あるシ力マ幹部のドキュメト「無ドよ り
無頼 黒匕首

 「無頼」シリーズの5作目は、なんと前作「人斬り五郎」の翌月公開ですから、如何に当時の日活がドル箱扱いにしていたかが分かろうというものです。しかも金看板のお正月映画!

 内容はもちろん渡哲也が演じる哀しいヤクザの人斬り五郎が、ハードボイルドな生き様を見せてくれます。ちなみにタイトルになった「黒ドス」とは、藤川五郎が愛用している黒鞘の匕首のことで、前作に続いて渡哲也が歌っている主題歌の中にも出てくるトレードマークが、この作品で映像化されたというわけです――

無頼黒匕首(昭和43年12月)
監督:小澤啓一
企画:岩井金男
原作:藤田五郎著「無頼(南北社)」
脚本:池上金男
撮影:高村倉太郎
音楽:坂田晃一
助監督:澤田幸弘
出演:渡哲也(藤川五郎)、松原智恵子(三浦志津子、由利)
■出演:北林早苗(サエコ)、露口茂(竹宮)、中谷一郎(三浦)
■出演:川地民夫(末雄)、青木義朗(安本)、深江章喜
■出演:田中邦衛(本郷)、葉山良二(嶋岡)、高品格
■出演:菅井一郎(武相会総長)、郷鍈治、佐藤サト子
■出演:藤江リカ、吉田高史、八代康二、高橋明、長弘
■出演:森みどり、大橋レミ 他

 今回はタイトルロールから、いきなりヤクザの抗争で人斬り五郎=渡哲也が大暴れというアクションシーンが展開されます。場所は関西、そこの敵方に助っ人しているのが、横浜を縄張とする大組織の武相会です。

 で、ここは手負いになりながらも、必死で相手を斬りまくる藤川五郎の映像に重なって、渡哲也の朴訥にしてハードボイルドな語りが入り、それはもちろん、ヤクザ稼業を嫌いつつも抜け出せない自分を自嘲するものです。しかも映像に上手くストップモーションが使われているので、強いインパクトが残ります。

 で、なんとか生き残った渡哲也の前に立ちはだかるのが、武相会総長の息子・末雄=川地民夫で、ここは緊張感のある一騎打ちのドスで勝負! ところがそこへ、逃がしたはずの女・由利=松原智恵子が現れてっ! もちろん彼女は藤川五郎=渡哲也を熱烈に愛しているわけですから、ギュ~っと凍りつくその場の空気から、再び斬り合いとなったその時、非業にも松原智恵子は川地民夫にブッスリと刺されて……!

 もちろんこれは、不幸な事故というか、松原智恵子の愛ゆえに渡哲也が助けられたという、まあ、お約束の展開ですが、ここから始る川地民夫の神経質な芝居は、全篇を通して大きなポイントになっていきます。

 また血まみれの松原智恵子を抱きかかえ、深夜の街を彷徨う渡哲也の哀惜の演技も秀逸で、物語の初っ端から、いきなりのクライマックスが楽しめるという演出になっています。そしてサイケおやじ的には、時代がミニスカートですから、松原智恵子が渡哲也に抱きかかえられた時は膝から太股、さらにその奥までもが気になるカメラワークと、瀕死でありながら、さり気なく足を閉じている彼女の上手い演技に、グッときます♪ ただし劇中のリアルタイムでは昭和34~35年頃の出来事なので、こんなミニスカートは無かったはずですから、ここは小澤啓一監督のサービス精神に拍手♪

 さて、2年後の昭和37年頃、藤川五郎=渡哲也は立川にやって来ます。それは先輩・三浦=中谷一郎を訪ねてのことで、今はカタギの砂利屋を営む先輩の下で、今度こそ、やり直しを決意しているようです。しかし、この街にも武相会の手は伸びていて、古くからの縄張を守っている嶋岡組は崩壊寸前……。

 そして藤川五郎は、先輩に連れられて行ったバーで、昔なじみの女に再会してしまいます。それが店のママ・サエコ=北林早苗! スクリーンから滲み出るような色っぽさは最高です♪ どうやら2人には特別の過去があったらしく、店の奥でシミジミと悔悟の語り合いですが、現在の彼女は亭主持ち……。しかもその男が嶋岡組幹部の竹宮=露口茂なんですから、藤川五郎は否が応でもヤクザの抗争に、またまた巻き込まれるのはお約束です。

 一方、武相会の跡目の「若」・末雄=川地民夫は稼業に身が入らず、人妻の美女を引っ張り込んで、今日もベッドでお楽しみ♪ 父親の総長=菅井一郎を嘆かせています。どうやら昔、藤川五郎の女・由利=を刺し殺してしまった悔恨に苦しめられている様子……。もちろん、それが彼女への奇妙な一目惚れになっているような……。

 ですから、組の仕事で出張った立川で見かけた女が、その由利に瓜二つだったことに驚愕! もちろん彼女は松原智恵子が二役で演じている看護婦の三浦志津子で、中谷一郎の妹という設定です。ここは松原智恵子がナースの衣装でストッキングを履きかえるという大サービス場面もあり、それにしても彼女の美脚が太股まで拝めるとは♪ コスプレマニアは必見!

 さらに藤川五郎=渡哲也も彼女に会って茫然自失! おまけに川地民夫はストーカーとなって彼女につきまとうのですから、2人の運命の再会が対決に発展するのは、必然です。

 また街では武相会がやりたい放題です。例えば中谷一郎の砂利屋に無体な契約を押付けたり、北林早苗のバーではママに因縁をふっかけ、嶋岡組の下っ端組員を痛めつけ、店のホステスを裸に剥いての嫌がらせ

 ここは武相会の大幹部=青木義朗が、もう、こんな悪い奴は見たこと無いと思わせるほどに、冷酷無慈悲な演技で秀逸! そんな男がミルクを飲みながら凄むという小澤啓一監督の演出も、ベタな面白さがあります。

 そして裸に剥かれていくホステス=藤江リカ(?)の羞恥心が滲む演技も、実に良いですねぇ~♪ 脱がされた下着とか、全裸に布を巻きつけて、泣きながら奥の部屋に逃げ帰るあたりも、グッときます。

 物語は中盤から、ますます理不尽な横暴を続ける武相会が描かれ、嶋岡組は瀬戸際に追い詰められますが、ここで嶋岡組長=葉山良二が幹部の露口茂に出した命令が北林早苗を青木義朗に譲れという、不条理なもの……。つまり女と引替えに組の看板を守ろうとする思惑です。

 こうして北林早苗が青木義朗にレイプされる場面は、ドスで帯を切り裂かれる映像描写が鮮烈! もちろん恐怖の中で必死に抵抗する彼女の胸元は開かれ、なんとか乳を見せまいとする女の羞恥心にグッときます。もちろん青木義朗は無慈悲な平手打ち! 乱れる着物の裾から覗く北林早苗の生脚も、実にリアルです。そして――

 という時にドスを握って決意を固めた露口茂が乗り込んでいくのですが、逆に武相会の連中に取り囲まれ、腰を抜かしてしまうという情けなさ……。そしてその後、鉄管に指を突っ込まれ、そのパイプごと折り曲げられるという壮絶なリンチを受けてしまいます。あぁ、ここは本当に痛みの伝わる物凄い描写が強烈! 青木義朗は本当に冷酷です。

 さらに嶋岡組は殴り込みで潰され、北林早苗のバーはメチャメチャに壊され、露口茂は武相会総長を襲撃しそこなって、結局は殺されるという惨状が……。

 当然、こういう展開の中では藤川五郎=渡哲也が孤軍奮闘! ド迫力の斬り合いの末に青木義朗を倒しますが、自分も大怪我をしてドブ川や人気の無い路地を必死の逃走は、これもリアリティと緊張感がある秀逸な映像描写だと思います。

 しかも、こんな渡哲也を助けるのが川地民夫という、日活アクション伝統の奇妙な友情なんですから、物語はますます煮詰まっていきます。もちろんこれは、同じ女を好きになってしまった者としての鬱陶しい男気なんでしょうが、これはエキセントリックな芝居が十八番の川地民夫にしか許されない演出でしょう。傷ついた渡哲也を松原智恵子の居る病院へ連れて行った後の苦い微笑みは、川地民夫ならではだと思います。

 気になる松原智恵子の心の内は、物語の最初から「私、ヤクザは嫌いです!」と宣言しつつも、自分の身を捨てて仲間を助ける藤川五郎に惹かれてしまい、シリーズお約束の「五郎さん……」という呼びかけが、一層切実に響きます。

 もちろんそんな彼女に対して藤川五郎=渡哲也はまんざらでも無いわけですが、やはり昔、愛した末に死なせてしまった女が瓜二つという真相は、隠しておけません。ここは渡哲也が持ち味の野暮天フィーリングを存分に発揮して憎めないところです。と、言うのも、今回の物語では渡哲也がモテモテですからねぇ~。北林早苗の一件もありますし、その所為で露口茂はイジケて自滅した雰囲気すらあるのですから、ここで松原智恵子を、再度、自分のものにしたらバチがあたるというもんです。

 そして迎えるクライマックスは走る列車内での激烈な殺陣から線路へ飛び降りての逃走、さらに白昼の街中での斬り合いという、非常に凝縮されたアクションの連続となります。もちろん、その過程ではド汚いヤクザの遣り口とか裏切りがあって、渡哲也は絶望の果てに暴れるのですが……。

 ここは昼間で通行人が少ない飲み屋街が舞台となっていますが、米軍基地の街・立川ということで上空にはベトナム戦争関連の戦闘機が飛び、ジェット機の轟音がシーンのバックに入ったりする新機軸もあります。またアクションの流れの中ではキャバレーの更衣室に飛び込むと、もちろん着替え中の美女の下着姿がっ♪ というサービスは流石に小澤啓一監督です!

 ということで、ストーリー自体に特段のヒネリはありません。むしろ結果が分かっているゆえに、安心して藤川五郎をはじめとした登場人物に感情移入出来ますし、演じる役者の所作や個性にシビレる快感があるのです。

 もう、可哀相過ぎる北林早苗の色っぽさ、彼女の昔の男でカッコ良い渡哲也の出現によって完全にイジケてしまう露口茂、腰抜け親分の葉山良二、妹・松原智恵子や自分の立場を守ろうとして汲々とする中谷一郎……! 登場人物がそれぞれに自分の境遇に怨み節ですから、たまりません。深江章喜も毎度お馴染みのリアルなヤクザフィーリングで、良い味です。

 また冷酷な悪役の青木義朗は畢生の名演だと思います。この人はテレビ作品「特別機動捜査隊(NET=現テレビ朝日)」の三船主任として、クールで情に厚い存在感が印象的でしたから、ここでの冷徹非情の悪役ぶりには、必ずや驚愕されるでしょう。

 そして松原智恵子が演じる看護婦の志津子は、ちょっと簡単に渡哲也に惚れすぎかと思いますが、物語冒頭で非業にも殺されてしまう由利のキャラクターと演技は、まさに彼女ならではの持ち味が素晴らしいです。彼女の死に際の表情には胸キュンだと思いますよ。

 さらに、川地民夫です! もう、この物語は川地民夫の神経質な演技が無ければ成り立たないわけで、特にクライマックスでの渡哲也との対決は充分に煮詰められた2人の心理戦が、味わい深いところ! 刹那の散り際まで、ニヒルな悲しみに満ちています。

 また、劇場公開された昭和43~44年は、ベトナム戦争が激化の真っ只中ということで、物語後半では特に米軍基地周辺が映し出されます。これは製作時期リアルタイムの衝動ということだと思いますが、ラストシーンでは瀕死の藤川五郎が米軍基地のフェンスに摑まりながら去って行くという映像が、如何にも当時という雰囲気を、今に伝えているのでした。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.06.23 敬称略)