The Beatles / Let It Be の謎 17

 ということで、活況を呈する海賊盤市場の裏で、というか、本当はこちらが表なのですが、肝心のビートルズはどうしていたかというと、一番大きな問題はグループの存続と分裂という部分で、結局1970年12月31日にポールからビートルズとしてのパートナー・シップの解消を求める訴状が提出され、翌年から裁判が始まりました。

 平行してアラン・クラインが進めていたアップル・コープス再建策のひとつとして、1970年8月にはアップル・オフィスが閉鎖され、アップルはビートルズ関係の著作権管理をする機構として、アレン・クラインの管理下に置かれます。同時に彼はジョン、ジョージ、リンゴのマネージメントを手がけていくのですが、ポールが起こした法廷闘争により、ビートルズ問題を扱うことが裁判所から禁じられ、最終的にはメンバーから遠ざけられて行きます。

 肝心の裁判は1975年に、ポールが求めたパートナー・シップ解消を認める判決が下されましたが、正式な解散声明は現在まで出ていないと思われます。

 そして1976年2月6日、ビートルズとEMIが1967年に交わした9年間のレコーディング契約が終了したことにより、EMIには「かつてのカタログよりいかなるものも再発出来る」という権利が残されたのです。したがって、ここから様々な形態の編集盤や未発表録音が公式盤として登場していくのです。例えばそれは「ロックン・ロール・ミュージック」「ラブ・ソングス」等々の編集盤、そして「ハリウッド・ボール」というライブ盤、また「レアリティーズ」というオリジナルLP未収録曲集等々です。その中では「ロックン・ロール・ミュージック」と「ラブ・ソングス」に収録された曲のミックスが、オリジナルと少しばかり変えてありますが、「レット・イット・ビー」関連曲については特に変更は無く、その他の編集盤でも特に変わったものはありませんでした。

 ただこの流れの中で、1984年にEMIがビートルズの未発表曲集を出そうと目論み、それは翌年に「Sessions」というアルバムとして発売直前まで企画が進行しましたが、この当時、ビートルズとオノ・ヨーコが印税に関連してレコード会社と裁判中だったことから、結局、中止になりました。しかし、そのテスト盤から海賊盤が作られたのは言うまでもありません。また、それが後の「アンソロジー」シリーズに繋がったのです。

 こうして時が流れました。長期間争われた様々な裁判もようやく一応の決着がつき、1976年に消滅していたアップル・レコードのアップル・マークも復活、CDによる旧譜の復刻が始まりました。そして1994年、ビートルズの手による未発表曲発掘プロジェクト、つまり「アンソロジー」シリーズがスタートしたのですが、実はこれも、この年に登場した素晴らしい海賊盤ボックス・セット「Artifacts」の影響かもしれません。このCD5枚組のセットには、ビートルズのアマチュア時代の録音から、エド・サリバン・ショウ等のテレビやラジオ出演音源、リハーサル、ライブ、未発表音源等々の重要なものがきっちりと収められていたのです。当然これは大ヒット、つづけて「同・U」「同・V」と発売されていきました。

 しかし、このような状況の中で登場してきた本家ビートルズの「アンソロジー」には、やはり驚かれされました。実は個人的には、特にCD時代になってからの海賊盤の充実ぶりがあったので、もうほとんどの音源は流出していたと思っていたのです。で、その中から下記の曲が「レット・イット・ビー」関連の音源として「アンソロジー3」のDisc2に収められていました――

01 I've Got A Felling(1969年1月23日)
 グリン・ジョンズが仕上げたとされるバージョンで、これまで数多くの海賊盤に収録されてきたものです。ただし、ここではリミックスされ、音質も向上しているので、サビに入る前のジョンのつぶやき等、今まで気づかなかった音が聴かれました。

02 She Came In Through The Bathroom Window(1969年1月22日)
 後にアルバム「アビー・ロード」で陽の目を見る曲の多くが、この「レット・イット・ビー」のセッションで試されていたことは海賊盤で証明済みですが、これもそうした中のひとつです。このバージョンは初めて聴きましたが、相変わらずダラダラしています。

03 Dig A Pony(1969年1月22日)
 これは初登場の音源だと思います。演奏もタイトだし、ジョンも気合が入っておりますが、いくつかのテイクを繋げて完成させたような編集があるよう気がしています。

04 Two Of Us(1969年1月24日)
 付属解説書ではジョンとポールが一本のマイクで歌ったとしてありますが、明らかに2人のボーカル・パートは左右に分かれています。

05 For You Blue(1969年1月25日)
 これも初登場のバージョンで、ポールによるピアノのイントロが渋みを添えています。

06 Teddy Boy(1969年1月24 & 28日)
 付属解説書にもあるとおり、2つのテイクを繋ぎ合わせた編集が施してあります。最初の1分間位は初登場の部分ですが、途中から海賊盤でお馴染みのグリン・ジョンズ・バージョンになってしまいます。しかも中途半端な終わり方……。せっかくのビートルズ・バージョンが勿体無いことです。

07 Medley : Rip It Up / Shake,Rattle And Roll / Blue Suede Shoes
(1969年1月26日)
 これも意味不明な編集が施されました。最初の「Rip It Up」はほんの少しだけ歌われています。続く「Shake,Rattle And Roll」は海賊盤で聴かれたピアノ・ソロがカットされ、さらにエンディングを編集して強引に「Blue Suede Shoes」繋げています。映画版「レット・イット・ビー」で使われた部分なので、なんとか形にして入れたかった編集意図は理解出来ますが、それなら映画に入っていた「You Really Got Hold On Me」も入れるべきだったと思うのですが……。

08 The Long And Winding Road(1969年1月26日)
 ポールが意図していたバージョンがようやく公式発表されました。海賊盤でお馴染みのバージョンですが、音が良いので尚更、曲の素晴らしさが心に染みてまいります。

09 Oh! Darling(1969年1月26日)
 「02」同様、「アビー・ロード」収録曲ですが、映画でも一部分が観られたように「レット・イット・ビー」のセッションでも録音を試みていたようです。付属解説書では最初の部分が録音ミスで無くなっている等と書かれていましたが、海賊盤ではこれと同じ演奏で、その前後が物凄く長く入ったバージョンがちゃんと存在しています。ただし、聴いていて疲れること請け合いです。もちろんここに短く収録されたものも……。

11 Mailman,Bring Me No More Blues(1969年1月29日)
 アップル・スタジオでの「レット・イット・ビー」のセッションで演奏していたことは海賊盤で知られていましたが、これも何でわざわざここに入れたのか意味不明です。しかも中途半端な編集で……。オリジナルはバディ・ホリーが1957年に出したシングル盤「ワーズ・オブ・ラブ」のB面に収録されていたらしく、皆様ご存知のとおり、そのA面曲はビートルズが初期のアルバム「フォー・セール」で取上げているという絡みからなのでしょうか……。ポールがバディ・ホリーの楽曲の権利を持っているからでしょうか……。個人的にはつまらない収録曲でした。

12 Get Back(1969年1月30日)
 映画ではお馴染みの、例の屋上ライブの最期に演奏されたバージョンです。映画ではモノラルでしたが、ここではステレオ・ミックスで収録され、警官が屋上にやって来た時のざわめきが感じられるような臨場感溢れる仕上がりになっています。ただし、最期のジョンのお喋り「オーディションに受かりたい」云々が入っていないのは減点でした。

21 Let It Be(1969年1月25日)
 個人的には初めて聴いたバージョンです。完成まであと一歩、ダビングに関する会話も聴かれ、すでにライブ・ショウ企画は諦めていたことが感じ取れます。

22 I Me Mine(1970年1月3日)
 映画版「レット・イット・ビー」にこの曲のリハーサル部分が使われることになったため、急遽正式録音されたもので、スケジュールの都合でジョン抜きのビートルズになっています。この短い演奏が、フィル・スペクターによって引き伸ばされて、アルバム「レット・イット・ビー」に収録されました。

 以上、こうやって書いてみると、私があんまり良い印象は持っていないように思われるかもしれませんが、やはり聴いていて新たなビートルズ・マジックに触れた思いに感動した瞬間が何度もありました。それは同時に出た約10時間分の映像版「アンソロジー」にも言えることで、そこではまたまた新たな発見があるのでした。

【参考文献】
 「ビートルズ・レコーディング・セッション/マーク・ルウィソーン」

(2003.11.08 敬称略・続く)