大幹部
無頼

 傑作「無頼より / 大幹部(舛田利雄監督)」の続篇です。もちろんそれが大ヒットしたことによる製作なんでしょう、公開もゴールデンウィークにぶっつけています。

 スタッフもそこから引き続きになっていますが、今回の監督はそこで助監督を務めた小澤啓一です。もちろん監督デビュー作でありながら、温故知新の新感覚が冴えて、優るとも劣らない凄い傑作となりました。正直、個人的には前作よりも好きなほどです♪

 そしてこれこそ、日活ニューアクションを直に体現した作品だと思います――

大幹部 / 無頼(昭和43年4月)
監督:小澤啓一
企画:岩井金男
原作:藤田五郎著「無頼(南北社)」
脚本:池上金男&久保田圭司
撮影:高村倉太郎
音楽:伊部晴美
助監督:沢田幸弘
出演:渡哲也(藤川五郎)、松原智恵子(橋本雪子)
■出演:松尾嘉代(夢子)、芦川いづみ(鈴村菊絵)
■出演:二谷英明(浅見)、真屋順子(浅見セツコ)
■出演:太田雅子=梶芽衣子(ケイコ)、内田良平(木内)
■出演:田中邦衛(根本)、深江章喜(森)、郷^治
■出演:岡崎二郎(若林淳)、山内明(和泉)、吉田武史(花村)
■出演:藤岡重慶(高宮)、秋本とも子=秋とも子(情婦) 他

 物語は既に述べたように前作の完全なる続篇で、時代は昭和30年頃、まず夜汽車の中の藤川五郎=渡哲也の回想・独白から始まります。

 それは惨めな生い立ち、そして前作の粗筋であり、もちろんタイトルバックも兼ねながら、映像も使い回されています。つまり前作で瀕死の傷を負った渡哲也は生きていたという設定から青森へ逃がした松原智恵子と松尾嘉代に会いに行くというのが発端です。

 このあたりは、仮釈放中にあれだけの事件をやってしまったんですから、再び服役するのが現実なんですが、まあ、それは映画の中のお約束ということでしょう。


 で、雪の青森に着いた渡哲也ですが、早速、トラブルに巻き込まれるのも、またお約束です。

 それは地元のヤクザの罠にかけられて窮地に落ちそうなダンサー達を救う展開ですが、その中のひとりが芦川いづみ♪ その儚げで無国籍な美しさは本当に絶品ですねぇ♪ もちろん渡哲也は任侠の徒を気取ることはしませんが、芦川いづみにお礼として赤いスカーフを巻いてもらう場面は、何とも言えない良さ、つまり古き良き時代の映画の趣があってジンワリとしてきます。渡哲也の野暮天ぶりも微笑ましい限りですねぇ。

 しかし松尾嘉代と松原智恵子が暮らす家へ向かった渡哲也は、まずセンパイの待田京介を見殺しにしてしまったことを詫びるのが第一目的ですが、その妻=松尾嘉代が病気で寝込んでいることに愕然とします。そして松原智恵子との再会も、思わずジ〜ンとなる名場面! このあたりは前作を観ていると、尚一層、感動的ではありますが、松原智恵子の思いつめて感極まった表情と演技は、流石だと思います。また続くリンゴ畑での渡哲也と松原智恵子の2人芝居は、日活伝統の青春路線が定石どおりに映像化されていて、嬉しくなったりします。

 こうして渡哲也はカタギの仕事も得て、松原智恵子と穏やかな生活を始めるのですが、前述した地元のヤクザから呼び出しを受けて組事務所に連れて行かれたり、また松尾嘉代の病状が悪化したりして、なかなか安息の日々とはいきません。

 結局、金に詰まった渡哲也は、旧知のヤクザ者で、今は横浜でグングンと伸し上がっている木内=内田良平を頼って「人斬り五郎」へと逆戻りです。

 それでも、いざ、金を受け取る段になって「これで体を張らなきゃねぇ、それが、つれぇんだ……」と躊躇しながら納めてしまう渡哲也の煮え切らなさ、また横浜駅前で出迎える郷^治や岡崎二郎のチンピラ感覚も、良いですねぇ。

 すると早速、対立する和泉組のチンピラが昼間っから縄張内のキャバレーで遊んでいるとの急報があり、渡哲也は若い者の付添いで問題の店へ出張っていきますが、率先して手を出すことはしません。バーのカウンターに陣取り、鏡張りの壁で様子を見ているだけですが、これが如何にも日活アクション伝統の演出・カメラワークで、またまた嬉しくなります。

 しかもそこで、物語冒頭で助けたはずのダンサー=芦川いづみと再会するという、完全に日活モードどっぷりの展開へ続くんですから、言う事無しです! つまり彼女は結局、ダンサーから売春婦に落ちていたという哀しい再会……。おまけにヒモになっているのが、前作で斬り殺した上野組長=青木義郎の弟・根本=田中邦衛という、どうしようもなくディープな人間関係が浮かびあがってくるのです。

 ただし、ここはセットや演出が、これも日活伝統の無国籍アクション調であり、舞台が日活の聖地=横浜であることあって、失礼ながら東映のようなドロ臭さは微塵もありません。渡哲也と芦川いづみのハードボイルドな会話、些か味付けが濃い台詞、さらに別れ際で渡哲也が、青森で彼女から貰った赤いスカーフをさっと巻いて帰るところは、もう泣きたくなるほどのカッコ良さ! ですからヒモ役の田中邦衛が妙に浮いています。

 そして対立する和泉組の代貸・浅見=二谷英明が、渡哲也のセンパイです! さらにその妹が太田雅子=梶芽衣子、しかも彼女が木内組のチンピラの岡崎二郎と恋仲になっているという、これもヘヴィな人間関係が提示されますから、渡哲也はガンジガラメというか、相等に密度の濃い脚本になっています。

 ちなみに梶芽衣子は、まだ太田雅子という本名を芸名にしていた時代の出演作品なので、梶芽衣子としてのイメージとは異なる演技を見せており、ここではダンサー役としてフラメンコを踊っていますが、衣装は普通なので過大な期待は禁物です。

 という状況の中、青森では松尾嘉代の病死があり、松原智恵子が横浜に出てくるのですが、その前に危篤を知らせる電報を握り潰すという内田良平は、本当に悪い奴です。ここは松尾嘉代の死に際の演技が強烈に素晴らしく、さらに同じ頃、どんちゃん騒ぎの内田良平を警護する渡哲也の、事情を知らぬクールな振る舞いが、最高のコントラストで演出された名場面になっています。続く松原智恵子との非情な会話もジーンとしますねぇ……。

 物語はこの後、木内組と和泉組の潰し合いから殴り込み、さらにその場から結果的に逃げて組を裏切った岡崎二郎のリンチ、そして死が続き、ついに渡哲也の怒りが爆発! 木内組を相手に暴れますが、結局は傷だらけ……。それを偶然に通りかかった芦川いづみが助けるのも、またまたのお約束とは言え、やはり王道の演出は良いもんです♪

 ちなみに、ここでのアクションは本当にハードでリアルなので、渡哲也は雪駄履きで、ここまで出来るのか!? という素朴な疑問も湧きあがるほどですが、まあ、それも……♪

 しかしヤクザ社会の非情な現実は続き、せっかく逃げたセンパイの二谷英明は家族に会いに来て殺されますし、和泉組長=山内明は情婦と一緒に寝ているところを惨殺されます。

 こうして再び、渡哲也には木内組と決着をつける時が来るのですが、とにかく各場面の演出、出演者の演技が完璧としか言えません。カメラワーク&照明も最高です!

 それはクライマックスのアクションシーンでさらに煮詰められ、貨物駅の線路端から倉庫、さらにドブ川の中へと連続し、一瞬も弛むことの無いド迫力の斬り合いは、絶句と興奮の連続です。もちろん渡哲也も内田良平も、出演者全員がドロドロ、ぐっしょり、衣服は破れ、血まみれの熱演ですが、愕いたこと、このシーンとクロスして女子高生が白い運動着姿でバレーボールをやっている映像が入るのです。

 つまりドブ川の上がグランドになっているという設定でなんですねぇ。これはヤクザのド汚い世界の上には真っ白で穢れの無い場所があるという表現と解説されますが、もちろん最後には、そのグランドで渡哲也が倒れるという、壮絶なラストシーンが用意されています!

 う〜ん、それにしてもこの脚本は本当に上手く出来ています。特に梶芽衣子が惚れている岡崎二郎を兄の殴り込みから救おうとして連れ出した事が裏目に出て、両方の組から裏切り者扱いされるあたりの不条理さ! 泣きながら裏切りを否定して、結局は死んでしまう岡崎二郎は刹那の名演ですし、また自分の愛情が悲しい結末となり、渡哲也のアパートの玄関で顔を覆って泣く梶芽衣子も、太田雅子としての名演! このあたりは何度観ても良いですねぇ〜。

 この他にも全てが名シーン&名カットという作品の中にあって、お待たせしました、サイケおやじ的な美味しい場面ですが、まず冒頭、青森の田舎駅で地元ヤクザに絡まれている芦川いづみが、殴られて転んだハズミにスカートからチラリと覗く美脚の雰囲気が素敵です。

 また岡崎二郎が梶芽衣子から殴り込みの事実を知らされ、組に戻ろうとする揉み合いの場面では、彼女の胸が肌けて、一瞬ですが白いレースの下着がっ♪ 過大な期待は禁物ですが、お宝でしょうねぇ〜。ここはDVD化された時、まず最初に確認したいところです。

 さらに和泉組長=山内明の情婦役として出演の秋本とも子は、後の秋とも子であり、ここでは山内明をマッサージ中に服を脱ぐように命令され黒いブラパン姿になってのお仕事が印象的♪ 最後は黒ブラまでも取ってしまう描写も、なかなかサービス満点だと思います。

 それとクライマックスのアクションシーンと重なる、女子高生のバレーボールでは、もちろん彼女達の若い肉体をこれでもかと見せつけるような白い体操着と短パン姿♪ 当然、サービス過剰というミエミエの演出は、観てのお楽しみです♪

 ということで、これは物凄い傑作! 前作の下地があったとはいえ、デビュー作でこんな物凄い作品を撮ってしまった小澤啓一監督は天才じゃなかろうか!? と本気で思います。もちろんそれは、スタッフと出演者の充実もあるわけで、中でも小澤監督と同期入社という盟友・沢田幸弘が助監督を務めたのは大きいとされています。

 とにかく無駄なカットがひとつもありませんし、日活伝統の映像描写に加えて新しいハードボイルドな演出が見事に融合しています。クサイ台詞も嫌味になっていませんし、むしろ泣きたくなるほどのカッコ良さが横溢しているのです。

 それは井上梅次〜舛田利雄〜小澤啓一という日活娯楽映画の美しき流れでもありますが、この作品に特徴的なのが、ド汚いヤクザ世界の否定であり、しかしそこでしか生きられなかった主人公の悲しい悪あがき……。正義を振り回す者など、この作品には1人として出てきません。皆、哀しい運命に翻弄されるのです。特に芦川いづみは哀しいなぁ……。ちなみに彼女はこの年秋に引退し、藤竜也と結婚してしまうのですよ……。これも悲しい……、と言ってはいけませんね、反省です。

 まあ、それはそれとして、皆様にはぜひとも、ご覧いただきたい作品です。それも出来れば前作「無頼より / 大幹部」から続けて鑑賞すると、全体の流れも素直に楽しめますし、何よりもこの「大幹部 / 無頼」がどれほど温故知新の凄みに溢れているか、感動出来るはずと思います。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.01.26 敬称略)