今では歴史というか、昭和43(1968)年の日本は元気真っ盛りだったと思います。それは所謂「昭和元禄」、社会風俗も堂々と淫乱放蕩の世界へ突き進んでおり、そうした風潮は映画の世界でも顕著で、裸の女が出る作品、つまりピンク映画が成人指定作品として大手映画会社でも次々と作られるようになったのは、この頃からでした。例えば日活では「ある色魔の記録」、大映では「ある女子高医の記録・妊娠」、松竹では「いれずみ無残」、そして東映では「徳川女系図」「温泉あんま芸者」等々がヒットしています。その中でも「徳川女系図」は、その豪華絢爛な雰囲気と当時としては過激な描写で社会問題化した特大のヒット作です。その内容は――

徳川女系図(昭和43年5月・東映)
 監督:石井輝男
 脚本:石井輝男、内田弘三
 出演:吉田輝雄(徳川綱吉)、三浦布美子(御台所信子)、
    :應蘭芳(染子)、三原葉子(お伝の方)、国景子(常盤井)
    :有沢正子(万里小路)、谷ナオミ(おきぬ)、賀川雪絵(おさよ)
    :御影京子(おみつ)、三島ゆり子(雪岡)、内田高子(定子)
    :小畑通子、高鳥和子、辰巳典子、祝真理、一星ケミ
    :南原宏治(柳沢出羽守)、小池朝雄(牧野備後守) 他

 時は元禄時代、五代将軍・徳川綱吉の治世、舞台は江戸城内の美女の花園、大奥です。

 何時の時代も権力者の最大の仕事は後継者作り、つまり血筋の保存=子作りですから、色とりどりの美女を大勢揃えた大奥の存在意義は非常に大きいものがあります。もちん将軍以外は男子禁制が原則ですから、一晩にそのお情けを頂戴できる女はただ1人というわけで、大奥の中は権謀術数と女の鬱積が渦巻く、それはそれは恐い場所という舞台設定を最大限に活かし、さらにエグ味を加えて描き出したのが、この物語です。

 それはもちろんエロ満載というところですが、石井輝男監督は人間ドラマの部分もけっして疎かにしていません。

 というこの物語は、大奥で年に一度だけ無礼講が許される正月16日のどんちゃん騒ぎ=新参舞の夜からスタート、鐘や太鼓やエレキギターの狂乱リズムに乗って繰広げられる夥しい女達の裸踊りは、当に昭和も元禄も無い迫力があります。もちろん将軍綱吉=吉田輝雄はちゃっかり覗き見しているのですが、その中でただひとり、羞恥心を見せる女・おみつ=御影京子に目をつけたのは自然の流れです。もちろん彼女は取り囲まれて裸に剥かれていきますが、その時の嫌がりにはゾクゾクさせられます。

 ただし綱吉はその女の名前をもちろん知らず、ただ内腿にホクロがあることを頼りにその女を召し出すように命じたことから、騒動が勃発します。

 当時の大奥は正室・御台所(みだいどころ)の信子=三浦布美子を中心とした京都から来た公家の女の派閥・御台所派と大名や高級武家の子女で構成された江戸派に分かれて対立していたために、忽ち太腿にホクロのある女を巡って虚々実々の駆け引きが展開されるのです。

 結局、将軍が一目ぼれした女は御台所派の下女・おみつと判明したところから、江戸派の嫉妬は極限状態! 彼女は忽ち江戸派の女達に捕らえられ、その夜のお勤めが出来ないように秘部を蝋燭で焼かれるのです。

 ここは蝋燭がじっくり描かれ、ほとんど拷問という場面での女の恐さと怯える御影京子の表情も最高ですし、それでも「ええいっ、手ぬるいっ!」と言い放って自ら強烈な仕置きを加える雪岡=三島ゆり子が究極です。その彼女のプロフィールは――

三島ゆり子(みしまゆりこ)
 昭和30年代後半から東映京都所属として夥しい時代劇に脇役で出演しておりますが、この人もどちらかというとグラマー系の肉体派なので、昭和40年代からは汚れ役に印象的なものがあります。もちろんアクション物やギャング物、任侠物や実録物にもちょい役ながら頻繁に顔を出していますので、顔を見れば皆様きっと、それとわかる女優さんです。その演技面ではバーのマダム、情婦、売春宿のおかみ等々、陰湿な役も多いのですが、ネは明るいところが憎めません。昭和50年代からはテレビでも活躍しています。

 という彼女がたっぷりと仕置きをしたおみつは、当然お暇を出されたはずなのに、なんと、その夜に身代わり=高鳥和子(?)が出されたことから、ますます江戸派は激怒するのです。そして一方、おみつは以前、ある間違いを仕出かして折檻を受けそうになったところを綱吉に助けられているので、募る思いを心に秘めているところが、後々の布石になっていきます。

 もちろん綱吉はそれとは知らず、身代わりはお気に入りとなりますが、しかしそれも長続きせず、身代わりの一件に気づいた綱吉は人間不信に陥るのです。

 このあたりの演出では入浴場面がキメに使われており、現代からみればヌルイ演出かもしれませんが、それでも観たいところは存分にというツボを外していない石井輝男監督ならではのエグミが味わえます。

 こうして御台所派に一矢を報いた江戸派の中心人物がお伝の方=三原葉子です。もちろんここでは将軍・綱吉=吉田輝雄に強烈な色仕掛けで迫りますが、乳首や尻のワレメをモロ出しにはしていません。しかもその濃厚なお色気は笑いと紙一重で、ここでもそういう演出が強調されたオチがついていますが、それは彼女でしか出来ない最高の芸のひとつです。ちなみに彼女は肉体派といっても、若い頃から乳首を出したのは新東宝倒産後の一時期だけで、あくまでもチラリズムというか、着エロ女優だと思います。

 で、その彼女は劇中、続けて大奥女相撲大会を開催、ここは紅白の褌姿で大勢の美女が登場する美味しい場面です。そして谷ナオミが大活躍、豊満な肉体がたっぷりと拝めますが、その彼女に対抗するのがスリムな賀川雪絵ですから、本当にたまりません♪ ここでの彼女は最初、腰元役として着物姿でおしとやかにしていますが、谷ナオミが女相撲大会に優勝しそうになったのを見て名乗りをあげ、着物を脱ぎ捨て、乳まる出し、腰巻ひとつで谷ナオミと熱戦をくりひろげ、見事に勝って将軍に気に入られるのです。その彼女のプロフィールは――

賀川雪絵(かがわゆきえ)
 大映系の関西芸能学院出身で、当時から大映作品には本名の西尋子として端役出演しています。そして昭和41年、18歳で正式に大映ニューフェイス入り、劇場用作品としては「ガメラ対バルゴン」「眠狂四郎」等、テレビでは「ザ・ガードマン」等に出演していきます。当時は市川雷蔵のお気に入りだったと言われていますが、長身だったことから、あまり役には恵まれなかったようです。しかも昭和42年には暴行未遂事件にまきこまれ、スキャンダルから引退しています。しかし翌年、この作品の出演女優探しが難航していた東映から声をかけられ、賀川雪絵と改名してカムバックしたのです。そしてこの作品後、同社のアクション・ピンク系作品に多数出演し、スケバン、猟奇女、被虐の美女等々、そのスリムでしなやかな肉体を存分に活かし、汚れ役を厭わない強烈な演技で強い印象を残しました。さらにテレビ出演も多く、昭和50年代後半からは子供向け特撮アクション物でもお馴染みの存在になっています。また歌手としても魅力的で、昭和46年に発売した「一年は裏切りの季節」は名曲・名唱の決定版♪ 現在でも賀川ゆき絵として多方面で活躍中です。

 という彼女は、夜の生活でも将軍に相撲の技をかけたりして無邪気に振舞い、そこが綱吉にとってはうれしい部分でしたが、今度は御台所派が収まりません。特にそれゆえに寵愛を失った常盤井=国景子は必死で策謀を捻り出し、ついに当時の江戸幕府の実力者・柳沢出羽守=南原宏治に後ろ盾を頼むのですが……。

 もちろんここは女達に取り囲まれて嬉々とした南原宏治が、男の欲望を剥き出しにして国景子に肉体を要求、その場面の演出はエロよりも映画的な構成を大切しており、最高に光っています。

 こうして柳沢出羽守の紹介で大奥にやって来たのが、京都の公家大納言の姫君・染子=應蘭芳です。ここでの彼女は自らの持ち味であるエキゾチックなクールビューティが全開の和服姿という、やや倒錯的な魅力がたっぷりですし、野外では開けっぴろげに放尿! 何故そうなのかは観てのお楽しみとして、当然、綱吉は大興奮で彼女に惚れこんでしまうのでした。

 しかもここで、お気に入りのおさよ=賀川雪絵が、なんと濃厚な夜の営みの最中に以前契りを結んだ男の名前を寝言で呟いたことから、綱吉は激怒! ついにお白州での取調べから追いつめられた賀川雪絵と三島ゆり子は、自害して果てるのです。

 そして綱吉は京の柔肌・染子に夢中になるのですが、彼女の懐妊を知った途端に、実はそのタネは柳沢出羽守のお手つきの結果という江戸派の密告が入り、またまた疑心暗鬼、ついには染子を柳沢出羽守に下げ渡すのですが……、という展開です。

 さらにここからは南原宏治と應蘭芳の濃厚な濡場、また吉田輝雄と内田高子の、それに勝るとも劣らない強烈な絡みは眩暈がしそうです。特に内田高子の凝縮されたお色気は、唯一無二の素晴らしさ♪ その彼女のプロフィールは――

内田高子(うちだたかこ)
  昭和37年、某洋画のタイアップ企画であるネグリジェ・コンテストに優勝して芸能界入り、ネグリジェ歌手として売り出しますが、歌詞と歌唱があまりにもエロ満点だっために放送禁止曲ばかりで下積みが続きました。しかし昭和39年には映画界でセクシー女優としてブレイクします。もちろんピンク映画出演も夥しく、男心を捉えて離さない美貌と肉体、そして発散されるフェロモンの濃さは天下一品! 特に後に結婚する向井寛監督とのコラボレーションは素晴らしい作品ばかりと言われていますが、そのほとんどが幻と化しているのは残念至極です。一般的に知名度があがったのは、大手で作られたこの「徳川女系図」あたりからですが、その後も出演は独立系が中心で、昭和46年頃に結婚、引退されました。個人的にはほとんど出演作品を観ることが出来なかった女優さんだけに、この作品での演技が強く心に残っています。

 さて物語はこの後、ますます疑心暗鬼にかられてエスカレートする徳川綱吉の乱行、それに翻弄される哀しい女達、柳沢出羽守の陰謀が描かれ、ついに将軍は世の中の真実と人生の機微に目覚めるのですが、大団円はもちろん悲劇です。哀切のラストシーンは、涙無くしては観られません。

 当に映画としての面白さをテンコ盛りに追求した作品です。

 特に東映京都の総力を結集した豪華絢爛な衣装とセット、完璧な照明と構図、さらに石井輝男監督の冴えた演出は、エロ場面のエグミだけに目を奪われがちですが、随所に見られる映像美学と様式美の素晴らしさは驚異的で、映画の楽しみを堪能出来るはずです。

 また石井輝男監督作品では常連の吉田輝雄と三原葉子の的確な演技が全体を引き締めていることも特筆ものです。

 確かに後年のエロ時代劇や現代のAVに比べれば、その性表現は甘いかもしれませんが、この作品は公開当時、行き過ぎたエログロ、顰蹙物の決定版として評論家筋からはボロクソに叩かれました。しかしその影響力は絶大で、これは単なるエロ映画ではなく、王道時代劇の傑作だと思います。

 皆様には、ぜひともご覧いただきたいと、心からお願い申し上げます。

(2005.10.01 敬称略)