大幹部 殴り込み

 またまた新シリーズ「大幹部」が、ここにスタート! もちろん主演は渡哲也ですから、「ニューアクション」ど真ん中の演出に期待が高まり、それを全くを裏切らない大傑作に仕上がっています。とにかく密度の濃さは天下一品!

大幹部 / 殴り込み(昭和44年8月)
監督:舛田利雄
企画:岩井金男&松尾守人
脚本:棚田吾郎&舛田利雄
撮影:高村倉太郎
音楽:伊部晴美
助監督:村川透
出演:渡哲也(風間哲)、青木義朗(石岡)、藤竜也(野寺)
■出演:深江彰喜(梶)、横山リエ(桂子)、浜田光夫(トシ)
■出演:岩崎加根子(洋子)、佐々木功(ジロー)
■出演:小山ルミ(チヨコ)、尾藤イサオ(マモル)、金子研三(シンジ)、安部徹(西尾重造)
■出演:金子信雄(平田)、河上喜史郎(川崎)、宇南山宏(松下)、原田千枝子(OL)、
■出演:武藤章生、雪丘恵介、山田禅二 他

 車の後部座席には何かを決意している3人の男、どうやらヤクザ者らしい……。という、ある意味では日常的な発端から、グッと緊張感が漂います。そして前の座席のチンピラ3人は、反対に落ち着きがありませんから、この後の彼等の仕事は察しがつきます。標的は悪徳高利貸しの吉江産業社長!

 これから使う拳銃の最終点検に余念が無い渡哲也、貫禄の青木義朗、自然体の藤竜也という3人が、実にハードボイルな佇まいです。しかも目的のビルに着くと、チンピラの3人は帰してしまうんですねぇ。おまけにエレベーターの中では、いっしょに乗ってきたOL=原田千枝子に意図的に顔を寄せ、それとわかる仕草で女の匂いを楽しむ渡哲也! こういう、なかなか正直な態度と演出がリアルでありながら、芝居そのものという映画の楽しみへ直結させる手法は流石、舛田監督だと思います。マカロニウエスタンのようなスパニッシュ調のギターをメインにしたサントラも、雰囲気にジャストミート♪ もちろん最初っからスタイリッシュなカメラワークも冴えまくりです。

 こうしてクールに相手を狙う3人ですが、直前になって青木義朗が渡哲也から拳銃を取上げ、主犯となります。もちろん襲撃は成功! 3人は屋上に駆け上がり、さらに隣のビルに飛び移って逃走するのですが、ここで用心棒の梶=深江章喜に追跡され、渡哲也と銃撃戦! 深江章喜は腕を撃たれてしまうです。

 というように、この作品は初っ端なからクールな緊張感に満たされ、スリルとサスペンスが実にリアルな雰囲気で演出されています。例えば隣のビルに飛び移る3人をビルの谷間を活かして下から撮影したシルエットの映像はシャープでスマート! そしてドキドキさせてくれます。

 もちろん3人は事前の計画どおり、警察に自首し、青木義朗は3年、渡哲也は2年、そして藤竜也は1年の実刑判決を受けますし、所属していた西尾組は反社会的責任から解散を表明するのですが……。

 2年後、シャバに戻った渡哲也への現実は冷たいものでした。まず西尾組が解散したことから、組長の西尾=安部徹は事業家に転身し、幹部連中は役員待遇になっていますが、チンピラ達はそれぞれにバラバラとなっています。

 まず青木義朗の妻・洋子=岩崎加根子は妹の桂子=横山リエとスナック喫茶を営み、そこで働くバーテンが佐々木功です。また金子研三はパチンコ屋の用心棒、浜田光夫は自動車修理工となっているのですが、この3人は、前述した吉江産業襲撃事件で車の運転や付き添いをやったチンピラでしたから、兄貴と慕う渡哲也の出所には大喜び!

 しかし現在の縄張は、西尾組から引き継いだ平田組が悪辣にカタギを虐める住みにくい場所に変貌しており、先に出所した藤竜也は平田組で冷飯の身分……。さらにそこには渡哲也に撃たれたことで右腕を失った深江章喜までもが客分になっているのですから、穏やかではありません。

 また浜田光夫は働いている自動車修理工場の娘=小山ルミと恋仲になっていますから、彼女の祖父で工場経営者の川崎=河上喜史郎は渡哲也に顔を出さないでくれと頼むのです。

 そして旧西尾組の親分=安部徹や幹部連中にも上手く言いくるめられ、どうにかパチンコ屋の用心棒に雇われるのですが、結局、どこにも居場所が無い、渡哲也……。

 ですから自分達は上手く利用されただけだと、薄々は気がついているわけですが、そんな時、青木義朗がムショで病気を悪化させた事から仮釈放が決定! 渡哲也も藤竜也も、これには希望を見出すのですが、現実は青木義朗も安部徹に懐柔され、渡哲也が用心棒のパチンコ屋は平田組にメチャメチャニされ、また青木義朗の妻=岩崎加根子のスナック喫茶も叩き潰されてしまうのです。

 もちろん渡哲也もボコボコにやられ、またチンピラ達も嫌がらせを受けたり、殴られたりしますから、もう収まりがつきません。そして――

 と、まあ、こういう風に書くと、まるっきりありきたりのヤクザ映画ど真ん中の物語と思われるでしょうが、確かにそのとおりとはいえ、登場人物の造型や心象風景、個性やそれぞれの事情が、とても上手く描かれています。

 例えば何時もは悪役の青木義朗が、今回は珍しくも善玉であり、些か古いタイプの任侠道に拘っていながら、実はヤクザが嫌になっているようです。なにしろ妻の岩崎加根子が買っておいた土地を眺めてはカタギになる夢を見たり、冷飯の藤竜也は分かっていながらヤクザから足を洗えず、渡哲也にしても自分を慕って頼りにしているチンピラ達に煽られているような感じで、これまでの主演作に比べると些か煮えきらない男を演じています。

 また、もちろんヒロインの横山エリはヤクザが大嫌いという設定ですから、かなりキツイ態度を表していますが、その涼しげな佇まいは如何にも昭和44年という美しさ♪ ちなみに彼女はこの年の2月、大島渚監督の名作「新宿泥棒日記」のヒロインとして鮮烈にデビューしており、そのクールな個性で以降、様々な話題作に出演していきますが、この作品も忘れられないひとつです。

 そしてチンピラ達の中では、やはり浜田光夫が十八番の疎外されたせつない若者を演じて、流石に秀逸! つまりカタギの道を歩ませたい周囲の気遣いが、結果的に裏目に出てしまうのですが、自分がどうしてそうなるのか、納得していない展開がニクイところです。

 物語はこの後、青木義朗が邪魔になった平田組の命令で、義理を借りている藤竜也が青木義朗を始末することに……。ここは2人の緊張感のある道行やトンネル内での斬り合い、さらに事の次第を打ち明け、苦しい立場を伝えながら死んでいく藤竜也の名演が、本当に最高です。また肺病の青木義朗が血を吐いて倒れるのも「お約束」で、もちろんクライマックスへの布石になってます。

 こうしてついに決意を固めた渡哲也は、チンピラ達から「組長」なんて慕われますが、どうやっても組織には勝ち目が無いところから、身を隠しての神出鬼没というゲリラ戦法! 新宿の街を縦横無尽に駆け抜け、安部徹や金子信雄をカッカさせ、下っ端のヤクザ達を翻弄するのですから痛快です。

 ただし、こうしたチンピラ達の反撃から疎外されているのが浜田光夫です。そしてそれとは知らぬ西尾組の悪い奴等に渡哲也の居所を詰問され、リンチにあっても知らないものは答えようもなく……。ここは恋人の小山ルミも捕まって髪の毛がナイフでビリビリに切られていく素晴らしい見せ場♪ 彼女のキュートな面立ちが悲痛に歪んで泣き叫ぶ様は最高ですねぇ〜〜♪ 本当にゾクゾクさせられます。しかもヤクザ者のひとり=武藤章生なんか彼女を抱きしめながら「うひぇ〜、こりゃ〜、役得だぁ〜♪」なんて、本音を出しまくって、芝居になっていない潔さです。その彼女のプロフィールは――

小山ルミ(こやまるみ)

 昭和27(1952)年生まれで、父親はアイルランド系、母親は日本人というハーフですから、中学生の頃から目立つ美貌ということでスカウトされ、昭和42(1967)年、大勢のセクシーアイドルを誕生させた伝説のテレビ番組「ビートポップス(フジテレビ)」のゴーゴーガールとしてデビューしています。また若者向けのモーニングショウとして人気があった「ヤング720(TBS)」ではマスコットガールから司会者に抜擢され、CMにも登場するなど、忽ち大ブレイク! キュートでアクの強い美貌とカンの良い芸風が魅力でした。
 そして翌年には映画出演と歌手デビュー♪ テレビでもドラマやバラエティのレギュラーを何本も持つ売れっ子となりますが、昭和44年頃にはグループサウンズのボーカリストとして、一歩進んだロックバンドのような活動も計画されていたようです。しかし現実には、例えば「ドリフターズ大作戦(TBS)」のレギュラーとか、あるいは加藤茶との恋愛問題から様々なスキャンダルで世間を騒がせています。ちなみにこの時期、彼女の妹分として結成されデビューしたのが、あの高村ルナが在籍していたゴールデンハーフです。
 こうして昭和45年に入ると心機一転、歌手活動に本腰を入れ、「あなたに負けたの」「グット、がまんして!」という大名曲を吹き込んでいますが、当時はイマイチ……。しかし翌年に発売した「さすらいのギター」がウルトラ大ヒット♪ もちろんこの頃にはセクシー歌謡路線のトップスタアとして、抜群の人気を集めています。なにしろレコードジャケットはミニスカ、セミヌード、水着、ホットパンツ等々が大サービスされ、ライブステージはもちろんの事、テレビでもキワドイ衣装で歌い踊っていましたから、お茶の間は気まずい雰囲気に満たされるほどでした♪
 それでも本人はもっと本格的なミュージカルとかステージショウへと進みたかったようで、ついに昭和49(1974)年4月に渡米、日本の芸能界から去っていきましたが、さらに翌年にはロスに在住していた宝飾デザイナーと結婚、引退しています。

 で、この作品はそういうセクシー路線を本格化させる前の出演作とあって、キュートで明るい娘役を演じていますから、前述した場面がなおさらに嬉しいというわけです。

 さて、物語はいよいよクライマックス! 青木義朗が任侠精神で安部徹や金子信雄と対決しますが、もちろん結果は悪辣ヤクザの堂々として汚いやり方で殺され、これからの夢を託していた土地も失い、岩崎加根子と横山エリは店を閉じて故郷へ帰ることになります。それをやりきれない気分で見送る渡哲也とチンピラ達……。

 もちろん渡哲也は殴り込みの決意を固めていますが、自分のヤクザとしての身勝手な生き様が周囲を不幸にする元凶だと自己嫌悪していますし、もうこれ以上、自分を慕っている若い者を巻き添えにしたくない気持ちがありますから、冷たく無気力な態度でチンピラ達を幻滅させます。ここは如何にも映画的な物語展開ながら、渡哲也のクールで捨て鉢な感性が全く見事!

 そのあたりは横山リエにも分かっていて、故郷へ向かうバスの中で自分の気持ちに素直になる決意を固めます。それは当然、渡哲也が好きだという、大変に羨ましいものですが、この時のバスの窓から去り行く新宿の風景を眺めている彼女の涼やかな表情は、何時までも印象に残ります。そして――

 殴り込みの場所は青木義朗から奪い取った例の土地です。そこにレジャーセンターを作る地鎮祭の最中に現れた渡哲也は、ハードボイルドを体現したアクションで悪漢達をメッタ刺し! 安部徹や金子信雄の最期の演技も見事ですが、全てをやり終えて放心気味の渡哲也の前に現れる横山リエの美しさ! 全く凄惨な場面が一転してハートウォームなせつなさに収斂する最高のラストシーンになっています。


 ということで、特段のヒネリも無いオーソドックスなヤクザ映画ですが、登場人物ひとりひとりの人物造型や性格描写は、細部にまで演出がきちんと出来上がっています。例えば渡哲也が出所して新宿に戻って来たことを知ったチンピラ達の歓喜、あるいは右腕を失って復讐に執念を燃やしながら、実はカッコイイ男気をみせる深江章喜、身勝手さが周囲を不幸にするヤクザの本質、それが嫌なのにヤクザをやめられない哀しみ、義理も人情も無い冷たい現実……。そういうものが映像優先で、ここまで表現出来るのか!? 決して安易な感動はしたくありませんが、この作品の密度の濃さは流石、舛田利雄監督だと思います。

 特に終盤、故郷へ帰るバスの中で、横山エリと岩崎加根子の会話は静謐にして感動

 また娯楽映画の本質も、決して疎かになっていません。劇中で渡哲也が歌う「荒野の赤い花」、あるいは尾藤イサオが生ギターでグルーヴィに唸る「恋の季節」の雰囲気の良さ♪

 そして本音のオトボケを含んで見せていく、プロのヤクザの私生活を演じる渡哲也の軽妙さ♪ 中でも出所直後にカキ氷や冷やしスイカを喰う場面、さらに下っ端ヤクザやチンピラをからかうところなんか、カッコ悪いことがカッコ良いという、日活ニューアクションど真ん中の演技演出になっていますので、これはぜひともご覧いただきたい傑作です。


参考文献:Hotwax Vol.1 (ウルトラ・ヴァイヴ)

(2008.06.14 敬称略)