みな殺しの拳銃

 カッコ悪いことがカッコイイ! それが日活ニューアクションのキモならば、それ以前にあったのが、本当にカッコイイ日活アクションです。しかもそれが極限にまで煮詰められたのが、この作品で、つまりカッコ良すぎた事が、カッコ悪い「ニューアクション」に繋がったわけです――

みな殺しの拳銃(昭和42年9月)
監督:長谷部安春
企画:浅田健三
脚本:中西隆三&藤井鷹史(=長谷部安春)
撮影:永塚一栄
音楽:山本直純
出演:宍戸錠(黒田竜一)、藤竜也(黒田英二)
■出演:岡崎二郎(黒田三郎)、二谷英明(白坂)
■出演:山本陽子(アイ子)、沢たまき(紫乃)
■出演:神田隆(赤沢)、深江章喜(紺野)
■出演:葉山良二(緑川)、藤岡重慶、西原泰江
■出演:ケン・サンダース、高品格、中庸子 他

 後に日活ニューアクションの旗手となる長谷部安春監督の3作目で、ポスターはカラーですが、実際はモノクロ作品! しかしそれが、ハードボイルドな物語とぴったり合った、最高にカッコイイ仕上がりの傑作です。

 物語は赤沢興行の大幹部・黒田竜一=宍戸錠が、自分に惚れた会長の情婦=西原泰子を始末する発端から、兄弟や親友を巻き込んだヤクザの抗争と人間模様が描かれています。そしてとにかく、最初っから最後まで、クールでスタイリッシュな演出と映像が素晴らしい限り! なにしろ初っ端に女を殺して車ごと海に沈めてしまう展開には、ほとんど台詞が無く、ダークな雰囲気の宍戸錠と甘くせつない西原泰子の2人芝居は、当に日活ならではの魅力がたっぷりです。しかも劇伴がカッコ良すぎるモダンジャズ♪ これがクレジットロールになって、全てが終わった時にスウッ〜と「みな殺しの拳銃」というタイトル文字が出るあたりも秀逸です。

 さらに被ってくるのが、ケン・サンダースが唸るジャズブルース♪ ビアノを弾きながら歌うバックでは、岡崎二郎がドラムスを担当しているという、これまたカッコイイ演出です。場所は宍戸錠が経営している素敵なナイトクラブで、マネージャーが藤竜也! この3人が兄弟という設定で、そういう経緯から彼等が組織に反抗していく物語か展開されます。

 その過程では駆け出しプロボクサーをやっている岡崎二郎がリンチにあって拳を潰され、また藤竜也のナイトクラブはメチャメチャに壊される嫌がらせがあるのです。もちろん宍戸錠は、寡黙にじっと耐え忍ぶという任侠の世界に近い雰囲気ですが、決して泥臭くないところが真骨頂! 押えた演技の中にドス黒い情念を滲ませていくあたりは、流石です。

 劇中の人間関係では、黒田三兄弟の次男・英二=藤竜也はイケイケですが、三男・三郎=岡崎二郎は、ちょっと腰が引けています。というのもボクサーへの未練が断ち難く、また山本陽子と恋仲になっているからです。そして長男・竜一=宍戸錠と赤沢興行No.2の白坂=二谷英明は昔、沢たまきを取り合った因縁がありますから、奇妙な友情と義理の世界の板ばさみ……。

 こうして展開される物語では、ついに宍戸錠が赤沢興行に牙を剥き、縄張荒らしと暴力の応酬、さらにクールでドロドロした心理戦が、最高にハードボイルドな映像に焼き付けられていきます。それは光と影を極限にまで追求した画像処理、そしてワンシーン、ワンカットが絶対的に屹立する完璧さです!

 極限すれば、物語そのものはシンプルでありきたりなんですが、とにかく間然することのない演出と映像のインパクトの強さは驚異的です。それゆえにストーリーよりは雰囲気、その素晴らしい画面に酔わされてしまいます。もちろんジャズ、ブルース、ボサノバ、R&B……etc. を上手く使いきった音楽も最高です。

 気になる美味しい場面は、それほど無いものの、フロアショウのダンサーが如何にも昭和40年代らしいエロスを漂わせ、プールサイドの水着美女とかヤクザの情婦の密やかな色っぽさは特筆すべきでしょう。特に赤沢会長=神田隆の新しい情婦になった中庸子が、個人的には大好き♪ 藤竜也が彼女を連れ込んで、平手打ちを続ける場面も実に良いです♪

 ということで、とてつもなくカッコイイ映画です。この感覚は同時期の「殺しの烙印(鈴木清順監督)」あたりと通じるものですが、あそこまでのエキセントリックさはありません。むしろ立派な娯楽作品になっているのが、長谷部安春監督の強みでしょう。実際、拳銃やライフルでの撃ち合いには、日活伝統のトンデモ演出がちゃ〜んとありますし、藤達也の二挺拳銃も微笑ましいところ♪ しかし、非常に新しい感覚が確かにあるのです。

 今、思うと、これは来るべき「日活ニューアクション」へ向けての総決算かもしれません。出演者の演技も極北に近いものがあって、特に切詰められた台詞で真情吐露する宍戸錠のカッコ良さは、唯一無二! 燻り感覚の藤竜也や煮え切らない岡崎二郎、少し垢抜けない山本陽子も憎めません。スバリ、傑作だと思います。

 しかしこれは、私の稚拙な筆では百万言を労しても、その真の姿は伝えられません。どうか皆様には実際に鑑賞していただきとうございます。


(2007.07.08 敬称略)