無頼非情

 傑作「無頼」シリーズの3作目ですが、続き物だった1&2作目とは異なり、ただ「人斬り五郎」という哀しいヤクザがいるだけの設定になっています。つまり興行成績が全て優先されるプログラムピクチャーの世界においては、ヒット作の美しき慣例が「ふりだしに戻る」です。

 しかし忽せに出来ない原作がある上に、渡哲也が演じる「人斬り五郎」のキャラクターが、すでに絶対になっていますから、物語展開は良い意味での「お約束」が大切にされ、安心感があります。しかも今回の監督がムードアクションの名匠=江崎実生の演出ですからねぇ〜♪ 明らかに前2作とは異なった味が楽しめます――


無頼非情(昭和43年8月)
監督:江崎実生
企画:岩井金男
原作:藤田五郎著「無頼(南北社)」
脚本:山崎巌&江崎実生
撮影:山崎善弘
音楽:伊部晴美
出演:渡哲也(藤川五郎)、松原智恵子(橋爪ケイコ)
■出演:扇千景(沢田アキ)、葉山良二(沢田)
■出演:和田浩治(健二)、内田良平(相良)、藤江リカ(ユリ)
■出演:高品格(橋爪)、渡辺文雄(古賀)、名和宏(新関)
■出演:内田朝雄(安岡)、郷^治(久保)、玉川伊佐男 他

 さて今回の舞台は、昭和31年頃のある地方都市、人斬り五郎=渡哲也が、渡世の義理から葉山良二へ博奕の借金3百万円を取り立てにいくのが発端ですが、どしゃ降りの雨の中、車で潜むのは渡哲也の他に名和宏と郷^治です。

 もちろん葉山良二もヤクザですから、そのド汚い手の内は百も承知で、妻の扇千景と逃亡を図ろうとするのですが、この扇千景が心臓に持病を抱えていることが、物語の重要なモチーフとなっています。ここでも土壇場でそれに同情した渡哲也が、2人を逃がそうとしたことが裏目に出て、結局、葉山良二は名和宏にブッスリと刺され……。

 この裏には、沢田組潰しを画策した三木本組のイカサマ賭博があり、また死に際の葉山良二から妻・アキ=扇千景の長野までの道行きを頼まれたことから、渡哲也は逆に三木本組へ乗り込んで大暴れするのが、その後の展開に繋がっていきます。

 このあたりは、些か古臭いところがありますし、やや力みが目立つ渡哲也の演技、あるいは、どしゃぶりの雨の中のアクションのキレがイマイチという雰囲気も、当時としては王道を大切にした演出だと思います。

 当然、渡哲也は警察に拘留されますが、扇千景の証言によって釈放され、2人は長野へ列車の旅となるものの、もちろん扇千景には大迷惑な話です。しかもここで、三木本組のあくどさに愛想を尽かした郷^治が、渡哲也の舎弟を志願してついてくるという、ロードムービーのスタイルになるところが良い味です。

 さらに殺された葉山良二の弟・和田浩治が、その犯人を渡哲也と思い込み、復讐を誓って2人を追跡するというのも、上手い展開です。

 しかし心身ともに疲れきった扇千景の持病が悪化して、一行は横浜で途中下車! 緊急入院した彼女のために、肉体労働に汗を流す渡哲也と郷^治というのも、不思議と爽やかな印象が残ります。そして、そんな日々の中で、チンピラに絡まれている松原智恵子を助けるという、お約束が用意されているのです♪

 また五郎=渡哲也が孤児時代に仲間だった相良=内田良平との再会もありますが、この相良が今ではヤクザから足を洗って事業家になっており、その妻・ユリが藤江リカ♪ しかし彼女の兄が渡哲也を狙うヤクザの渡辺文雄という、今回もヘヴィな人間関係が提示されるのです。

 こうして役者が揃ったところで、今回も一番の見所が渡哲也へ一方的に好意を寄せる松原智恵子の存在です。しかも劇中では、彼女の父親=高品格も元ヤクザで、今は酒場の経営者という設定なので、親子対立から家出した松原智恵子の一途な純愛が眩しいほどに演出されているのです。

 例えば2人っきりでいる時、地元のヤクザの探索をごまかす大義名分があるとはいえ、渡哲也が松原智恵子を強引に抱き寄せてのキスシーン、とまどいながらも嫌がりが少ない彼女の身のこなし♪ さらにその後の表情……♪ 王道を行く最高の演出になっています。

 また高品格との親子喧嘩の場面では、思いつめて直向な台詞回しも素晴らしく、それは家出して渡哲也のところに押しかけて――

 「野郎と一緒に寝ることが、どうなることか、知ってんのか!?」

――こう、渡哲也に問われ、はにかんで頷く松原智恵子が最高♪ これでグッとこない男はいないでしょう! 本当に参っちゃいますよぉ♪

 物語はこの後、渡哲也の始末を着けねばならない渡辺文雄や名和宏の悪企みから、扇千景が病院から誘拐されたり、郷^治がそれを阻止しようとして顔を蒸気で焼かれ、メッタ刺しになって殺されたり、藤江リカが兄と夫の板挟みになって悩んだり……。とにかく流れるように上手く展開されます。

 もちろんアクションもたっぷりで、クライマックスではペンキ屋の倉庫で原色ドロドロになった大立ち回りが強烈! 実際の現場でも一発勝負の本番撮影だったと思われますから、緊張感も満点ですし、最後には瀕死になりながら横浜の街を出て行こうとする渡哲也の哀切の演技が、素晴らしいかぎり! 当に無頼非情です!

 さて、期待される美味しい場面ですが、残念ながら特にありません。しかし江崎実生監督は、流石に女を撮るのが上手く、重病で寝ている扇千景が妙に艶めかしかったり藤江リカの愁いが滲む面立ちは印象に残ります。特に藤江リカは、どちらかといえばスベ公系の役が多いですから、ここでの人妻兼クラブ歌手という、しっとりした役柄は貴重なお宝♪ もちろん「別れのブルース」と「夜霧に消えたチャコ」という昭和の名曲を歌う場面もありますが、残念ながら、これは誰かの吹替え疑惑が濃厚です

 そして歌といえば、今回は渡哲也が自ら主題歌「男の流転(作詞:藤田五郎 / 作曲:叶玄大)」とラストテーマの「男泣き(同)」を歌っているのも要注意です。決して上手くはありませんが、持ち味の朴訥と素直な歌唱は、この作品にピッタリでした♪ ちなみに両曲とも、当時はクラウンレコードから発売されていたようですが、現在CD化されているか不明なのが残念です。

 ということで、「無頼」シリーズ中では、ちょっと異色という柔らかさが目立ちます。ハードさが足りないという雰囲気でしょうか……。

 しかし松原智恵子が元ヤクザの父親・高品格の若き頃と人斬り五郎を重ね合わせて、自分の母親と自らの愛の行方を思うあたりの純情可憐さは、本当に絶品です。もちろん渡哲也との2人芝居で一途な愛を告白するところは、ヤクザの哀しい宿命があるとはいえ、羨ましさが満点! これぞ、日活です♪


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.02.09 敬称略)