紅の流れ星

 日活アクションはカッコ良過ぎてキザだとか、ありえないとか言われますが、それが極北まで煮詰められれば、やっぱりカッコイイ! その極みが、この作品だと思います。そしてこれが無ければ、その後の日活ニューアクションも無かったと思われるほどで、それはズバリ、渡哲也の素晴らしい演技! そして共演者とスタッフの完成された美意識が見事に融合した名作です。

 ちなみにこれは石原裕次郎の主演作「赤い波止場(昭和33年)」のリメイクなのですが――

紅の流れ星(昭和42年10月)

監督:舛田利雄
企画:園田郁毅
脚本:池上金男&舛田利雄
撮影:高村倉太郎
音楽:鏑木創
出演:渡哲也(五郎)、浅丘ルリ子(白川啓子)
■出演:松尾嘉代(ユカリ)、宍戸錠(沢井)
■出演:藤竜也(宇須)、杉良太郎(キー坊)
■出演:奥村チヨ(コマ子)、深江章喜(大沢)
■出演:富永美沙子(ホテル「Sea Side」のママ)
■出演:山田真二(小島)、久遠利三(加島)
■出演:谷村昌彦(黒岩)、ケン・サンダース
■出演:木島一郎(警察署長)、杉江弘、市村博
■出演:榎木兵衛、石井富子、山田禅二(関)
■出演:亀山靖博、高橋明、浜口竜哉 他

 組関係の仕事で対立する小島組々長を始末した五郎=渡哲也は、東京から神戸へ脱出し、関興行の客分となります。しかし約束では半年のはずが、1年たっても東京の組へは戻れず、今は用心棒稼業……。今日も外国航路の船員を相手にする売春キャッチバーでウダウダやっていますが、それでも酒と女には不自由しない生活というのが、発端です。

 ここは冒頭から赤いオープンカーを盗み、首都高速で小島組長を射殺するクールな渡哲也が抜群にカッコ良く、印象的な口笛のテーマメロディがイカシたボサノバやジャズロックに変奏され、最後にはまた口笛になるという素敵な展開が、とてもお洒落です。

 また舞台となる神戸の街並や景色が本当に味わい深く、東京や横浜とは違った都会的なムードが素晴らしい映像に焼きつけられています。もちろんこれは神戸地震以前の風景ですから、極めて貴重ですねぇ。

 さて、こういう渡哲也の情婦が松尾嘉代で、前述した外人相手の店を任されていますが、ミニスカで男好きのする雰囲気が、なかなかセクシーです。もちろん渡哲也にはベタベタですし、甘えた仕草やヤキモチも上手く、またベッドの中でも感度良好♪

 また渡哲也の弟分が杉良太郎やケン・サンダースなんですが、登場人物がほとんど皆、お洒落なのも神戸と日活のフィーリングを象徴していると思います。

 しかし渡哲也は、こんな生活には飽きていて、東京へ帰りたい気持ちでいっぱい……。しかも刑事の宇須=藤竜也に目をつけられ、東京から来た殺し屋=宍戸錠のマークもあって、なおさら享楽的に煮詰まった生活を送っているのです。

 そんな日々の中、渡哲也の前に現れるのが、東京から来た宝石商の娘・白川啓子=浅丘ルリ子です。彼女は神戸で行方不明なった婚約者で店の使用人・小島=山田真二を探しているのですが、警察の手を借りても、真相は闇の中……。

 実は山田真二は宝石の密輸や横流しで関興行と取引があり、その縺れから殺されているのですが、その前段として渡哲也と因縁を作っていましたから、穏やかではありません。もちろん、久々に東京の匂いがする美女の浅丘ルリ子に、渡哲也は執着するのです。

 このあたりは軽いチンピラ風情と野暮天フィーリングが最高に上手くミックスされた、当に渡哲也が独壇場の演技が冴えまくり♪ 行方不明の婚約者を一緒に探す名目で神戸の街を案内し、やたらに「あんたと寝たい」と本音を吐露し、自分をカッコ良く見せる努力に奔走するのですが、それが本当に素敵です。

 もちろん台詞はキザで、嫌味ギリギリのアクが強いんですが、これぞ日活♪ 作品全篇、全てが名台詞の連続です。あぁ、こんなカッコ良い台詞が言えたら女の子にはモテモテだろうし、ガールフレンドにもバカにされずにすむだろう、と感銘を受けた私は、告白すると映画館にカセットレコーダーを持ち込んで、この映画を全て録音し、会話を暗記した前科があります。全く、それほどにキマッた台詞ばっかりなんですねぇ。しかし問題は、それを臨機応変に使えるか……? という現実に直面し、挫折しています。

 また劇中の登場人物には本当に素敵な人が多く、例えばホテル「Sea Side」のママ=富永美沙子は雰囲気のある熟女で物分りが良く、随所で好演♪ それと当時人気上昇中だった歌手の奥村チヨが、これまた男好きのするタイプとあって、ヒット曲「北国の青い空」を歌ったり、ミニスカでゴーゴーを踊ってくれますので、ワクワクしてきます。

 物語はこの後、全てに行き詰まった渡哲也が浅丘ルリ子と海外へ旅立とうとしますが、結局は破滅……。些かネタバレですが、ラストシーンでの渡哲也の死に様は永遠の名シーン!

 ということで物語展開はシンプルなんですが、登場人物の粋な台詞と演出・カメラワークが驚異的に冴えた傑作だと思います。まあ、正直に言えば、ジャン・ポール・デスモンド主演の某映画からの影響は否定出来ないのですが、渡哲也の軽いフィーリングの中にある翳、そして破滅の匂いは最高です。

 また浅丘ルリ子が、やっぱり良いです♪ この作品ではクールなところから無表情に近い演技も多々あるのですが、気持ちの入った台詞回しは最高だし、お洒落なファッションも素敵です。特に渡哲也との2人芝居は素晴らしすぎますねぇ〜〜〜♪

 ちなみに既に述べたように、これは舛田利雄監督が自らの代表作「赤い波止場」を、あえてリメイクしたわけですから、登場人物の役名が違っていても、撮影のポイントは同じというのがミソ! 機会があれば観比べるのも一興でしょう。当時は「第二の石原裕次郎」と期待されていた渡哲也のスタア性とマイナー調の感性が、全く別次元の素晴らしさだと痛感されるはずです。

 そしてこの作品があればこそ、翌年からスタートする「無頼」シリーズが所謂ニューアクションと呼ばれる意味合いとなるのです。カッコ悪いことがカッコイイ! それが私の日活ニューアクションなんですが、この作品での渡哲也は日活伝来のカッコ良さが、とてもカッコ悪いものになった演技に撤しています。

 劇中、ちょっとした言葉の行き違いからチンピラの本性を暴かれ、相手を殴った後の気まずさからジェンカを踊る渡哲也♪ ここは非常な名場面・名演技で、私は死ぬほど好きです。

 そしてこのフィーリングは、昭和44年5月に公開されるニューアクション作品「前科 / 仮釈放(小沢啓一監督)」で、さらに大輪の花を咲かせるのでした。

 全映画ファン必見の傑作だと思います。

(2007.10.21 敬称略)