無頼 人斬り五郎

 「無頼」シリーズの4作目は、大傑作だった2作目「大幹部 / 無頼」に続く小澤啓一監督の演出です。ただし続篇では無く、これも「人斬り五郎」という、哀しいヤクザを演じる渡哲也のキャラクターを活かしたハードボイルドな作品なので、良い意味での安心感がたまりません。

 小澤啓一監督にしても、好評だったデビュー作に続く第2作目ということで、当然、入念な下準備があったのでしょう。スタッフもそこからの気心が知れた面々ですから、なかなか見応えのある作品になっています。――

無頼人斬り五郎(昭和43年11月)
監督:小澤啓一
企画:岩井金男
原作:藤田五郎著「無頼(南北社)」
脚本:池上金男&小澤啓一
撮影:高村倉太郎
音楽:坂田晃一
助監督:沢田幸弘
出演:渡哲也(藤川五郎)、松原智恵子(磯村ユキ)
■出演:小林千登世(林田しのぶ)、藤竜也(林田昌彦)
■出演:佐藤慶(白山)、南原宏治(牧野)、小池朝雄(海藤)
■出演:岡崎二郎(石丸鉄男)、秋とも子(ナエコ)
■出演:殿岡ハツエ(ミツコ)、深江章喜(黒松)、大滝秀治
■出演:高宮敬二(大羽)、谷村昌彦、雪丘恵介、高橋明
■出演:杉江広太郎、吉田武史 他

 さて、今回の物語は、雪のちらつく冬の夜、人斬り五郎=渡哲也が渡世の義理から名振会会長=大滝秀治を襲撃する場面から始まりますが、既にして劇的で間然することのない演出がハードボイルドな雰囲気を醸し出しています。

 もちろんここでは短いながら激烈な殺陣と大滝秀治の死に際の名演が見事ですし、いっしょに行った藤竜也が手負いとなって渡哲也と観念するあたりも、男の世界です。

 こうして服役した2人に時が流れ、昭和32年頃、渡哲也には仮釈放が決定、しかし病気の藤竜也はムショ内病棟で瀕死という明暗に別れてしまうのです。そしてムショ側の温情により、渡哲也は仮釈放出獄前に藤竜也と面会が許され、別れの場面で事後を託されるのですが……。

 ここはせつない場面なんですが、演出は必要以上に湿っぽくしておらず、逆にかすかに流れる音楽が何時しかシリーズを通しての「無頼のテーマ」に変わって行き、クレジットロールに繋がる編集が鮮やかです。しかも今回は、そのテーマ曲に歌詞が付けられ、渡哲也が歌う「無頼人斬り五郎」という唄になるんですねぇ♪

 で、結局、藤竜也は獄死……。その遺骸は引き取り手も現れず、囚人墓地へ葬られるのですが、その場面の一部始終を演出した映像に渡哲也の朴訥としたナレーションが入ります。それは「裏門仮釈放」と呼ばれる、哀しい末路が淡々と描かれているのでした……。

 ここで舞台は一転、愛知県の某地方都市の駅に、松原智恵子が降り立ちます。そして公衆電話の所で忘れ物らしき手帳を発見するのですが、それはもちろん、渡哲也の私物であり、お約束の2人の出会いが上手く演出されています。無言で手帳を取上げ、黒い革ジャン姿でチンピラ風情を漂わせる渡哲也が、シリーズの回を重ねる度に、ますます良いキャラクターになっています。

 で、向かった先がストリップ小屋です。
目的は、ここで数年前に事務員として働いていた林田しのぶという、獄死した藤竜也の姉に会うためですが、それは哀しい知らせを秘めています。しかし当時は映画館だったその小屋も、今では経営者が変わったストリップ小屋で、当然、彼女の行方も分からなくなっているのですが……。

 ここは成行きから入場した渡哲也のおかげで、昭和のストリップ劇場の雰囲気が味わえますが、踊っているのが昭和40年代の人気ダンサーだった殿岡ハツエ♪ 私の世代以上の皆様には、なんとも懐かしい、下卑ていながら恥じらいを忘れていないストリップショウの本質を存分に見せてくれます♪ 客層のギラギラして陽気な雰囲気も楽しいですねぇ〜。

 ちなみに殿岡ハツエはストリッパーが本職ではなく、日劇ダンシングチームを経て昭和31年頃から世界各地で踊っていたというキャリアがあります。そして昭和39年に帰国してからは、再び日劇に登場する他、映画やテレビの深夜バラエティにも頻繁に出演して人気を集めています。また私生活では神代辰巳監督と結婚生活を送っていたこともありました。

 しかし盛り上がっている最中に、名振会のチンピラ=岡崎二郎が借金取立てに来たことから、ショウは中断! 楽屋では小屋主の小池朝雄と岡崎二郎が刃物を出して睨み合いですが、ここに仲裁に入って事を丸く収めるのが人斬り五郎=渡哲也というのは、お約束です。

 こうして因縁を作ってしまった渡哲也は、それでもカタギの生活を求めて地元温泉ホテルのボイラーマンの職を得ますが、暇を作っては藤竜也の姉の行方を捜し続けます。ちなみにこのホテルのフロントで働いているのが、松原智恵子なんですねぇ。もちろん2人の関わりも、上手い演出でいろいろと描かれていますが、常に何かを思いつめたような彼女の面立ちが、本当に魅力的です。

 一方、人斬り五郎の出所を知った名振会は、先代会長の一件がありますから、色めき立ちます。折りしも縄張りの締め付けを強化している現会長=南原宏治は、最高顧問の白山=佐藤慶と計らって人斬り五郎=渡哲也を抹殺しようと企むのですが、この佐藤慶が煮え切らない態度のクセモノというのが、今回の物語のキモになっています。

 それは、些かネタバレになりますが、佐藤慶は名振会の殺し屋であり、過去に松原智恵子の父親を手にかけた事から、匿名で彼女に償いの送金を続けているという、とんだ「足長おじさん」です。もちろんヤクザな境遇を嫌いつつ、そこから抜け出せないジレンマは人斬り五郎と同じですから、この2人の対決には暑苦しいものさえ漂ってしまうのですが……。

 さて、気になる藤竜也のお姉さんの行方ですが、どうやら赤線で身を売っていることが判明! そこの売春婦まゆみが林田しのぶ=小林千登世です。そして当然、今は悲惨な境遇であり、弟の裁判費用のために身を売る破目の嘆き節……。彼女はテレビ創成期からNHKの専属として活躍した清純派ですが、なかなか薄幸な役柄も似合う美女ですねぇ♪

 それとこの場面は、当時の特飲街や売春宿の雰囲気が勉強になります。もちろん私は行った事が無いですから。

 また物語は例によって複雑な人間関係が手際良く描かれ、様々な人間模様が哀しくもハードボイルドに描かれていきます。

 まずシリーズではお約束という、松原智恵子の人斬り五郎に対する清純で一途な想いには、何時もながら眩しいものを感じます。特に赤線街の入口で、酔っ払いにちょっかいを出されながらも、ひたすらにじっと渡哲也を待っている姿には、グッと来ます♪

 もちろん要領が悪くて、ついには組から仕置きを受ける岡崎二郎の腰抜けチンピラぶりも流石ですし、小池朝雄の世渡り下手とか佐藤慶の鬱陶しい苦悩……。軽妙なヤクザフィーリングの深江章喜も、相変わらず最高!

 そんなこんなが折り重なっての演出では、借金で縛られているコールガールへの折檻、ハンマーで指を潰す拷問、女を犯しての写真撮影、さらにド汚いヤクザの遣り口……等々が、これでもかと出てきます。そして小林千登世も小池朝雄も無残に殺されて……。おまけに岡崎二郎と恋人の秋とも子は、ちょっと哀しくも熱い青春の滾りのような……。
 
 いずれも絶妙のカメラワークと照明が嫌味無く、アクションシーンはリアルな迫力に満ちています。特にクライマックスは塩田作業場の塩水が流れ落ちる櫓での、塩水まみれの大殺陣! ラストシーンの些かクサイ演出も印象に残ります。

 また、美味しい場面としては、秋とも子の下着姿とレイプシーンというサービスがあります♪

 ということで、なかなか安定感のある仕上がりなんですが、それゆえにイマイチ、押出しが足りない雰囲気も残ります。このあたりは、全て分かっている楽しみ、として味わうのが本当なんでしょうねぇ。それこそがプログラムピクチャーの醍醐味ですから!

 ちなみに、劇中には名台詞が数多くあります。というよりも、名台詞の連続で物語が繋がれているというのが本当でしょうか!? ここにいちいち、抜き出すことは致しませんが、そのあたりを楽しむのも王道かと思います。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.06.01 敬称略)