前科・ドス嵐

 渡哲也の新シリーズ「前科」の第2弾は、もちろんプロのヤクザが主役であり、しかも「無頼シリーズ」を完全に断ち切った新展開となっています。それは実録路線にクールなハードボイルド、さらに人情話的な色彩も添えられた、当に「日活」としか言えない味わいです――

前科・ドス嵐昭和44年7月)
監督:小澤啓一
企画:園田郁毅
脚本:星川清司
撮影:高村倉太郎
音楽:鏑木創
助監督:田中登
出演:渡哲也(松永竜次)、麻生れい子(本田マキ)
■出演:佐藤充(唐島)、中村竹彌(千石)、森光子(安江)
■出演:青木義朗(安西)、今井健二(猛)、宍戸錠(本田)
■出演:
奈良岡朋子(千石たみ)、深江章喜(高浜)
■出演:沖雅也(バタスケ)、鷹亮子(花江)、天坊準(信)
■出演:増田順司(中島)、木島一郎(岩渕)、高橋明 他

 降りしきる雨の中、親分衆の会合に殴りこむ宍戸錠と渡哲也! この緊張感溢れる冒頭からのショットが烈しいアクションに繋がり、さらに鮮やかな演出となって、ヤクザ映画の王道が描かれていきます。もちろん標的・サカキ組の親分は渡哲也に始末されますが、宍戸錠は壮絶な憤死! このあたりの明暗はスリル満点で、しかも「日活」ならではのハードボイルドなカッコ良さが満喫出来ます。所期の目的を達成した渡哲也の潔さも、任侠作品の本質でしょう。

 こうしてムショ送りとなってから4年後、釈放された渡哲也を塀の外で待っていたのは、同じヤクザ者で幼馴染の佐藤充です。そしてここで縄張=新宿の現状と力関係を説明され、なんと渡哲也には所属する高浜組から「所払い」の処分が下されていると……!

 こうした事情の裏側には、4年前に始末をつけたサカキ組の縄張が高浜組と安西組に二分され、しかし最近は安西組がグングンと勢力を拡大している現実があり、佐藤充は安西組、渡哲也は高浜組という関係が断ち切れないのです。もちろん前述の襲撃事件は、渡哲也と宍戸錠が組のために命を懸けたわけですから、収まりがつかないのは当然です。

 ここはムショ前にある差入屋での出所祝の酒が、実にせつない味わいですし、佐藤充のアドバイスに反して新宿に戻った渡哲也が娑婆の変わり様に愕いたり、チンピラの沖雅也に喧嘩を売られて貫禄で返したり、堂々と高浜組の事務所に舞い戻ったりする居直りが実に自然体で、ハードボイルドにカッコ良過ぎます。

 しかし結局は自分の居場所が無いことを自覚した渡哲也は、4年前の事件と縄張の分割を仲裁した千石=中村竹の家に居候を決め込み、一匹狼として失われたものを取り戻そうとするのですが、現実は厳しく……。

 まず死んだ兄貴分・本田=宍戸錠の妹・マキ=麻生れい子が消息不明……。さらに4年前の襲撃事件で足を刺されて義足になった安西組幹部の猛=今井健二が怨みを晴らそうと虎視眈々です。そして高浜組と安西組の抗争も激化していますから、渡哲也の前途はハードボイルド真っ只中です。

 しかしここは、そんな渡哲也を親身になって面倒をみる千石夫妻、特に姐さんの奈良岡朋子は本当に柔らかな佇まいと心遣いが素敵ですねぇ〜♪ また渡哲也の母親・安江=森光子は新宿で小料理屋を営んでいますが、その昔、亭主と渡哲也を捨てて他の男・中島=増田順司と逃げた過去がありますから、久しぶりに店で再開した母子もしっくりとはいきません。劇中では、このあたりの会話の妙がクールでありながらハートウォームな味わいも深い演出で、流石は「日活」だと思います。

 そして探していた本田の妹・マキ=麻生れい子と再会するのが、当時ブームだったGSが生演奏を繰り広げるゴーゴー喫茶ですから、ここはリアルタイムな昭和44年にどっぷりと浸かれます。エレキベースがビンビンにグルーヴするファンキーインストが最高にイカシていますね。遊んでいるお姉ちゃん達も良い感じ♪ ちなみにこの店では、湯原昌幸が在籍していたスイングウエストが名曲「そよ風のバラード」を演奏するシーンもご覧になれますよ。

 気になる本田マキ=麻生れい子は、登場した瞬間からアンニュイな雰囲気が素晴らしく抑揚の無い台詞回しが小沢啓一監督の演出とジャストミートしています。もちろん彼女は、生き残った渡哲也には複雑な感情を捨てきれず、そんな麻生れい子が仕事を終えて帰る道には渡哲也が後をつけるという、とんでもないストーカー行為!

 さらにそれに気がついて――

 「入らないの? 何故、ついてきたの?」
 「お前さんの部屋が見たくてね……」

――、という不自然な会話から彼女のアパートに入り込む渡哲也、それでも全く自然に振舞う2人……。さらに男の前で着替えをして、勝手に寝てしまう麻生れい子は、なんて素敵なんでしょう♪ 今となっては貧乏ったらしいアパートも、当時はこれが普通でした。

 こうして連日連夜、彼女が働く店に通いつめる渡哲也は、ですから安西組の目障りとなり、しかも組長の弟・猛=今井健二は復讐を狙っていますから、ある夜、必然的に店内で対決! しかし拳銃をコメカミに突きつけられても全く動じない渡哲也は、一瞬の隙をついて反撃し、他のチンピラ達が怯えるほどにクールに構えますから、これには麻生れい子も惚れるしかありません。

 もちろんこの後は、彼女のアパートで2人っきりのお楽しみ♪ とは言え、ここはモロな絡みなんか映し出されるはずもありません。ただし情事の後の男女の会話というか、否、その前段かもしれませんが、とにかくストイックな照明や虚無的な会話に心底シビレてしまいますよ。これが「日活」、しかも「ニューアクション」のカッコ良さでしょうねぇ〜♪

 また母親・安江=森光子の店が安西組から借金のカタに取上げられそうになり、それでも知らんぷりを装った渡哲也が、結局はひとりで安西組に乗り込んで借用書を奪い返す展開では、ヤクザとしてのスジを通すために指をつめるというお馴染みの演出が、悪役・安西組長=青木義朗の冷酷非道な遣り口と渡哲也のカッコ良すぎて直視出来ない残酷な仕打ちで描かれていますので、ここは必見! ヤクザ映画史上屈指の指つめシーンだと思います。

 しかしそんな渡哲也が益々憎たらしくなるのが安西組長の弟・猛=今井健二です。その仕返しは手段を選ばず、麻生れい子が拉致されてのレイプ! 身も心もボロボロになった彼女は姿を消しますが、なんと安西組の佐藤充が密かに彼女に惚れていたのですから、事は複雑になります。

 そしてヤクザ業界の長老・千石=中村竹が邪魔になった安西組の方針から、功を焦った佐藤充は襲撃に失敗し、大幹部への道もブッツリと断たれ……。もちろんこれは、クライマックスへの布石というか、ハードボイルドな人間関係が濃密になっていく演出です。

 それは復讐に滾る心を抑えきれない今井健二とても同じで、不自由な足の所為で肝心な時に転倒して笑いものになったり、ギラギラとした陰湿な欲望が剥き出しの本当に悪い奴なんですが、何故か私は強く感情移入してしまう人物像が、秀逸な演技です。実際、この物語に深みを与えているのは、今井健二の名演でしょう。

 こうして物語は佳境に入り、千石も高浜も安西兄弟の悪辣な罠に落ちて殺害され、麻生れい子も再び拉致監禁されますから、クライマックスは渡哲也が単身の殴り込みという「お約束」になりますが、その前に母親の店に顔を出し、森光子と渡哲也の2人芝居が非常に味わい深く、しかし必要以上に深刻にならないで演出されているのも流石だと思います。

 また佐藤充の煮詰まった表情と独特のイントネーションによる台詞回しが、なんともこの時代を表している感じですし、沖雅也は十八番の腰抜けチンピラ演技が冴えまくり!

 気になるサイケおやじ的な美味しい場面は、残念ながら……。しかし終盤の安西組事務所で今井健二からブラウスの前を切り裂かれ、白い下着をチラ見せする麻生れい子は、続けて粘っこい接吻攻撃を受け、さらにソファーに押し倒されてのレイプ場面がたまりません。この時の彼女の太股の雰囲気が実に良いんですねぇ〜〜〜♪ ちなみに麻生れい子は、ムード優先主義の美人女優ですが、この作品は特に素敵で、当に昭和44年の雰囲気を醸し出しています。彼女を観るなら、まず、これを!

 ということで、「日活ニューアクション」という括りからすれば、特別に過激でもなく、またエグイ仕掛けもありませんが、物語の纏まりの良さ、じっくりとした演出、メリハリの効いたアクションシーンの潔さ、それを的確に撮影していく安定したカメラワーク! やはり秀逸な作品です。

 瀕死の主人公が群集の中を歩くラストシーンは隠し撮りのリアルさもあって、実に鮮烈! 渡哲也のカッコ良さが存分に発揮された隠れ名作として、忘れられません。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2008.05.25 敬称略)