The Beatles / Let It Be の謎 19

 2003年11月13日の夕方、ついに「ネイキッド」が私の前に現れました。公式発表では11月17日に世界同時発売ってことでしたが、レコード会社の努力により14日に日本先行発売が急遽決定、というよりも、これは明らかに輸入対策でしょうねぇ、案の定、日本盤はコピー・コントロール仕様でしたので、海賊盤に食い荒らされる心配も無かったわけですけど、何にせよ、早く聴けたのは嬉しいことでした。

 で、これは本篇とボーナス・ディスクの2枚組なので外見は厚手のプラ・ケース、ブックレットは英語版と日本語版の2冊入りでした。ジャケットは写真フィルムのベタ焼の反転映像を使っていますが、はっきり言ってイカさない……。そして肝心の中身の方は――

01 Get Back
 シングル盤のバージョンを基にしているのですが、最期にあった「うぅ〜ぅ」というポールの唸りと継足しの演奏部分がバッサリと切り捨てられております。もちろんアルバム・バージョンにあった「オーディションに受かりたい」云々というジョンのお喋りもありません。 演奏そのものはボーカルのエコーが取り去られており、ドラムスも真ん中で鳴っているので迫力がある分、最期が本当に物足りません。

02 Dig A Pony
 これはアルバム・バージョンとほとんどいっしょのテイクで、1月30日の屋上ライブ音源を使用していますが、冒頭のカウントや曲終わりのジョンの台詞がまたしてもカットされているところが???です。演奏のミックスはジョンとジョージのギターがはっきり分離して聞こえます。

03 For You Blue
 従来のバージョンとの一番の違いはポールのピアノとジョンのスライド・ギターが左右逆になっていることです。そしてここでも最初の「FBI」云々というジョンの台詞と最期のため息がカットされています。尤も1970年秋頃にアメリカ独自で発売されたシングル盤「The Long And Winding Road」のB面に収録された時にも、冒頭の台詞はカットしてありました。ただしその前に発売された日本盤シングルには入っています。このあたりは発売時期や各国で事情が違うので、一概には決め付けられません。あと、ジョージのギターが大きく聞こえるようになっています。

04 The Long And Winding Road
 これは映画で使われたバージョンで、1月31日の録音です。当然アルバム「レット・イット・ビー」収録のバージョンとは違い、ストリングスやコーラスも有りませんし、歌詞も一部違っております。もちろん「アンソロジー3」収録のものとも違います。後の2つは1月26日に録音されたものを使っており、このあたりの事情については「11」の同曲の項をご参照いただきたいのですが、ただし今回のものは映画版と全く同じというわけではなく、間奏にあったポールのスキャットが削られているのが残念でした。

05 Two Of Us
 これは従来のバージョンとほとんど変わっていないと思われます。ただし音はずっとクリアーになりました。それゆえ温もりが感じられないというか、個人的にはアルバム「レット・イット・ビー」収録のバージョンが気に入っています。この曲に関しては、フィル・スペクターは悪い仕事はしていないと思うのですが……。

06 I've Got A Feeling
 アルバム「レット・イット・ビー」と同じく、屋上ライブからの音源を使用していますが、これまでのバージョンが1回目の演奏を使っていたのに対し、今回は2回目のものを使っています。ただしそれはリアルタイムではミスが多かったので、そのミスったところを1回目から抽出したもので補ったのではないか? というような複雑な編集が施してあるようです。これはデジタル編集でなければ無理な世界ですね。明らかにこれまでのバージョンと違うものに仕上がっていて、意外に迫力があるんで気に入っているんですが、「ネイキッド=裸の」というタイトルに偽りを感じてしまうことも……。

07 One After 909
 これはほとんど変わっていません。あえて言えばドラムスが大きくなったくらいでしょうか、ただし、ここでも曲終わりでジョンが口ずさむ「ダニー・ボーイ」の一節がカットされているので余韻がありません。

08 Don't Let Me Down
 屋上ライブ音源が使われていますが、これまでのものは歌いだしがジョンのソロだったところを、今回はジョン、ポール、ジョージのコーラスでスタートするように変えられました。またジョンが歌詞を間違えた部分も修整してありますので、いずれも何処か別なテイクから持ってきたもので編集を施したのだと思います。

09 I Me Mine
 元々は「アンソロジー3」で聴くことが出来るように短い曲でしたが、アルバム「レット・イット・ビー」に収録する際には、フィル・スペクターがサビの部分を2回に編集し、さらにオーケストラをダビングして仕上げていました。今回はそこからオーケストラを抜いたバージョンにしてあります。全体的に音が強くなっているので、サビのブルース・ロックの部分のノリが良くなっているような気が致します。

10 Across The Universe
 ジョージ・マーティンが被せた鳥の鳴き声や、フィル・スペクターが作り上げた幽玄の宇宙世界的なダビングとテープ操作を取り去り、さらにビートルズ自身のコーラスまでもが消し去られた究極のネイキッド・バージョン、と言いたいところですが、実は若干テープ・スピードが早く、ジョンの声が甲高いように思います。しかも、曲の終わりを引き伸ばしてエコーをかけていくあたりが、私には納得出来ていません。これはジョンがいれば、絶対に無かった処理だと思います。
 個人的には海賊盤で聴くことができるハード・ロック・アレンジとか、グリン・ジョンズが仕上げた女性コーラス入りのバージョンを期待していたのですが……。これはムゴイ仕上げとかしか言えません。

11 Let It Be
 これまた複雑怪奇な編集が施してあります。基本的にはシングル盤のものを使っているようですが、そこへ映画版のものを部分的に混ぜ込んでいるのでは……。とにかく、これまでのものとは違った印象があります。例えばジョージのギター・ソロは映画版と同じですが、音がずっと大きくなっておりますし、コーラスもよく練りこまれたというか、もしかしたら、今回新たに作り出されたものがダビングされたのかもしれません。全体的に謎々が多いバージョンだと思います。ただし、これまでのものよりも力強いというか、力感溢れる仕上がりになっていて、ゴスペルの高揚感が上手く表現出来ているような気もします。

 細かい検証をすれば限が無いのですが、とりあえず以上のような違いに気がつきました。そして全体では、まず曲間が非常に短いという印象で、初っ端の「Get Back」はすでに述べたように曲終わりが物足りないのですが、そう思った瞬間に次の「Dig A Pony」に繋がっています。そしてその雰囲気が最期まで持続していくのです。これはカーステレオで聴く時は良いんですが……。そういえば、2000年に出たペスト盤「1」もそんな雰囲気でした。これが現代的って事でしょうか、私にはどうも余韻が感じられず、どこか馴染めません。

 これまでも繰り返し述べてきたように、元々このセッションから作り出すはずだったアルバムは、ライブ風で曲間にはチューニングやお喋りまでも入れたものにするというコンセプトがあったはずでした。したがって演奏そのものもルーズだし、完成度の高さよりも、その場のノリを大切にする雰囲気が堪らなくロックしていたはずなのです。それは映画のハイライトにもなった屋上ライブで如実に表れておりますし、また結局は公式発売されなかったグリン・ジョンズが仕上げたマスター・テープはもちろんのこと、様々なダビングや音の魔術を駆使してフィル・スペクターが作り出したアルバム「レット・イット・ビー」にも、間違いなく存在していたものでした。

 その辺りのことを思うと、私は海賊盤で出回っているグリン・ジョンズが仕上げたとされるものに、堪らない愛着を覚えてしまいます。これはすでに「6」「7」「9」等で述べたように、曲そのものも未完成のテイクを使用しているし、全体的には雑然とした雰囲気が濃厚なのですが、そのあたりの事を考慮してか、今回おまけとしてつけられたボーナス・ディスクには、メンバーのお喋りや曲のリハーサル・断片等が20分ほど収録されています。

 その会話の部分は新年の挨拶に始まって、当時のリアルタイムでのプロジェクトに関する部分や、曲を仕上げていく過程、さらにはグループの行く末までもが語られております。もちろんそれらは冗談とも本気とも受け取れる部分があるのですが、当然のことながら、これは現在における編集が入っているので、そのあたりは付属解説書の対訳等で、皆様各々がじっくりとご検証お願い致します。

 お目当ての曲の断片は 初期段階の「Don't Let Me Down」、後にジョンが「ジェラス・ガイ」として完成させる「Child Of Nature」、ライ・クーダー風のアレンジの「Get Back」等々が興味深いところでした。ただし、いずれも完奏していないのが残念です。それにしてもこういう雰囲気は、これまで夥しく登場してきた関連海賊盤でたっぷりと染込まされてきたので慣れっこでしたが、まさか正規盤で味わうことになろうとは……。

 ということで、待ちに待った「ネイキッド」はまたまた謎を呼ぶ代物でした。本来はここでこの長い長い文章も終了させる予定でしたが、そうもいかない雰囲気ということで、その纏めは次回に持越すことに致します。

(2003.11.17 敬称略・続く)