隊が素晴らしいイントロを弾き出しています。特にドラムスのジミー・コプはテーマではブラシ、アドリブ・パートではステックに持ち替えて快適なクッションを送り出しています。テーマそのものも躍動感たっぷりの楽しいメロディで、右チャンネルで最初にソロを取るキャノンボールは自作だけに快調そのものですし、続いて左チャンネルに位置するコルトレーンも得意の音数の多いフレーズを連発していきます。しかしこの曲は、リズム隊の素晴らしさが何よりも聴きものだと思います。

B-1 Grand Central(J.Coltrane)
 当時としては新しい感覚を含んだコルトレーンのオリジナル曲です。最初に右チャンネルからキャノンボールが登場、次にコルトレーンが左チャンネルから逆襲していきます。コルトレーンはこのセッション後の5月に、自身の代表作にしてモダンジャズ史上の傑作盤「Giant Steps:Atlantic 1311」を吹き込むという上昇期だけに、すでにそれを想わせる非常に斬新で意欲的なフレーズを連発しています。

B-2 You're A Weaver Of Dreams(V.Young-J.Elliot)
 キャノンボールが抜け、コルトレーンがじっくりと演奏するスロー・ナンバーです。当時のコルトレーンは所謂シーツ・オブ・サウンドと呼ばれる音数の多いアドリブ演奏を完成させつつありましたが、ここではむしろそれを押さえ、朴訥とした部分と饒舌な部分のバランスが絶妙な吹奏を聴かせてくれます。そして私はそこに、何か誠実さを感じてしまいます。

B-3 The Sleeper(J.Coltrane)
 ミディアム・テンポのブルースですが、モード奏法を取り込んだ新しい感覚に満ちています。ソロの先発は右チャンネルのコルトレーンで、前述したシーツ・オブ・サウンドをたっぷり聴かせてくれます。続くウイントン・ケリーは、それに触発されたかのように新しいフレーズでアドリブ・ソロをスタートさせますが、すぐにおなじみのケリー節で快適なブルース感覚を発散させ、左チャンネルから飛び出すキャノンボールにバトンタッチします。そしてそのキャノンボールも新しい感覚は取り入れてはいるものの、基本的には、これぞブルースというフレーズを聴かせており、なんだかコルトレーンだけが浮いてしまった演奏です。ただし、これはコルトレーンが時代を進みすぎていた証だと思います。実際に聴いてみて、もしこれがエルビン・ジョーンズのドラムスをバックにしていたら、どうなっていたか、簡単に予測がつくはずです。

 というこのアルバムは、バトル物の意味合いを含みつつも、A面がキャノンボール・サイド、B面がコルトレーン・サイドと決め付けて良いと思います。したがってキャノンボール名義のアルバムというよりは、当時の最先端のバンドの録音という意味合いが本当のところだと思います。すでに述べたように、当時の彼等はマイルス・デイビス・バンドのメンバーとして連日の巡業をこなしている最中だったので、リズム隊を核とした纏まりの良さは絶妙で、しかも独善的なリーダーの締め付けから逃れた、ある種の開放感がこのセッションを成功に導いていると、聴く度に感じます。しかもこういう演奏が、終わり無き日常の一場面であっさりと出来てしまうところに、モダンジャズの幸せな時代が覗えるのでした。

【現行CD】
 名盤なので入手は容易です。通常盤、輸入盤のデジパックのリマスター盤等、いくつかの種類がありますが、真ん中から音がしていないものばかりだと思います。それゆえ、ややオーディオ的な迫力に欠ける気も致しますが、そこは当時の流行ということで……。あと、低音部というか、ベースの音が物足りないので、再生時には重低音をお好みで効かせることを、お勧めいたします。

(2004.10.09掲載・敬称略)