The Beatles / Let It Be の謎 14

 海賊盤アルバム「KUM BACK」は、大変な反響を呼び、その頃のイギリスとアメリカだけで300万枚近くが売れたということです。そしてこの成功により、ビートルズ物だけでなく、あらゆる人気アーティストの海賊盤が夥しく市場に流されていくのですが、ビートルズ物の「レット・イット・ビー」関連で、次に業者からターゲットにされた「お宝」が、映画「レット・イット・ピー」のサウンド・トラック音源でした。

 あらためて述べさせていただくと、「レット・イット・ビー」ではアルバムやシングル盤で聴くことが出来る曲と、映画を観て聴くことが出来る曲は、ほとんどが別物なのです。それでは映画ではどのような曲が演奏されていたのかというと――

01 Piano Theme(1969.01.03)
 撮影準備最中のスタジオにあるピアノで、ポールがなんとなく弾いている曲です。淋しげな調子の練習曲みたいです。横ではリンゴがそれを眺め、やがてジョージもやってきます。ここから「13」までがトゥイッケンナム・フイルム・スタジオでの場面になります。

02 Don't Let Me Down(1969.01.08)
 前の場面に続き、いきなりジョンのアップで曲が始まります。「裏切らないでくれ〜」という歌詞のところでヨーコがアップになるという、意味深な編集です……。

03 Maxwell's Silver Hammer(1969.01.03 & 07)
 ポールが主導権を握って曲のコード進行を教えていきます。リンゴの不満顔が印象的です。ポールは途中でベースからピアノに代わりますが、彼だけが楽しそうで、ジョージは自分のマイクで感電してます。結局このセッションでは完成させることが出来ず、後のアルバム「アビー・ロード」におけるセッションで再録音されました。

04 Two Of Us(1969.01.08)
 完成バージョンよりかなりテンポが速い演奏です。一本のスタンド・マイクで歌うジョンとポール、おどけてギターを弾くジョンは、ライブ・ショウのリハーサルのつもりでしょうか? 「ビートルズ・マジック」が一瞬だけ再現されています。

05 I've Got A Felling(1969.01.08 & 09)
 リハーサルですが、ギターの弾き方についてポールが口を出します。リンゴは白け顔、ここでもポールだけがノリノリです。ジョンのあきらめたような歌い方が、逆に凄みがあります。脱力的終わり方も印象的でした。

06 Oh! Darling(1969.01.09)
 後のアルバム「アビー・ロード」に収録される名曲ですが、この時点では未完成です。ポールがピアノで、最初のワン・フレーズだけ歌っています。

07 One After 909(1969.01.09)
 彼等が十代の頃に作った曲なので、演奏前にポールが当時の思い出話をします。演奏はそれなりにノッていますが、ジョージの無気力が目立ちます。

08 Whole Lotta Shakin' Goin' On(1969.01.14)
 ポールとリンゴがピアノの連弾で演奏します。原曲はジェリー・リー・ルイスが1957年にヒットさせたロックン・ロールの古典です。

09 Two Of Us(1969.01.09 & 10)
 イントロが一瞬「Get Back」しています。直ぐに中断し、上手くいかず、ポールとジョージの口論に発展する有名な場面です。リンゴは完全に呆れ顔……。

10 Across The Universe(1969.01.07)
 「私の世界は変えられないをやろう」という台詞で始まります。前の場面が険悪だったので、この曲でホッと和みます。もちろんその時とは別の日の演奏です。曲は途中で中断しますが、絶妙の編集でした。

11 Dig A Pony(1969.01.07)
 ジョンがデモ的に曲を披露していますが、その場のダレ方に呆れた雰囲気で中断し、「もっと早い曲を!」と言い出して次に移ります。

12 Suzy Paker(1969.01.09)
 多分ジョンが即興的に作ったロックン・ロールです。

13 I Me Mine(1969.01.08)
 ジョージが作ったばかりの曲をリンゴに歌って聞かせます。そしてその後バンド演奏になり、ワルツ曲なのでジョンとヨーコがスタジオで踊ります。演奏は残る3人ですが、ラフな中にも良い雰囲気で、作品中でも名場面でした。演奏もかなりカッコイイので、これは何とか活かして欲しかったと思います。

14 For You Blue(1969.01.25)
 ここから場面はアップル・スタジオに移り「24」まで続きます。演奏をバックにメンバーがオフィスにやって来る映像に続き、ジョージのボーカルで演奏が楽しめますが、これはかなり出来上がっています。この演奏の後にジョンが「〜私はピグミーを偏愛する〜」というお喋りがあり、それはアルバム「レット・イット・ビー」に収録された「Two Of Us」の前に編集して付け足されました。

15 Besame Mucho(1969.01.29)
 ラテンの名曲をポールが楽しそうに歌い、メンバーもそれなりにノッてバックをつけています。ちなみに彼等は1962年に受けたデッカ・レコードのオーディションでもこの曲を演奏しましたが、結果はご存知のとおり、不合格でした。

16 Octopus's Garden(1969.01.26)
 アルバム「アビー・ロード」に収録されたリンゴの持ち歌で、ジョージがギター、リンゴがピアノを弾き、2人だけのリハーサルです。この時点でかなり原型が出来ていたことがわかります。途中からジョンがドラムスで参加、そこへポールがやって来て演奏が中断するという、いはやは何ともの編集です。

17 You Really Got A Hold On Me(1969.01.26)
 ここからビリー・プレストンが画面に登場してきます。演奏される曲はモータウン・ナンバーの古典で、ビートルズは初期のアルバム「ウイズ・ザ・ビートルズ」で録音しています。ここでは最後まで完奏していませんが雰囲気は上々です。ビリー・プレストンのいかにも黒人っぽいファッションのシャツ、そして何気なく入れてくるオルガンのフレーズがファンキーで素敵です。

18 The Long And Winding Road(1969.01.26)
 リハーサルですが、ジョンのアドバイスも真剣です。ちなみにジョンは6弦のエレキ・ベース、ボールはピアノをプレイしています。

19 Shak Rattle And Roll(1969.01.26)
 1954年に大ヒットしたロックン・ロールの古典を演奏、とても楽しい雰囲気は「ビリー・プレストン効果」の証明でしょうか?

20 Kansas city - Miss Ann - Lawdy Miss Clawdy(1969.01.26)
 ロックン・ロールの古典をメドレーにして、同日の演奏が続きます。「Kansas city」はビートルズがアルバム「フォー・セール」で取上げていましたが、ここでは別アレンジにしています。「Miss Ann」は1957年にリトル・リチャードが大ヒットさせた曲で、ポールのお気に入りです。「Lawdy Miss Clawdy」は1952年頃にR&B歌手のロイド・プライスがヒットさせた自作自演曲でした。映像ではやがてポールの義娘になるヘザー・イーストマンが登場、演奏に合わせてクルクル回って踊り、最期に転んでパンツがちらり、このあたりにも楽しい雰囲気を掴んだ映像の編集が施されています。

21 Dig It(1969.01.26)
 アルバムではとても短く編集されていましたが、この楽しそうなノリは最高です。もちろん中心はビリー・プレストンです。彼に煽られてバンドとしての一体感が出ている素敵な一瞬が味わえます。しかしこの後に、ポールがジョンに対して、今回のプロジェクトの意義やジョージとの問題について、しつこく言い訳をする場面へ映像が変わります。ポールの気持ちは痛いほど分かりますが、ジョンは困り顔……。

22 Two Of Us(1969.01.31)
 ここから「24」まで完成された曲が演奏される場面が続きます。撮影はすべて1月31日で、つまり屋上ライブ・セッションの翌日です。この曲のこのバージョンは、アルバム「レット・イット・ビー」収録のバージョンに限りなく近いものです。

23 Let It Be(1969.01.31)
 コーラスもブラスも入っていない、バンドだけのシンプルな演奏です。ビリー・プレストンのオルガンが流石に良い味です。これも公式音源の元になった演奏です。

24 The Long And Winding Road(1969.01.31)
 これも同様にバンドだけの演奏です。またしてもビリー・プレストンのオルガンが素晴らしい隠し味になっています。個人的には非常に好きな演奏です。このシンプルで切々とした雰囲気に接してしまうと、フィル・スペクターの装飾に異議を唱えたポールの言い分が理解出来るような気が致します。

 「25」から「30」までは1月30日に行われた屋上のライブ演奏です。内容については「3」ですでに述べましたので、割愛させていただきます。

25 Get Back(1969.01.30)
26 Don't Let Me Down(1969.01.30)
27 I've Got A Felling(1969.01.30)
28 One After 909(1969.01.30)
29 Dig A Pony(1969.01.30)
30 Get Back(1969.01.30)

31 Get Back(Reprise)
 曲の一部分だけがエンド・ロールで使われました。ビートルズは映像に登場しておりません。

 ということで、あらためて映画の流れを整理すると「01」〜「13」までが1969年1月2日〜15日にかけてトゥイッケンナム・フイルム・スタジオで行われたリハーサルです。ここで無気力と険悪な雰囲気をしっかりと伝え、次にアップル・スタジオで1969年1月22日〜31日にかけて行われた「14」〜「24」の場面で創造的な姿、ビートルズとしてのプライドを見せます。そしてその中で行われた1969年1月30日の屋上でのライブ「24」〜「30」を最期に持ってきて、素晴らしい演奏とバンドとしての一体感を、警察官までもが登場する騒動と共に見せつけてクライマックスにしてしまったという、とても上手い構成になっています。もちろん巧みなフィルム編集によって、演奏された曲の順番が入れ替えてあるのは言うまでもありません。ちなみに曲名の後に付けた日付は、その音源が演奏された日を、私が映像と手元にある海賊盤音源から推測してみたものにすぎません。これはぜひ皆様のご意見をお聞かせ願いたいところです。

 で、肝心の音源ついては、撮影フィルムに同期させたサウンド・トラック音源と、レコードやテープとして正規発売するために録音した音源の2つに分けられます。後者についてはアップル・スタジオに移動してから録音しており、それはマルチ・トラックで約28時間分存在していると言われておりますが、問題は前者のシンクロ音声トラックです。

 私は「4」で映像フィルムが約38時間分、シンクロ音声トラックが約96時間分残されたと書きましたが、何故音声の方が長く存在しているかと言えば、それは映画の撮影が2台のカメラで行われたからです。つまりその2つのカメラに連動させた2台のオープンリール・テープ・レコーダーが存在しており、同じ演奏でも2種類のテープが残されたのです。しかもそのテープは1本につき10〜15分位しか録音出来ないため、後に編集して使えるように、テープ交換のタイミングをずらして使用されていたからだと推察しております。

 で、映画フィルムでの音源は、全篇このシンクロ音声テープからの物が使用され、モノラルになったのはその為でした。そしてその映画は1時間28分に編集されていましたので、業者が目を付けたのがこの音源の残りテープです。それが纏まって海賊盤として登場してきたのが1973年のことでした。

参考文献:「ビートルズ・レコーディング・セッション/マーク・ルウィソーン」

(2003.10.29 敬称略・続く)