The Beatles / Let It Be の謎 15

 映画「レット・イット・ビー」からの流出サウンド・トラック音源を、最も早く海賊盤として纏めたものが「Sweet Apple Trax Volume 1」「同 Volume 2」で、発売されたのは1973年の事でした。これは各々が2枚組で、総計約90分の音源が収められており、その音質が良かったことから初回プレス分は忽ち売り切れました。これを発売したのは Contra Band Music、通称CBMという業者で、すぐに大量の追加分をプレスしましたが、同時に他の業者もコピー盤やジャケット違いで同内容の盤を出すなどしたため、ビートルズの海賊盤の中では最高の売上げ枚数になった作品です。

 その中で最も良く売れたのが Newsound Records という業者が発売した物でした。これは前述した2セット、4枚のレコードを2枚組にした物で、しかも海賊盤としては当時珍しかったカラー・ジャケットになっていました。それが今日「Sweet Apple Trax」として定番化している物です。もっともこれは、最初にこの音源を発売したCBMが、レーベル名を変えて出したものというのが、今日の真相です。で、その
内容は――

A-01 Tow Of Us
 アップ・テンポのアレンジで曲の途中からフェード・インして始まります。ポールのベース・ラインがドライブしていてカッコイイです。この後、お喋りや楽器のチューニングの状況が続き、ジョンの鼻歌とか、何かの曲のギター・リフが聞かれます。

A-02 Don't Let Me Down
 かなり出来上がっており、ジョージのワウワウを使ったギターのオカズが気持ち良いです。スタートのところでジョンのギターから音が出てこなくて、やり直したりするところがリアルです。そして軽く歌ってもジョンは凄いことが分かる素敵な演奏です。ポールがつけるハーモニーも一瞬のビートルズ・マジック!

A-03 Suzy Parker
 映画でも観ることが出来た、即興でジョンが作ったロックン・ロールです。仕事を超えた楽しい部分があると感じるのですが……。

A-04 I've Got A Feeling
 これもかなり出来上がっているトラックです。これは一部、映画に使われていた演奏かもしれません。

A-05 No Pakistanis
 「Get Back」の原型です。歌詞の内容は、当時イギリス政府が国内にやって来たパキスタン人労働者の強制送還を目論んだ政策を皮肉った内容です。「パキスタン人がみんな仕事をとってしまうのは、気に入らないぜ、元いたところへ返れ!」等と歌っていたために、いろいろと圧力をかけられて歌詞が変えられたらしく、ということは、当時からこの曲の存在は有名だったのでしょうか……?
 演奏はかなりワイルドで、ジョージのギターがヘビ・メタ風に炸裂している瞬間や、ポールのインディアンみたいな掛け声が入ったりします。個人的には好きな演奏です。

A-06 Get Back
 未完成品ですが、かなりロックン・ロール味の強いアレンジです。

A-07 Don't Let Me Down
 これはエレピが聴こえるのでビリー・プレストンが参加しているような……。アップル・スタジオに移ってからの音源だと思います。

B-01 Be Bop A Lalu
 チューニングやハウリングの音に続いて、ジョンが何となく歌いだします。オリジナルはジーン・ビンセントが1956年にヒットさせたロックン・ロールの古典で、ジョンのお気に入りでした。これは後にジョンのソロ・アルバム「ロックン・ロール」で素晴らしいカバー・バージョンが披露されるのは、皆様ご存知のとおりです。

B-02 She Came In Through The Bathroom Window
 アルバム「アビー・ロード」に収録された曲の断片がリハーサルされています。テンポや曲調を少しずつ変えて何度か歌われていきますが、曲を完成させていく過程が、彼等のお喋りと共に良く分かります。

B-03 High Heeled Sneakers
 これもR&Bの古典ですが、ほんの断片だけの演奏です。ちなみにオリジナルはトミー・タッカーが1964年に放ったヒット曲ですが、ローリング・ストーズも取上げています。

B-04 I Me Mine
 ジョージの名作オリジナルですが、前半はほとんど演奏だけです。これも彼等が曲を完成させていく過程が良く分かるトラックです。最初はちょっとスパニッシュ調の味付けになっているのが興味深いところです。また、ワルツなので途中でポールがスタンダード・ナンバーの「ドミノ」を歌ってしまう部分は、ちょっと意地悪です。そして後半になってようやくボーカル・パートが入りますがすぐに中断してしまいます。

B-05 I've Got A Feeling
 曲の断片とリハーサル場面だけです。

B-06 One After 909
 これもチューニングや打合せ、そして曲の断片だけです。

B-07 Norwegian Wood
 チューニングでポールが弾いたこの曲のベース・ラインから、ギターでメロディがほんの少し流れる程度です。

B-08 She Came In Through The Bathroom Window
 「B-02」同様、これも曲を完成させていく過程のトラックですが、かなり出来上がっています。

C-01 Let It Be
 これもリハーサルですが、ポールが主導権を握り、メンバーに曲の構成を教え、演奏の雰囲気を指示していくという興味深いトラックです。ジョンがカウンターの別メロディを付けたり、そこからコーラス・パートを発展させたりして、ビートルズの曲創作の秘密の一端がはっきり分かるという、このアルバムのハイライトになっています。
 この場面は続いてポールのオリジナルの「ペニナ」という曲になります。これは翌年に完成され、ジョッタ・へールというオランダ人歌手にプレゼントされます。

C-02 Shakin' In The Sixties
 ジョンの未発表曲で、アップ・テンポのロカビリー調の曲です。

C-03 Good Rockin' Tonight
 全曲から続いている雰囲気です。じつは「ムープ・イット」という曲が前半に演奏され、メドレー形式になっていますが、それでも短い演奏です。しかし流石のノリ、ポールのエルビス調のボーカルが良い味です。

C-04 Across The Universe
 これも編集によるものかどうか、前曲からの続きという雰囲気です。ビートが強く、かなりロック色が強いアレンジで、個人的には大好きな演奏です。ボールのハーモニーも素敵ですし、ジョージのギターもツボを掴んでいて、ステージで生演奏されるとこういう雰囲気になっていたかも、と思わせられます。

C-05 Tow Of Us
 これもアップ・テンポのロック色の強いアレンジで演奏されています。残念ながら中断してしまいますが、その後にメンバーが各々のリフを組み立てる部分が聴かれます。

C-06 Momma, You'er Just On My Mind
 生ギターのフィンガー・ピッキングによる演奏が延々と続きますが、時折、ジョージと思われるボーカルが入ります。後半は、もしかするとボブ・ディランの「Mama, You Been On My Mind」という曲かもしれません。かなり長い演奏ですが、聴いていて意外に気持ちが良くなります。

D-01 Tennessee
 これもロックン・ロールと言うよりも、ロカビリーの古典です。ボーカルはジョン、彼等は下積み時代にレパートリーにしていたらしいです。ちなみにオリジナルはカール・パーキンスです。

D-02 House Of The Rising Sun
 我国では「朝日のあたる家」として知られ、原曲はアメリカのニューオリンズ周辺の黒人俗謡です。多くの歌手やバンドが取上げておりますが、ビートルズも一時期レパートリーにしていました。

D-03 Back To Commonwealth
 ポールのオリジナルですが、これも「No Pakistanis(A-05)」同様に「Get Back」の原型です。ジョンの素っ頓狂な合の手にポールが吹出すほど、和気あいあいした雰囲気があります。リンゴのドラムの上手さが分かるトラックでもあります。

D-04 White Power / Promenade
 前半の「White Power」はポールの一瞬のアドリブですが、ソウル調の素晴らしい曲です。それが後半はシャッフル調のブルース・ロック・ジャムに発展しますが、この部分が「Promenade」ということでしょうか、実はロック調の「Dig It」なのです。そしてこれが映画「レット・イット・ビー」ではビリー・プレストンを交えてソウル調のジャム・セッション「Dig It」になるのですが、ここでの演奏も素晴らしい! ジョンとジョージのギターの絡み、リンゴのドラムスも最高のノリです。ポールとジョンのウィットに富んだ単語の掛合いはラップの趣さえ感じられます。個人的には大好きな演奏です。

D-05 Hi Ho Silver
 前曲の素晴らしいノリを受け継いで、いつの間にかロックン・ロールのジャムが続きます。演奏されるのはロックン・ロールの古典「Yackety-Yack」とスタンダード・ナンバーの「Hi Ho Silver」を混ぜ込んだもので、この演奏形態は当時多くのバンドがやっていたものです。ジョンの歌とギターが最高のノリで、中断が惜しい!

D-06 For You Blue
 と思いきや、続けて演奏されるのがこの曲で、最高の雰囲気が持続されています。これがロックだ! ロックン・ロールだ!

D-07 Let It Be
 そして非常に上手い編集で、この曲に繋がります。「C-01」を受継いで演奏は出来上がっていますが、かなりラフ、しかしそれが力強く、ゴスペルの高揚感が良く出ていると思います。ただし、それが本場物に比べると勘違いしているのが良く分かる部分もあります。この辺りがビートルズならではの個性かもしれません。

 というような演奏が収められたこのアルバムは、そのほとんどが1969年1月8〜9日のものと思われます。そして途中に入る「ピー」という音とトラック・ナンバーを告げるアナウンスは、撮影しているカメラのフィルムと同期させるためのもので、ここからその音源が未発表サウンド・トラックだったことが分かるのです。当然、音質もかなり良く、また編集も巧みですからとても聴きやすい海賊盤で、何と言ってもビートルズの音楽創造の現場、状況が良く分かるのが最大の魅力です。

 そして聴くほどに、彼等の現場の創造的な姿、和気あいあいした部分が強く感じられ、当時のマスコミ報道で伝えられたり、映画「レット・イット・ビー」で観られたような険悪な雰囲気があまり感じられないことに気がつきます。やはりあの映画はある種の編集意図が存在していたのだと思わざるをえません。

 ということで、このアルバムは大ヒット、以後、続々と同種の音源が海賊盤化されて行くのでした。

【参考文献】
 「ビートルズ・レコーディング・セッション/マーク・ルウィソーン」

(2003.11.03 敬称略・続く)