ある力マ幹部のドキュメト「無バラ よ スひ
無頼・殺せ

 「無頼」の6作目にして、シリーズ最終作です。そして結論から言うと、ちょっと違った味わいがあり、それは日活ニューアクションの次なる展開に繋がる面白さとなっています――

無頼・殺せ(昭和44年3月)
監督:小澤啓一
企画:岩井金男
原作:藤田五郎著「無頼(南北社)」
脚本:池上金男&永原秀一
撮影:高村倉太郎
音楽:坂田晃一
助監督:澤田幸弘
出演:渡哲也(藤川五郎)、松原智恵子(浅野弓子)
■出演:江原真二郎(守山)、野添ひとみ(守山みなこ)
■出演:和田浩治(勇)、水島道太郎(入江崎一家組長)
■出演:高樹蓉子(さなえ)、郷^治(花井)、睦五郎
■出演:須賀不二男(東友会々長・剣持)、今井健二
■出演:近藤宏、晴海勇三、天坊準、武藤章生、高橋明
■出演:内田裕也とフラワーズ 他


 今回は冒頭から、いきなりヤクザの抗争が描かれているとおり、それに巻き込まれる人斬り五郎の物語です。しかし決してそれだけでは無く、そこで必死に蠢く人間模様の哀しさ、虚しさみたいなものが、シリーズ中でも一番しっかり出ていると思います。つまり集団抗争劇の色合が強いのです。

 それはまず、天麩羅屋で食事中を襲われる入江崎一家組長=水島道太郎の大暴れから、裁判ではもちろん実刑判決という現実的な場面が提示されます。しかしそれとは逆に、天麩羅屋でのアクションは、ありえないほどの物凄さ! もちろん店内はメッチャメチャになり、関係無いお客さんが逃げまどう中、水島道太郎は敵方チンピラの目を潰し、熱い油を鍋ごとぶっかけ、飛び散る天麩羅粉や破れる襖……等々、ド迫力の殺陣が全く流れるように描写されています。血まみれで鬼の形相という水島道太郎も流石ですが、腰が抜けて命乞いするチンピラの刹那の有様は劇映画の真骨頂だと思います。

 もちろんこれは、縄張を狙う敵対勢力の仕業です。こうして親分が留守となった川崎には、その東友会の組員が乗り込んで、悪質な縄張荒らしをやるのです。そしてここへ、藤川五郎=渡哲也が流れてくるというのが発端です。

 時代は作品が公開された昭和44年のリアルタイムでしょうか。つまりシリーズ毎度の刃傷沙汰から、人斬り五郎も数年は服役し、ようやくシャバに戻った直後という設定だと思います。風呂敷包みをひとつぶら下げ、黒い革ジャンに雪駄履きというスタイルは、全くその雰囲気が丸出し……。ですから藤川五郎は、すっかりヤクザな境遇に嫌気がさしており、劇中では同業の若い者に切実な忠告を与え、自らも悔悟の真情吐露が多くなっています。例えば郷^治が「人斬りの五郎さん」と若い者に紹介する場面では、「その人斬りは、よさねぇかっ!」とムッとして釘を刺します。

 とは言え、藤川五郎からは、やっぱりヤクザっぽさが抜けません。チンピラに絡まれればケリをつけますし、夜道の襲撃で現場から逃げたチンピラ=和田浩治を助け、ヤクザの道理を教えたりします。そして松原智恵子をチンピラの嫌がらせから助けるのも、お約束です。

 ちなみに和田浩治が所属するのは地元の入江崎一家で、その代貸・守山=江原真二郎が今回の「先輩」です。さらに守山の妻・みなこ=野添ひとみの妹が、松原智恵子という設定ですから、藤川五郎は入江崎一家に助っ人するのが普通の展開でしょう。しかしこの物語では、進んでそういう事は拒否しています。「もう、義理は借りたくねぇ」と、劇中で幾度も繰り返す藤川五郎……。

 ですから、この作品では必然的に人斬り五郎以外の人間模様が、じっくりと描かれており、それが実に味わい深いところです。

 例えば野添ひとみは、江原真二郎の子供を身籠っているのに、組が大変だからと言い出せず、郷^治は自分の親分が信じられずに渡哲也へ助けを求め、江原真二郎はギリギリの決断の連続です。もちろんこうした流れでは、裏切りや絶望が、これでもかと渦巻くのです。

 当然、悪役の非情さも憎たらしく、東友会々長・剣持=須賀不二男のイケイケの凄みや睦五郎の落ち着いた嫌らしさは存在感があります。また、その下で義理としがらみに縛られて苦闘するチンピラ達が、抜群に良いんですねぇ。劇中では役名も付かない脇役陣の頑張りは特筆すべきで、腰抜けヤクザの哀しさを存分に演じてくれます。

 もちろんアクションシーンも凄まじく、入江崎一家が東友会支部へ殴り込む場面は、狭い組事務所内でのリアルな殺陣が間然することのない強烈さ! しかも屋根から路地裏まで流れていく殺し合いは、なんと女子寮みたいな部屋へまで飛び込んで、ここはもちろん逃げまどうネグリジェ姿の美女がご覧になれるサービスカット♪

 また和田浩治が犬死するマッサージサウナの場面も、完成された激烈なアクションでありながら、サイケおやじ的には、マッサージ嬢・さなえ=高樹蓉子の極小短パン姿に目が行ってしまいます。ただし、ほんのチラリとヒップあたりが楽しめるにすぎません。まあ、そこが良かったりするのですが♪

 で、こういう展開ですから、とうとう藤川五郎も抗争に巻き込まれ、江原真二郎を助けようとして撃たれてしまいます。そしてフラフラと辿り着くのが、松原智恵子のアパートの部屋! ここは恐い素人手術が、エグイほどリアルに描かれています。それは熱湯消毒したハサミで腕の付根あたりを切り裂き、弾丸を摘出する荒療治なんですが、その傷口の状況や出血の雰囲気が、グリグリに本物っぽいんですねぇ。渡哲也の呻き声と身を捩る苦痛も迫真ですから、例によって気の弱い私は正視出来ません。

 しかし、なんとか垣間見たそこには、気丈に治療を遂行する松原智恵子の自然体の美しさがあるのです♪ 全てが終わった後、意識を失っている渡哲也の胸にすがりついて涙を見せる彼女の面立ちには、安心感を超えた喜びが滲んでいます。

 物語はこの後、手打ちと見せかけて入江崎一家に殴りこんだ東友会のド汚い手口で、組員は根絶やしに殺され、また同じ頃、安産のお守りを貰いに川崎大師へ入った江原真二郎も、野添ひとみの側でブッスリと刺されて……。

 ここは烈しい殴り込みの殺陣に対して、穏やかな参道で何気なく通りすがりの凶行というコントラストが鮮やかな演出です。

 そしてついに、人斬り五郎も覚悟を決めて決着の場へ向かいますが、ここが素晴らしくインパクトが強い名場面! なんとゴーゴークラブなんですねぇ〜♪ 出演しているのは内田裕也とフラワーズなんですから、たまりません。メッチャ素敵なニューロックのインスト演奏で、ミニスカの美女が踊りまくりです!

 しかもそこで東友会の会長以下、幹部連中が寛ぐVIPルームが地下というか、ゴーゴーフロアの真下になっていて、ガラス張りの天井からは美女の乱舞が拝めるという仕掛けです。もちろん彼女達の美味しそうな太股やその奥までもが楽しめるんですねぇ〜♪

 ただし会長=須賀不二男は「うるせぇばっかりだなぁ」と全然、わかっちゃいないです。すると睦五郎が「ナツメロ、やらせろ」なんて店のマネージャーに言うんですから、良いボケ具合♪ しかし流石は、フラワーズです。昭和歌謡の大名曲「君恋し」を最高にカッコイイ歌謡ロックでブチかましてくれます。あぁ、この麻生レミのベタベタした歌いまわしが、もう、最高ですねぇ〜〜♪ そしてミニスカのお姉ちゃん達が乱舞すれば、その場は完全に昭和元禄です。もちろん店内は如何にもという雰囲気ですし、こういう演奏と歌を映像で残してくれた小澤啓一監督は、神様じゃなかろうか、と本気で思います。

 ちなみにフラワーズは内田裕也をリーダーとして昭和43年に正式デビューしたグループサウンズですが、最初からニューロックを標榜し、麻生レミの湿っぽいボーカルが、個人的には大好きなバンドです。そして通常はハワイアン等で使われるスティールギターを堂々とロックに導入したサウンドは独特で、つまり強烈なスライドギターと化したそれは、当時、世界のどこを探してもありえないほどに爆発的! 私は幸運にも生ライブに接していますが、本当に脳天を突き抜けるほどに凄い演奏をやっていました。気になる音源は、まずここで聴かれる「君恋し」のフイルムバージョンが「日活ニューアクションの世界 / 無頼・殺せ(CDSOL-1102)」に収録されています。またその別バージョンが「カルトGSコレクション / 日活編(CDSOL-1145)」に収録されて陽の目を見たのも嬉しいプレゼント♪ そのジャケットに写るギターの美女が麻生レミで、この作品のゴーゴークラブの場面が、これです。しかもこのアルバムには、他にもフラワーズの素晴らしく、そしてレアな演奏がテンコ盛りに入っています。そして個人的には、このバンドの音源コンプリート集を熱望しています。

 で、その場でのアクションが物凄いはの言わずもがな! しかも擬音や台詞・叫び声の一切が消えて、ただフラワーズが演奏する「君恋し」だけが延々と流れるという、これは小澤監督の師匠・舛田利雄監督がシリーズ第1作で使った手法のナゾリというのも味な演出です。快楽的に乱舞する美女達の下では、ガラス張りの床越しにド迫力の殺し合いが、抜群のカメラワークで焼き付けられた名場面! これが日活ニューアクションです。必見! シビレます!

 さて、もうひとつ気になる美味しい場面は、松原智恵子の入浴シーン♪ といっても、胸から上ですが、うなじの色っぽさがたまりません♪ また、その場をガラス戸越しに撮った映像は、ぼやけながらも明らかにヌードと分かる全身がっ! ここは吹替え疑惑が濃厚ですが、偶然ながら、その場を立ち去り難い挙動の渡哲也に充分、感情移入出来るところです。

 それと須賀不二男が、美女をベッドに縛り付けて楽しむという、なかなか羨ましいサービスがあります。なんと、この女が殺された和田浩治の恋人だった高樹蓉子なんですねぇ〜♪ ネタバレがあるので端折りますが、ここでの前後の台詞が意味深です。もちろん彼女の官能美も愛好者の琴線に触れるでしょう。

 ということで、これは完成されたアクション、さらりとしていながら中身が濃い物語展開、そして登場人物それぞれの個性に名台詞の連続という、娯楽作品の王道を行く仕上がりになっています。特に大組織に翻弄される下っ端の苦労というか、焦ってばかりの郷^治は何時も冷や汗を滲ませ、煮詰まった表情が印象的な好演です。また今回の松原智恵子は、必要以上に藤川五郎に惚れていません。けっこう気が強いキャラクターですし、きちんとしたミニスカ姿が、良い感じ♪ 渡哲也との2人芝居も流石の完成度ですが、劇中に何度かあるその場面は、立ち位置や光線の具合まで、完全に計算しきった演出と撮影がプロの技としか言えません。

 そして渡哲也の説教じみた台詞にも嫌味無く共感出来ます。チンピラっぽい軽いタッチを見せながら、最後には悲壮感も存分に発揮した名演! なんとラストシーンには雪が舞っているというか、舞台は川崎なのに、ほとんど吹雪という奇跡的な自然現象の中、倒れては起き上がって彷徨う藤川五郎の行末は……。

 あぁ、これほどシリーズのラストに相応しいシーンがあるでしょうか!? スバリ、傑作!


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2007.06.28 敬称略)