The Beatles / Let It Be の謎 7

 アップル・コープスが8月末に発売を予定していたビートルズの新アルバムの基本コンセプトは、先行シングル「Get Back」に象徴されるような原点回帰、初期のライブっぽい音作りを主体にした内容に加えて、ジャケットもイギリスでのファースト・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」を再現したものが企画されました。そこでその時と同じカメラマンのアンガス・マクビーンが再び起用され、メンバーは1963年と同じポーズでEMIオフィスの階段に並びますが、この時のジョンは上機嫌だったと言われていることから、結局は幻に終わるこのアルバムの発売には一時的にせよメンバーの了解があったものと思われます。

 その新アルバムのタイトルはこの時点では「Get Back / Don't Let Me Down And 12 Other Songs」、後に「Get Back with Let It Be and 11 other songs」等々に変更されていきますが、いずれもファースト・アルバム「プリーズ・プリーズ・ミー」のジャケット写真の下部にあった「with Love Me Do and 12 other songs」にならったもので、最終的には「Let It Be and 10 other songs」となり、ジャケットも完成します。しかし、またしてもメンバーからのクレーム、そしてライブ・ショウ映像の編集の遅れ等々の理由から発売が延期、ちなみにこの時に撮影された写真は、後に発売されるベスト盤「1967-1970」、通称・青盤に使用されますが、下に掲載した幻のアルバム・ジャケット写真とは違うカットが選ばれています。

 結局明快な説明も無いままに幻となった新アルバムは、しかし6月末の時点ではその発売がほとんど決定していた事に間違いはなく、収録曲の発表まで行われていました。それは下記のとおりです。曲の間にはメンバーの会話や楽器のチューニングの様子等も挟み込まれ、それはジョージ・マーティンのアイディアだったと言われておりますが、とにかく生演奏の雰囲気を充分に活かした編集が行われていたようです。

A-01 One After 909
A-02 Save The Last Dance For Me
A-03 Don't Let Me Down
A-04 I've Got A Felling
A-05 Get Back

B-01 For You Blue
B-02 Teddy Boy
B-03 Two Of Us
B-04 Maggie Mae
B-05 Dig It
B-06 Let IT Be
B-07 The Long And Winding Road
B-08 Get Back(reprise)

 以上のような発表したのですから、当然プロモーションも活発に行われ、新マネージャーに就任して張り切るアレン・クラインはさっそくこのアセテート盤をアメリカとカナダの放送局に送り、秋には放送されたようですが、それが後に海賊盤の音源となったことは言わずもがなです。

 このあたりの情報は当時の日本でも大きく取上げられ、上記の曲目やアルバムの発売予定日等々が雑誌に掲載され、当時はまだ少なかった輸入盤を扱う店では予約まで受け付けていました。しかしそれが延期されたのは今では歴史上の事実、発売延期に伴うお詫び広告の掲載も懐かしい出来事です。

 では何故、ほとんど決まっていたこのアルバムの発売が中止になったのでしょう? そのひとつの答えとして、「6」でも述べたように、当時の営業サイド優先によるこうした動きの裏で行われていたビートルズの新レコーディング・セッションについて、メンバーが上手くいく手ごたえを掴んでいたからではないか、と私は思います。

 それはまず、「Get Back」がイギリスのチャートで1位だった5月30日に突如発売された「The Ballad Of John And Yoko(ジョンとヨーコのバラード)/ Old Brown Shoe」のシングル盤に始まります。これはビートルズ名義になっておりますが、A面は4月14日にジョンとポールだけでたったの1日、それも8時間で全てが仕上げられ、当時いざこざが多かった2人の間にはそれが信じられないほどの意思の疎通と音楽的輝きがあったと、記録にはあります。またB面はメンバーが勢揃いし、これも4月16日と18日の2日間で完成という早業でした。ちなみにこのシングルのプロデュースはジョージ・マーティン、イギリスにおけるビートルズのシングル盤としては初めてステレオ・バージョンだけの発売になりました。

 同じ頃、ジョージ・マーティンはビートルズのアルバムを正式にプロデュースしてくれるように、ポールから電話で依頼を受け、承諾します。そして始まったのが7月からのセッションで、それはイギリスで9月26日にアルバム「Abbey Road(アビイ・ロード)」として発表されることになります。

 日本での発売は10月21日で、私はそれが遅れていた噂の新アルバムだと思っていました。しかしこれまで報道されていたものと曲目が違いすぎますし、またその中身のサウンドもライブ風というよりも、気持ちが良いほど緻密に計算されたものになっていたのは皆様ご存知のとおりです。それでは1月のセッションから編集され、発売予定だったアルバムはどうなったのでしょう。実は「Abbey Road(アビイ・ロード)」の華々しい大成功の裏では、暗闘が続いていたのです。そして同時にショッキングなニュースが世界を駆け巡るのでした。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション/マーク・ルウィソーン」

(2003.09.28 敬称略・続く)