昭和43年5月に公開された「徳川女系図」は、会社側の思惑どおりに大ヒット♪ なにしろ当時の、否、現代でも、これほど多くの女の裸体や乳がひとつのスクリーンに集合登場したことは無いであろう、そのド迫力の淫乱エネルギーが魅力だったわけですが、もちろんそれに反撥したのが、良識と道徳を振り回す婦人団体、PTA、そして一部映画評論家でした。

 しかし興行成績が全ての会社側は、同じ路線企画を石井輝男監督に依頼し、まずは続けて「温泉あんま芸者」、そして「徳川女刑罰史」が作られました。前者はどちらかというと現代喜劇なので、グロは控えめ、エロは笑いに転化させていましたが、後者はその反動か、確信犯的なエログロ満載という仕上がりになっていました。その内容は――

徳川女刑罰史(昭和43年9月・東映)
 監督:石井輝男
 脚本:石井輝男、荒井美三雄
 出演:橘ますみ(おみつ)、賀川雪絵(玲宝)、沢たまき(君蝶)、
    :白石奈緒美(燐徳)、尾花ミキ(妙心)、三笠礼子(おはな)
    :南風夕子(料亭のおかみ)、小島恵子、ハニー・レーヌ
    :牧淳子、英美枝、並木玲子、岡島艶子、三乃瀬愛
    :美松艶子、吉田輝雄(新三、吉岡)、渡辺文雄(南原)、
    :上田吉二郎(巳之助)、小池朝雄(彫丁)、由利徹(三助)、
    :芦屋雁之助(医師)、林真一郎(春海) 他

 最初にこの作品についてエログロ満載と述べましたが、けっしてそれだけでは無い、物語性を大切にした時代劇の傑作になっているのが、本当のところです。全体は3話構成のオムニバス仕立になっていますが、その全てが2人の与力・吉岡と南原、つまり吉田輝雄と渡辺文雄の両者の視点から描かれており、もちろん吉田輝雄が良心、渡辺文雄が非情一徹の立場で、犯罪と残虐な刑罰についての問題提起がなされています。そして、その答えは観客に委ねられているのです。

 それは冒頭からナレーションと字幕で示されているのですが、同時に残虐な当時の処刑の様子が映像で再現され、首切り&胴切り火焙り股裂きにされる女囚の惨い姿が強烈で、観ているこちらは、そのまんま、物語の中に引き込まれていくのです。

 さて最初の物語は、貧しくても仲良く暮らす大工の新三=吉田輝雄とおみつ=橘ますみの兄妹へ突然降りかかった不幸からの悲劇が描かれています。

 それは仕事場で大怪我を負った吉田輝雄の医療費の支払いで妾奉公を勧められる橘ますみの運命です。彼女は兄の命を救ってくれた呉服屋巳之助=上田吉二郎の恩に報いるために、嫌々ながら従わざるをえない瀬戸際に追い込まれていきます。

 当然、ここでは上田吉二郎に蹂躙される橘ますみ! という場面がありますが、しかしそれはヌードではありません。着衣のチラリズム程度あり、現代感覚から見れば不自然としか言えない描写です。

 さらにこの後、それを察した吉田輝雄が妹可愛さの逆噴射というか、ついには不自由な体で必死に妹に迫り、橘ますみも切ない運命から兄の求めに応じてしまう近親相姦へ! ただしここも映像的には、切ない兄弟愛の果てに……、というところで描写を止めています。

 しかし、このあたりの哀切極まる物語展開と演出は最高で、当に王道時代劇の真骨頂です。

 そしてそんな畜生道が続く日々のある昼下がり、外出から戻った橘ますみが見たものは、寝たきりで自分の喉にノミを突き立て、自殺しきれずに苦しむ兄の姿でした。吉田輝雄は結局、地獄から妹を救うための道を選んだのですが、悲しいかなそれも果せず、全てを察した橘ますみは兄の苦しみを救うために、トドメを刺すのです。しかしその瞬間の現場を上田吉二郎に見られたことから、狂乱、ついには兄殺しの現行犯で捕縛されます。

 そして上田吉二郎にも怪我を負わせていることから、彼女は峻烈な取調べを受けますが、それはもちろん拷問です。グリグリの胡坐縛りで百叩き、気絶すれば冷水をぶっかけ、さらに平行に吊し上げ、渡辺文雄が鬼の形相でビシバシ、叩きまくるのです。ただし、ここは裸体ではなく、牢着姿の上からの縄ですから、後年の日活SM物に比べれば大人しい描写ではありますが、それを吹替えなしで演じてた橘ますみにはグッときます。その彼女のプロフィールは――

橘ますみ(たちばなますみ)
 昭和41年に東映入り、主に明るい町娘役で任侠物に多数、ちょい役出演しています。大きな役は石井輝男監督がこの作品の前に撮った「温泉あんま芸者」が最初でしょうが、以降、同監督の異常性愛路線のメイン女優として活躍しました。彼女の魅力は「いたいけな」という部分で、被虐ヒロインとしては男心を刺激する大変良いものを持っています。ただし、こちらが期待するほど、露骨な演技は見せていませんが、そこがまた、魅力でもありました。ですからテレビにも時代劇を中心に多数の出演があったのですが、残念ながら昭和46年に突如引退、OLに転身して話題となりました。ちなみにAV女優に同姓同名の人がいますが、もちろん別人ですので、念のため。

 で、その彼女が現行犯であるにもかかわらず地獄の責めを受けるのは、どうやら事件の陰に近親相姦容疑があることで、当時の刑法ではもちろん死罪です。しかし、この後に及んでも死んだ兄を畜生道に落とせないと心に決めた橘ますみは、頑として口を噤むのでした。ちなみに事件の発端となった兄の事故は、橘ますみに目をつけた上田吉二郎が、新三の仲間を使っての策謀であったことが取調べで露見しているのですから、不憫に思う人情派の与力=吉田輝雄(新三との二役)は、取調べで近親相姦を否定するように諭すのですが……。

 という展開から、結局、橘ますみは死罪、市中引き回しから水磔になります。これは磔にした十字架を海辺の波打ち際に逆様に立て、つまり潮が満ちてくると水死するという、苦しみが長引く残虐な処刑です。

 という第1部は、「異常性愛路線」というウリとは裏腹な非常にしっとりとした演出・映像になっています。もちろん拷問や処刑シーンは残虐ではありますが、全体的なエロ度は、同じ時代劇の「徳川女系図」より、はるかに控えめです。そしてそれゆえに、橘ますみの哀切の演技が最高という仕上がりになっているのでした。


 さて第2部からは、その人情派与力=吉田輝雄が犯科帳を捲りつつ回想するという構成で、まずは某尼寺の残虐事件が取上げられます。

 それは名家から出家してきた元姫君の尼・玲宝=賀川雪絵が、男子禁制の戒めを破って密会する妙心=尾花ミキと破戒僧の春海=林真一郎の野外セックスを覗き見する発端から、賀川雪絵の御付である白石奈緒美との嫉妬心が溢れる強烈なレズ・シーン、修行を大義名分とした誘惑行為、さらに拷問と物語が進むに連れてエグミが強まる展開になっています。

 このあたりはお目当ての場面ではありますが、乳首も尻のワレメもチラリとしか映りません。しかしその濃厚な雰囲気は、例えば野外では綺麗な花と逞しい坊主、肉欲に狂う尼の対比という映像美、また賀川雪絵に激しく嫉妬して迫る白石奈緒美の熟した同性愛嗜好が、ギラギラした雰囲気をダイレクトに伝えてくれます。特に2人の絡みは、当時の流行だった長いつけ睫毛が触れ合わんばかりの濃密な口吸い&舐め合いが、粘っこさ満点で強烈です。

 そしてこのエピソードの主役である賀川雪絵は、その長身を尼僧スタイルで完璧にキメていますが、魅力的な大きな瞳と内に秘めたセックスへの憧れ、そして男への恋心が、不思議な狂気を漂わせています。

 それが後半の拷問シーンでは全開で、まず戒律を破った尾花ミキへの折檻が強烈です。それは縛り上げての釜茹から、そこへ夥しい数の泥鰌を放り込み、お湯の熱さに耐え切れずに彼女の秘部に潜り込む泥鰌の蠢きが、こちらの妄想を100%満足させてくれます。また続けて唐辛子を秘部に突っ込んだり、焼き鏝で大切な部分を焼き潰したりする残虐が、これでもかと描かれていきます。もちろん彼女の泣き叫びは物凄い本気度があります。

 しかもそれは、捕らえてある春海=林真一郎の目の前で繰り広げられるのですが、ご推察のとおり、そこには賀川雪絵の横恋慕があり、それゆえに白石奈緒美の嫉妬も激しく燃え上がるという、恐ろしい展開になっているのです。もちろん尼物ですから、剃髪カツラも効果的ですが、尾花ミキは本物の坊主頭という疑念(?)がありますので、気になる皆様はDVDの鮮明映像でご確認下さい。

 とにかくこのあたりは本当にエログロ満点で、その上、賀川雪絵の無表情が最高のスパイスになっているという、石井輝男監督の真骨頂が堪能出来ます。

 という物語も、当然、最後は法により罰せられるのです。刑罰は磔からの串刺しで、その血みどろの演出は、当時のいかなるスプラッター物よりも強烈だと思います。そしてここでも、行き過ぎた刑罰についての問題提起がなされるのですが、観ている側はそんなものが心に入り込む余裕など既に無くなっていると言えば、その雰囲気がお分かりになろうかと思います。

 個人的には片思いした男の生首を抱えて立ち回りを演じた賀川雪絵が、最高に素敵だと思っているのですが……。

 そして第3部も犯科帳からの回想として、江戸一番の刺青師・彫丁の犯罪が描かれますが、これもいままでのエピソード同様、封建社会ならではの不条理感が強く出た物語です。

 それは彫丁=小池朝雄が芸者・君蝶=沢たまきの美しい肌に精魂込めて彫上げた刺青を、与力の南原=渡辺文雄に満座の中で貶されたことから、その理由を尋ねるのが発端です。

 ここでは沢たまきの肌に彫られた、地獄で縛られ悶絶する美女の絵柄が拝めますが、その表情が本物では無いと、渡辺文雄は冷笑して言い放つのです。なにしろ与力としての南原=渡辺文雄は鬼の拷問が日常茶飯事、したがって女は責め苦の果てに被虐の喜びに覚醒するのだというM性を熟知しているため、彫丁の描いた苦悶の美女の表情には物足りなさを感じたというわけです。

 これには流石の小池朝雄もただ唸る他はなく、結局、渡辺文雄に本物の責めを見せてくれるように願い出て、折りしも長崎で捕らえられた白人女の取調出張への同道を許されるという展開です。

 ここでは新たな作品を描く柔肌、つまり刺青を入れる女の見定めに女風呂が使われるというサービスカットがあり、三助役でコメディリリーフの由利徹が、いつもながらの名人芸で笑わせてくれます。そして小池朝雄はやっと見つけた柔肌の女=三笠礼子を拉致して手付けの墨を入れ、服従させて長崎へ向かうのですが、このあたりは強引とはいえ、何時しか彫りを入れられる瞬間を待ち望むようになる女の妖しさが、きちんと説明されているので納得です。

 こうして着いた長崎では、すぐさま異国の白人女が引き出され、キリシタン禁制を破ったとして苛烈な拷問が始まるのです。それはもちろん、彼女達を裸に剥き、縄、百叩き、抱き石、磔水車、逆さ吊り、首輪での引き回し等々、見逃せない責めがスクリーンいっぱいに展開され、日本人にはないグラマーな肉体が虐げられる様が存分に味わえます。もちろん乳も太腿も見えていますが、これは金髪に弱かった当時の日本人男性の急所を直撃する演出でした。

 そしてそれを部屋の片隅で必死にスケッチした小池朝雄は、すぐさま、その地獄絵図を三笠礼子に彫入れるのですが……。

 この後は恐るべきオチに繋がるので観ての楽しみとさせていただきますが、女達の泣き叫びに嬉々として鬼と化す渡辺文雄の迫真の演技と表情、それに呼応する小池朝雄の狂気、そして拷問と悲劇を見ながら刺青を直入れされる三笠礼子の悶絶と悦楽の痴態が、とにかく強烈です。

 ということで、この物語も最後は悲劇、それがやや予定調和的ではありますが、これ以外の結末はありえないと言う映画的面白さが大切にされています。全体としてはオムニバス物でありながら纏まりも良く、中でも吉田輝雄の抑えた芝居と渡辺文雄のギラギラした演技が好対照として絶妙のスパイスになっています。

 また肝心のエロ場面は、映倫対策でしょうか、乳首が徹底的にガードされていますが、それも縄や手ぬぐい、布切れ等々、かなりキワドク上手い隠し方になっています。また、もちろんこの時代ですから、尻のワレメは本当にチラリとしか拝むことが出来ません。しかしそれでも当時は各方面からボロクソに叩かれました。そしてそれに反比例するように、興行成績はこの年の東映では最高だったと言われています。扇情的なポスターも見逃せません。

 最後に個人的な感想として、映像的には「徳川女系図」に劣るものの、その物語性を大切にした作りは最高ですし、やや雑な照明やカメラワークが逆にエネルギッシュな映像生み出しているという、これはこれできちんと計算された演出だと思います。

 出演者の演技面では、各々が個性をたっぶり見せてくれますし、責めや拷問を受ける女優さんの頑張りには敬意を表したくなります。さらに第3部では料亭のおかみ役で久々にスクリーンに登場した南風夕子(みなかぜゆうこ)の色っぽさが、最高に嬉しいところでした。ちなみにこの女優さんは、日活で肉体派として昭和30年代に活躍して引退、しかし昭和41年頃にカムバックしてきた美女ですので、要注意なのです。また現在でも隠れた人気が継続しているハニー・レーヌが、拷問を受ける白人美女のひとりとして登場していますが、一番のロリ系として泣き叫んでいますので、ご確認下さい。

(2005.10.03 敬称略)