CD復刻された吉田美奈子のアルバム

 1970年代前半=昭和40年代後半の日本のロック界で印象的な活躍をした女性シンガーといえば、五輪真弓、荒井由美(現・松任谷由美=ユーミン)、そして吉田美奈子です。当時は3人とも、レパートリーは自作&ピアノの弾語りが中心というスタイルも似通っていましたが、前2者が大衆的なヒットを放ち、現在では誰もが知っている存在になっているにもかかわらず、吉田美奈子はその実力は万人に認められながらも、所謂マイナー・ビッグに甘んじています。ちなみにここで私が「ロック界」と書いたのは、当時はまだニューミュージックとかJポップという、都合の良い言葉がなかったためで、しかし当時はフォークでも歌謡曲でもない日本の若者向けの音楽は、日本のロックなのでした。
 で、吉田美奈子はそんな流れの中で昭和48(1973)年に正式デビューし、今日まで本当に腰の据わった活動を続けてきました。そして今、それから10年間に発売されてきたアルバムが一気に再発されましたので、彼女の活動を振返りつつ、ここでご紹介させていただきます。

扉の冬(1973)
 正式デビュー盤は彼女のピアノの弾語りを中心に、収録全9曲が彼女の自作、プロデュースは彼女と細野晴臣、バックの演奏はキャラメル・ママが担当しています。当然、同時期に発表されたユーミンのデビュー盤「ひこうき雲」との比較が気になりますが、しっとりとした曲からポップな曲まで、やはり通低する雰囲気があります。しかし決定的に違うのは、彼女には驚異的な歌の表現力があるということで、平たく言えば歌が上手いのです。実は五輪真弓も含めた3人は、デビュー当時の流行からキャロル・キングやローラ・ニーロといった、微妙にソウル味のあるアメリカの女性シンガー・ソングライターの影響が強いのですが、その部分を最も強く感じさせるのが吉田美奈子だと、リアルタイムで私は感じました。全てが名曲の収録作品の中では、特に「待ちぼうけ」「扉の冬」「かびん」「週末」が好きです。まさに清らかな魂の世界です!
 このアルバムは現在、スカイ・ステイションという会社からCD復刻・発売されていますが、ある種のインディーズのようで、一般レコード店では不扱いなので、輸入盤も扱っている大型店か、ネット通販で入手して下さい。ちなみに紙ジャケット仕様、通し番号入りの凝った造りになっています。

 ですから、お察しのようにこの後、残念ながらデビュー盤を出したレコード会社が活動停止のため、彼女は原盤製作会社のアルファと契約、以後の発売元はRCAとなりました。以下、ご紹介する4枚のアルバムがそれで、ついに9月22日にCD復刻されますので、品番等は後述致します。

MINAKO(1975)
 プロデュースはアルファを主催していた村井邦彦となり、収録全9曲の内、彼女の自作は2曲だけです。他はユーミンの「チャイニーズ・スープ」とか、興味深い曲もありますが、デビュー盤を気に入った者には、どうも??? バックの演奏はキャラメル・ママ他、当時のスタジオ系のメンバーで、これはどうやら当時の洋楽で流行っていた、女性シンガー+スタジオ・ミュージシャン&有名ライターの楽曲という製作方針を踏襲したところが狙いだったようです。しかし、彼女のボーカリストとしての資質は全開されています。

MINAKO U(1975)
 前作のライブ・バージョンというか、中野サンプラザでのライブ盤です。収録全14曲はデビュー盤からの自作曲の他にジャズ・スタンダードまでもが含まれた構成ですが、その全てが美奈子節になっているが驚異的です。

フラッパー(1976)
 現在のJポップ界では決定的な名盤扱いになっているアルバムです。あまりにも有名な大滝詠一作の「夢で逢えたら」、山下達郎と共作「ラスト・ステップ」というアメリカン・ポップス路線、サイケおやじのテーマにもなっている「ケッペキにいさん」等のファンキー味、そして彼女の自作「愛は彼方」等々、素敵な曲ばかりです。しかもバックの演奏がポップス系ではキャラメル・ママ〜ティン・パン・アレイ、ファンキー系ではポンタ村上(ds)グループなので、その生々しさ、強烈なグルーヴは圧巻です。もちろん吉田美奈子自身の歌唱も解放的で繊細! まさに名盤です。

Twilight Zone(1977)
 山下達郎との共同プロデュースで、ジャズもソウルもゴスペルもファンキーもすぺて飲み込み、美奈子流儀で消化された、これまた名盤です。彼女の歌唱も強烈ならば、山下達郎と作り上げたコーラス・パートも素晴らしい! バックの演奏はポンタ村上(ds)、松木恒秀(g)等々、当時の腕利きで、録音は彼女のピアノを中心としたスタジオ・ライブ形式が基本だったらしいですが、それもジワジワと盛上がってくる作品全体の出来に大きく関わっていて、結果オーライです。収録曲では、最近クラブで人気の「恋は流星」が注目されますが、実はここに収録のスタジオ・バージョンは該当するものではなく、それはシングル・バージョンの方、今回の再発では、ぜひともボーナスに入れて欲しいです。ちなみにこのシングル・バージョンは、現在、ペスト盤に入っているらしいので、チェックしてみて下さい。あと、個人的には「メロディ」が大好きです。全体的にデビュー盤の1977年的展開の作品です。

 以上の4枚の再発品番、価格等は下記の通りです。
 ※MINAKO:BVCK-37111
 ※MINAKO U:BVCK-37112
 ※フラッパー:BVCK-37113
 ※Twilight Zone:BVCK-37114
 ※発売予定日:9月22日
 ※予価:2100円
 ※初回盤のみ紙ジャケット仕様

 さて、ここで彼女の所属するアルファがレコード会社をスタートさせたので、以後の作品はそこから発売されていきます。

愛は思うまま(1978)
 当時の流行だったブラコン&フュージョンに接近した内容で、ハリウッド録音、バックの演奏はワー・ワー・ワトソン(g)、エド・グリーン(ds)等々のスタジオ系超一流のメンツ、さらにアレンジ&プロデュースがジーン・ペイジという豪華版になっています。しかし、彼女の歌唱は全くそれに流されるどころかに、逆に引っ張ってしまったという恐ろしさです。おまけに収録曲も「愛は思うまま」「猫」「時よ」「海」といった彼女の自作、山下達郎との共作「愛の炎」「恋の手ほどき」「雲のゆくえに」という、後々まで彼女のステージの定番になる大名曲ぞろいです。しかし、これは今聴くと、やや軽いと感じるかもしれません。それはこの後、彼女がもっとヘヴィなファンク街道を驀進したからなのです。

モノクローム(1980)
 彼女の完全プロデュース作品で、バックの演奏は松木恒秀(g)、岡沢章(b)、富嘉敷祐一(ds)といった当時の売れっ子スタジオ・ミュージャンであり、且つまた彼女のバックバンドのメンバーだった名手が中心になっています。当然、収録曲は「レイニーディ」1曲だけが山下達郎との共作で、他は全て彼女の自作、そして全曲が彼女のボーカルと共に深いエモーションに溢れています。彼女は1974年頃から山下達郎の盟友として活動してきましたが、その山下達郎がこの年に「ライド・オン・タイム」のシングルで大ブレイクしたのと同質の音が、このアルバムにもあります。つまりファンキーであり、メロディアスなのですが、吉田美奈子はさらに緩急自在というか、1曲の中でじっくり聴かせる部分と激しいグルーヴを爆発させてリスナーをノセてしまう部分を情熱的に演じているのです。もう、全曲最高の1枚で、特に私は「サンセット」「エアポート」あたりのメロー・グルーヴ&ゴスペル味の曲が好きで堪りません。特に後者は歌謡曲ギリギリのせつない泣きを含んでいるのは、言うまでもありません。いや、本当に泣ける……、激オススメです。

モンスター・イン・タウン(1981)
 前作の勢いをそのまんま発展させた大傑作盤です。この当時の彼女は「六本木ピットイン」あたりで強烈なライブをやっていましたが、そこで練り上げられたファンクネスとメローな生の息遣いといったものが、見事に真空パックされています。収録8曲はすべて彼女の自作で、もちろんプロデュースは自ら手がけています。演奏は前作のメンバーを基本に坂田明(as)といった前衛ジャズマンまでもが参加しており、まず冒頭の和製ヘヴィ・ファンク「タウン」でKO間違いなし! そして続く「ラビィング・ユー」のメロー・グルーヴも辛抱たまらん状態、この2連発で完全に吉田美奈子ワールドの虜になります。他にもCMに使われた「ブラック・アイ・レディ」や「窓」というスロー・ナンバーでは初期のシンプルな味が蘇り、また重金属ファンクな「モンスター・ストンプ」、ゴスペル味の「つかの間の時へ」もあるという美味しさに満ちた作品で、もちろんその全てで圧倒的に素晴らしい彼女のボーカル&コーラス、熱唱が! これまた必聴の1枚です。

Light'n Up(1981)
 東京とニューヨークで録音されたせいか、都会的洗練というか、ある種の明るさを含んだファンキーで楽しい作品です。参加メンバーでは何といってもブレッカー兄弟&デビット・サンボーンのホーン・セクションが魅力的ですが、吉田美奈子&日本組も負けてはいません。このアルバムも全8曲が彼女の自作ですが、やや作風がライトになった雰囲気です。これは当時の流行でもありましたが、その中では繊細な「時の向う」、そしてPファンクな「ALCOHOLLER」が印象的です。

イン・モーション(1983)
 この時期の彼女は和製ファンクの女王という扱いでしたが、その集大成的なアルバムです。収録曲はこれまでの代表曲を新アレンジで演奏したもので、それは彼女のレギュラー・バンドを使っての一発録り、つまりライブ感覚に満ちています。もちろん後にスタジオでの手直しが入っていますが、それにしてもこの演奏と歌はテンションが高く、完璧なグルーヴを発散させていて強烈です。彼女の歌唱もやや高声を多用しているのが気になりますが、ジャズ的なフェイクとノリ、そして圧倒的な迫力があり、またバックの演奏もそれに一体となってインタープレイで応じるなど、これはもう和製ジャズ・ファンク・フュージョンです。特にスタジオ・バージョンよりも過激にアレンジされた「ALCOHOLLER」での彼女の歌いっぷりは、誰も真似が出来ない境地です。

 以上の5枚はすでに8月に復刻・発売され、品番等は下記のとおりです。
 ※愛は思うまま:MHCL 412
 ※モノクローク:MHCL 413
 ※モンスター・イン・タウン:MHCL 414
 ※Light'n Up:MHCL 415
 ※イン・モーション:MHCL 416
 ※現在発売中
 ※価格:各2310円(税込)
 ※初回盤のみ紙ジャケット仕様

 ということで、吉田美奈子は私の中では青山ミチとならんで、日本の2大女性ボーカリストになっています。彼女については、こんなことでは書き足りませんが、今回はここまでとして、まずは皆様にはこの機会にぜひとも聴いていただきたくて、ここで簡単に復刻アルバムをご紹介した次第です。特に「扉の冬」「フラッパー」「モノクローム」「モンスター・イン・タウン」は聴かずに死ねるかの作品です。
 ちなみに彼女はこの後、アイドルに曲を提供する等、裏方に回ってしまった感もありますが、現在でもマイペースでアルバムを発表したり、ライブをやったりしています。機会があれば、彼女の実演にもぜひ、接していただきとうございます。必ず、泣きます。

(2004.09.04 敬称略)