昭和43年9月公開の「徳川女刑罰史」が大ヒットしたことで勢い乗った東映は、以後も続々と石井監督に同種の企画持ち込みます。それが「元禄女系図(昭和44年1月公開)」「異常性愛記録ハレンチ(昭和44年2月公開)」で、もちろんエログロ全開のヒット作になりましたが、それゆえ、世間の風当たりも猛烈になるのです。

 その急先鋒が映画評論家の佐藤忠男で、とにかく東映京都撮影所所長の岡田茂、プロデューサーの天尾完次、そして石井輝男監督は極悪人扱いです。もちろん婦人団体や教育関係者等からも同様の苦情・批判が続出しています。

 そしてその動きは、ついに内部からも表れ、ゴタゴタが噴出していきます。

 まず、次回作の主演女優に決定していた由美てる子が突如疾走、その原因については、いくつかの説があるので、今回はあえて書きませんが、それでも続行された撮影中の4月、今度は京都撮影所の助監督一同から批判声明が出されるのです。

 その内容は、もちろん異常性愛路線に対する反撥です。映画製作の現場は監督の力が絶対ですが、もちろん監督独力では何も出来ませんので、これは痛手でした。しかし会社側は、すでに配給が決まっているドル箱シリーズを中止出来るはずはなく、哀れ、石井輝男監督は撮影を続ける他は無いのですが、当然、現場では助監督やスタッフの協力が得られず、未必の故意的な嫌がらせや義務的な作業が続いていたと言われています。

 しかし、それが結果オーライというか、これまで以上に「石井輝男」という個性が煮詰められ、強烈な仕上がりになったのが、次の作品です――

徳川いれずみ師 責め地獄(昭和44年5月・東映)
 監督:石井輝男
 脚本:石井輝男、掛札昌裕
 出演:片山由美子(おゆみ)、橘ますみ(おすず)
    :藤本三重子(大黒屋おりゅう)、賀川雪絵(牢名主)、
    :吉田輝雄(彫秀)、小池朝雄(彫辰)、林真一郎(弦造)
    :田中春男(鮫島)、由利徹、大泉滉、上田吉二郎
    :人見きよし、佐藤晟也、ハニー・レーヌ、尾花ミキ
    :三笠れいこ 他


 これがまた、ド頭のタイトルバックから強烈な映像の連続です。それはまず、磔になっている女罪人の股間のあたりを槍で突き刺し、さらに腹部に、もう一刺し! 当然、大流血から飛び散る鮮血という地獄絵図が展開されます。もちろん処刑される女優さんは囚人着姿ですが、その白い着物の裾から夥しい血が流れ出し、おまけに刺した処刑人が物凄い返り血を浴びるこの描写は、明らかに当時の映画界では常軌を逸していると思います。

 そして続けて、地面に首だけ出して埋められている罪人の、その首をノコギリで切断するという荒業! 物凄い悲鳴とストップモーションが残酷味を倍加させる演出です。バックに流れるオドロオドロした音楽も秀逸ですし、最初っからギラギラした石井輝男ワールドが全開しています。

 で、物語は、まず深夜の墓場で狂ったように墓暴きをする女=片山由美子という猟奇味満点の発端から、埋められた死体の腹を割き、血まみれの手に握られたのは、金属製の鍵でした。そしてその使い道は、彼女の股間にしっかりと装着された金属製貞操帯! それは――

 という興味津々の謎を絡めて彼女の過去と運命が語られていきます。 この女・おゆみを演じる片山由美子は、前述した由美てる子の代役として新人扱いながら主役に抜擢されたわけですが、後年の東映作品やテレビでの「プレイガール」で見せたエグ味の強い個性が、初々しい中にも、すでに素晴らしい魅力として表れています。

 その彼女は借金のために与力・鮫島=田中春男の紹介で大黒屋という店に奉公することになるのですが、なんとそこは、刺青女郎がウリの密かな売春宿でした。そして奉公早々から鮫島にその実態を教えられるわけですが、ここでは縛られて吊るされた刺青の美女が、男の慰み者になっている場面が鮮烈です。

 さらに怯える片山由美子を生娘と見抜いた田中春男が彼女を弄ぼうとするのですが、そこで迷路のような屋敷内を逃走した末に彼女が辿り着くのが、刺青女郎達が屯する大部屋ということで、ここでは忽ち裸に剥かれて、先輩女郎から仕置きを受けるという地獄が最初から展開されるのです。

 しかもここに大黒屋のおかみ・おりゅう=藤本三重子とその手下・弦造=林真一郎が登場し、いよいよ片山由美子は本当に怖い大黒屋の実態に飲み込まれていくのです。

 ここからは縛られ、犯され、吊るされて鞭打たれる美女という素晴らしい絵図がたっぷりとご覧になれますし、なんと藤本三重子はおかみという立場を利用して商売物の中から気に入った女とレズ三昧という正体まで明かしてしまいます。もちろんヌードの片山由美子や刺青女との絡み、痴態・狂気がこれでもかと描かれており、短いイメージ・ショット風なのが残念ではありますが、その映像はエロ美学が凝縮されているので見応えがあります。

 という日々の中で片山由美子にも刺青が施されることになりますが、それを彫るのが若手の有望刺青師・彫秀=吉田輝雄で、それは凄まじい執念で仕事にかかるのです。というもの、師匠である彫五郎の娘・おすず=橘ますみを巡って、兄弟子の彫辰=小池朝雄との勝負になっているからで、それは将軍御上覧の刺青大会が決着の場でした。

 もちろん勝った方が橘ますみをモノに出来るというわけですが、実は彼女と吉田輝雄は既に恋仲という設定なので不条理感満点の熱気が迸ります。

 しかもその2人の作風が陰と陽! 小池朝雄のドロドロした粘液質の絵柄はサイケ調と紙一重の陰湿派、対する吉田輝雄は正統派というところでしょうか、もちろん小池朝雄が悪役で、この対立が全篇を通しての軸となっていきます。

 で、2人の秘術を尽くしての勝負は、意外な展開となりますので、それは観てのお楽しみとさせていただきますが、その刺青大会は美女の乳と刺青が見放題という、非常に嬉しい演出になっています♪

 一方、悪徳与力の鮫島は大黒屋に新しい客筋を紹介、それは長崎に出入りしている毛唐の白人達でした。彼等は刺青を施された日本の美女に魅了され、彼女達の大量買付けを約束するのです。こうして急遽、美女の調達を迫られた大黒屋と鮫島の次なる悪企みは、奉行所牢内の女囚から美女を選りすぐり、鮫島の手引きで破牢させ、さらに刺青を施して長崎に売り飛ばすというものでした。

 この女囚達の牢名主が賀川雪絵で、気風の良さと哀切を滲ませた演技のバランスが絶妙ですし、また由利徹や大泉滉が何故か女装で紛れ込んでいて、いつもながらの楽しいコメディリリーフを見せてくれますが、その台詞が女の声に吹替えてあるという芸の細かさは流石です。ちなみにその声はオバQ=曽我町子ではなかろうか? と思うのですが、いかがなものでしょうか。

 さて、その頃、片山由美子は弦造=林真一郎に縛られ、犯される日々が続いていたのです。ここは縄姿で悶絶する彼女の痴態がじっくりと拝めますが、ついにその現場をおかみ=藤本三重子に踏み込まれ、2人とも仕置きを受けるのです。

 それは2人とも縛られ、さらに弦造の大切な妹までもが、竹竿を使った胡坐縛りで逆さ吊りという強烈な場面です。ここでは藤本三重子の悪女ぶりが極みつきで、兄の目の前で妹を傷だらけにしたうえに、その両目を潰すという陰惨な暴力を振るうのです。当然、それを見せつけられた林真一郎は狂ったように詫びを入れるのですが、今度はその弦造をメッタ打ち! さらに片山由美子が浮気できないように、金属製の貞操帯を強引に取り付けるという暴挙が続いていくのです。

 ところがここで、その鍵を林真一郎が飲み込んだことから、藤本三重子は狂気に駆られてこれを殺害という展開になるのですが、このあたりの彼女の凄みと残酷・狂気の演出は、今日でも不滅の刺激度があると思います。

 ということで、片山由美子はその鍵を取り戻すために墓暴きを敢行したというわけですが、その現場を取り押さえられ、哀れ彼女は海上火焙りの刑に処せられるのです。つまりここで主役が死んで退場という、なんとも型破りな展開になるのですが、このあたりから物語は混迷した作りを露呈していきます。

 ただし、ここまでの片山由美子は脱ぎっぷりも良く、また失礼ながら後年に比べて乳首もピンク色ですし、肌の綺麗さは絶品♪ それゆえに刺青の絵柄も美しく映えています。もちろん縄姿で折檻を受ける彼女の泣き叫び、苦痛の呻きも存分に味わえるのです。

 そして後半のヒロインは、必然的に橘ますみ♪ しかし物語はここで唐突に彫秀=吉田輝雄が島流しになっているという場面へ転換しています。どうやら師匠殺害の犯人とされたようですが、それはもちろん陰謀です。そしてその頃、おすず=橘ますみは小池朝雄に刺青を入れられ、刺青女郎として長崎に売り飛ばされる船中に幽閉されていたのでした。

 この船の中では大黒屋の刺青女郎集団と、賀川雪絵をボスとする刺青女囚達が対立し、ケツを捲くって乳も丸出しのキャットファイトという嬉しい見せ場があり、また毛唐による品定めと拷問もたまりません♪ もちろん売り飛ばされた女達も、ここに来てようやく自分達の悲惨な運命に気がつき、小池朝雄も自分が利用されていることを知って居直るのですが、観ているこちらは橘ますみが犯されたり、刺青を彫られたりしている場面の哀切の演技に釘付けになっています。

 こうして橘ますみは尾花ミキを伴って脱走、異国情緒満点の迷路のような街を彷徨うのです。ここは本当に不気味な売り物、出し物が満載されたセットが組んであり、石井輝男監督の新東宝時代の味が復活! それがさらにディープに進化した印象的な演出になっています。特にざわめきの中で延々と続く泣き声や生きながらの火葬等々、どこまでもエグイ映像が続いていくのです。

 そしてこうした展開の中で橘ますみは結局連れ戻されますが、尾花ミキは紆余曲折の末に、なんと島抜けしていた吉田輝雄に助けられ、全てを聞いた吉田輝雄は復讐を誓うのですが……。

 物語はこの後、悲劇と陰惨、猟奇とアクションの連続でクライマックスへ突進していきます。その中ではもちろん刺青が重要なポイントであり、ここに再び吉田輝雄と小池朝雄の対決が繰り広げられるわけですが、見所は白人女に彫られた夜光の刺青! 特にその中のひとりであるハニー・レーヌの被虐の演技は、当時も今も、ファンを熱狂のルツボへ

 ちなみに彼女は白人女の風貌ですが、その国籍と出自は日本人だという説があり、本来はモデルが本業だったようです。そしてこの当時は有名写真家に好んで撮影されており、それはカメラ雑誌に発表される芸術作品であったり、大会社のCMポスターであったり、男性誌のグラビアにも頻繁に登場していました。もちろんそれはヌードだったわけですが、なんとこの時、彼女は16歳というのがウリでした。ですから、この作品のような強烈な変態ムービーで痴態を披露しているのは、現代感覚ではとんでもないことなのですが、それが昭和元禄と言われた当時では何の違和感も無い、ただ刺激的なエロスの一部分という扱い方だったと思います。今思うと、それは素晴らしくパワフルな時代でした。そしてそれゆえに現代では彼女の画像は一切、使用することが出来ません。なにせ16歳でしたから……。

 ということで、ついに迎えた大団円は、ここで笑ってしまう皆様もいらっしゃるかと余計なお世話をやいてしまうほど、破天荒なものになっています。もちろん激しいアクション、鬼気迫る出演者達の演技、そしてお約束のスペクタクルには強烈なオチもついており、その中ではハニー・レーヌのロリ体形のヌード&あどけない表情、そして哀しみに満ちた泣き叫びが最高のアクセントになっていて、何度観てもゾクゾクさせられるはずです。

 もちろん物語は時代劇の王道を行く結末になっていますが、それは大黒屋おりゅうの股裂き処刑! その激しい叫び声とスプラッターでこの作品は唐突に終わります。しかし、それがかえって湿っぽい余韻をスッパリと切り捨てた演出になっていて、その潔さがある種の爽快感に繋がっていると思います。

 しかしこの作品は、全体を通しての整合性が希薄であると感じます。それは前半と後半の繋ぎの手際がイマイチなことに顕著ですが、他にも責めやエロ場面が派手なわりに、もうひとつ押しが足りないこと、さらに映像そのものが、やや雑ではないかと私は思います。ただしそれは、映倫との関係もあるわけですし、エロ映画に「整合性」を持ち出すのも野暮な話ではありますが、むしろ3話ほどのオムニバス形式にしたほうが、すっきりして密度が高い作品になったような気がします。

 このあたりは冒頭で触れた助監督一同の批判声明からスタッフの非協力的な働きが、何らかの影響を及ぼしてしまった結果かもしれません。実際、京都撮影所の格式と雰囲気は犯しがたいものがあり、石井輝男監督にしても「徳川女系図」を撮るまでは東京撮影所をメインにしていた、いわば外様の存在でしたから、いくらヒット作を連発していたからとはいっても、映画そのものを貶めるような作品を作られてはたまらないという思いが、現場には充満していたのでしょう。

 ただし、こうした動きに対しては会社側も切り崩しに出ており、助監督の中には監督昇進の条件を出されて軟化した者をいたようです。

 また、すでに述べたように、自分中心で現場を切り盛りした結果が、後半の迷路のような街並のセット&演出、笑いと紙一重な白人女の夜光刺青、懐かしの新東宝作品のようなクライマックスに表れているようにも思います。また、出演者では悪徳与力・鮫島を演じたベテランの田中春男が白塗りの化粧をしていたりするアクの強さが絶品で、これも石井輝男監督の情念の演出です。そして結果はもちろん大ヒット! 今日ではカルトムービーの最右翼のひとつとされており、それは混濁したこの作品の出来具合が、実は魅力的でもあるという証明になっています。

 このあたりは、どうか皆様がこの作品をご覧になられたうえで、ご判断をお願いしたいところですが、製作・公開から36年たった現在でも、フィルムに焼き付けられたパワフルな猟奇のエネルギーは不滅のものと、私には感じられるのです。

(2005.10.11 敬称略)