The Beatles / Let It Be の謎 16


 名作海賊盤「Sweet Apple Trax」のネタ元になったテープの出所は、アップル・コープスの元社員だったと言われております。それがマニアやコレクターの手を経て業者が入手した時の値段は、何と300ドル! それが印税も所得税も関係ない莫大な富を生み出したのですから、海賊盤商売ほどボロい儲けは無いということで、業界が一気に拡大したのがこの時期でした。

 特にビートルズ物は「Sweet Apple Trax」の内容が良かったので、リスナー側が次々に登場してくる海賊盤に過大な期待するようになり、しかもこの頃の海賊盤の値段は、日本でも大体1枚、1580〜2080円、2枚組でも2480〜2980円程度と、正規盤よりも安かったこともあり、所謂「海賊盤地獄」に落ちる者が続出しました。つまりほとんどの海賊盤は録音が酷かったり、単なるコピー盤を曲名を変えて別物にした騙し盤だったり、果ては同一の内容でジャケットが変わっていただけの物等々……。しかし、それでもその中にはトロトロの優良盤が稀に登場してくるのですから、これは凄いに違いないという期待が地獄に変化して行くのでした。このあたりは、いずれ「海賊盤の世界」として取上げたいと思います。

 で、そんな状況の中で、「レット・イット・ビー」関連の有名海賊盤といえば――

Cinelouge Let It Be
 「Sweet Apple Trax」を出したCBMが同じ頃に発売した2枚組アルバムで、映画「レット・イット・ビー」のサウンド・トラックをほぼ忠実に収録しています。カットされたのはフィルム後半、ポールがジョンに対して言い訳をする会話部分が主で、映画の中で聴かれた曲は全て収録されています。当然モノラル録音ですが、家庭用ビデオが普及していなかった時代ですから、かなりの売上げがあったようです。収録曲については「14」を参照にして下さい。

Let It Be 315
 1975年頃に登場したこの海賊盤は、これまで度々取上げてきた、グリン・ジョンズが仕上げたと言われるマスター・テープをネタ元にしております。したがって、これまでの「レット・イット・ビー」関連の海賊盤はモノラルでしたが、これは良好なステレオ録音になっており、曲目は以下のとおりです。

A-01 Instrumental Number 42(1969年1月22日)
A-02 Save The Last Dance For Me / Don't Let Me Down(1969年1月22日)
A-03 Don't Let Me Down(1969年1月22日)
A-04 Dig A Pony(1969年1月23日)
A-05 I've Got A Felling(1969年1月23日)
A-06 Get Back(1969年1月27日)
A-07 One After 909(1969年1月30日)
B-01 For You Blue(1969年1月25日)
B-02 Teddy Boy(1969年1月24日)
B-03 Two Of Us(1969年1月24日)
B-04 Maggie Mae(1969年1月24日)
B-05 Dig It(1969年1月26日)
B-06 Let IT Be(1969年1月31日)
B-07 The Long And Winding Road(1969年1月31日)
B-08 Get Back(reprise)(1969年1月28日)

 各々の曲の解説は繰返しになるので省略しますが、あえて簡単に記すと、まず「B-04」と「B-05」がロング・バージョンになっているのが目玉です。「A-01」は短いピアノのお遊び的曲、「A-05」は「アンソロジー3」収録のものと同じ、「A-06」と「B-06」はシングル・バージョン、「A-07」は正規盤アルバム「レット・イット・ビー」に収録のものと限りなく同じです。また「B-08」は映画のエンディングで使われたものと同じですが、ここでは長めに収録されています。そして「A-02」と「B-02」これまで何度か触れたように、結局は未発表となった曲、その他は正規盤とミックスやテイクが微妙に違います。一応、独断と偏見で録音日を入れておきましたので、皆様でご検証されてのご意見をお待ちしております。
 ちなみにタイトルの「315」とは、このアルバムを発売した業者がつけたレコード番号=Wizardo Records WRMB-315 に由来するもので、ジャケットの表面下に「THE BEATLES LET IT BE 315」とスタンプ押しされた文字があったことから、今日「315」と呼ばれることになりました。

Watching Rainbows
 1978年頃に登場したアルバムで、「レット・イット・ビー」と「アビー・ロード」そしてメンバー各々のソロ活動関連音源が収録されています。これも同タイトルでありながら、ジャケットが微妙に違い、さらに収録曲目・内容が大きく異なる物がいくつか存在しているので、オリジナルの曲順・曲目は特定出来ません。「レット・イット・ビー」関連では「Two Of Us」「One After 909」「Don't Let Me Down」の他に、リハーサルで演じられた断片的な曲が収録されていますが、その中には後に「アビー・ロード」で完成されるものの原型が多数あります。ちなみに全てモノラル録音で、音質も普通に聴ける程度です。

The Beatles Black Album
 1981年頃に登場した3枚組アルバムで、前述した「Sweet Apple Trax」と「Watching Rainbows」を組合せた物ですが、当然モノラル録音でありながら、音質がやや向上していたので現在では名盤扱いになっているようです。全体の仕様は真っ黒なジャケットに「THE BEATLES」の文字が浮き出しているという、つまり正規盤「ホワイト・アルバム」のパロディになっております。

Sweet Apple Trax Volume No.V
 1982年頃に登場した2枚組アルバムで、「Sweet Apple Trax」同様、映画「レット・イット・ビー」のフィルム・サウンド・トラックから未発表の部分を収録しておりますが、残念ながらそのほとんどがリハーサルの断片というか、メンバーが何となく演奏し、歌ったものが大部分です。当然完奏しているものも無く、曲目・曲名も特定出来ず、さらにジャケットに記載されていながら入っていない曲、または曲名の間違いも多数あります。しかしそれでもここでしか聴けない曲があり、その意味では貴重です。ちなみに録音はモノラルで、音質も普通に聴ける程度です。
 肝心の中身で注目に値する曲は、ジョンが後にソロで発表する名曲「Jealous Guy」や「Give Some Truth」、ボブ・ディランの曲としてお馴染みの「I Shall Be Released」等々でしょうか、しかし、いずれも期待するとハズレますので……。

The Get Back Journals
 1987年頃に登場した11枚組という化け物アルバムで、映画「レット・イット・ビー」のフィルム・サウンド・トラックの集大成を目論んだものですが、その中身のほとんどがトゥイッケンナム・フイルム・スタジオでのリハーサル部分です。しかし曲順を変えるなど、聴いていて疲れないようにかなり編集が入っております。
 これがCD時代になった1992年に、2時間程の未発表音源を追加し、収録曲を演奏曲順に整理して並べ替え、8枚組で再発されました。ただしこれはバラバラだった音源を無理矢理集めた為か、音質にバラつきがあるのが残念でした。しかもこちらは、聴いていてかなり疲れます。

The Get Back Journals U
 前作の続篇で1996年に登場しましたが、これまた、ほとんどがトゥイッケンナム・フイルム・スタジオでのリハーサル部分です。CD8枚組で、収録時間は何と10時間近くあります。聴いていて完全に疲れしか残りませんが、付属解説書はなかなか面白い内容です。特に収録曲目の録音日に関しては仔細に解説してありますが、???な部分もかなりあります。音源的にも前作とのダブりもあるように感じますが……。

Rockin' Movie Stras Vol.3
 このCDもトゥイッケンナム・フイルム・スタジオでのリハーサル音源ですが、前述の「The Get Back Journals」「同・U」には全く含まれなかった音源である1月14日の部分が収録されています。といってもその1時間近くがお喋りで、中身は予定していたライブ・ショウについてとか、何と俳優のピーター・セラーズがスタジオに顔を出した時の模様等々です。
 しかし、これを聴いた時にハッと気づいたのが、何故、このリハーサルがビートルズにとっては雰囲気が合わないトゥイッケンナム・フイルム・スタジオで行われていたのか、という謎についてで、実は1969年1月いっぱいで行われていたこのセッションに続き、リンゴにはすでにピーター・セラーズと共演する映画「マジック・クリスチャン」出演の契約が取り交わされており、彼がその撮影に入るのが2月1日からということで、それについての打合せ等々が必要だったために、映画の撮影が既に始まっていた現場であるトゥイッケンナム・フイルム・スタジオが選ばれたのではなかろうか、という推察が出来るのですが……。
 ちなみにこのCDは、4日前に中古で入手したもので値段は480円でした。実際の発売は1994年頃ではないかと思います。

 以上のものが、「レット・イット・ビー」関連では重要と思われる海賊盤です。しかし、はっきり言って「Watching Rainbows」以下の物は、一般のファンにはつらいものがあるはずだと思います。また現在では入手困難な物がほとんどですが、幸いなことに日本は海賊盤天国であり、ここで興味を抱かれた方には、一応下記の海賊盤CDをお勧め致します。

The Complete Rooftop Concert
 1969年1月30日に行われた歴史的な屋上ライブの模様を限りなく完全に収録してあります。演奏曲目は「3」を参照にして下さい。オリジナルは Yellow Dog というレーベルですが、同一内容でタイトルを変えた物が多数出回っております。

Get Back And 22 Other Songs
 グリン・ジョンズが仕上げたマスターを集めたもので、前述した「Let It Be 315」と同種の企画物です。これもオリジナルは Yellow Dog というレーベルですが、同一内容でタイトルを変えた物が多数出回っております。

Get Back To Let It Be
 リハーサル音源のコンピレーションですが、一応「The Get Back Journals」のダイジェスト盤の趣があります。Walrus というレーベルから1998年頃発売されました。これも似たような内容の物が多数出回っており、聴いていて疲れない編集が施してあります。

 ということで、海賊盤の世界でも「レット・イット・ビー」周辺の音源は人気があり、また様々な謎を解き明かしてくれたり、あるいは事態を一層混迷させてくれたりと、いつまでもネタが尽きません。しかし、正規盤の世界でも、まだまだ興味深い出来事が続いて行くのでした。

【参考文献】
 「ビートルズ・レコーディング・セッション/マーク・ルウィソーン」

(2003.11.06 敬称略・続く)